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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第六章]オルレアン連合総合軍事演習
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公開演習、三日目②



 黒く尖鋭的な外観のリンクス、《プライング》が開始地点である訓練場の東区、その中心部からやや北よりの、やや大きな屋敷が建ち並ぶ住宅街で片膝をついた駐機姿勢で停止した。


 あとは開始までここで待機ですねと、チハヤは狭いコクピットで身体を伸ばした。


『それでは皆さんお待ちかね! 今年のプログラムの最後を飾るのはエキシビションマッチ!』


「喧しいMCですね……」


 コクピット内では、観客席のモニター前で行われている解説の音声が流れていた。ここの合図で状況開始だから切ろうにも切れない。


『まずは西コーナー! オルレアン連合第一騎士団、《セラフ騎士団》! 団長、クラリス・エルフィンストーン殿下が率いるリンクス小隊! 《ミカエル》と《アーバイン》二機の一個小隊です!』


 恐らくモニターには、クラリスと部下の二人がコクピットから出て姿を現しているのでしょうとチハヤは想像する。

 打ち合わせでは紹介されたら機外へと言われているのだ。


「《ヒビキ》。機外へ出ます。待機モードでハッチの解放準備して」


『了解』


『東コーナー! オルレアン連合第八騎士団、《フォントノア騎士団》所属! メニヘテル無人機暴走事件で暴走機を単機で撃破したエース! チハヤユウキとその愛機 《プライング》!』


 《ヒビキ》に指示を出してすぐにそう紹介された。


「……ハッチ解放」


『ハッチ解放します』


 その声と共に圧縮空気の抜ける音が頭上からして青い空が見えた。


 よじ登るように機外へ出て、チハヤは前に倒れた頭部の左側へ立つ。


 《プライング》の周囲は、モニターにも映っていた通り屋敷が多い住宅街。遠くには石造りの市街地が見える。更に遠くに《セラフ騎士団》の《ミカエル》と《アーバイン》二機いるはずなのだが、見えない。見えるわけもないが。


 そんなチハヤと《プライング》を見下ろす位置にドローンが滞空していた。恐らく、いや確実に一人と一機の姿をを観客席のモニターへ写しているだろう。


『では準備をお願いします!』


 コクピットの方からそんな指示が出たのでチハヤは素早くコクピットへ戻る。


 バイクのようなシートに跨がり、スティックを握る。


「ハッチ閉鎖。システムを戦闘モードに」


『ハッチ閉鎖。システム、戦闘モードに移行。チャンバー内、正常に整流中』


《ヒビキ》はチハヤが言った事を復唱しつつ実行。ハッチが閉まる。


 《プライング》の頭部も元の位置に戻り、X字に並んだ四つ目の光学センサが明滅。カメラアイ保護シャッターが瞬きのように動く。


『それではカウントダウン! 三! 二! 一!』


 解説のアナウンスと共に演習開始のブザーがコクピット内に流れる。


『状況開始よ、チハヤ。やり過ぎない程度にやっちゃいなさい』


 それと同じくして、アルペジオからの開始の合図。


 チハヤはスティックを前に押し、ペダルも踏み込む。


 《プライング》は膝立ちの駐機姿勢から、立ち上がってブースターを噴かせる。いきなりの大推力による急加速ではなく、通常のブースト機動だ。


 こちらの想定の状況は『本隊とはぐれてしまい合流の途中。しかしリンクス三機による待ちぶせに遭ってしまい戦闘は避けられない』。

 相手の想定はそれに対応するように『敵リンクス部隊の生き残り一機が市街地に逃走、及び潜伏中。これを無力化すること』。


 それに則した行動を心掛けなければならないのである。


 極力はブースターを使用しない隠密行動となるのだが、《プライング》はブースター無しでは遅くいい的である。

 ブースト機動を織り混ぜつつ市街地中央よりやや南、高所へ移動し先に敵を見つけたいところ。


 しかし、相手のスタート地点は当然のように分からない。《プライング》が東側のやや北なので、相手はもしかしたら対角線上の西側の南よりかもしれない。

 それだと南の高所は先に取られるだろう。


「まあ、強襲出来ればいいんですが」


 そう呟いて、視界の片隅に、脳に直接投影させられた地図を確認する。嬉しい事に現在位置が表示されていた。OS側の対応か、方角と周辺の景色と地形を地図と照らし合わせて現在の居場所を特定しているらしかった。


「ホント色々と助かりますよね、この子。―――今日も頼みますよ《ヒビキ》」


『了解しました』


「一先ずは索敵をお願いします。9時から12時方向を重点的に。些細な音まで拾ってください」


『了解』


 チハヤと《ヒビキ》はそうやり取りをして、視界の地図を縮小してモニターを見渡す。リンクスが一機通れるほどの幅しかない道路と、その合間から見える遠くの町を見る。




 そう索敵しつつ進んでいって。



 演習場、南区の中央を南北に走る大通りを越えてすぐ。



『1時方向より音響検知』


 《ヒビキ》がそう告げた。それに合わせてチハヤも《プライング》をその方向から見えない建物の影で、機体反転させて建物を背にして止める。


『音響をS(シエラ)と呼称。数は3。歩行音です。現在停止中』


 次から次へと教える《ヒビキ》。


「相手はこちらに気付きましたか?」


『歩行音の停止、及び《プライング》のブースト音が大きい事から鑑みるにその可能性が高いです』


 その返事にチハヤは思案する。


 《ヒビキ》の言う通り《プライング》のブースト音はかなり五月蠅い。アルペジオ達が言うには2キロからでも聞こえるというほどだ。

 こちらが歩行音を捕捉したということは1キロ以内に相手がいるということだ。


「《ヒビキ》。歩行音がしたポイントはわかりますか?」


『この場所です』


 《ヒビキ》はそう答えて視界の地図を拡大。歩行音の発生源と思われる左斜め後ろ、大体一キロの位置を三角でマーク。さらにその周囲を円で囲って見せる。


 東西に走る道路は五本。やや大きい、リンクスが存分に戦えそうな幅がある大通りが一本と、リンクスが2機並ぶのがやっとの幅と思われる道路が四本が含まれている。

 南北へはリンクスが通れそうな道は六本。どれも動き回るには狭い道だ。


「ありがとうございます。―――空に出て道路を虱潰し、が手っ取り早いですけど、囲まれたら嫌ですよね」


 いつものチハヤならドローンで探して滑空砲による狙撃か、強襲が初手である。前者は出来ないので必然的に後者となるのだが、相手の位置が分からないのである。


 レーダーをアクティブにするのもいいが、相手の位置を知れると同時にこちらの位置もバレてしまう。痛し痒しだ。


『歩行音捕捉。六時の方角。推定600。南へ移動してます。S(シエラ)1と呼称』


 次の情報が得られた。まず一機らしい。地図に音の発生源と思われる点が表示される。


『更に捕捉。同一方角、同距離に異なる歩行音。S(シエラ)2、S(シエラ)3と呼称。S1とS3の歩行音に類似性あり』


 次から次へと報告する《ヒビキ》。欲しい情報どころか軽い分析までした。


「足音が同じくなら恐らく2機いる《アーバイン》でしょう。S2が《ミカエル》」


 そうチハヤは思った事を口にする。


 一塊になって進軍。こちらの位置に当たりをつけていて、数の有利を用いて攻める気だろうか?。

 囲んで棒で叩く、とはこの事か。数が有利なら基本戦術はそうなるのは必然でもあるが。


 ここでセオリー通りにやるならゆっくり撤退しつつ、一対一に持ち込んで各個撃破していくのがベストだろう。


 それか、強襲仕掛けるか。


「大人しく下がるのと、思いきってフルスロットルで飛び出して暴れる以外の手が思い付きませんね……」


 思った事を口に出す。


『私もその二択を提示します』


「あなたが気の会う人で良かった。選べるならどちらを選びます?」


 思わず、そう口にした。HALに《XFK039》のAIはプログラムではなく、優秀だった人間の遺伝子を用いたクローンを電脳化したものと聞いたことからの影響だった。


『………………』


 すぐに回答してくれるはずだが、《ヒビキ》はすぐに返事を返さなかった。


「―――《ヒビキ》?」


 すぐに返事をするはずと思っていたからか、チハヤはもう一度呼び掛ける。


『正面から強襲して相手の意表を突きます。一撃加えて離脱。その後は各個撃破していくことを推奨します』


 今度はちゃんと反応をした。


「ではそうしましょう。―――でも」


『でも?』


「《ミカエル》は最後に相手をします。―――彼女の申し出によるエキシビションマッチです。メインディッシュは前菜より後ですから、ね?」




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