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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第六章]オルレアン連合総合軍事演習
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公開演習、三日目④



『照準警報』


 《ヒビキ》の警告。


 建物の影から飛び出した《ミカエル》が、シールドを前に構え、ライフルを依託させた姿勢でフルオート射撃を敢行した。


 チハヤはペダルを踏んで、黒い尖鋭的なリンクス、《プライング》を左へクイックブーストさせて飛来するペイント弾を回避する。


 更に飛来してくるペイント弾。


 上に登りつつ左右へ機体を振って乱数機動。


 両手のライフルの砲口が、その名の通りに天使を思わせる《ミカエル》へと向けられて、FCSが相手を捕らえる。


 射撃可能(ロックオン)。


 数発ずつのバースト射撃。


 《ミカエル》は右へブーストして回避。背中の翼状ユニットによる大推力は《プライング》には届かないとしても、リンクスの急加速としては充分な加速力だ。

 ペイント弾は《ミカエル》がいたであろう空間を通り過ぎる。


 《プライング》は相手の左に回り込みつつ建物を蹴って、登りかねない軌道を強引に曲げ、地面と並行移動へと押さえる。

 左腕のブレードライフルを《ミカエル》へ向けてバースト射撃。


 《ミカエル》はこちらへ右手のライフルを向けてフルオート射撃。


 どちらも牽制というたいして狙いの定めていない射撃だ。


 両方から放たれたペイント弾はどちらも機体には当たらずに、地面や建物へと毒々しい色をぶちまける。 


 《ミカエル》は背を向けて《プライング》から距離を取り、やや離れた交差点を右折して姿を隠す。


 カーブを描きながら降りて追い掛ける《プライング》。


 チハヤは現在のマガジン内の残弾を確認する。右のライフルは残り13発。左のブレードライフルは残り20発。リロードはまだしなくていいだろう。

 背中のミサイルは未使用。用意したのはいいが、何故か使いどころがない。


「思ったより動く機体ですね、《ミカエル》って」


 誰に言うのでもなく呟く。


 ざっと見て《マーチャーE2改》と同程度の速度はある。ただ、翼状のブースターユニットにより前方への速度は《E2改》よりも早いし、空中での動きはいい。


「流石は王家所有のリンクス、ですか」


 それでも《フランベルジュ》よりは遅いし、《銀狼》よりもキレはない。


 つまり、やりやすい相手。


「とはいえ、市街地。やりにくいったらありゃしない」


 《プライング》のブースターは出力が大きい。大推力を一瞬で叩き出す代物だ。細かいコントロールが可能とはいえ、それでも限度はある。

 気を付けていても壁にぶつかりかねない。


「建物より上で戦いたいですね」


 対して広くない市街地を見て呟く。


『私もそれを支持します』


「賛成してくれるのは嬉しいですが、接待なので極力抑えないといけないんですよねぇ……」


 それが出来たら苦労はない。ふう、と息を吐いて前を見る。


 また、広い交差点だ。

 円形に広い交差点で中央にはなんらかの残骸たる瓦礫が山になっていた。

 

 交差点に入る―――手前。


 《プライング》は後ろへクイックブースト。

 進行方向から考えれば文字通りの急制動だ。


 そして、そのまま進むはずであり、《プライング》が確実にいただろう空間を横からペイント弾が飛来した。


「待ちぶせは基本」


 そう呟いて、チハヤはペダルを踏む。


 上へ跳躍。


 建物の上を通りすぎて、マガジンを交換する《ミカエル》を視認する。


 FCSが捉える。


 左手のブレードライフルのカメラのレンズが絞られ、照準を定める。


 短連射。


 リロードを終えた《ミカエル》は右へブーストして回避。


 反撃の発砲。


 右へクイックブースト。


 今度は両手のライフルを小刻みに撃つ。


 《プライング》は短い連射とクイックブーストによる回避の繰り返し。


 《ミカエル》は一発ずつの射撃とブーストによる回避と盾による防御を繰り返す。


『右腕、左腕、残弾無し。リロードしてください』


 《ヒビキ》の報告。

 チハヤの視界のマガジン内の残弾も0である事が表示されている。


 リロードの為に一旦距離を、と判断して《ミカエル》を正面に捉えたまま北東へ向かう道路へと入る。


 ピピッ、という警告音。


『後方、行き止まりです』


「えっ?」


 思わず後ろを振り返る。


 左右の建物が崩れて、道を塞いでいた。


 そこまで高く、というほどではないが、それでもリンクスの障害としては認識出来る程度の高さはあった。


 足を止めるのはマズイ。飛び上がる? それだと撃たれるだろう。反撃手段はあるが、距離が短すぎて危険だ。


『接近警報』


 《ヒビキ》の報告。


 正面を見てチハヤは相手を見る。


 モニターには、《ミカエル》が盾からブレードを引き抜いて突撃しているところだった。


 リロードする時間はない。


「近接補正!」


『了解』


 やるしかない。

 チハヤはそう判断して、左スティックのボタンを操作。

 スティックを前に押して、ペダルを踏む。


 《プライング》が左手に持つブレードライフルの銃身の下に付いた箱からブレードがスライドして現れる。


 ブースト機動で近づく二機。


 《プライング》は袈裟斬り。


 《ミカエル》は上段からの振り下ろし。


 振るわれるのは、同時だ。


 激突するブレード。


 火花を散らして鍔迫り合いとなる。


『そんなところにブレードを隠していたか!』


 集音マイクが、相手の外部スピーカーから流れる音声を捉えた。クラリス殿下だ。

 持っていない、とは思ってなかった発言だ。


 訓練とはいえ、戦闘中である。


 相手と話してよかったのかしら、とチハヤは思うが、応答しない訳にはいかない。


「対策(フェイルセーフティー)は用意しませんとね」


 外部スピーカーのボタンを押して答える。


『でも、そんなものは、所詮は補助的なものよ。専用に造られたものより勝手は悪い』


 接近戦、苦手なんでしょう? と言うのと同時に《ミカエル》はブレードを両手持ちに。そして、翼状のブースターがプラズマを噴いた。


 押される《プライング》。アスファルトがガリガリと削られていく。


「接近戦は苦手ですが―――」


 そう勿体振って、


「パワーはあるのですよ、この子」


 ペダルを踏み、スティックを前に押す。


 《プライング》のブースターがプラズマを撒き散らし、押されていた機体を踏み留ませる。


 更に。


『――――?!』


 左腕一本で、ブレードを両手持ちの《ミカエル》をゆっくりと押し返す。


 リンクスの駆動系は、基本は通電式の人工筋肉だ。油圧と比べたら出力は劣るが要求以上は満たしているし、重量は軽い。


 しかし《プライング》の駆動系には人工筋肉の他にも油圧も組み込まれている。二重にされたそれは、被弾時の駆動系への影響を最小限に抑える措置であると同時に、通常のリンクスを上回る出力を有するということだ。

 更に高出力なブースターもあれば。


「力勝負は負けませんよ?」


『ぐっ……!』


 全開でブースターを噴かす《ミカエル》が、今度は後進しだした。


「それと警告します。―――リロードは終わりましたよ?」


 そう言って、右手のライフルを《ミカエル》へと向けた。


『――――!』


 ブースターを切って、身を捻って避ける《ミカエル》。


 《プライング》はそのまま進んで距離を取る。


 振り返って、これ見よがしに両手(・・)のライフルのマガジンを排出。脇下のサブアームが後腰部のマガジンを掴み、右のライフルは下から。左のブレードライフルは上に叩きこんで、砲弾を薬室へ送り込む。


 少し仰け反った《ミカエル》はその場で盾を構えるだけで、視線を動かそうとしない。コクピットのモニターで、足下を確認したのだろう。


 そこに空のマガジンなんて一つもないのだから。


『……騙したな!』


「騙して申し訳ありませんが、今の貴女は『敵』ですので」


 簡単に『敵』と話してはいけませんね、と続けて言う。

 スピーカーには出さなかったが。


 ともかく、両手のライフルはもう撃てる状態だ。


 《プライング》は両手を上げて、砲口を《ミカエル》へ向ける。


 発砲。


 《ミカエル》は上に跳躍して回避。《プライング》から見て左へ飛翔する。

 接近よりも距離を取る機動だ。


 《プライング》も追い掛けるべくブースターを噴かして跳躍。《ミカエル》を追撃する。


 モニターには、ブレードを仕舞ってライフルのマガジンを交換する《ミカエル》が映っていた。


『ミサイルの使用を提案』


「わかりました。両方の5番と6番をお願いします」


 《ヒビキ》の提案を受け入れ、使用する弾頭を告げる。


 1番と2番、3番はジャミングスモッグ。4番はECM。それ以外は多目的ミサイルである。

 チハヤは迷わず多目的ミサイルを選んだのだった。


 FCSが《ミカエル》を捉え、射撃可能と告げる。

 躊躇いなく、両手のトリガーを絞った。


 《プライング》の背部サブアームに接続された左右の十六連ミサイルポッドの蓋が開いて、計四発の訓練用ミサイルが飛び出す。

 

 背をむけ逃げる《ミカエル》と追い掛けるミサイル。


 ミサイルの対処としては充分引き付けてから旋回範囲外まで潜り込むか、フレアを焚くか、物影に隠れるか。


 《ミカエル》は振り返ってミサイルを視認する。


 旋回可能範囲外まで振るつもりだろうか。

 チハヤはそう思いながらも敵機へライフルを向け、発砲する。ミサイルだけを意識させない。


 今度は右へ避ける《ミカエル》。


 そして《ミカエル》の背中、翼状ブースターに付いた両刃のナイフのようなユニットが全6枚が離れた。


 そして、それらは各所に設けられたスラスターを瞬かせ、姿勢を制御する。そして後部のメインスラスターを噴かしてミサイルへと鋭く突撃していく。


 瞬く間に四発のミサイルが、横から襲われ、破壊判定を受け地面に落ちていく。

 しかし、六機の端末は破壊判定はないようで、その切っ先をこちらに向ける。


「自律型の攻撃端末!?」


 驚きの声が漏れた。


 かつての世界の、サブカルチャーの知識が刺激された。アニメ、ゲーム問わずロボット物に出てくるそれと酷似していた。


 コクピットにアラートが鳴り響く。


 《ミカエル》のライフルの発砲。


 左へクイックブーストして回避。


 アラートが鳴り止まない。


『2時方向、5時方向、9時方向、接近警報』


 《ヒビキ》の無情な警告。


 どちらへクイックブーストする?

 左右は潰された。上へのクイックブーストは読まれる。左前? 対応される。


 クロスファイヤ。


 詰んでますね、と。負けですかねと。


 そう、思った瞬間だった。


『I have control』


 流暢な英語がコクピットに木霊した。


 

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