Season1からSeason2への幕間 「熱量は、まだ消えてない」
【長老の病室:熱量のゆくえ】
―――現実世界・中継セクター医療棟―――
電子心音計の規則正しい刻みだけが、白い部屋に響いていた。
ベッドに横たわる長老の顔は、時空を旅していた頃の血色はなく、深く刻まれた皺がいっそう際立って見えた。だが、胸元の酸素マスクはもう外されており、その呼吸は確かな深さを取り戻している。
「……すまん。不甲斐ないところを見せたな、隊長」
老いた声が、部屋の空気を震わせた。長老はゆっくりと目を開け、ベッドの脇に直立不動で佇む大柄な影を見つめた。
隊長は、わずかに肩の力を抜いた。その手には、泥や煤で汚れたままの、御前会議室の予備のヘッドセットが握られている。
「いえ。長老が倒れても、会議室は進まなければなりません」
隊長の声は低く、真っ直ぐだった。
「桃少年の畑は、今も耕されています。長老が守ろうとした『住人の熱量』は、確かにあそこに残りました。だから……」
「だから、次はお前が支える、か」
長老の唇の端が、微かに持ち上がる。老人はすべてを見抜いていた。隊長が今、どれほどの覚悟で会議室の『盾』になろうとしているかを。
「物語の歪みは、人の心そのものだ。隊長よ……頭ではなく、お前のその不器用な身体で、皆を守ってやってくれ。物語は理屈では動かん。人が、人を信じた時にだけ、次の頁がめくれる」
長老は、隊長の目を真っ直ぐに捉える。
「……隊長。熱量は消えん。人が覚えている限り、それは別の物語でも灯り続ける」
隊長は深く、無言で頷いた。その瞳には、老人の信念を我が身で受け止める、確固たる覚悟の炎が灯っていた。
【監査室の攻防:コンプラと領収書】
―――中継セクター・第一監査室―――
カツン、と一枚のクリアファイルが、金属製のデスクに叩きつけられた。
「説明を求めます、博士。これは何ですか」
監査役の眼鏡が、オフィスの蛍光灯を冷たく反射する。
突きつけられた書類の山の一番上には、目を疑うような品名と金額が並んでいた。
「おや、文字通りですよ、監査役」
博士は全く悪びれる様子もなく、白衣のポケットに手を突っ込んだまま肩をすくめた。
「文字通りのわけがないでしょう」
監査役は冷徹な声で内訳を読み上げる。
「『高次元音響測定器(ヴィンテージ・ギブソン仕様)』240万8000円。
――スター氏に渡したエレキギターですね?
さらに『演算用超伝導有機カプセル(鬼ヶ島渡航用手漕ぎボート)』120万円。
そして最も意味不明なのがこれです。
『高濃度ビタミン配合・特殊燃料オブジェクト(異常に糖度の高い桃)』5玉85万円。
博士、あなたは一体何を考えているのですか」
「おやおや、手厳しい」
博士は眼鏡のフレームを軽く押し上げた。
「すべては桃太郎セクターの因果律を制御するための、科学的アプローチですよ。
あの桃が場を和ます潤滑油になった。スターのギターもメンバーの心理的安全性を高めた。小舟など移動手段として必要経費そのもの」
「博士。私は物語を止めたいのではありません。皆さんに必ず帰ってきてほしいだけです。
とはいえ、合計445万8000円は認められません。また、ペナルティとして、次なるセクターでは、あなたの端末の出力制限をさらに5%上乗せします」
「科学とは失敗を積み重ねる学問です。……ただし、経理は失敗を許してくれませんね」
博士は不敵に笑ってみせたが、その額には冷や汗が流れていた。
監査室を出た博士とすれ違う青年。
学生が小声で言う。
「博士、また怒られてましたね」
青年は苦笑して
「あの人は怒られるまでが研究だからな」
その向こうで赤いフードの座標が静かに点滅している。
―――中継セクター・会議室―――
――カノジョの「御前会議メンバー紹介」――
はーい、いくよー!
まず、隊長。
「力持ちでしょー」
「でね」
「優しいの」
「すっごくね」
隊長 「……照れますな」
次、博士。
「何でも知ってる人」
「でもね」
「よく怒られてるの。ウフフ」
博士 「科学とは挑戦だ」
監査役 「経費です」
そのまま監査役。
「お金に厳しい人」
「特にお菓子」
「でもね、コアラのマーチはオーケーなの」
監査役「妥当性と必要性によります」
はーい、スター。
「歌う人」
「急にね」
「でも、歌うと世界が変わる」
スター 「それがスターさ」♪ジャラン♪
雇い主ー!
「えらい人」
「でもー」
「最近ちょっとズッコケ」
雇い主 「……否定はしない」
女将さんね。
「世界で一番あったかい」
女将 「はい、コーヒー」
青年さーん。
「未来が見える」
「でもね」
「恋は見えないの。グヒヒ」
青年 「……」
学生 「聞こえてます」
カレシ、行くぞよ。
「記録する人、相棒だよ」
「でも最近」
「ちょっと優しい」
カレシ 「………否定はしません」
最後は長老!
「今は寝てる」
「一番、熱い人」
「入れ歯なの。キャー」
隊長「後でご報告します」
――雇い主の「カノジョの取扱説明書」――
「うむ」
「では私からいくか」
名前 カノジョ
主食 お菓子・おにぎり
好物 最近、桃。ずっとお菓子。
特技 空気を変える
苦手 空腹。阻害されると鬼をも恐れない。
能力 説明不能
博士 「現在も解析中です」
・注意事項
突然走る 突然抱きつく 突然泣く 突然笑う
すべて突然というのがポイント
・危険度
★★★★★
隊長 「物理的ではありません」
・重要事項
本人は全部無自覚
カノジョ 「え?」
雇い主
「以上だ」
「なお」
「返品・交換は受け付けない」
カノジョ
「えーーー!」
スター
「返品したくないけどね」
女将
「そうね」
隊長
「そのままで十分です」
Season 2「赤ずきん編」も、引き続きお楽しみください。
――関連作品情報――
・カノジョとカレシの観測者卒業の物語
『観測者の時空』物語編 第1話
https://ncode.syosetu.com/n4760mb/31/
・物語紀行の誕生のきっかけ、登場人物の背景
『御前会議 ―物語創生記録―』 ~「彼女の時空」が繋がるまで~ 第1話
https://ncode.syosetu.com/n4662ml/1/




