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【物語紀行】――Season 2公開:赤ずきん編「真実は、観測された瞬間に嘘になる。」  作者: Taku
1章 Season2【赤ずきん編】「真実は、観測された瞬間に嘘になる。」

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第1話「赤いフード、赤い嘘」

―――時空の狭間・御前会議室―――


そこは、不自然なほど静まり返っていた。


長老の湯飲みだけが、机の上に残っていた。

誰もその席に近寄ろうとはしない。


女将が静かに新しいお茶を淹れかけ、ほんの少しだけ手を止めた。


「……長老の容体は、安定しているそうだ。ひとまずは、ね」

重苦しい沈黙を破ったのは、雇い主だった。

彼は端末のキーを叩きながら、努めて冷静に声を絞り出そうとしていたが、その指先は微かに震えていた。

「だが、世界は待ってくれない。……いや、システムの歪みが、我々を待ってはくれないようだ」


その言葉と同時に、会議室全体が激しく鳴動した。足元から突き上げるような、猛烈な重力の狂い。メインモニターの最下部で点滅していた「赤いフード」のアイコンが、突如として画面全体を真っ赤に染め上げる。



【警告:次なる物語セクターへの強制転送を開始します】



「 僕、絶叫系嫌いではないんだけどね。うわわっっ」

スターはこれでもかと長椅子にしがみつきながら、なんとかスターを気取る。


床に思い切り転がった雇い主が、痛む腰を押さえながら慌てて立ち上がる。


その横では、カノジョが逆に目をキラキラさせて、重力から解放された浮遊感を全身で楽しんでいた。

「わあ、次は赤色だー! トマトジュースが降ってくるー!」

キャッキャッと空中を泳ぐカノジョ。


カレシは必死にキーボードを死守しながら、チラリと彼女の笑顔を見つめた。

(……なんで、あんなに純粋に笑っていられるんだ)

自分には、この異常な状況を「論理」と「記号」で処理することしかできない。


ドォン! と大きな衝撃音を立てて、会議室は「赤」の深淵へと着地した。


「スターさん、お疲れでしたね」

何事もなかったかのように振る舞うスターに、女将が湯気の立つコーヒーを持って隣に寄り添う。

「ふふ。……どこで観客が見てるか分からない。スターはつらいですよ……」


その様子を睨みながら、雇い主がボソリと呟いた。

「……私も絶叫系苦手なのだがね」


彼らの背後では、隊長が無言で足を踏ん張り、かつて長老が座っていた空席の椅子の背もたれを、その大きな手で強く掴んで支えていた。

その瞳には、倒れた老人から受け継いだ、泥臭いまでの責任感が鈍く光っている。



―――中継セクター(並行観測)―――



「……落ちましたね、青年さん」

中継セクターのオペレーションルーム。


学生は、桃太郎セクターの時よりも明らかに慣れた手つきで、キーボードを叩きログを解析していた。彼女の瞳には、どこか張り詰めた真剣さが宿っている。


「ああ。どうやら今回は、最初からプロットの初期値が狂ってるみたいだ」

ヘッドセットを直しながら、青年がモニターを覗き込む。

彼の能力である「未来の限定的視認」の画面は、今、不気味なほどのノイズで覆われていた。


「青年さん、これを見てください。アーカイブに登録されている『赤ずきん』のプロットデータが、リアルタイムで書き換わり続けてる。まるで、誰かが意図的に嘘を混ぜているみたいに」


「観測データそのものが、嘘を吐いてるってこと?」

青年は異変の正体を見極めるべく、画面の奥の「深い森」を睨みつけた。


会議室のメンバーたちには見えていない、システムそのものの根深い異変を、この二人だけが察知し始めていた。



―――赤ずきんセクター・「迷いの森」―――



墜落の衝撃が収まった会議室の扉を開けると、そこに広がっていたのは、深い霧に包まれた針葉樹の森だった。


雇い主の端末が、冷たい光を放つ。画面に刻まれた文字は、一切の情けをかけない。



═════════════════════

【緊急ミッション:事件報告書を完成させよ】

項目:被害状況 / 動機 / 犯人の特定

条件:事実のみを記述すること

═════════════════════



「やれやれ、今回は『事件報告書』の作成ですか」


博士が眼鏡の奥の目を細め、不満げに端末を叩く。監査役からの制限のせいで、彼の観測端末はいつもの半分以下の出力しか出ていない。



御前会議室の一行は、冷たい静寂をかき分けて、どれほど歩いたろうか。


霧の切れ間に、一人の少女がぽつんと佇んでいるのが見えた。


彼女が頭からすっぽりと被っているフード。

それは絵本にあるような可愛らしい赤ではなく、まるで今しがた流されたばかりの――返り血のように、生々しく、どす黒い赤だった。


しかし、そのフードの裾から覗く彼女の手足には、傷一つない。そして彼女の足元を見ると、そこには不釣り合いなほど現代的で真っ白なスニーカーが光っていた。


雇い主が慎重に一歩を踏み出し、少女に声をかけた。


「……赤ずきんちゃん?」


少女はゆっくりと振り返った。フードの深い余白の奥から、二つの瞳が会議室のメンバーをじっと見つめる。


そして、彼女は少し面倒くさそうに口を尖らせた。

「私、その呼ばれ方、好きじゃないんだよね。なんか個性がないっていうか。だって、赤帽子ちゃんとか嫌でしょ」


「あ、赤帽子……。た、確かに……」

雇い主が妙に納得してメモを取ろうとする。


しかし、少女の薄い唇から、次の瞬間、温度が完全に消え失せた。


それは、凍りつくような、冷たい微笑みだった。


「……あなたたちも、私を『被害者』にするために来たの?」


感情の起伏が完全に削ぎ落とされた声。その一言が、森の空気を一瞬で凍りつかせた。


「な……」

雇い主が絶句する。


「違う。私たちは、この世界で起きた異変の真実を——」


しかし、赤ずきんはその言葉を遮るように、フードの奥で、フッと小さく嘲笑った。


「真実? ――面白いことを言うのね。私を観測して、勝手に色を塗って、都合のいい『物語』に仕立て上げる。……あなたたちがやろうとしていることは、あの狼や、おばあさんと同じ。『加害者』なのよ」


その言葉の重みに、誰もが息を呑んだ。


空気が緩んだその時、カレシの端末の画面が激しくブレた。

表示されていた「赤ずきん:生存確率100%」の文字が、砂嵐のようにかき消えていく。


赤ずきんは、ほんの少しだけ笑った。


「さあ。今回は、誰が物語を書くの?」


森の霧が、静かに揺れた。



【システムログ:赤ずきんセクター・初期観測エラー】


現実確率:計測不能(乱高下中)


歪みレベル:中


――物語の外側より、未確認オブジェクト(会議室)の強行突入を確認。

――対象のプロット受容ステータス:【拒絶】。


観測を継続します。


──次回予告──


「祖母の家の真実」


わあ、あの子のお靴、すっごくオシャレ!


……ってカレシ、なんでそんなに頭抱えてるの?

―――【物語紀行_09】 赤ずきんちゃん登場シーンはこちら―――

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3034788/blogkey/3674102/

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