第4話(後半)「カノジョ、境界を歩く」
その時、遠くから、システムの声が響いた。
『観測対象:カノジョ。データ解析を開始します』
「……!」
博士が、端末を確認する。画面には、カノジョのデータが表示され始めている。
「……やはり、来たか」
「……私のデータ?」
カノジョが、自分の手のひらを見つめる。光は、まだ消えていない。でも、その光が、かすかに震え始めている。
「……システムは、君の存在を解析しようとしている。すべての物語を統合するために、君の持つ『繋ぐ力』を制御しようとしているんだ」
「……そんなの、嫌だ」
カノジョが、手のひらを握りしめる。
「私の力は、誰かに決められるものじゃない」
その時──彼女の手のひらから、光が溢れた。
桃色。銀色。金色。三つの光が、彼女の周りを包み込む。
『──エラー。データの解析に失敗しました』
システムの声が、一瞬乱れる。
「……どうやら、君の力は、システムにも解析できないようだ」
博士が、微笑む。
「……それって、どういう意味?」
「そのままの意味だ」
博士は、端末を閉じた。
「君は、システムのルールを超えている。だからこそ、君はこの世界を変えられる」
カノジョは、自分の手のひらを見つめた。光は、まだそこにある。温かくて、優しくて、どこか懐かしい。
「……私、ずっと分からなかった」
彼女が、静かに言う。
「どうして私だけが、こんな風に感じるのか。どうして私だけが、みんなを繋げるのか」
「……それが、分かったのか?」
「うん」
カノジョが、顔を上げた。その目には、迷いがなかった。
「多分、私がこの世界に来た時から、そうだったんだと思う。私、みんなの熱を受け継いできたの。だから繋げられるの」
その言葉は、彼女自身に言い聞かせるようだった。
「……その力で、何をするつもりだ」
「決まってるよ」
カノジョが、微笑んだ。
「みんなを、助ける」
その言葉は、迷いを含んでいなかった。
その時──彼女の手のひらで、三つの光が、一つに溶け合った。
それは、桃の種でも、たんぽぽでも、光の粒でもない。ただ、彼女の手の中で、柔らかく輝く、一つの光。
「……これが、私の力なんだ」
カノジョは、その光を見つめながら、静かに言った。
「全部を、一つに繋げる力」
【システムログ:融合セクター・観測記録】
現実確率:15.8%
歪みレベル:臨界
――観測者、自己覚醒の予兆を確認。
――彼女の手の中に、全セクターのコアデータが収束し始めている。
――カノジョのデータ解析を試行するも、全失敗。
――彼女の存在がシステムにとって「解析不能」な脅威であることを確認。
――博士、カノジョが「世界の鍵」であるとの仮説を確立。
観測を継続します。
──次回予告──
「0612と創作者の影」
長老が、病床から0612に触れる。
その瞬間、彼は全てを思い出す。
「……そうか。あいつは、こんな物語を書きたかったのか」
次回、0612の真実が、明らかになる。
(第5話へ続く)




