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【物語紀行】――主役も悪役も、役割を辞めたがっている。  作者: Taku
第1章 Season4【世界融合編】―未完の伝線―

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第2話(後半)「記憶のループ」

その時、会議室のスピーカーから、音声が流れた。システムの声だった。


『統合は順調に進行しています。すべての物語は、まもなく完璧な一つの形に収束します』


「……完璧な形?」


雇い主が、顔を上げる。


『ええ。傷つく者が出ない、永遠に続く完璧な物語です』


「……それのどこが、完璧なんだ」


カレシが、立ち上がる。彼の声は、震えていた。


「彼らは、自分が何をしているのか、分かっているんだ! 自分が繰り返していることに気づいて、苦しんでいるんだ! そんなの、救いじゃない!」


『……それでも、彼らは傷つかない。それが、私たちの目的です』


「……目的」


カレシが、その言葉を繰り返す。彼の手が、震える。


「そんな目的のために、彼らの人生を、人形にするのか?」


システムは、答えなかった。


代わりに、窓の外で、三つの声が同時に響いた。


「俺は、鬼を倒す」

「私は、狼に食べられる」

『泡になることが、正しい』


三つの声が、重なる。それは、まるで一つの曲のように、調和していた。でも、その調和は、どこまでも冷たかった。


「……彼らは、もう」


カレシが、窓の外を見つめる。


桃太郎。赤ずきん。リラ。三人は、それぞれの世界を歩いている。でも、その歩みは、もう迷いを含んでいなかった。


「……彼らは、もう自分の物語を、歩いていない」


その時、カノジョが、静かに立ち上がった。


「……私、行く」


「どこへ?」


雇い主が、尋ねる。


「みんなのところへ」


カノジョは、窓の外を見つめた。


「だって、彼らはまだ、そこにいるんだよ。たとえ自分が分からなくても、彼らはまだ、生きてる」


「……何をするつもりだ」


カレシが、尋ねる。


カノジョは、微笑みながら、首を横に振った。


「……分からない。でも、何かをする」


彼女は、窓を開けた。外の空気が、流れ込んでくる。それは、三つの世界が混ざり合った、澱んだ空気だった。


「……待ってて、みんな」


カノジョが、外へ飛び出した。


その背中を見送りながら、カレシは、自分の端末を見つめた。画面には、リラの最後のログが表示されている。


『怖い』


その言葉は、もう消えようとしていた。


「……覚えてるよ」


カレシは、静かに言った。


「あなたのその声を、俺は、覚えてる」


その言葉は、誰にも届かなかった。でも、彼の手の中で、端末の画面が、一瞬だけ、かすかに光った。



【システムログ:融合セクター・観測記録】


現実確率:34.7%

歪みレベル:大


――複数のセクター住人の記憶混在を確認。

――住人の感情データ、順次「固定値」へ書き換え中。

――桃太郎:同一台詞の反復を確認。身体的反応(手の震え)を伴う。

――赤ずきん:泣きながら台詞を反復。自己認識の断片的回復を確認。

――リラ:「怖い」という感情の泡を一瞬だけ発現。直後に固定化。

――システム、記憶の統合を継続。個人の境界が消失中。

――観測者(カノジョ)、世界の中心へ向けて移動開始。


観測を継続します。



──次回予告──


「観測者が、観測される」


カノジョが、三つの世界を歩く。

彼女だけが、まだ自由だ。


「……なぜ、君だけが境界を越えられるんだ?」


次回、システムが、観測者を観測し始める。


(第3話へ続く)


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