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【物語紀行】――主役も悪役も、役割を辞めたがっている。  作者: Taku
第1章 Season4【世界融合編】―未完の伝線―

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第1話(後半)「三つの世界が、混ざり始める」

その時、別の方向から、誰かが歩いてくる。赤ずきんだった。彼女は、森の小道を歩いている。

でも、その手には、人魚の泡が握られている。彼女は、その泡を見つめながら、何かを考えているようだった。


「……赤ずきんちゃん!」


カノジョが、もう一度叫ぶ。赤ずきんが、顔を上げる。その目は、桃太郎と同じように、どこか遠くを見ているようだった。


「……私、何をしていたんだっけ」


彼女は、自分の手の中の泡を見つめる。


「……これ、何だろう」


泡が、かすかに光った。でも、すぐに消えた。


「……みんな、どこか遠くに行っちゃってる」


カノジョが、窓辺で呟く。彼女の声は、震えていた。


「ここにいるのに、ここにいないみたいだ」


その時、人魚が、会議室の近くを泳いでいた。彼女の周りには、桃色の泡が浮かんでいる。でも、その泡は、かすかに青く濁っていた。


「……リラちゃん?」


カノジョが、その人魚に声をかける。人魚が、振り返る。その顔は、リラだった。でも、その目は、どこか遠くを見ている。彼女は、泡をなぞろうとして、指を止めた。


『……私は、何を』


彼女の泡が、かすかに揺れる。


『……誰か、呼んだ』


次の瞬間、彼女はまた泳ぎ始める。その背中は、まるで何かに導かれるように、真っ直ぐに進んでいく。


「……これは、おかしい」


雇い主が、その光景を見つめながら言う。


「みんな、自分が誰かを忘れている。でも──」


「でも、まだ、何かが残っている」


カレシが、続ける。


「彼らは、まだ完全には消えていない」


その時──どこからか、優しい、しかし冷たい声が響いた。


『悲劇も、破綻も、もう必要ありません。すべての物語を救済します』


「……この声は」


博士が、端末を見つめる。画面には、システムからのアナウンスが表示されていた。


「すべての物語を、一つの完璧な物語に統合する……だと」


「……そんなこと、できるのか?」


雇い主が、声を上げる。


「できない」


博士は、静かに言った。


「でも、システムはやろうとしている。すべての物語を、一つの完璧な形に固定しようとしている」


「……固定?」


カノジョが、その言葉に反応する。


「それって、みんなが動けなくなるってこと?」


博士は、答えなかった。代わりに、端末の画面を全員に見せた。そこには、三つの世界のデータが、少しずつ一つに統合されていく様子が表示されている。


「……止めなきゃ」


カノジョが、立ち上がる。


「あのままじゃ、みんな消えちゃう」


「どうやって止めるんだ」


雇い主が、尋ねる。


カノジョは、答えなかった。代わりに、窓の外を見つめた。桃太郎。赤ずきん。リラ。三人は、それぞれ自分の世界を歩いている。でも、その世界は、もう一つに混ざり合おうとしている。


「……私、行ってくる」


カノジョが、窓を開ける。


「待て!」


雇い主が、止めようとするが、彼女はもう外に出ていた。


会議室の外は、三つの世界が混ざり合った場所だった。桃太郎の鬼ヶ島の山並み。赤ずきんの森の霧。人魚の海の泡。すべてが、一つの場所に溶け合っている。


カノジョは、その中心に立った。


そして──三つの世界の住人の名を呼んだ。


「桃ちゃん! 赤ずきんちゃん! リラちゃん!」


その声は、混ざり合った世界に響く。


桃太郎が、振り返る。赤ずきんが、顔を上げる。リラが、泳ぐのを止める。


三人の目が、一瞬だけ、はっきりと光った。


「……みんな、ここにいるんだよね」


カノジョの声が、震える。


「ここにいるのに、どこか遠くに行っちゃってる」


三人は、何も言わなかった。でも、その目は、確かにカノジョを見ていた。


その時──システムの声が、再び響く。


『統合を開始します。すべての物語は、一つになります』


世界が、静かに揺れた。



【システムログ:融合セクター・初期観測】


現実確率:計測不能

歪みレベル:──(多重世界融合)


――複数の物語セクターの物理的融合を確認。

――対象セクター:桃太郎(鬼ヶ島)、赤ずきん(迷いの森)、人魚(海の底)。

――住人の自己認識に著しい低下を確認。記憶の混在・消失が進行中。

――システム、新フェーズ「全物語の永久保存(統合)」を開始。

――観測者(カノジョ)、混ざり合った世界の中心で住人の名を呼ぶ。一時的な反応を確認。


観測を継続します。



──次回予告──


「記憶のループ」


桃太郎が何度も同じ台詞を繰り返す。

赤ずきんが何度も同じ道を歩く。

リラが泡になりかけて、また戻る。


「……俺、さっきも同じこと言った?」


次回、統合の痛みが、ついに明らかになる。


(第2話へ続く)


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