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【物語紀行】――主役も悪役も、役割を辞めたがっている。  作者: Taku
第1章 Season4【世界融合編】―未完の伝線―

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第1話(前半)「三つの世界が、混ざり始める」

―――時空の狭間・御前会議室―――


人魚の海から浮上してから、どれほどの時間が経っただろうか。


会議室の窓の外には、いつもの中継セクターの風景が広がっている。


でも、その風景はどこか違って見えた。空の色が、ほんの少しだけ、青と灰色の間に別の色を挟んでいるように。風の音が、どこか遠くの波の音と混ざっているように。


「……戻った、のか」


雇い主が、自分の手を見つめて呟く。彼の手には、まだ人魚の光の粒が残っている気がした。


「どうやら、そのようだ」


博士が端末を確認しながら言う。その声は、いつもの冷静さを取り戻していた。


でも、その指先は微かに震えている。


「……皆さん、お疲れさま」


女将がコーヒーを淹れ始める。香ばしい香りが会議室に広がる。


でも、その香りもどこか違っていた。海の底の塩の匂いが、まだ鼻の奥に残っているせいかもしれない。


カノジョは、窓辺に立ったまま、外を見つめている。彼女の手のひらには、リラから受け取った光の粒が、まだかすかに残っている。


「……リラちゃん、元気にしてるかな」


誰に言うでもなく、彼女は呟いた。


その時だった。


ドン、と、低い、しかし確かな振動が会議室を揺らした。


「……今のは?」


隊長が即座に立ち上がる。


ドン。ドドン。


振動は規則的になり、次第に激しさを増していく。それは、桃太郎の世界への「落下」でも、赤ずきんの世界への「転送」でも、人魚の世界への「沈下」でもなかった。


――溶ける。静かに、しかし確実に、何かが混ざり合うような感覚。


「……何か、おかしい」


青年が、端末を確認する。画面には警告マークが赤く点滅している。


『警告:複数の物語セクターの物理的融合を検知』


「融合……?」


雇い主が、その文字を見つめる。その時──窓の外が、一瞬で変わった。


「……!」


全員が、息を呑んだ。


窓の外には、桃太郎の鬼ヶ島があった。でも、その山並みの間に、赤ずきんの森の霧が立ち込めている。そして、その霧の中を、人魚が泳いでいた。


「……何だ、これ」


スターが、ギターを抱えたまま立ち上がる。彼の声は、いつもの軽やかさを失っていた。


会議室は、一つの世界に着地していた。しかし、それは一つの世界ではなかった。


桃の木が、赤ずきんの森の中に立っている。鬼ヶ島の岩場に、人魚の泡が浮かんでいる。赤ずきんの家の前に、桃太郎の刀が突き刺さっている。


すべてが、混ざり合っていた。


「……これが、『融合』?」


カレシが、端末を確認する。画面には、三つのセクターの座標が重なり合っている。


「桃太郎の世界、赤ずきんの世界、人魚の世界……すべてが、一つの場所に収束している」


博士が、端末を操作しながら言う。


「こんなことは、ありえない。システムが、ここまで強力に世界を書き換えるなんて」


その時、窓の外で、誰かが歩いていた。


桃太郎だった。


彼は、鬼ヶ島の山道を歩いている。でも、その足元には、赤ずきんの森の落ち葉が積もっている。彼は、その違和感に気づいていないようだった。


「……桃ちゃん!」


カノジョが、窓を開けて叫ぶ。桃太郎が、振り返った。その顔には、困惑と、どこか虚ろな色が混ざっている。


「……誰か、呼んだか」


彼は、そう言って首を振る。


「いや、何でもない」


そして、また歩き出す。その背中は、まるで何かに導かれるように、真っ直ぐに進んでいく。


「……おかしい」


カレシが、端末を見つめながら言う。


「彼は、自分が誰に呼ばれたのかを覚えていない。まるで──」


「まるで、記憶が書き換えられている」


博士が、続ける。

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