093
『ヒャーハッハッハ!お前みたいな変な奴1人が加勢に来たところで戦況は覆らないぜぇ?』
「ふふふ、それはどうかな?裏第四位階魔法【裏鑑定】」
『なんだその魔法は!?ええい、【裏狂乱の毒煙】!』
「第一位階魔法【性質変化】風よ、毒煙を押し返せ!」
『ああん?てめぇ、裏魔法の使い手じゃなかったのか?ならばこれで終わりだぜぇ、裏第五位階魔法【裏強化】!』
「くっ、力が抜ける……」
『おら、鬼火鬼火鬼火ぃ!死ね死ね死ねぇ!』
「お前さっきからどこに向かって攻撃しているんだ?私はこっちだぞ、とうっ!」
『はぁ?そっちか!死ねぇ、鬼火鬼火鬼火!』
「いや、やっぱりこっちだぞ、とうっ!」
『んんんん〜???』
裏第四位階魔法【裏鑑定】
その魔法が使われるのを、私は初めて目撃した。
詳しい効果は不明だが、ポドカルパス先生は一歩も動いていないのに、怨霊キャプテン・ターメリックが混乱して、あらぬ方向に魔法を撃ちまくっている。
まるで幻惑に踊らされているかのようだ。
「解説しよう!裏第四位階魔法【裏鑑定】の効果とは、対象の情報を読み取るという【鑑定】の逆の効果、すなわち、相手に虚偽の情報を押し付けることなのだ、とうっ!」
『虚偽の情報だとぉ?それじゃあ俺が今まで戦っていたのは……』
「貴様の妄想に過ぎないというわけだ」
『クッソがぁぁぁ!全方位攻撃だぁ!【裏狂乱の毒煙】変な奴ごと全てを巻き込んで毒にしてやるぜぇ!』
「裏第二位階魔法【裏形状変化】毒煙よ、拡散せずに集合せよ」
ポドカルパス先生が裏第二位階魔法【裏形状変化】を使うと、全方位に拡散しようとしていた毒煙が集合し、手のひらに収まるサイズの球状の塊となってしまった。
本来の【形状変化】は自分の魔法の形を変化させる魔法だが、【裏形状変化】では相手の魔法の形を変化させることができるらしい。
ポドカルパス先生はさすがAランク霊媒師だけあって、私なんかでは思いもつかない多彩な魔法により、相手の裏魔法を完封している。
ポドカルパス先生が毒煙を集合させてくれたため、傷ついて倒れているエマ爺の姿が確認できるようになった。
「ポドカルパス先生が敵を引きつけてくれているうちにエマ爺を救出に行かないと……」
「ツバキ、お主は魔力と体力の回復に専念するのじゃ。エマ爺はわしに任せろい、【土魔法】土竜!」
「ツ、ツキ様!」
ツキ様が【土魔法】土竜を発動すると、地面がもこもこと蠢き、気絶するエマ爺の身体が土の中に引き摺り込まれていった。エマ爺は土をもこもこさせながら移動し、私たちの目の前に土の中から重傷を負ったエマ爺が現れた。
エマ爺は意識を失っているようだが、呼吸はしているので生きているようだ。
「本当は回復魔法が使える者がいるとよかったのじゃが、みかんの搾り汁を少しずつ飲ませて回復を促すしかあるまい」
「エマ爺、みかんジュースだよ」
「うっ……」
「重症ではあるが、一命は取り留めたようじゃの」
「エマ爺、生きててよかった!」
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
さらに海賊船ウミボウズからは5体の怨霊が飛来し、戦場には先ほどから残っている怨霊とキャプテン・ターメリックを含めて11体もの怨霊が宙を舞っている。
圧倒的に不利な状況であるはずだが、ポドカルパス先生は余裕の姿勢を崩さない。
『お前たち、あの変な奴に総攻撃だぜぇ!鬼火鬼火鬼火!』
『『『『『鬼火鬼火鬼火!』』』』』
『『『『『鬼火鬼火鬼火!』』』』』
『おら、これで終わりだぜぇ!』
「裏第三位階魔法【裏念動】魂鳴り」
『ギャア!』
『グァァ!』
『ああん?』
またしてもポドカルパス先生が新たな魔法を使うと、怨霊のうち2体が苦しんで墜落する。
裏第三位階魔法【裏念動】を応用した魔法なのだろうが、魂鳴りとは一体どんな効果なのだろうか。
「解説しよう!【裏念動】魂鳴りとは、魂の固有振動数を利用した攻撃だ!【裏念動】により特定の周波数で魂を揺さぶってやることにより、固有振動数が一致した相手をスタンさせることが出来るのだ、とうっ!」
『な、何を言っているのか全くわからねぇぜぇ!』
『お、お頭ぁ、体が自由に動かねぇ』
『助けてくれぇ』
『お、お前たち!』
「ふふふ、私がすぐに楽にしてやろう。凪魔法、魂掴み」
『ギャヒン!』
『オギャァァァァ!』
『『『『『はぁ!!??』』』』』
「よく見ろ、これが貴様ら怨霊の魂だ、初めて目にするかも知れないな?」
『なっ、なっ、なっ、コイツ、魂を素手で掴んでいる!?』
『げぇ、そんな馬鹿な!?』
『そ、その魂を一体どうするつもりなんだ!』
「どうと言われてもな、私は霊媒師だから怨霊は祓うよりほかあるまい」
『な、何を……』
『『ギィヤアァァァ!』』
ポドカルパス先生が謎の凪魔法、魂掴みを使うと、墜落した怨霊2体の身体から魂を引き摺り出してしまった。
さらに、引き摺り出した魂に親指を突き立てて、まるでみかんを真っ二つに割くかのように、怨霊の魂を破壊してしまったのだ。
怨霊は魂が裂けたことにより激痛を感じたのだろうが、断末魔の叫び声をあげて消滅していく。
「さて、怨霊諸君、1つ提案なのだが、大人しく降参するならばあちらの司教が成仏させてくれることだろう。成仏すれば神界にて罪を償ったのち、フォレスティナ様のお慈悲により転生させてもらえるかも知れない。しかし凪魔法により消滅した魂は全くの無に還ることになる。この場合、転生できる可能性はない。どちらが良いか、選ぶといいぞ」
『そ、そんなの選べるわけねぇだろうが!』
『オ、オラは逃げるだべ』
『オラも逃げるべ』
「【裏念動】魂鳴り、からの凪魔法、魂掴み2連」
『『ギャァァァァァダベェェェェ!』』
『お、俺降参します!』
『俺も降参します!』
「ならばこちらへ来るがいい」
『『はい』』
『そんな馬鹿なぁ!』
「残りの怨霊どもは魂の消滅を選ぶのだな?」
『魂の消滅だけはイヤだ!降参します!』
『とてつもなく痛そうだもんな、俺も降参します!』
『みんなが降参するので俺も降参します!』
『おいお前たち、俺たちは仲間だろうが!裏切るっていうのか!?』
『いやー、切実な問題っていうか……』
『魂の消滅って、なぁ……』
『恐ろしすぎるよな』
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
追加の怨霊が6体飛来するが、すでにポドカルパス先生の優位が確定しているので、全く驚異に感じない。
「降参した怨霊ども、新たに飛来した怨霊達に大人しく成仏するように説得してこい」
『『『『『へーい』』』』』
『お、お前たち、一体誰の命令に従っているんだ!!』
「さっさと行け!」
『『『『『へい!』』』』』
『……ふざけるな、ふざけるなよ。地位も名誉も命も失い、さらに仲間も失ったら、俺には何も残らないじゃねぇか!返せよ、俺の仲間を!』
「それは貴様の妄想なのだ。観念しろ、キャプテン・ターメリック」
『ふざけんなぁぁぁ!』
「【裏念動】魂鳴り、凪魔法、魂掴み」
『ギャァァァァ!』
キャプテン・ターメリックはポドカルパス先生の使う【裏念動】魂鳴りによって呆気なく墜落すると、そのまま魂を引き摺り出されて消滅してしまった。
ポドカルパス先生は無限に増え続ける怨霊達を、たった1人で制圧してしまった。
私はAランク霊媒師の実力を見せつけられ、感動していた。
「お前、その凪魔法とやら、どこで習得したのだ?」
「アルミラリア!」
修道女に身をやつした魔族アルミラリアが、いつのまにかすぐ近くに出現し、ポドカルパス先生に話しかけている。
その背中から無理やり生やした蝙蝠羽からは、血が滴り落ちている。
なんと悍ましい姿だろうか。
「出たな、我が宿敵アルミラリアめ。私を忘れたとは言わせんぞ」
ポドカルパス先生はそう言うと、自ら仮面を外して素顔を見せた。
私の記憶によればポドカルパス先生は中年男性であったはずだが、仮面を外した先生は20代前半の若者のように見えた。
「ん?お前は、そうか、あの実験の生き残りか!わーっはっは、これは滑稽!100年前のイタズラを生き延びたモルモットが復讐に来たというわけか!」
「アルミラリア、お前に会った時にどうしても聞いておきたいことがあった。その魔導書モルティスとやら、あの実験の被害者の魂を利用したものか?」
「そんなわけはあるまい。我が魔導書モルティスに込めた魂は天然物よ!お前のような出来損ないの人造人間とは全く異なるのだ」
「そうか、ならばなぜお前は大量の人造人間を作り出し、無意味な実験を繰り返したのだ!?何人の同胞達がお前に命を弄ばれ、死んでいったと思っている!」
「実験は結果的に失敗したが、ちゃんと目的はあったぞ」
「なら言ってみろ!」
「魔導書モルティスのコピーをもう1冊作ろうと思っていたのだ。そうすれば二刀流が出来るようになるからな。格好良いだろう?」
「そんなくだらない目的のために……。我が宿敵アルミラリア、この場で討ち滅ぼすのみ」
「よかろう、モルモットがどこまで戦えるようになったか、確認してやろうではないか。お前の親としてな!」
「貴様を親だと思ったことは一度たりとも無い!いくぞ、とう!」
ポドカルパス先生はアルミラリアと何回か言葉を交わし、そのまま戦い始めてしまった。
モルモットだの人造人間だのという不穏な文言が聞こえたような気がしたが、それについて深く考えるのはやめておこう。
ポドカルパス先生の過去を詮索するのは、今するべきことではない。
「ツバキ様、エマルギナタ様の意識が戻られました!」
「本当ですか!?それはよかった!」
「そ、それが、エマルギナタ様が錯乱しておられまして、どのようにしたらよいものかと……」
「すぐに向かいます!」
私がエマ爺の元に向かうと、4、5人がかりでエマ爺の身体を拘束しているようであった。
「俺は今すぐに死にたいのだ!放せぇ!」
「おやめくださいエマルギナタ様!」
「ぐぉぉ、さすが戦士頭、すごいパワーだ!」
「誰かエマルギナタ様の手からナイフを奪い返せ!」
エマ爺はナイフを手にしており、少し出血しているようであった。
エマ爺の力は凄まじく、4、5人がかりで取り押さえるのがやっとという状況である。
「エマ爺、何をしているのですか!?エマ爺が死ぬ必要はありませんよ!」
「ツバキ様、私は死ななければならないのです!」
「な、なぜですか!?」
「理由などありません、魂が私に死ねと言っているのです!」
「死んではなりません!これは命令です!」
「命令!?命令には従わなければならない、しかしすぐにでも死んでしまいたい、ぐわぁぁ、私は一体どうすれば」
エマ爺の様子は明らかに尋常ではない。
もしかすると、キャプテン・ターメリックが使った【裏狂乱の毒煙】の悪影響を受けているのかもしれない。
裏魔法は通常の魔法の効果を変化させるため、狂乱が逆転して自殺願望を引き起こしている可能性がある。
「他にも【裏狂乱の毒煙】を受けた戦士がいましたね。彼らはどんな様子ですか?」
「はい、敵から毒を受けた戦士達も皆口々に死にたいと申しておりますが、暴れているわけではないので見張りをつけております」
「そうですか……。エマ爺に起きた異変は毒による悪影響で間違いないでしょう」
「やはりそうでしたか……。今解毒薬を片っ端から試しているところなのですが、いずれも効果がなく……」
自殺願望を抑える薬など聞いたこともなく、薬による解毒は期待できないかも知れない。
ゼルコバ君ならもしかすると【樹木魔法】でそういった効果のある薬を作り出すことができるかも知れないが、こちらに到着するまでにはしばらく時間がかかるだろう。
ゼルコバ君が言っていた4時間が過ぎるまで、今はなんとかして耐えなければならない。
「ツバキお嬢様、わだすにエマルギナタ様の治療をさせていただけないでしょうか?」
「シソ!?えっ、その姿はどうしたのですか?」
「ずぶ濡れで申し訳ありませんでまんず。お見苦しいところをお見せいたしまんず」
「い、いえ、私が言っているのはそういう意味ではなく……」
裏魔法発動のために水を張った桶に顔を突っ込んでいたシソが駆けつけて、エマ爺の治療を申し出てくれた。
シソは裏魔法発動のために溺死寸前になるまで溺れる必要があり、肩から上はずぶ濡れだ。
しかしシソの外見の変化はそれだけに留まらず、なんと額からは1本の角が生え、背中からは蝙蝠羽が生えているではないか。
まるで魔族モードになった私のような姿だ。
「実はわだすはツバキお嬢様とエマルギナタ様に命を救われたことがあるでまんず」
「ええ?私とエマ爺がシソの命を救った!?」
「はいでまんず。あれはわだすがマンティスアロー男爵家のメイドとして働き出して間もないころ、わだすは不注意から旦那様のお洗濯物を破いてしまったことがあったでまんず」
「そ、それは大変でしたね……」
「しかし魔法の練習でたまたまその場に居合わせたツバキお嬢様が魔力矢で洗濯物を射貫き、旦那様の洗濯物を破いてしまったのは自分の責任であるとして、わだすをかばってくれたのでまんず」
「そ、そんなこともあったかも知れません」
「エマルギナタ様にもお目溢しをいただき、わだすの命は首の皮1枚で救われたのでまんず」
メイドが洗濯中に貴族の服を破いた程度で死刑にされる程の罪なのかどうかよくわからないが、少なくともお父様は笑って許してくれるだろう。
しかしシソはその事を重く受け止めており、どうやら恩返しをするために危険な戦場に駆けつけてくれたようだ。
「そしてわだすが第六位階に到達したとき、フォレスティナ様はわだすに固有魔法【洗濯】を授けてくれたでまんず。以来、わだすはありとあらゆるものを【洗濯】して綺麗にすることが出来るようになったでまんず」
「固有魔法【洗濯】!?ではその魔法でエマ爺を【洗濯】すれば、毒による悪影響を打ち消すことが出来るかも知れないということですか?」
「試してみてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。シソ、おねがいします!」
「かしこまりましたでまんず。裏固有魔法【裏洗濯】エマルギナタ様を綺麗にするでまんず」
シソが裏固有魔法【裏洗濯】を発動させると、エマ爺の身体は泡のような光に包まれた。
「う、うおお!私は一体!?」
「エマ爺、正気に戻ったのですか!?」
「はい、ツバキ様、なぜだか先ほどまではすぐに死ななければならないと思い込んでいたのですが、今は憑き物が落ちたように清々しい気分です」
「エマ爺、良かった!」
「エマルギナタ様、治ってよかったでまんず!」
「シソ、本当にありがとう!あなたはエマ爺の命の恩人です!」
「もったいないお言葉でまんず」
その後、シソは毒を受けた戦士達全てを【裏洗濯】により治療し、彼らは自殺願望から解き放たれ、一命を取り留めたのであった。




