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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第三章 大精霊の試練 〜マンティスアロー男爵領 大魔王復活事件〜
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ーーー


私の名はツバキ・マンティスアロー、マンティスアロー男爵家の一人娘だ。

魔族アルミラリアと海賊の悪霊の集合体ウミボウズの襲来による激しい戦闘が開始されてから間も無く、戦場は逼迫していた。


『オンギャァァァ!』

「バリスタが効いていないようです!」

「魔力矢もすり抜けるばかりで、敵に損傷を与えることができません!」

「ウミボウズ、大石管に接近中です!」


リョーマ湾の護岸にずらりと並んだバリスタは、悪霊の集合体であるウミボウズの身体をすり抜けてしまう。

また、魔法矢も同じように透過してしまうので、ダメージを与えることが出来ないようだ。


「悪霊の集合体であるウミボウズにダメージを与えるには、裏魔法か聖属性魔法を使うしかありません。戦闘に参加している霊媒師は何名いますか!?」

「はっ!ご報告いたします。マンティスアロー男爵領にて裏魔法か聖属性魔法を使える者は、ツバキお嬢様を除き2名しかおりません!」

「その者達をすぐにこちらに呼んでください」

「はっ!」


私の指示に応じた戦士は裏魔法か聖属性魔法を使える者を連れてくるため、駆け足で戻っていった。

私の期待に反して、裏魔法か聖属性魔法を使える者はたったの2名しかいないという。

悪霊怨霊に対処できる人材がいかに貴重なのかがよくわかる。


他に頼れる者がいないため、私も霊媒師の端くれとして、貴族としての務めを果たすため、裏魔法を使うために魔族モードに変身する必要がある。


「私も裏魔法を使うため、魔族モードに変身します」

「ツバキっ!人前で魔族の姿を晒すなど、貴族社会での地位を放棄するつもりかっ!?」

「お父様、ご安心ください。婚約者であるゼルコバ様は魔族の混血である私の姿を見て、受け入れるとおっしゃって下さいました。私はあの方を信じ、人生を捧げるつもりです!」


私は無意識のうちに、左手の薬指にはめた婚約指輪を、右手で握りしめていた。

この婚約指輪はゼルコバ君にもらったもので、星々の瞬きのような輝きを放つ宝石がはめ込まれている。

古来より左手の薬指は魂に繋がっているとされ、指輪の温もりが私に勇気を与えてくれるような気がした。

ツキ様が造り出してくれた大石管を守り、大精霊マンティス様の援護をしてくれているサイプレス様とベルの助力になることしか、今の私に出来ることはない。


「そこまでの覚悟があったのか……。まだ知らぬゼルコバ殿、娘をよろしく頼みます。エマルギナタよ、私は本陣まで退くぞ。この場は我が全権代理としてツバキの采配に任せる」

「はっ!」

「ツバキ、不甲斐無い父は一旦退くことにする。無茶をするなとは言わないが、無謀はするな。王家や他領に申請している援軍が到着したら戦地へ向かってもらうから、どうかそれまで持ち堪えてくれ!」

「お父様、愛しております」

「私もだツバキ、死ぬなよ」

「もちろんです。それではツキ様、私をくすぐっていただけますか?」

「くすぐれば良いのじゃな?それ、こちょこちょ〜」

「アヒャ、アヒャヒャヒャ!」


ツキ様に脇の下をくすぐってもらうと、私の背中から一対の蝙蝠羽が現れ、魔族モードに変身した。

私はジャカランダさんに作ってもらった改造制服を着ているため、蝙蝠羽が生えても背中が丸見えになることはない。

エマ爺が唖然とした表情で私を見ているのが気になるが、恥や外聞を気にしている状況では無い。


「ふぅ、ありがとうございます、魔族モードに変身できました。これより裏魔法による攻撃を開始します。裏固有魔法【裏龍星】!」


私は愛用している弓を引き絞り、裏固有魔法【裏龍星】を放った。

【裏龍星】は以前にゼルコバ君と一緒に悪霊退治の依頼を受けた際使用したことがあり、悪霊に効果があることは確認済みだ。

【裏龍星】は複雑な軌道を描いて飛んでいき、海賊の悪霊の集合体ウミボウズの眉間に直撃した。

ウミボウズの眉間は大きく抉れ、かなりのダメージを与えることが出来たようだ。


『オンギャァァァ!』

「お、効いてるようじゃ」

「さらに撃ちます、【裏龍星】!」

『ギャアア、ギャアア』

「ウミボウズに損傷を与えているようです!」

「さすがはツバキお嬢様だ!」

「ツバキ様、すっかり一人前の戦士になられましたな」

「「「「「ツバキお嬢様、万歳!!!」」」」」

『オンギャァァァ……』


ウミボウズは【裏龍星】の直撃により頭部が大きく抉れているが、まだ成仏する気配は無い。

【裏龍星】がウミボウズに損傷を与えているのを見た戦士達は私のことを褒め称えたが、まだ喜ぶのは早いだろう。

【裏龍星】は魔力消費が大きく、魔力容量が【極めて少ない】私としては連発するのは避けたいところだ。


私の魔力容量は、ゼルコバ君にフジ山の大精霊カグヤ様の精霊殿に連れて行ってもらい精霊御膳を食べさせてもらったことで、元の10倍に達していた。

しかし元の魔力容量が【極めて少ない】私の魔力は、10倍になったとしても余裕があるとは言えない。


元々の私の魔力容量では、ファイアーボールを50発も撃てば魔力枯渇状態となっていたが、今はその10倍の数のファイアーボールを放つことが出来るだろう。

固有魔法である【龍星】もしくは【裏龍星】は消費魔力量がファイアーボールの10発分程度であるため、【裏龍星】使用回数は50回が限界だ。

このため、魔力切れには注意しなければならない。


しかし温存していてはウミボウズの接近を許してしまうことになるため、私はさらに【裏龍星】で追撃することにした。


「裏固有魔法【裏龍星】!」


バシュ!


『オンギャァァァ!オンギャァァァ!』


「「「「「おお〜!!」」」」」


【裏龍星】が蛇行しながらウミボウズに直撃し、頭部を中心に大きな損害を与えることができた。

ウミボウズの頭部は【裏龍星】の連発によりほとんど失われており、このままいけば魔力が切れる前に倒し切ることができるかもしれない。


『オンギャァァァ……ニクイ、憎イィィィィ!』


頭部を失ったウミボウズが、憎しみを込めた怒声を放っている。

海賊達の悪霊をこねくり回して作り出されたウミボウズが憎しみの感情を強く持つことによって、ウミボウズの巨体が蠢き始めている。

放置すると何か良くないことが起こるような気がしたので、追撃の矢を放ち続け、倒し切ってしまいたい。


「【裏龍星】!」

『コノ痛ミハァ……』

「【裏龍星】!」

『憎キアノ女ヲ思イ出ス……』

「【裏龍星】!」

『思イ出シテキタァ……』

「【裏龍星】!」

『俺達ハ……俺達は、海賊ダァァァァァ!』

「【裏龍星】!」

『ヒィやっはぁぁぁぁぁ!掠奪の時間だぜぇぇぇ!』

「ウミボウズが巨大な赤子から海賊船に変身した!?」

「どうやらウミボウズは怨霊化してしまったようじゃの」


うずくまるウミボウズの巨体が激しくうごめき、ウミボウズはいつしか一隻の海賊船に変身していた。

【裏龍星】は海賊船の船体に直撃するが、先ほどまでと違って大きな損傷を与えることはできていない。


『ヤロウ共、出航だァァァァ!』

『『『『『ウォォォォ』』』』』


ドン!


どこからともなく太鼓の音が聞こえてくる。


『『『『『ロー!』』』』』


ドン!


『『『『『ロー!』』』』』


ドン!


『『『『『ロー!』』』』』


ドドドドドドドド!


『『『『『ロー!!!!』』』』』


『進めぇ、海賊船ウミボウズ!あの女に殺された怨みを今こそはらすぞぉ!』

『『『『『ウォォォォ!』』』』』


悪霊であるウミボウズが過去を思い出したことにより、海賊船ウミボウズの怨霊となって動き出した。

海賊船ウミボウズの船体は大きなオールにより加速して、滑るように海上を移動している。

ツキ様が造り出した大石管は無視して、私達がいる方向に突撃してくるつもりのようだ。


「【裏龍星】!……っ、このままじゃ仕留め切れない!」


私はさらに【裏龍星】を放つが、海賊船ウミボウズの船体は怨霊となったことにより強化されたのか、先ほどまでのように大きな損傷を与えることが出来なくなってしまった。

このままではウミボウズを仕留め切る前に私の魔力が尽きてしまうか、もしくは海賊船が護岸に到達してしまう可能性が高い。


「ツバキお嬢様、裏魔法を使える者と聖属性魔法を使える者を連れてきました!」

「待っていました!さっそく裏魔法と聖属性魔法により援護をお願いしたいと思います!」


私の前に連れてこられたのは、メイド服姿の少女と、司教の中年男性であった。

あまり戦闘が得意なようには見えない2人だったが、裏魔法と聖属性魔法は悪霊怨霊に対抗できる限られた手段であるため、頑張ってもらうしかない。


「私の名はツバキ・マンティスアローです。お2人は裏魔法と聖属性魔法を使うことが出来ると聞きました。ぜひご協力いただき、迫り来る海賊船ウミボウズの撃退に力を貸してもらえないでしょうか」

「ツバキお嬢様、初めてご挨拶させていただきまんず、メイドのシソと申しまんず。裏魔法は確かに使えるのでまんずが、発動させるためには溺死寸前になるまで溺れる必要があるんでまんず」


メイドのシソは裏魔法を発動する際に、溺死寸前になるまで溺れる必要があるという。

人によって裏魔法を発動させるための条件は様々だが、シソが教えてくれた条件はかなり特殊なものだ。


「えっ!?裏魔法を発動させるために、溺死寸前になるまで溺れる必要があるのですか?」

「そうでまんず、もしかするとそのまま死んでしまうかもしれませんけれども、その時はお役に立てず申し訳ありませんでまんず。それでは行って参りまんず」

「あわわ!シソ、ちょっと待ってください!」

「は、放してくださいでまんず。役立たずなわだすがご恩をお返しする絶好の機会でまんず」


シソはメイド服姿のまま海に飛び込もうとしたが、そんなことをしたら本当に死んでしまうかもしれないので、私は慌ててシソを止めた。


「誰か、水の入った桶をこちらへ。シソさん、せめて溺れそうになってもすぐに助けられるように、水の入った桶に頭をつっこんで溺れてもらえないでしょうか」

「わかりましたでまんず。裏魔法が使えそうになったらお声かけさせていただきまんず」

「よろしくお願いします。それと、そちらの司教様は聖属性魔法が使えるのでしょうか?」


司教の男性は手に聖書を持っており、人の良さそうなおじさんだ。


「マンティスアロー男爵領の教会にて司教を務めております、ステノコマと申します。私が使える聖属性魔法は死者の魂を弔うためのものでして、戦闘には使うことが出来ないだろうと思います」


やはり予想したように、司教の使う聖属性魔法には海賊船ウミボウズを攻撃できるようなものは含まれていないようであった。


「そうでしたか、わざわざお呼びたてしてしまい申し訳ありませんでした……」


シソは裏魔法を発動するための準備に時間がかかるし、ステノコマは戦闘向きの魔法を使うことは出来ないという。

【裏龍星】でウミボウズを仕留めきれればよかったのだが、私の魔法が拙いばかりに怨霊に変身する前に倒し切ることができなかった。

キエノさんやスリーズさんのように高威力の魔法が使えればよかったのだが……。


「そうだ、ツキ様。王都にいるキエノさん達をこちらに召喚していただくことは出来ないでしょうか?」


ツキ様や他の仲間達はみんな第七位階に到達しており、【精霊魔法】結魂によりお互いを召喚することができる。

もしキエノさん達に余力があるようなら、応援に来てもらうことができるかもしれない。


「わしもそう思ってヨシノに念話してみたのじゃが、王都教会にてデサルミラリアという強力な魔族と戦闘中のようじゃ。どうやら隔離された空間に閉じ込められてしまったらしく、こちらに応援に来るのは出来ないとのことじゃ」

「そうでしたか……」


キエノさん達は強力な魔族と戦闘中の為、応援に来ることは出来ないという。

戦士達の魔力矢やバリスタの攻撃は海賊船ウミボウズには効果がないため、やはり私の魔力が尽きるまで【裏龍星】を連発するしかない。

しかし怨霊に変身した海賊船ウミボウズの船体は強固なため、倒し切る前に私の魔力が尽きてしまう可能性の方が高い。

こんな時どうすれば良いか、私には良い策が思い浮かばなかった。


「ツバキ様、難しい局面ほど冷静になることが重要ですぞ」

「エマ爺、私は一体どうすれば良いのでしょうか?」

「ツバキ様の固有魔法はもっと可能性に満ちたものであるはずです。今一度、魔法の使い方を考え直してみてはいかがでしょうか?」


途方に暮れている私に、エマ爺は魔法の使い方を考え直すようにとのアドバイスをくれた。

私は固有魔法【龍星】を、魔力矢と似たような使い方で放っている。

【龍星】と魔力矢の違いは、放った後に軌道を操作できること、速度、威力などがある。


「私の固有魔法の使い方について、エマ爺は何か思いついたことがありますか?」

「ツバキ様は固有魔法を魔力矢の代わりとして使っているようですが、固有魔法には無限の可能性があるはずです。もっと自由な発想で魔法をお使いになれば、戦況を覆すことができるかもしれませんぞ」


もっと自由な発想で魔法を使う。

それを聞いた私の脳裏に浮かんだのは、ゼルコバ君が魔法を使う時の姿であった。

ゼルコバ君は自由な発想で工夫し、様々なアイデアでオリジナル魔法を生み出している。


私の左薬指にはめられている婚約指輪も、ゼルコバ君が魔法により作り出したものだ。

婚約指輪は小さいながらも素晴らしい輝きを放っており、これを作り出したゼルコバ君の技量が優れていることがわかる。


「そうだ、小さくしてみたらどうだろう。【裏龍星】小龍(シャオロン)」

「おお!」


私は【裏龍星】により、手のひらの上に小型の龍を作り出した。

小龍(シャオロン)と名付けたそれは、空中を踊るように回転している。

小型化したことにより、操作性が向上しているような気がする。


【裏龍星】を小型化したことにより、魔力消費量も抑えることができているようだ。

しかし威力も落ちてしまっているだろうから、このまま敵に放ってもダメージを与えることは出来ないだろう。

そこで一工夫が必要となる。


「バリスタの矢をこちらへ」

「はっ!」


潤沢に用意されたバリスタの矢は、ほとんど消費されていないので数には余裕がある。

戦士が持ってきてくれたバリスタの矢を受け取った私は、【裏龍星】小龍(シャオロン)をバリスタの矢に絡みつかせた。

私はこの矢を、ドラゴンアローと名付けることにした。


「このドラゴンアローを海賊船ウミボウズに向けて放ってください」

「はい!ドラゴンアロー、放て!」


バシュッ!


小龍(シャオロン)が絡みついたバリスタの矢は、風を切るような速度で海賊船ウミボウズに向かって飛んでいく。

皆が固唾を飲んで見守る中、バリスタの矢は海賊船ウミボウズの戦隊に命中した。


ドンッ!


『『『『『なっ、何事だ!?』』』』』


バリスタの矢が命中した海賊船の船体には穴が空き、海賊船に潜む怨霊達は驚きの悲鳴をあげた。

小龍(シャオロン)を巻き付かせたバリスタの矢による攻撃は、間違いなく敵に損傷を与えることができるようだ。

消費する魔力はより少なく、威力は【裏龍星】よりも強力である。


「バリスタの矢をどんどん持ってきてください!ドラゴンアローをどんどん作ります!」

「ほっほっほ、固有魔法の新たな可能性を発見されたようですな」

「ドラゴンアロー、す、すごい!」

「ドラゴンアローをこっちにもくれ!」

「ドラゴンアローを撃ちまくれ!」

「「「「「おおー!」」」」」










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