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「裏固有魔法【裏物体魔法】虚製成だし!」
デサルミラリアが裏固有魔法【裏物体魔法】を使うと、半透明の薄暗い人影がデサルミラリアの周囲に5体ほど現れた。
虚はふらふらと揺らめいており、静かにこちらに向かって接近してくる。
「あれは一体なんでしょうか?」
「どうやら裏魔法によりデサルミラリアの固有魔法の効果が変化しているようですね」
「接近した場合にどうなるかわかりませんので、遠距離攻撃で様子をみましょう。【精霊魔法】太陽の精霊アポロン召喚、太陽球」
太陽の精霊アポロンのチカラによって生み出された太陽球は、通常のファイアーボールと違って太陽の性質を併せ持っている。
虚が影の性質を持っているとすれば、太陽の精霊を持つ太陽球が効果的なはずだ。
「ふふふ、あーしの虚にはそんな攻撃効かないんだし」
「なっ、太陽球が透過した!?」
虚に直撃したはずの太陽球は、なんと虚の身体を透過してそのまますり抜けて行ってしまった。
虚がダメージを受けている様子はなく、ふらふらしながら徐々にこちらに向かってくる。
「こちらの攻撃が透過してしまうのだとしても、それは相手も同じこと。無視してデサルミラリア本体を攻撃するのが良いでしょう。【精霊魔法】再生の精霊フェニックス召喚合体、聖炎の翼!」
スリーズさんが【精霊魔法】により再生の精霊フェニックスを召喚すると、スリーズさんの背中には一体の燃え盛る翼が現れ、スリーズさんの身体はふわりと浮かび上がった。
再生の精霊フェニックスは強力な癒しの効果を持つ精霊で、炎と鳥の性質を併せ持つことから飛行にも適している。
再生の精霊フェニックスのチカラにより生み出された聖炎の翼は神聖な輝きを纏っており、魔族特有の蝙蝠羽とは全く違った印象を受ける。
「スリーズさん、デサルミラリアが手に持つ魔導書アリスを叩き落としてください!どうやら魔導書開巻は、魔導書を手に持っていないと解除されるようです」
「キエノ嬢、了解だ!」
自ら魔導書開巻を発動したことから、私は魔導書開巻についての理解が少し深まった。
魔導書開巻を維持するためには、魔導書に触れ続けている必要があるようだ。
私自身も、魔導書カッカラを手放してしまったら魔導書開巻が解除されてしまうので、決して魔導書を手放すわけにはいかない。
「行くぞ、デサルミラリア!」
「なにそれズッチーかっこいいし!ならあーしも飛んじゃうし、飛行モード!」
デサルミラリアは飛行モードとなり、背中から一対の蝙蝠羽を生やして浮かび上がった。
デサルミラリアの蝙蝠羽は出し入れ自在のようで、衣服が破けていないことから、ツバキさんの改造制服のように背中にスリットが入っていたようだ。
デサルミラリアの刀はカグヤ様の【愛恋魔法】によって再現された竹林のおじいさんの攻撃によりへし折られたままだ。
般若顔モードに変身している間は、本来の【物体魔法】は使えなくなっているのかもしれない。
「私たちはどうしましょうか、キエノ」
「スリーズさんがデサルミラリアの相手をしてくれているうちに天浄結界を押し広げたいと思います。虚の足止めをお願い出来ないでしょうか、ヨシノ様」
「やってみましょう、【雷魔法】遠雷」
バチィ!
ヨシノ様の固有魔法【雷魔法】により放たれた遠雷が、虚の身体を穿つ。
しかしやはりこちらの攻撃は透過してしまい、虚はふらふらしながら一定の速度で接近してくる。
虚と接触するとどうなってしまうのかわからないので、放置して良いものなのかどうか判断がつかない。
「試しに私が虚と接触してみましょうか?」
「そ、それは危険ではないでしょうか?」
「それもそうですね。では接触しない程度の距離を保って、虚を引きつけることができるかどうか試してみましょう。【精霊魔法】雷の精霊ボルト召喚合体、纒桜迅雷」
ヨシノ様は雷の精霊ボルトと召喚合体すると、身体に雷を纏って高速移動できるようになる。
この高速移動によってヨシノ様は虚に接触しない程度の距離を保ちつつ接近し、虚を引きつけてくれるという。
「こっちを忘れるんじゃないブヒ。【黴魔法】黒カビ弾!」
「邪魔、【雷魔法】雷掌撃」
「ブギャア!」
ヨシノ様はブマタンゴが【黴魔法】により放った黒カビ弾なる魔法を【雷魔法】で弾き飛ばすと、ブマタンゴとの距離を一気に詰めて【雷魔法】雷掌撃を叩き込んだ。
ヨシノ様が雷を纏ったまま繰り出した掌底をくらったブマタンゴは感電したが、吹き飛ばずにそのままヨシノ様の身体をがっしりと抱え込んでしまった。
「ブヒィィィィ!ここが漢の見せ所ブヒ!」
「ブタちゃんナイスだし。魔導書アリス開巻、ワンダーランド、世界よ歪め!虚を世界樹の化身に激突させるしぃ!」
「いけない!」
「ヨシノ様!」
スリーズさんと戦っているはずのデサルミラリアは、しっかりと戦場を把握していたようだ。
ブマタンゴが感電しつつもヨシノ様を抱え込んでいたのを察知すると、魔導書開巻により空間を歪めてヨシノ様を取り囲むように虚を移動させた。
虚がヨシノ様に接触すると思われた瞬間、燃え盛る炎の翼を携えたスリーズさんがブマタンゴからヨシノ様を奪い返し、そのまま飛翔して空中に退避した。
「ヨシノ様、ご無事ですか?」
「ありがとうございます、スリーズ。私はなんともありませんよ……スリーズ、背中に虚が!」
「なっ!?」
飛翔するスリーズさんの背中には、虚が一体しがみついていた。
虚は燃え盛る炎の翼による熱の影響を受けておらず、そのままスリーズさんの背中に吸い込まれるようにして潜り込んでいってしまった。
スリーズさんは意識を失い、ヨシノ様を伴って墜落していく。
「スリーズさん!」
「スリーズ!」
「はっ……、一瞬気を失っていましたが、大丈夫です」
スリーズさんはヨシノ様を抱えたまま地面すれすれで意識を取り戻し、私の近くに不時着した。
「スリーズさん、大丈夫ですか!?」
「スリーズ、あなた、目が……」
「なんと、目が見えません」
「「!!?」」
スリーズさんの目は両目とも白く濁っており、視力を失っているようだった。
虚が体内に潜り込んだ影響で、スリーズさんの視力は奪われてしまったのだ。
「【精霊魔法】再生の精霊フェニックス、私の目を再生しろ」
『キュアキュア!』
スリーズさんが再生の精霊フェニックスのチカラを解放すると、スリーズさんの顔の周りに聖なる炎が現れ、癒しの効果を発揮する。
これでスリーズさんの視力が回復すれば良いのだが……。
「スリーズ、目は大丈夫ですか!?」
「ダメですね、回復しません」
「虚が体内に潜り込むと、五感がランダムに失われるんだし。虚の影響で失われた五感はあーしが魔法を解除しないと戻らないし。ズッチー、降参するなら魔法を解除してあげてもいいんだよ?」
「そうか、ならば仕方ないな、このまま戦うしかあるまい」
「ズッチー、視力を失ったら接近戦は無理だよ?」
「そうとも限らないだろう」
「へぇ、やる気なんだ!いいよ、相手してあげるし」
どうやら虚には体内に潜り込んだ相手の五感を失わせるという効果があるようだ。
しかし視力を失ったスリーズさんは、躊躇うことなくデサルミラリアに突進して行ってしまった。
「スリーズさん!」
「キエノ、残る虚とブマタンゴは私が引き受けます。デサルミラリアの魔導書開巻を打ち破ってください」
「ヨシノ様!?」
ヨシノ様はそう言い残すと、自ら虚に向かって接近していく。
自らの五感と引き換えに、残る4体の虚を全て引き受けるつもりなのだろうか。
「ブヒィ!五感のほとんどを失った世界樹の化身なら倒せるかもしれないブヒ!」
「そうはさせません」
スリーズさんとヨシノ様が死力を尽くして戦ってくれている。
ここで私が魔導書カッカラ開巻の効果を最大限に引き出して、デサルミラリアの魔導書開巻を打ち破らなければならない。
しかしそのコツがどうしても掴みきれない。
天浄結果の真の効果とは一体どういうものなのか、それがどうしてもわからないのだ。
『キエノちゃん、自分の心の声を聞いて』
『キエノちゃん、1番なりたい自分を見つけ出して』
魔導書カッカラに宿ったカルミアさんとパキラさんが私にアドバイスをくれた。
私が1番なりたい自分とは、一体どういったものだろうか。
それを天浄結界にどのように活かせばよいのか、頭の中で考えれば考えるほどよくわからなくなる。
「聖女キエノォ、ワタシトトモニ来イ。私ガオ前ヲ真ノ聖女二シテヤル!」
「セドゥルス枢機卿!」
まるで幽鬼のように頰が痩せこけたセドゥルス枢機卿が、ありえない提案をしながら私に迫ってくる。
なりたい自分なんて今まで生きてきて考えたこともなかったが、セドゥルス枢機卿が言うような真の聖女なんかには絶対になりたくない。
「聖女キエノォ、オ前ニハ貞淑ニ育ッテ欲シイノダ」
「い、イヤです……」
「大人ノ言ウ通リニシロ!」
「ヒィッ!」
これまで私はリョーマイケル伯爵家の末娘として生まれ、何不自由ない生活をしてきた。
しかしサイプレスおじ様やカグヤ様に魔法を教わり、私は自分の背中に翼が生えたかのような自由を感じた。
魔法を習得してからは、これまでの生活がいかに窮屈なものであったか思い知った。
魔法は、私に自由を与えてくれたのだ。
しかし私は迫り来るセドゥルス枢機卿を、跳ね除けることが出来ずにいた。
大人の言うことをよく聞くように言い聞かされて育てられてきたし、私の魂が未熟なため、断固とした態度を取ることができない。
恐ろしい魔物が相手ならばこんなに萎縮しないのだが、大人の男性が相手だと緊張して言葉が出なくなる。
私はセドゥルス枢機卿をきっぱりと拒絶することが出来ずにいた。
改めて考えると、私の知る大人の女性は皆、心の中に強固な芯を持っている。
母上であったり、スリーズさんであったり、ヨシノ様であったり、カグヤ様であったり、大人の女性は皆、男性に負けないくらいの強さを持っている。
その強さ、揺るぎなさ、覚悟は一体どのようにしたら得られるのか。
私も強い魂を持った大人の女性になりたい!
『キエノちゃん、それでいいんだと思うよ』
『天浄結界はキエノちゃんの魔法なんだから、キエノちゃんが1番求めている魔法を創っちゃえばいいんだよ』
『『さぁ、私たちの真のチカラを解放して!』』
好きな自分になれる魔法を創ってもいいんだ。
それに気がついた瞬間、探し求めていたパズルの欠片が私の魂にピッタリと結合する感覚があった。
私が1番なりたいもの、そのイメージを強く持って、さらに魔導書カッカラに魔力を込める。
「わかりました、私は大人になりたい!魔導書カッカラ開巻、天浄結界!」
『『行くよ!』』
私が再度魔導書開巻を唱えると、その瞬間魔導書カッカラは強い輝きを放った。
大人の女性になりたいという、子供っぽい私の願いを叶えるための魔法が発動した輝きであった。
「ウ、美シイ……」
輝きがおさまると、私の身体に変化が見られた。
私の成長を見越して仕立てられた巫女装束の袖は短くなっており、地面をギリギリ擦らない程度に調整された裾も、短くなっている。
衣装が縮んだというより、私が成長したと言った方が正しいのだろうと思う。
視線が高くなり、セドゥルス枢機卿とほぼ同じ背丈になったようだ。
「【精霊魔法】雨の精霊スジャータ召喚、水鏡」
私は雨の精霊スジャータを召喚すると、雨水で鏡を作り出して自身の姿を確認した。
予想した通り、大人の女性に成長した自分の姿が写し出される。
イメージした通りの姿に変身した私は、外見の変化に伴って勇気が湧いてくるのを感じていた。
「セドゥルス枢機卿」
「ナ、ナンダ?」
セドゥルス枢機卿は心なしか顔を赤くしており、私の言葉に狼狽えているようだ。
先ほどまでの高圧的な態度は消え失せている。
「私は聖女ではありませんし、聖女として生きていくつもりは全くありません」
「ナ、何ヲ言ウカ。ソレホドマデノ貞淑サト神聖サト美シサヲ兼ネ備エテイルトイウノニ」
「私は自らの進む道を自分で決めます。あなたの妄想を私に押し付けないでくださいませ!」
「ナ、ナ、ナ……」
「裏第五位階魔法【裏強化】」
「体ニ力ガ入ラナイ……」
「セドゥルス枢機卿、私はあなたの野心を叶えるための道具なんかになりませんからね!」
「ワ、ワタシハソンナツモリデハ……」
気がつくと私は裏魔法を使うことができるようになっていた。
大人モードに変身した私の魂に、何らかの変化が生じたためであろう。
セドゥルス枢機卿は裏第五位階魔法【裏強化】により弱体化され、身動きが取れなくなっている。
ぐるりと戦場を見渡す。
スリーズさんは視力を失いながらもデサルミラリアと互角に剣を交わし、ヨシノ様は虚を躱しながらブマタンゴと戦っている。
残り4体いたはずの虚は3体に減っており、もしかするとヨシノ様の五感が一つ失われてしまった可能性がある。
戦況を覆すような魔法が必要だが、あいにく私が使える魔法の中に、そんな魔法は存在しない。
存在しないのならば、新たに魔法を創ってしまえば良いのだ。
それこそが、魔導書カッカラ開巻による天浄結界の効果なのだから。
「【精霊魔法】太陽の精霊アポロン召喚、太陽球。さらに、裏固有魔法【裏聖天】日蝕!」
私は今この場で考え出した新たな魔法を発動させた。
その効果は、この世のものならざる虚を祓うことができる日蝕だ。
【精霊魔法】により召喚した太陽の精霊アポロンのチカラは裏魔法の影響を受けないが、アポロンが生み出した太陽球は【裏聖天】日蝕により裏魔法に変化させることができる。
「行け、日蝕!」
「そ、その魔法はなんだブヒ!?」
「キエノ、見事です」
シュワワワワ〜
音を立てながら、日蝕に焼かれた虚達が煙となって消滅していく。
これでヨシノ様は虚に邪魔されることなくブマタンゴを倒すことが出来るだろう。
さらにスリーズさんの失われた視力を回復させてあげたいが、どうせならその不利を相手に押し付けてしまいたい。
「【裏聖天】天泣!」
雲一つない天浄結界に、天が涙を溢したような雨が降り始めた。
【裏聖天】天泣の効果は、こちらが受けた不利な効果を無効化し、相手に反射するというものだ。
私は天浄結界の中にいる限り、好きな魔法を新たに創り出すことが出来る。
日蝕や天泣は、今この場で創り出したオリジナル魔法だ。
「なんでズッチーは目が見えなくても剣を振るうことが出来るの?」
「それは私が最も尊敬する人が盲目の剣士だからだ。私はヤエお祖母様より、たとえ視力が失われたとしても戦える方法について教えてもらったのだ」
「そうなんだ。それはあーしには無理だわ」
デサルミラリアの手首が切り落とされ、宙を舞っている。
切り落とされた手首がしっかりと握っている手鏡は、デサルミラリアの魔導書アリスだ。
私が天泣を発動した瞬間、スリーズさんとデサルミラリアは天の涙に濡れた。
するとスリーズさんの視力は回復し、それと同時にデサルミラリアの視力は失われたのだ。
その一瞬の隙をつき、スリーズさんはデサルミラリアの手首を切り落とし、魔導書アリスは手首ごと宙を舞っている。
「キエノちゃんだっけ?あーしの魔法をはね返すとは、すごいじゃん」
「デサルミラリア、あなたはもう魔導書開巻を維持できないはずです。どうか退いてください」
「わかったし。格の差を技術で埋めたズッチーと、美人に成長したキエノちゃんに免じてこの場は撤退することにするし」
「デサルミラリア、少し待て」
「ズッチー?」
「【精霊魔法】再生の精霊フェニックス召喚、デサルミラリアの手首を再生しろ」
『キュアキュア!』
スリーズさんが【精霊魔法】により召喚した再生の精霊フェニックスのチカラを解放すると、切り落とされたはずのデサルミラリアの手首が再生されていく。
再生の精霊フェニックスのチカラは、部位欠損を癒すほど強力なようだ。
「ズッチー!なんで!?」
「峰打ちの借りはこれで返した。次は手加減無しで来い、デサルミラリア」
「ズッチー……わかったし。ズッチーが勇魔大戦に参加する資格がないって言ったことは撤回するし。その代わり次は本気出すから、覚悟するんだし」
「私もさらに強くなる予定だから、お前こそ覚悟しろ」
「へへ、じゃあまたね!よーし、まずはあーしからドガちゃんを奪ったアーコレードって奴をぶっ殺しに行くし」
「ブヒ、デサルミラリア様!我々も魔界に連れて行ってください、ブヒ!」
「ワ、私ハ魔界ニナド行キタクナイ!」
「え、おぢさん達もついてくるの?まぁいいし、【冥霊魔法・奥伝】転移」
「デサルミラリア様がお優しい方で助かったブヒ!」
「私ハ魔界ニナド行キタクナ……」
嬉しそうなブマタンゴと嫌がるセドゥルス枢機卿を連れて、デサルミラリアは魔界に転移して行った。
後に残された私たちは魔導書アリス開巻の効果が解けたため、天浄結界を解除し、再び王都教会に戻ってきた。
心配した司教達が私たちの無事を確認し、駆け寄ってくる。
「ヨシノ様、スリーズ様、よくぞご無事で!」
「こ、こちらの美しい女性は一体どなた様でしょうか」
「これはキエノです。人間の成長とは早いものですね」
「そ、そうだったのですね。しかし人間の成長の早さを超越しているような気もしますが……」
「戻れませんわ」
「どうしたキエノ嬢、いや、淑女キエノ?」
「元の姿に戻れませんわ!」
「えー……」
「別にそのままでもいいではないですか?」
「そ、そんなぁ、ですわ!」
元の姿に戻る方法がわからない私は、途方に暮れてその場に座り込んだ。
何はともあれ、強力な魔族であるデサルミラリアを撃退することができたことに安堵した私たちであった。




