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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第三章 大精霊の試練 〜マンティスアロー男爵領 大魔王復活事件〜
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魔導書カッカラ開巻により天浄結界が発動されると、迫り来る歪められた空間は徐々に押し広げられ、いつの間にか私たちは晴れ渡る空の上にいた。


「こ、これが魔導書開巻……」

「素晴らしい魔法ですね、キエノ」

「あ、ありがとうございます、ヨシノ様。でもどんな効果を秘めているのか自分でもよくわかっていなくて……」


私が天浄結界を発動したことで、デサルミラリアが魔導書開巻により歪めた空間に押しつぶされそうになっていたのを、なんとか押し返すことができた。

しかし天浄結界が秘める真の効果は自分でもよくわかっておらず、私はまだ魔導書開巻を使いこなせているとは言い難い。


「魔導書開巻を発動出来たからって勝てると思わない方がいいし」

「ぬっ、デサルミラリア!」

「スリーズ、下がりなさい」

「えっ!?カグヤ様?」

「固有魔法【愛恋魔法あいれんまほう】竹林のおじいさま再現」

「「「【愛恋魔法あいれんまほう】竹林のおじいさま再現!?」」」


デサルミラリアが攻撃を仕掛けてきたところ、なぜかカグヤ様が自ら前に出て、魔法を使い始めた。

カグヤ様が魔法を使うたびに私の魂に亀裂が入ると言われていたが、今のところ体調には全く変化が無い。


「カグヤ様、これは一体……?」

「キエノ、召喚した大精霊を使役して魔法を使わせると魂に負荷がかかることは伝えましたね?しかしそれには抜け道があります」

「抜け道ですか!?」

「そう、大精霊が自由意志で魔法を使う場合は、召喚者の魂に負荷がかかることはないのです。なので、もし敵の魔族が大冥霊を召喚した際には、大冥霊には先制攻撃しないように。敵が【皆伝】に到達していなかったとしても、大冥霊の自由意志で反撃される可能性がありますからね」

「そ、そうだったのですね!気をつけますわ」


どうやら、カグヤ様にお願いして行動してもらおうとすると魂に負荷がかかるが、カグヤ様が自発的に行動する場合には私の魂に負荷がかからないらしい。

しかし、なぜ今になってカグヤ様は自発的にデサルミラリアと戦ってくれるつもりになったのであろうか。


「私はあなた達に導きを授けたのち、すぐにこの場を去ります。魔族の撃退はあなた達だけで達成するようになさい」


カグヤ様が固有魔法【愛恋魔法】で呼び出した老人はいつのまにか出現しており、私たちに背を向けて立っていた。

服装は動きやすそうな軽装で、右手には鉈を持ち、地下足袋という特殊なブーツを履いており、竹で編んだカゴを背負っている。

老人は手にした鉈を構えることもなく正面を向き、突進してくるデサルミラリアと激突した。


「噂に聞く竹のおじいちゃん、初めて見たし!いざ尋常に勝負だし!」

『竹』


ズボォ!!


「うがぁ!」


老人が小声で何かを呟くと、何も無いはずの足元に突如として巨大なタケノコが発生して、デサルミラリアを天高く打ち上げた。

タケノコはぐんぐんと成長して巨大な青竹となる。直径1メートルにもなり、高さは30メートル以上という超巨大サイズだ。


「竹のおじいちゃんマジぱない。でもまだまだだしぃ!【物体魔法】足場製成!」


デサルミラリアは空中で体を翻すと、【物体魔法】で製成した足場を利用して、凄まじい速度で天を駆け下りた。

そしてその勢いのまま謎の老人に向けて必殺の一撃を放つ。


「おりゃあ、だしぃ!」

『熊狩り』


バキィィィン!


老人が無造作に手にした鉈を振るうと、デサルミラリアが【物体魔法】により作り出した刀は打ち砕かれた。

老人の無造作な一撃は、スリーズさん渾身の魔法でも壊せなかったデサルミラリアの刀を、いとも容易く砕いてしまったのだ。


「カ、カグヤ様、あれは一体……?」

「あれは固有魔法【愛恋魔法】により再現したおじいさまです。私の【愛恋魔法】は、強く印象に残っている人物を強化して再現することが出来ます。先ほどの技は竹林で熊に襲われそうになっていた私を、おじいさまが助けてくれた時のものです。最高にかっこいいでしょう?」

「え、ええ、とても、かっこいいですわ」


デサルミラリアの刀を容易く砕く老人の戦闘力に戦慄していた私だったが、カグヤ様がかっこいいとおっしゃられているのでそれを否定することはできなかった。


「【愛恋魔法】燃え盛るおじいさま再現、【愛恋魔法】ドラゴンスレイヤーおじいさま再現」


カグヤ様が再び魔法を使うと、さらに老人が2人追加で呼び出された。

ゆらりと立つ3人の老人はそれぞれ異なる雰囲気を漂わせているが同一人物のようで、近接戦闘に疎い私でも感じるほどの強者の存在感を放っている。

ちなみに基本的な服装は3人とも似ているが、燃え盛る老人の背負う竹かごは激しく燃えており、ドラゴンスレイヤーの老人の背負う竹かごには龍の首が入っている。


「私はかつて自分の婚約者候補の男性に、特殊な宝物を持ってきた者と結婚するという条件を提示していました。残念ながら婚約者候補の男性達は宝物を持ち帰ることはできませんでしたが、おじいさまは全ての宝物を揃えて私にプレゼントしてくれたのです」

『宝物をお姫様おひいさまが欲しがっていたと思ったから、取ってきてみただけじゃ』

「もう、おじいさまったら!」


カグヤ様は自ら召喚した老人達に囲まれてご機嫌のようだ。

私はなぜか自分の母親もしくは姉がかなり年上のボーイフレンドを紹介してきたような錯覚を覚えて、なんとも言えない気分になった。


「いやー、おじいちゃん1人でも厳しいのに、おじいちゃんズともなるとお手上げだし」

「デサルミラリア、私は用が済んだら帰りますので、キエノ達と話す時間をください。そちらが攻撃してこなければおじいさま達は何もしませんから」

「大精霊がそういうならわかったし。腹いせにおぢさんで遊んで待ってるし」


そう言ってデサルミラリアは三角木馬にまたがるセドゥルス枢機卿に向かって、スタスタと歩いて行ってしまった。

セドゥルス枢機卿は絶望と期待に満ちた表情で、デサルミラリアを見上げている。

これから一体何が行われるというのだろうか。


「キエノ、私はそろそろ帰りますので、これを渡しておきます」


カグヤ様はそう言って私に一冊の冊子を手渡した。


「カグヤ様、ありがとうございます。これは一体なんでしょうか?」

「これはご朱印帳です。フジ山の大精霊である私からの試練は、魔導書を作り出すこと。その試練を見事に達成した証として、このご朱印帳をキエノにプレゼントします」

「あ、ありがとうございます!」

「私のご朱印はこのページに押してあります。他の大精霊達の試練を全て達成すると、【精霊魔法・皆伝】を授かることができますよ」

「【精霊魔法・皆伝】……」


【精霊魔法・皆伝】とは、ゼルお兄様も挑戦中の大精霊の試練を全て達成しないと認められない、遥かなる魔法の高みだ。

私にとっては【精霊魔法・皆伝】を自分が目指すことになるとは、夢にも思っていなかった。


「キエノ、勇気を持って【精霊魔法・皆伝】に挑戦しなさい。大物の魔族の動きが活発化していることから、間違いなく近いうちに勇魔大戦が始まることでしょう。【精霊魔法・皆伝】到達者が1人でも増えれば、勇者ゼルコバの大きな助けになることでしょう」

「はい」


【精霊魔法・皆伝】になれば、大精霊を使役することができるようになるという。

カグヤ様が少し魔法を使っただけでデサルミラリアが完封されていることから考えて、勇魔大戦が起きた場合には【皆伝】に到達した魔法士が多い陣営が間違いなく有利になるだろう。

ゼルお兄様と世界を助けるためだと思えば、大精霊の試練から逃げるわけにはいかない。


「それとスリーズ、あなたも大精霊の試練に挑むことを考えなさい」

「は、はい!しかし私は【中伝】止まりの役立たずで……」

「この戦いでデサルミラリアを撃退したならば、その功績をもって【精霊魔法・奥伝】を認めましょう」

「そ、それは願ってもいない幸運です!」

「スリーズにはすでに2年前の魔族襲撃事件にて、魔族が使用した兵器を撃破するという功績がありました。それと今回の功績を合わせれば、【精霊魔法・奥伝】を認めるのに相応しい功績を成したと言えます」

「わ、私もついに【奥伝】に……」

「それにはまずこの戦いに勝利することです。スリーズは自己評価が低いようですが、あなたはとても優秀な魔法士ですよ。自信を持ってください」

「はい!」


「それとヨシノ、あなたに言うべきことは特にありませんが、この戦いに勝利したならばスリーズと同じように【精霊魔法・奥伝】を認め、残る大精霊マンティスの試練を達成したならば【精霊魔法・皆伝】を認めましょう」

「ありがとうございます、カグヤ様。勇者ゼルコバ様のため、この身を捧げたいと思います」

「ゼルコバを心身共に支えてあげなさい」

「はい」


ヨシノ様は現在、【精霊魔法・中伝】のはずだ。

それはカグヤ様が先ほど言われたように、魔族デサルミラリアを撃退した功績をもって【精霊魔法・奥伝】を認めるという話と矛盾しない。

しかし大精霊マンティスの試練のみを達成すれば【皆伝】が認められるというのはどうしてなのだろうか。


「えっ、ヨシノ様は他の大精霊様の試練はやらなくてもいいのですか!?」

「違いますよスリーズ、ヨシノはすでにマンティス以外の大精霊の試練を全て達成しているのです」

「なっ、なんと!」

「スリーズ、世界樹の化身と呼ばれる存在は全員、大精霊様の試練をほとんど全て達成しているのですよ。魔木の化身は第七位階に到達すると全国にある精霊殿をそれぞれ訪問し、それぞれの大精霊様の元で修行するのです。フジ山の精霊殿にも修行中の魔木の化身が何名かいるでしょう」


フジ山の精霊殿ではお面を被った巫女装束の人たちをよく見かける。

彼女達は一切喋ろうとしないのでこれまでは何をしているのか謎だったが、どうやら彼女達は魔木の化身で、大精霊様の試練達成のために修行中だったようだ。


「全ての大精霊様の試練を達成し第八位階に到達した魔木は世界樹と呼ばれるようになります。もっとも現在、大精霊マンティスの精霊殿は封印されているので、完全ではありませんが。ですので、ヨシノはすでに【精霊魔法・皆伝】を受け取る資格をほぼ有しているのです」

「世界樹の化身と呼ばれる方々にはそんな理由があったのですね。だとすると、功績集めとはそれほどまでに困難な課題だということでしょうか?」

「必ずしもそうではありません。【精霊魔法・奥伝】に到達するために必要な功績とはすなわち、魔族に関係する事件の解決が求められます。これまでは魔族に関する事件はほとんどありませんでしたから功績を達成する機会は稀でしたが、これからは増加していくことになるでしょう」


すでに【精霊魔法・奥伝】が認められているのは、ゼルお兄様と私の2人だけだ。

ゼルお兄様はフジ山のレッドドラゴンが瘴気爆弾に汚染されてしまった事件を解決したことで【奥伝】を授かったが、この事件の背後には魔族の企みがあったと言う。

私の場合には、悪霊都市エリゲロンの悪霊達を成仏させてエリゲロンを解放した功績が認められたが、これも魔族アルミラリアの企みであったことが後に発覚している。

つまり、【精霊魔法・奥伝】に到達するための功績とは、魔族に関する事件や問題の解決を指しているということだ。


「これからは勇魔大戦に向けて魔族の動きもさらに活発化することでしょう。そうなれば、これまでほとんど無かった功績達成の機会は増えていくでしょうね」

「あっ!カグヤ様、世界樹はみんな大精霊様の試練を達成しているのだとすると、王国に点在する世界樹達と協力関係を結ぶことが出来れば……」

「キエノ、あなたは賢いですね」


人間と魔族が本格的に争い合うことになった場合、【皆伝】に到達した者をより多く揃えた陣営が有利になることは間違いない。

なぜなら【精霊魔法・皆伝】では大精霊を召喚および使役することができ、【冥霊魔法・皆伝】では大冥霊を召喚および使役することができるようになるからだ。

大精霊や大冥霊の強力さは想像を絶するものであり、1人でも多くの【精霊魔法・皆伝】到達者を集めることが、勇者であるゼルお兄様の助力となるだろう。


当然、私も【精霊魔法・皆伝】を授かるために大精霊様の試練に挑戦するつもりだが、王国中に点在する世界樹達は皆すでに大精霊の試練をほとんど全て達成しているという。

世界樹達は【中伝】止まりであっても、功績を得ることが出来れば【奥伝】達成後程なくして【皆伝】を授かることができるだろう。

つまり、世界樹達を仲間にすることは、かなり重要だということだ。


「さて、そろそろ私は精霊殿に帰ります」

「カグヤ様、ありがとうございました!」

「カグヤ様、私は今日で役立たずを卒業します!」

「カグヤ様、必ずや魔族を撃退し、【奥伝】と【皆伝】を授けていただきたいと思います」

「ふふふ、楽しみにしていますよ。それではまた会いましょう。【精霊魔法・皆伝】転移」


カグヤ様は【精霊魔法・皆伝】に含まれる転移により、フジ山の精霊殿に帰って行ったようだ。

同時に、強力な老人達の姿もいつのまにか消えてしまったようだ。


「アァァッ!イッ、イイ〜!!」

「おらおら〜、話が長引くとおぢさんの身体がどんどん締め付けられていくんだし〜。恨むならあーしじゃなくてあの子達を恨むんだし〜」

「オ、オノレ聖女キエノメェ〜!」


デサルミラリア達の方へ目を向けると、セドゥルス枢機卿は亀の甲羅のような模様の特殊な縛り方により吊し上げられ、ロウソク責めにされているところだった。

足の裏と後頭部がくっつくほど身体が反り返っており、かなり窮屈そうだ。


「お待たせしました、デサルミラリア。カグヤ様が戻られましたので、戦いを再開しましょう」

「えーっと、なんだっけ。魔導書開巻を発動出来たからって勝てると思わない方がいいし!」

「スリーズさん、ヨシノ様、そして魔導書カッカラ、よろしくお願いいたしますわ!」

「任せてください!」

「もちろんです」

『『キエノちゃん、どこまでも一緒に行こう!』』




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