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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第三章 大精霊の試練 〜マンティスアロー男爵領 大魔王復活事件〜
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「キエノ、この場で魔導書を作り出し、敵の魔導書開巻を打ち破るのです」

「わ、私が魔導書を……しかし一体どのようにすれば……」

「あなたの兄ゼルコバも、逼迫した状況下で魔導書を作り出しています。【精霊魔法・奥伝】に到達したキエノにも、それは可能なはずです」

「は、はい!」


ゼルお兄様はかつて、今はベルセルク・ライカンスロープエンペラーに昇格したベルを生かしたまま無力化するために、大精霊カグヤ様に指導を受けて魔導書コクーンを作り出した。

私も今や【精霊魔法・奥伝】に到達しているため、魔導書を作り出す資格はあるはずだ。


「この場で魔導書を作り出そうって言うんだね?でもあーしからの攻撃に耐えつつ魔導書を作ることが出来るかな?」

「わ、私は、役立たずだ……ぐっ」

「スリーズ、呆けてないで立ちなさい!デサルミラリアの攻撃を防ぎ、時間を稼ぐのです」

「……はっ、はいっ!」


デサルミラリアの魔導書アリス開巻により歪められた王都教会内は、守るにも攻めるにも厄介な空間となっている。

神出鬼没のデサルミラリアの攻撃を防ぎつつ、なんとかして魔導書を作り出さねばならない。


「【物体魔法】鏡製生だし。無数の鏡から飛び出す魔法を防ぎきれるかな?ファイアーボール100連だし!」

「うおお!四方八方からファイアーボールが!脳魔法発動」

「くっ!【精霊魔法】雷の精霊ボルト召喚合体、纒桜迅雷!」


デサルミラリアが【物体魔法】により作り出した無数の鏡は私たちを取り囲むように空中に配置され、その鏡面から100個ものファイアーボールが放たれた。

四方八方から降り注ぐファイアーボールはスリーズさんやヨシノ様が防いでくれているが、デサルミラリアの猛攻は休む間もなく続く。


「あーしのことを忘れないほうがいいし」

「きゃああ!」

「パキラちゃん!」

「カルミアちゃん!」

「「硬化!」」


ズバン!


いきなり目の前に出現したデサルミラリアが、私に逆袈裟斬りを仕掛けてきた。

デサルミラリアは右手に刀を持ち、左手には魔導書アリスを持っている。

神出鬼没のデサルミラリアが凄まじい速度で放ってくる斬撃に私は全く反応することが出来なかったが、私の体にくっついていたカルミア=パキラさんが守ってくれたおかげで、なんとか無傷で敵の攻撃を防ぐことができた。


「カルミア=パキラさん、大丈夫!?」

「私たちは大丈夫。デサルミラリアの斬撃は、アルミラリアの斬撃みたいに魂を攻撃することはないみたい」

「敵の攻撃は私たちが防ぐから、キエノちゃんは魔導書を作ることに集中して!」

「わかった、ありがとう!」


デサルミラリアの猛攻を防ぐのは他の3人に任せることにして、私は魔導書作製に集中することにした。

逼迫した状況に後頭部がひりひりするが、雑念を振り払うしかない。


「カグヤ様、魔導書の作り方を教えてください!」

「いいでしょう。魔導書を作るためには、まず魔導書の素体となるアーティファクト級魔道具が必要となります。これはなるべく使い慣れた物、頻繁に使用するもの、直感的に親和性が高いと感じるものを選ぶと良いでしょう」


ゼルお兄様の魔導書コクーンは、樹木の精霊ドライアドと合体したことにより創り出した魔木が素体となっている。

魔木はゼルお兄様が頻繁に使用しているし、自ら魔法で創り出したものなので親和性が高いと言える。


一方私の固有魔法【聖天】は天候を操る魔法なので、物体を作り出すことは出来ない。

とすると、魔法を使うときにいつも使用している錫杖を魔導書の素体にするのがいいだろう。


この錫杖は私が第七位階に到達して【精霊魔法】を授かった際にカグヤ様から頂いたもので、アカマツの世界樹のじんから削り出した木柄から作られており、非常に貴重な物だ。

杖頭じょうとうには錫を用いた7つの輪が取り付けられており、石突きで地面を穿つと鈴のような音色が響き渡る。


「カグヤ様からいただいたこの錫杖を魔導書の素体にしたいと思いますわ」

「いいでしょう。それではこの錫杖に込める魂を選びなさい」

「た、魂!?」

「そうです。勇者ゼルコバが創り出した魔導書コクーンには、創り出された時からすでに魂が宿っていました。しかしこの錫杖を魔導書とするためには、別の魂を込める必要があるのです」

「自分の魂じゃダメですよね?」

「【精霊魔法・皆伝】に到達すれば、自ら作り出した精玉を使って魔導書を作ることも可能ですが、今のキエノはその方法を選ぶことは出来ません」

「そ、そんな……」


カグヤ様の話によると、この場にいる私以外の人の魂を犠牲にしなければ魔導書を作ることは出来ないと言う。

誰の魂を使って魔導書を作製するのか、選ばなければならないのだ。


「キエノ嬢、私の魂を使ってくれ!どうせ私は【中伝】止まりの役立たずだ。私の魂を使って世界を救うための役に立つなら、この命惜しくはない」

「キエノ、私の魂を使ってください。私の望みはゼルコバ様と共に神界に旅立つこと。神界には魂となっても行くことができるでしょう」

「「キエノちゃん、私たちの魂が役に立つなら使ってください!」」


魔導書となれば自由に行動することは出来なくなり、人生を私のために捧げなければならなくなってしまう。

誰かを魔導書の材料にすると言うことは、その人の人生を奪ってしまうことに他ならない。

そんな犠牲を彼女達の誰かに強いることを、私は決断しなければならないのだ。


「そんなの、この場で決められるわけありませんわ!」

「実力の差をわからせてあげるし。【冥霊魔法】地獄騎士の冥霊ドガちゃん召喚!さあ、無数の地獄騎士達よ、物量にものを言わせてズッチー達をやっつけろ!」


しーん……


「ん?なんでドガちゃん来てくれないんだし?」

「あっ、今こそアルミラリア様の策を実行する時だブヒ!出でよ、横断幕に取り憑いた悪霊よ、ブヒ!」

「はぁ?」


両手両足を拘束されたブマタンゴが何やら魔法を発動すると、ブマタンゴの懐からするすると横断幕が出てきた。

その横断幕には悪霊が取り憑いており、勝手に広がってふわふわと空中を浮遊している。


「なになに?『ドッキリ大成功!※地獄騎士の冥霊ドガはアーコレードと契約更新しているので現在使用できません。代わりにデサルミラリアは新しい冥霊と契約できるようにしておいてあげたよ!よかったね♪』だって?」

「アーコレード……」

「敵の足を引っ張ることで役に立つとは思いませんでした……」

「「あららー……」」


自らが契約していたはずの地獄騎士の冥霊ドガがアーコレードに奪われてしまったことを知ったデサルミラリアは、その場でしくしくと泣き始めた。


「ぐすっ、あーしの、ドガちゃんは、無敵の、軍勢でぇ、あーしが【物体魔法】で作り出した、超強い武器防具を纏った、無数の地獄騎士達が、戦場を蹂躙、するんだしぃ……」

「なるほど、地獄騎士の冥霊とは本来はそんなに強力な冥霊だったのですね」

「はぁ?何言ってんのアンタ」

「いえ、以前アーコレードとゼルコバ様が決闘した際に見ていた限りでは、ゼルコバ様は地獄騎士の冥霊相手にそれほど苦戦していなかったように見えましたので」

「……使用者の魔法が未熟なら冥霊だって弱くなるのは当たり前だしぃ!キレた、キレちまったよぉ、あーしは。何千年かぶりのマジギレだし!【物体魔法】蝋燭100本製生、点火!」


デサルミラリアが【物体魔法】を使うと、空中に100本もの蝋燭が浮遊し、火を灯した。

蝋燭からは熔けた蝋が滴り落ちるが、多少熱い程度の被害しか出ないはずだ。


「熱イ、アッ、アツイィィイイッ!」


両手両足を拘束されて三角木馬に跨がらされたセドゥルス枢機卿は、悲鳴を上げながら熱がっている。

私たちが放った魔法により服が部分的に失われて地肌が露出しているため、熔けた蝋による被害を受けているのだろう。

なぜかセドゥルス枢機卿の周囲に蝋燭が多めに配置されているように見えるが、たぶん気のせいだろう。


「【冥霊魔法】お化粧の冥霊ダッキ召喚合体、般若顔メイク!」


デサルミラリアはお化粧の冥霊ダッキを召喚して合体すると、般若顔メイクなる魔法を発動した。

デサルミラリアの美しい顔には鋭いアイラインと真っ赤な口紅が塗られ、眉毛は白粉で塗り潰される。

次の瞬間には、激怒した恐ろしい般若顔のデサルミラリアが完成していた。


「あーしはね、般若モードになると裏魔法が使えるようになるんだし。出来ればこの魔法は使いたくなかった、使いたくなかったんだしぃー!」

「消えたっ!?」


魔導書アリス開巻によって歪められた空間は、いつしか暗い墓場のような場所に変化していた。

空中に浮かぶ100本の蝋燭だけがチラチラと辺りを照らしている。

般若モードに変身したデサルミラリアは、闇に紛れて姿を消してしまったようだ。


ヒョロロロ〜

ドロドロドロ〜


どこからともなく、恐ろしげな笛の音と太鼓の音が聞こえてきた。

蝋燭のか弱い光に、一瞬だけデサルミラリアの般若顔が浮かび上がる。


「危ない!」


キンッ!


すると、どこからともなく白刃が現れ、私たちを攻撃してきた。

脳魔法を発動したスリーズさんがギリギリのタイミングで刀の軌道を逸らしてくれなかったら、誰かの手足が切断されていたかも知れない。


「裏第五位階魔法【裏強化】だしぃ」

「ぐわぁ!これは!?」

「うっ、力が抜ける」

「「ふにゃふにゃになっちゃうぅぅ」」


裏魔法とは悪霊怨霊が主に使ってくる魔法で、通常の魔法を表とすると、真逆の効果を発揮する。

生身の人間や魔族であっても、特殊な条件を満たすことで裏魔法が使えるようになることがあり、デサルミラリアの場合には般若モードになると裏魔法が使えるようだ。

第五位階魔法【強化】の反対の効果だとすると、裏第五位階魔法【裏強化】の効果は弱体化となる。


「キエノ嬢を守らないと!」

「力が抜けて迎撃が間に合いません!」

「キエノちゃんが狙われてる」

「うう〜、私たちの中に入って、キエノちゃん」


カルミア=パキラさんが私をすっぽりと包めるほどの大きさに膨らむと、変形した身体の中に私を匿ってくれた。

しかし神出鬼没のデサルミラリアによる斬撃は、容赦なく私たちを傷つけていく。


ザシュ、ザシュ、ザシュ


「このままではジリ貧だ!キエノ嬢、早く魔導書を……」

「キエノ、私の魂を使いなさい、早く!」


「そ、そんな……私は、私は一体どうすれば……」


「キエノちゃん、私たちの魂を使ってくれないかな?」

「私たちはアルミラリアに殺されてフォレスティナ様の使徒になったことは前にも話したよね?」

「カルミアさん、パキラさん……」


ザシュ、ザシュ、ザシュ


デサルミラリアの攻撃はより一層激しさを増し、【裏強化】によって弱体化されたカルミア=パキラさんの身体には無数の数が増えていく。


「きっと私たちが存在する理由って、この時のためにあったんだと思うんだ」

「魔導書になって魔族の企みを打ち破ること」

「「それが、私たちの使命なんだ!!!」」


その瞬間、カルミア=パキラさんの身体が突如として光を放ち、球形の魂がはっきりと視認できるようになった。

魂はふよふよと浮遊すると、私が手に持つ錫杖に寄り添うように漂い始めた。


「キエノ、迷いを捨てなさい。この瞬間こそが運命の分かれ道ですよ」

「……」


私の脳内では様々な想いが目まぐるしく錯綜していた。

このままでは全滅してしまうという危機感、カルミア=パキラさんの魂を私が奪ってしまっても良いのだろうかという罪悪感、不安、あるいは恐怖と言ってもいい。


「キエノ、勇気を持ちなさい。仲間の魂を奪ってしまうこと、犠牲を強いてしまうこと、それを乗り越えて戦いに挑む覚悟を持つこと。それこそが勇気を持つ者、すなわち勇者なのですから」

「勇者……?」


勇者といえば、ゼルお兄様の顔が真っ先に思い浮かぶ。

勇者とは神に選ばれた者、勇気を持つ者、他者に導きを与える者だ。

そんな勇者ゼルコバの隣に立ち続けるためには、勇気を持って覚悟を決めなければならないのだ。

仲間の魂を背負う覚悟を持って、新しい道を掴み取らなければならないのだ。


「覚悟を、決めました。カルミア=パキラさん、貴女の魂を私に預けてください!」

「「任せて、キエノちゃん!」」


カルミア=パキラの魂はより一層輝きを増し、錫杖の周囲をぐるぐると旋回している。


「キエノ、精霊眼で魂をよく観察なさい」

「はい、【精霊魔法・奥伝】精霊眼」


魂には外殻と中身と呼ばれる部分があり、カルミア=パキラの外殻はちょうど真ん中にくっつけたような繋ぎ目の痕跡がある。

その繋ぎ目が解けるように開いていき、魂の中身が露出した状態になった。


「キエノ、カルミア=パキラの魂の外殻が解けて中身が露出していますね。これを、魂が開いた状態と言います。自らの意思で魂を開くことが出来るものはほとんどいませんが、幸いにもカルミア=パキラは進んで魂を開いてくれたようです」

「魂を、開く……?」

「そう、魔導書の素体と合体させるためには魂を開くこと、それこそが魔導書作製においてもっとも難しい工程です。無理矢理相手の魂を開こうとすると、激痛を感じることでしょうから」

「そ、そんな……」


スリーズさんやヨシノ様も魔導書作製に自らの魂を使って欲しいと言ってくれたが、魂を開く際には激痛を伴っていたことだろう。

仲間が泣き叫ぶ声など聞いてしまった日には、私の精神が健康な状態で維持できるかどうかわからない。


「キエノ、錫杖を通して【精霊魔法】結魂を使いなさい。あなたが魂をしっかりと認識して、正しく結魂を発動させることが出来れば、この錫杖はその時から魔導書となります」

「はい、カグヤ様。カルミアちゃん、パキラちゃん、これからずーっとよろしくね。【精霊魔法】結魂!」

『『こちらこそよろしくね、キエノちゃん』』


私が【精霊魔法】結魂を使うと、カルミアちゃんとパキラちゃんの魂は錫杖と結合して、完全に一体化した。

そしてこれまでは単なるアーティファクト級魔道具でしかなかった錫杖から、今は確かに魂の存在を感じる。


「魔導書とは、生きているものなのですね」

「その通りです、キエノ。さぁ、魔導書に名前をつけなさい」

「名前……カルミア=パキラ、ではダメでしょうか?」

「彼女たちの名前は彼女たちのものですよ。新たな魔導書には新たな名前が必要となることでしょう」

「新たな名前……教えて、あなたの名前……」


魔導書を握る両手から温もりが流れ込み、私の中に閃きが生まれた。


「決めました。あなたの名前はカッカラ、魔導書カッカラですわ!」

「おめでとうキエノ、今この時を持って真の【精霊魔法・奥伝】を習得したことを認めます」

「カグヤ様、ありがとうございます!」


「魔導書完成おめでとうだしぃ!でも手加減しないしぃ、裏第三位階魔法【裏念動】」


デサルミラリアが裏第三位階魔法【裏念動】を発動した瞬間、私は全身がゾワゾワするような感覚に襲われた。

まるで大きな蟲に身体中を這われているような、激しい不快感を感じる。


「うおおぉ!さっきの【裏強化】もそうですが、私は裏魔法が嫌いです!」

「裏魔法が好きな人なんていないでしょう」

「キエノ、さっそく魔導書の使い方を教えましょう。魔導書を通して魔法を使うと、魔導書に込められた魂の魔法効果が上乗せされます」

「魔法効果が上乗せされるのですか?」

「そう、あなたの固有魔法【聖天】は天候を操ることができ、聖なる力を宿しています。さらに、魔導書カッカラに込められたカルミア=パキラの【魂浄】が上乗せされた状態で魔法を使うことができるでしょう」


私とカルミア=パキラさんは王都中の人々の魂をアルミラリアの呪いから解放するために、合体魔法を使用したことがある。

私の使う【固有魔法】聖天により生み出した雨雲に、カルミア=パキラさんの【魂浄】の効果を上乗せし、魂の浄化を試みたのだ。

結果的にそれは成功したが、魔法の発動と維持にかなりの集中力を要するので、実戦向きではないと思われた。

しかし魔導書カッカラを手にした今、魔法効果を上乗せする合体魔法が自在に使えるようになったのだ。


「試してみます。【聖天】浄風の抱擁!」

「おお、失われた力が戻ってきます!」

「ぞわぞわした感覚がなくなりました!」

「あーしの裏魔法を打ち消すなんてぇ、すごいじゃん……」


私が固有魔法【聖天】による浄風の抱擁を発動すると、スリーズさんとヨシノ様を苦しめていた裏魔法の効果は霧散した。

聖なる属性を持った【聖天】と、魂を浄化する【魂浄】の相性は抜群のようだ。


「こうなったらあーしの魔導書開巻で押し潰してやるし。歪めワンダーランド!」


デサルミラリアが魔導書アリスを掲げると、周囲の空間はさらに歪に変形して私たちを押し潰すべく迫ってきた。

床はぐにゃぐにゃとうねり、天井は私たちを押し潰すべく迫ってくる。


「魔導書開巻には魔導書開巻で、エゴには覚悟で、敵の魔法を押し返します!魔導書カッカラ、私に力を貸して!」

「キエノ嬢!」

「キエノ!」

『『キエノちゃん、一緒に行こう!』』


「魔導書カッカラ開巻、天浄結界!」


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