082
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「カルミアちゃん、起きて」
「んっ、パキラちゃん、ここは……?」
胴体を真っ二つに両断され、土砂崩れに巻き込まれて死んだはずの私は、パキラの声を聞いて目を覚ました。
ここは地面も空も真っ白な空間で、果てしなく続く無限の世界のように感じた。
「カルミア、目が覚めたようですね」
「貴女は!?」
「私の名は天使ティナ、フォレスティナ様よりあなた達に選択肢を提示する役割を任された者です」
その人物は緑色の長い髪の毛と緑色の瞳を持った、美しい少女だった。
その姿はいつも私が首から下げているフォレスティナ様の木像にとても似ており、きっと母娘のような存在なのだと感じた。
天使ティナと名乗った少女は燐光を纏っており、ふわりと浮かんでこちらに近づいてくる。
「て、天使ティナ様!これは失礼いたしました」
「言葉遣いなど気にしなくてもよいのです。ところでカルミアよ、あなたにはもう時間がありません。速やかに選択する必要があります」
「は、はい!一体どんな選択でしょうか?」
「1つ、このまま死ぬこと、2つ、神界にてフォレスティナ様にお仕えすること、3つ、使徒として現世に戻ること。さぁ、選びなさい」
ティナは私に3つの選択肢を突きつけてきた。
しかしこのまま死んでしまうよりも、他の2つの方が明らかに良いと私は考えた。
「私はパキラちゃんと同じ道を選びます!」
頭で考えていたことに反して、私の口から発せられたのは、親友であるパキラと運命を共にするというものだった。
パキラがここで死ぬと言えば、私もそれに従って一緒に死んでしまおう。
私の魂がそれを強く望んでいるのだ。
「……なるほど、あなたたち2人は同じ考え、ということですね?」
「えっ?パキラちゃん?」
「えへへ、私もカルミアちゃんと一緒がいいなと思って」
私がパキラに視線を向けると、パキラは照れたようにぐにゃぐにゃと変形していた。
どうやらパキラの答えも、私と運命を共にすることだったようだ。
「ならば命じます。人間カルミア、スライムの魔物パキラ、あなた達2人は一魂同体となり、フォレスティナ様の使徒として現世に戻りなさい」
「「一魂同体!?」」
「そう、あなた達2人の魂は両断されており、この空間を出たらすぐに消滅することでしょう。しかし2人で半分ずつになってしまった魂を合体させ1つにすることができれば、新たな命を授かることができるでしょう」
「パキラちゃん」
「カルミアちゃん」
私とパキラは視線を合わせ、お互いの魂を合体させることを選んだ。
私は手のひらをパキラのプルプルした身体に近づけ、パキラも身体を変形させて私の手のひらに重ね合わせて、静かに祈りを捧げた。
『『魂を1つに』』
すると、私とパキラの手のひらは合わせ鏡のようにぴったりと結合し、次の瞬間には私たちは2人で1つの魂を共有するようになっていた。
「よろしい、一魂同体を成し遂げたようですね」
「「はい」」
天使ティナはコクリと頷き、私たちの魂がしっかりと結合しているのを見守っていた。
「ティナ様、使徒とは一体何をすればよろしいのでしょうか?」
「パンを売りなさい」
「「はい?」」
「肉体を奪われてあなた達を襲ったパン職人メロンコには3人の兄がいます。その3人もまた、魔族アルミラリアによって魂に強力な呪いをかけられています。このままではアルミラリアに操られ、さらなる犠牲を生むことでしょう。あなた達2人の使命は彼らの魂を浄化すること。パキラの固有魔法【魂浄】によりその者達を救い、パンを売りながらさらに多くの人々の魂を浄化するのです」
「魂に呪いが……」
「なんてこと……」
私たちを殺したアルミラリアは、なんと魔族だったのである。
しかも、メロンコの兄達も魂に呪いを受けており、このままではメロンコのように操られてしまうという。
「「そんなこと、絶対に許せない」」
「2人の息はぴったりですね。それともう1つ、あなた達2人はやがて運命に導かれ、勇者ゼルコバに出会うことでしょう」
「「勇者ゼルコバ様……」」
「勇者は魂に神木を宿していますので、魂を視ることができる2人ならばすぐに分かることでしょう。もし本当に困ったことがあったら勇者ゼルコバを頼るといいでしょう」
「「わかりました」」
勇者ゼルコバという人物は魂に神木を宿しているという。
一体どんなお方なのだろうか。
「さぁ、もう時間のようです。使命を果たすため、旅立つのです」
「「ティナ様、ありがとうございました!!」」
「2人の健闘を祈ります」
ティナが別れの言葉を告げると、真っ白な空間は溶けるようにして消え去り、再び私とパキラは暗い土砂の下に閉じ込められていた。
しかし私たちはすでに一魂同体となっており、スライムに身体を変化させて、土砂の隙間から脱出することができた。
外に出た私たちは人間の姿となり、王都に向かって歩き始めたのだった。
あたりは夜の闇に閉ざされていたが、私たちの進むべき道はしっかりと見えていたのだった。
ーーー
「……ということがありまして、私とパキラちゃんはフォレスティナ様の使徒としてパンを売り、魂を浄化する使命を果たしていたのです」
「カルミア……とても苦労したのね」
「ううん、お姉ちゃん、パキラちゃんと一緒だったから全然辛くなかったよ」
「カルミアさん、とても有益な情報をありがとう。おかげで今後の方針が定まったよ」
カルミアの話に登場した魔族アルミラリアは、魔導書モルティスという刀のような刃物を使って魂を斬ることができるという。
魂とは本来、ちょっとやそっとのことでは傷がつかないくらい頑丈なものだから、アルミラリアの攻撃が非常識な威力を持っていることがわかる。
さらに、【精霊魔法】と【冥霊魔法】が対を成す存在だとすると、アルミラリアは確実に【冥霊魔法・奥伝】に到達しており、もしかすると【冥霊魔法・皆伝】に到達しているかもしれない。
間違いなく同格以上の強敵だ。
僕たちのパーティーの中で魂を操って攻撃や防御ができる存在は、今のところいない。
唯一可能性があるのは勇者であるこの僕で、これは僕が樹木創造で創り出した樹木が魂を持つようになるからだ。
固有魔法【樹木魔法】では樹木の種子に魔力を込めて成長を促進することができるが、魂を新たに創り出しているわけではない。
しかし【精霊魔法】により樹木の精霊ドライアドと合体することで使用できる樹木創造では、自在に樹木を創り出して、魔木に魂を宿すことが可能となる。
アルミラリアが魂を切断したり操ったりすることが出来るとすれば、僕はこれに対して魂を創り出す魔法で対抗するしかない。
さらに、アルミラリアは大魔王の冥玉という怪しい物品を、王城の宝物庫から盗み出しており、何らかの悪事を働くつもりのようだ。
冥玉とは精玉と対を成すもので、大精霊カグヤによると自らの魂を分割して作り出すものだという。
僕は魂を分割するという魔法を、まだ習得していない。
カグヤから教わっていないということは、【精霊魔法・奥伝】では魂を分割することは出来ないということなのだろう。
そうなれば可能性があるのはただ一つ、コウヤ山の大精霊クウカイから指導を受けている超強いとされる必殺技を、今こそ完全に習得することだけだ。
「みんな、聞いてくれ。僕達は3班に分かれて行動しようと思う」
「ゼルお兄様、作戦があるのですね?」
「カルミアさんの話から推測するに、今アルミラリアが攻めてきたら、高確率で僕たちは敗北するだろう」
「そ、そんな!」
「キエノ、僕の言う敗北とは、僕らの仲間が1人でも亡くなってしまうということだ。これには、ヨシノやツキが【神化】を使うことも含まれている。犠牲の上に得る勝利など、必要ないからね」
「はい」
今アルミラリアに襲撃されれば、魂を斬る魔法によって僕や仲間達が致命傷を負う可能性が高い。
それを防ぐために、もしかするとヨシノやツキが第八位階魔法【神化】を使わざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。
第八位階魔法【神化】を使えば一時的に神に匹敵する力を得ることができるが、一定時間経過後には天界へと旅立つこととなり、実質的に仲間を1人失うことになる。
魔族相手の戦いで【神化】を使うことは極力避けるべきであり、逆に相手に【神化】に匹敵する第八位階魔法があるとすれば、これを使わせることで、確実に相手の戦力を削ぐことに繋がる。
魔族モニリニアが王都を襲撃した際にヨシノに【神化】を使わせようとしていたことからもわかる通り、魔族もこの作戦が有効であると考えているのだ。
「3班のうち1班は、キエノ、ヨシノ、スリーズ、そしてカルミアさんにお願いしたい。1班は王都中のなるべく多くの人の魂を確認して、カルミアさんの【魂浄】で魂にかけられた呪いを解いてもらいたいんだ」
「はい」
「承知しました」
「キエノ嬢の護衛はお任せあれ」
「大役ですが、頑張ります」
「そしてスリーズは、ヤエ公爵にこのことを伝えておいて欲しいんだ。出来れば国王陛下にも、事態が逼迫していることは知っておいていただきたい」
「承りました。ヤエお祖母様から陛下にも、この件をお伝えいただくようにします」
「カルミアさんはキエノと一緒に行動して、王都の人々の呪いを【魂浄】で浄化して欲しい。人々の前に姿を晒すことは危険かもしれないから、キエノの聖なる魔法、ということにすれば怪しまれずに済むだろう」
「はい」
「ゼルお兄様、可能であれば一度フジ山の精霊殿に向かい、カグヤ様に精霊眼を教えてもらいたいと思いますわ」
「わかった、飛空艇ユグドラシルで送って行こう。帰りはヨシノかスリーズに召喚してもらってくれ」
「はい」
キエノとヨシノとスリーズは結魂しているため、お互いに召喚したり念話でやり取りすることが可能だ。
「そして2班は、ツバキ、サイプレスさん、ツキにお願いしたい。3人はマンティスアロー男爵領に向かい、マンティスアロー男爵に警戒を強めるようにお伝えして欲しい」
マンティスアロー男爵はツバキの父親だから、2班のリーダーはツバキが相応しいだろう。
「あなた、魔族が攻めてくるとして、最悪の事態はどのような想定になるでしょうか」
「そうだな、魔族アルミラリアが大魔王の冥玉を盗んだことを考えると、リョーマ湾に沈んでいるとされる大魔王の魂を悪用しようと考えているかもしれない。最悪、大魔王復活という可能性もある」
「「「「「大魔王復活!?」」」」」
「あぁ、敵の使う魔法が未知数だから推測でしかないが、もしかするとそんな可能性もあるかもしれないと僕は考えている」
「もし大魔王が復活するとなれば、かつての勇魔大戦以来の大事件となるでしょう」
「勇魔大戦?」
「はい、勇者と魔王の壮絶なる戦い、それが勇魔大戦です。かつての勇魔大戦は、大勇者リョーマ様と大魔王トオルシファーの壮絶なる戦いの末、大勇者リョーマ様が勝利をおさめました」
大魔王トオルシファー
僕は大魔王の本名を初めて知った。
ちなみに名称の前に大をつけているのは、勇者である僕や現魔王と区別するためである。
大魔王の名前は、トオルとルシファーを合体させたものだろうか。
「勇魔大戦の危機が迫っているかもしれないから、大魔王復活は何としても阻止しないといけない。ツバキ、頼むよ」
「はい!」
ツバキは眉を引き締めて、力強く頷いた。
「それで、3班はこの僕1人なんだけど、コウヤ山の大精霊クウカイ様のところで修行をしてこようと思う」
「おぉ!ついにあの超強い必殺技を完全に習得するつもりなのですね!」
「そのつもりだ。本当は【精霊魔法・皆伝】に到達したいところなんだけど、これにはまだ時間がかかるだろう」
【精霊魔法・皆伝】に到達するためには、大精霊から出された課題を全てクリアしなければならない。
これには魔法学院の卒業も含まれており、最低でもあと3年はかかってしまう。
現段階でアルミラリアへの対抗策は、クウカイの元で修行をすること習得できる超強いらしい必殺技だけだ。
かつて僕はコウヤ山の精霊殿を訪れ、クウカイから超強いらしい必殺技の概要について教えてもらったことがある。
しかしその当時はまだ魂の器が適切な大きさまで育っていなかったため、使いこなすことができなかった。
今こそクウカイの元に再び行き、超強いらしい必殺技の完全習得を目指すのだ!




