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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第三章 大精霊の試練 〜マンティスアロー男爵領 大魔王復活事件〜
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ーーー


「さぁパキラ、いや、カルミアさん、キミの事情を聞かせて欲しい」

「……ゼルコバ様、これは一体どういうことでしょうか?」


教会でパキラ=カルミアを保護した僕たちはその後ギルドに移動し、応接室をかりてアセビと共に事情を聞くことにしたのであった。


「アセビさん、このスライム、一見するとただの魔物にしか見えないんだが、彼女の魂の半分はカルミアさんのものなんだ。だから、どうしてそのようなことになってしまったのか、この場で確認したいと思う」

「た、魂が!?そ、そんなことがどうして判別できるというのでしょうか」

「第七位階魔法【精霊魔法・奥伝】に含まれる精霊眼によって、僕はこのスライムの魂を確認した。精霊眼は本質を見抜くことができる特殊な魔法だ。アセビさん、気になるようなら、カルミアさんしか答えを知り得ないような質問を彼女にしてみるといい」

「カルミアしか答えを知り得ない質問ですか……。それなら、カルミアの大好物を答えてください」

「それはもちろん、手作りパンケーキ!お姉ちゃんが作ってくれた木イチゴのジャムを乗せて食べるんだ」

「……あぁ、一体どうしたら良いのか……。カルミア、あなたはカルミアなのですね!」

「今まで会いに来れなくてごめんね」

「お帰りなさいカルミア。どんな姿になったとしても、間違いなくあなたは私の大切な妹なのですから!」

「お姉ちゃん!」


目の前のスライムがカルミアであることを確信したアセビは、カルミアと抱き合って涙を流した。

側から見ていると人間がスライムに捕食されているかのように見えるが、感動的な再会のシーンに水を差すのはやめておこう。


「カルミアさん、教えて欲しい。あの日、キミに何があったのかを」

「うん、私が死んじゃった日、そしてこのスライム、パキラについて、私の口から説明させて。あれはちょうど、今から2年前のこと……」


ーーー


私の名はカルミア、王都ギルドで活動をしている、新米冒険者だ。

王都ギルドには姉であるアセビが働いており、姉からは危険な依頼は受けないようにと口を酸っぱくして言い聞かされている。


私はソロで活動しているのだが、その理由は私の相棒であるスライムのパキラの存在を隠しているからだ。


『カルミアちゃん、今日はどんな依頼を受けるつもりなの?』

『パキラちゃん、今日はいつも通り、下水道の清掃依頼でも受けようかな』

『オッケー!下水道の清掃なら任せて!』


パキラは以前に私が下水道の清掃依頼を受けた時に仲良くなったスライムで、今は私の身体にくっついているから、誰にもバレることはない。

多少、胸のサイズが大きくなっているが、指摘されたことはない。


本当はパキラをギルドに登録した方が良いと思うんだけど、パキラは見た目が特殊だから、私はなかなかこの秘密を打ち明けることができなかった。


パキラは元々は王都の地下下水道に棲んでいたスライムで、けっこう長いこと生きているらしい。

パキラとの出会いは偶然によるもので、清掃依頼で下水道を訪れた時に遭遇し、木イチゴのジャムを分けてあげたところ、清掃依頼を手伝ってくれたことから一緒に行動するようになった。


その後、私は彼女にパキラという名前をつけて、今は常に一緒にいることにしている。

パキラの能力は非常に高く、下水道清掃につきものの嫌な臭いも綺麗に消臭してくれるし、身体も綺麗にしてくれる。

普段はなかなかお風呂に入ることができないが、パキラのおかげで私は常に清潔を保つことができた。


戦力としてもパキラは優秀で、パキラは魔法を使って戦うことができる。

下水道でお化けネズミに襲われた時には、魔法でお化けネズミをあっという間に倒してしまった。

どうやらパキラは第六位階に達しているらしく、まだ第五位階にしか到達できていない私よりも強いことは間違いない。


自分よりも位階の高い魔物をテイムしているだなんて普通はあり得ないことだから、私がパキラのことを打ち明けたら、みんな危険だと言って反対するだろう。

だから私は早く第六位階に到達して、固有魔法を習得したいと考えている。

第六位階に到達したあかつきには、私はパキラのことを姉であるアセビに打ち明けて、パキラを隠さずに連れて歩くことができるようになりたい。

第六位階に1日でも早く到達したいと考えた私は、願掛けのつもりで小さなフォレスティナ様の木像を購入して、紐を通して首からかけることにしていた。


いつも通りの光景、いつも通りの日常、いずれ立派な冒険者として生きていくんだと思って、私は今日も清掃作業に向かったのだった。


作業場所となる下水道に向かうため、私は路地裏の扉を潜った。

地下下水道に降りる階段は王都に何ヶ所か設置されており、私は下水道清掃の依頼を頻繁に受けていたので、鍵を持つことを許されていた。


下水道は王都の地下を流れる暗渠であり、大通りの真下には人間が歩いて通れるほどの広さのトンネルが通っている。

最も幅の広い下水道は王城から流れてくる本流で、最も水量が多い。

下水道と言えば当然、汚物を流している汚い川ではあるが、地下水が常に流れているため、それほどひどい臭いがするわけではなく、水もほどほどに透明である。

この本流は、そのまま下っていくと王都の外にある森を流れる川へと繋がっているという。


清掃作業で主に問題となるのは、支流に溜まった汚物だ。

本流となる地下下水道に合流する支流はしばしば澱んだりすることがあり、汚物が完全に詰まってしまうととても臭い。

だがそんな時はパキラの固有魔法【魂浄こんじょう】により一発解決である。


【魂浄】はパキラが第六位階に到達し、その後、夢でフォレスティナ様に出会った事によって使えるようになった魔法だという。

【魂浄】はとても便利な魔法で、どんな頑固な汚れも一発で綺麗にしてくれる。


パキラは詳しくは語らないが、【魂浄】では魂を操ることもできるようだが、魂というものがどんなものなのかはよくわからない。

パキラの【魂浄】は派手な魔法ではないが、とても優れた魔法だと思う。


近年はパキラの協力を得た私が下水道清掃依頼を頻繁に受けているので、下水道の環境はかなり改善している。

本流の水質は改善され、小魚や沢蟹なども棲むようになり、お化けネズミは見つけ次第駆除しているので、数を減らしている。

地下下水道は私とパキラにとって、最も精通している迷宮に違いなかった。

だからその日、私たち以外の何者かが下水道にいる事に気がついたのは、偶然ではなく必然だったのだろう。


「アルミラリア様ぁ、万事順調でございますねぇ」

「モニリニアよ、我が人間ごときに遅れを取るわけがあるまい。計画通り、大魔王様の冥玉を王城の宝物庫から盗み出すことなど容易いのだ。そう、誰にも悟られることなく!」

「さすがアルミラリア様でございますぅ!いよっ、魔王軍大幹部、死霊将軍アルミラリア様ぁ!」


自分たち以外の話し声が聞こえたため、私とパキラは姿を隠すことにした。

パキラと一緒にいるところを他人に見られると都合が悪いから、私たちは反射的に隠れたのだ。


「はっはっは、苦しゅうないぞ、モニリニア。ところで宝物庫から盗んできたオルハリコン剣とやら、一体なんのイタズラに使うつもりか?」

「はっ!ワタクシめは武功が足らずぅ、未だ【冥霊魔法・中伝】に留まっておりますぅ。せっかくの機会なので王都を攻めて、我が武功としたいと考えておりぃ、アルミラリア様のように剣で人間を屠ろうかとぉ」

「モニリニアよ、ヒトには向き不向きというものがあり、お前は魔水晶を操る戦い方が合っているだろう。その剣は、そうだな、どうせなら1番笑えるヤツに与えるのがよいぞ」

「笑えるヤツ、でございますかぁ?」

「そうだ。滑稽で愚かで盛大に勘違いしている者にこそ、その立派そうに見える剣は相応しいだろう」

「ははぁ!仰せの通りにいたしますぅ」


その2人は明らかに尋常な人間ではなかった。

1人の男の背中には蝙蝠を思わせる羽根が生えており、もう1人の男性は見覚えがあるパン屋の主人だが、こんなところにいるのはどう考えてもおかしい。

確か彼はメロンコという名前で、私もパンを買ったことがある。

メロンコはパン職人4兄弟の末っ子で、王都でも有名なパン屋を経営しているはずだが、こんなところで怪しげな会話をするようにはとても見えない。


『カルミアちゃん、逃げよう。あのおじさん達には近づいちゃダメだ』

『パキラちゃん、何かが視えているの?』

『うん。あのパン屋のおじさんの中に別の魂が無理やり入り込んでる。あんな悍ましい魔法、見たことがない』


どうやらパキラは固有魔法【魂浄】を使うことができるから、魂を視ることができるらしい。

スライムは元々、核となる魂とゼリー状の身体というシンプルな構造をしており、そのため魂の扱いに長けているようだ。


どうやら可哀想なメロンコおじさんは別の魂が無理やり入り込んだため、操られてしまっているのだろう。

王城の宝物庫から何かを盗んだような話をしていたから、ギルドに報告した方がいいだろう。


『チュウ』

『チュウチュウ』

『チュチュチュウ!』


「む、どうしたネズミの怨霊達よ。なに、我々の会話を盗み聞きしている者がいるだと?それは許せんな」

「なっ!?人間?」

「しかもお前達を殺した人間なのか?ならばその怨み、今こそはらすべし。第六位階魔法【死霊魔法】怨霊強化!さぁ、ネズミの怨霊達よ、憎き敵を討ち滅ぼすがいい!」


『まずい、カルミアちゃん!ネズミの怨霊に私たちの居場所がバレちゃった!早く逃げよう!』

『えええ!怨霊!?』


私たちが逃げようとしていると、メロンコの身体を乗っ取ったアルミラリアという人物が魔法を使ってネズミの怨霊をけしかけてきた。

怨霊とは成仏できなかった魂が変化した存在で、普通の魔法では対処できない厄介な存在だ。

悪霊怨霊に出会ったらすぐに逃げるようにと、姉であるアセビからも注意されていた。


『ヂュウウウ!』

『くっ、第六位階魔法【魂浄】!』


パキラが【魂浄】を使うと、私たちに迫っていたネズミの怨霊は白い煙を上げながら消滅していく。

しかし数が多すぎて倒し切ることは不可能だ。

私たちは想像以上に多くのお化けネズミの怨みを買ってしまっていたらしい。


「ほぅ、我が使役する怨霊を消滅させるとは、なかなかやりおる。どれ、我が愛刀に生き血を吸わせてやるとしよう。【冥霊魔法】魔導書モルティス召喚!」

『カカカカカカ!』


アルミラリアが謎の魔法を使うと、その手には反りの強い片刄の刃物が出現した。

魔導書モルティスと呼ばれたその刃物は、鍔から柄を覆う部分が骸骨になっており、その両目は怪しく光って奇声を上げている。

あんな恐ろしい刃物で斬りつけられたら、ひとたまりもないだろう。


『まずい!乗って!』

『う、うん!』


パキラは身体をボートのように変形させ、私はそのボートに乗り込んで下水道の本流を下ることにした。

とにかく一刻も早くこの場を離れるしかない。


「どれ、鬼ごっこに興ずるとしよう」


ズバン!


『痛い!』

『ヂュウウウ!』


アルミラリアが無造作に魔導書モルティスを振るうと、お化けネズミの怨霊を数体巻き込みながら、パキラの身体が少し切断されてしまった。

巻き込まれたネズミの怨霊は両断され、黒い煙となって消滅していく。

パキラはスライムなので斬撃には耐性があるはずだが、斬られた部分は黒い煙を上げている。


『あの刃物で斬られると魂がダメージを受けるみたい!カルミアちゃんは絶対に攻撃を受けたらダメだよ!』

『パキラちゃん!』

『私は自分の魂を少しなら修復できるから大丈夫!それよりも何とかして逃げないと!』

「それそれ、逃げろ逃げろ、追いついてしまうぞ」


ズバン!


『うぎゃぁぁぁ!』


パキラは魔導書モルティスで斬られるたび悲鳴を上げており、とても痛そうにしている。

祈ることしか出来ない私は、絶望的な無力感を感じていた。


『出口が見えた!』

『カルミアちゃん、しっかりつかまって!』


下水道の本流の終点は滝となっており、王都の外にある森を流れる川に合流していた。

パキラはさらに変形し、風を受けて滑空しながら森へと逃げようとしている。


「我が翔べないとでも思ったか?この肉体は少々気に入っていたが、ここで使い切ってしまっても仕方がないだろう、ぬん!」


背後から迫るアルミラリアは、背中から血の滴る羽根を生やして追いかけてきた。

メロンコの背中は無理やり生えた羽根により肉が裂けており、いたましい死神のようであった。


「堕ちろ」


ズバン!


『ぎゃあ!』

「きゃあああ!」


パキラは遂に身体を真っ二つに両断されて、地面に墜落してしまった。

落下による浮遊感を感じること数秒、私たちは地面に叩きつけられてしまった。

満身創痍のパキラはそれでもクッションのように変形して、私の身体を守ってくれたらしい。


『カルミアちゃん、逃げて……』

『パキラちゃんを置いていくなんて、出来ない!』

「ふうん、スライムと人間の友情か、そこそこ滑稽な話だ」


アルミラリアが私たちの行手を阻むようにして、地面に降り立った。

パキラはボロボロだし、私の足では到達逃げることはできないだろう。


「よくもパキラちゃんを!これでも食らえ!」

「おっと」


キィン!


私は咄嗟に愛用している投げナイフを放ったが、アルミラリアに弾かれてどこかに飛んでいってしまった。

運良く誰かが私のナイフを拾ってくれれば、私がここで死んでしまったことが判明するだろう。


「もう終わりかな?どうせなら最後に何か面白いことをして欲しいものだ」


パン屋の主人メロンコの身体は至る所から出血しており、着地による衝撃で両脚の骨が飛び出してしまっている。

さらに、身体は変色しており、すでに腐敗し始めているようだ。

アルミラリアによる酷使に、人間の身体が耐えきれないのだ。

私は目の前に現れた死神から逃れるすべはなく、死を覚悟した。


「フォレスティナ様、どうか私たちをお守りください」


私は首から下げたフォレスティナ様の木像を握り締め、祈りを捧げた。

何かを期待して祈りを捧げたわけではないが、木像は輝きを放っているようだ。


「なんと忌々しい輝きか、そんなもの全く面白くない、死ね」


ズバン!


熱い、とだけ感じた。

私の身体は両断され、地面に崩れ落ちる。

無表情に私を見下ろすアルミラリアの表情は土気色で、死体が無理やり動かされているようだ。


「この身体はもう使い物にならないな、ここで捨てていくとしよう、【死霊魔法】死の供物」


アルミラリアが何かの魔法を使うと、メロンコの肉体はドロドロと溶けて真っ黒な汚泥となった。

すると、肉体という器を失った2つの魂が、宙に浮かんでいるのがわかった。

1つはつるりとした美しい球体で、弱々しく青い光を放っており、そのまま地面に落下した。

もう1つは禍々しい球体で、赤黒く明滅しており、どこかへ飛んでいってしまった。


ドゴン!


と、大きな音が響き、私とパキラは土砂崩れに湧き込まれて生き埋めとなった。

身体を真っ二つに両断されてしまった私はもうすぐ死んでしまうことだろうが、せめて寂しくないように、パキラと身を寄せ合っていようと思った。



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