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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第三章 大精霊の試練 〜マンティスアロー男爵領 大魔王復活事件〜
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ーーー


座学の2限を終えて昼休みとなった。

この日、僕らはお弁当を用意していなかったため、食堂に向かうことにした。

いつもはリョーマイケル伯爵家の料理人が用意してくれるお弁当をクラス代表室で食べていたので、食堂を利用するのは初めてだ。


食堂の混み具合はそこそこだった。

基本的にABCクラスの貴族たちは食堂を利用することはあまりないため、1~3学年のFクラスの生徒が主な利用者のようだ。


「ゼルお兄様、あそこに行列ができていますわ」

「本当だ、あそこの料理が美味しいのかな?」


それほど混んでいない食堂ではあったが、1箇所だけ行列が出来ている。

よくみるとそこはパン屋の出張販売店で、朝見かけたパキラが売り子をしているようだ。

そして、並んでいるのはやはり男子生徒ばかりだ。

皆、パキラに会いたくてパンを買い求めているらしい。


「はーい、パパが作ったとっても美味しいパンですよ〜、おひとついかがですか〜?」

「コロッケパンにチーズパン、合わせて500リンになります」


しかしパキラと一緒にパンを売っているのはパン職人三兄弟の次男ペロンコであった。

パキラのパパはトロンコのはずだが、なぜかパキラはペロンコのことをパパと呼んでいる。

やはりパキラはパパ活をしているようだ。


「朝もパンだったけど、昼もパンにしようかな」

「ゼルコバはあの娘がお気に入りのようじゃの」

「じー」


ツバキから非難の視線が送られてくる。

確かにパキラのことが気になってはいるが、これは断じてカルミア殺害犯探しの調査目的である。


「すみません、サンドイッチとカレーパンください」

「あっ!ゼルコバお兄ちゃん!また来てくれたんだね!いつもありがとうございます、500リンになります!」

「じー」


今度はキエノから非難の視線が送られてくるのを感じる。

どうやらキエノは妹ポジションを脅かすかもしれないパキラのことを、敵対視しているようだ。


「パキラさん、お仕事が終わったらでいいんだけど、後で少し話せないかな?」

「えっ?デートのお誘いですか〜?パキラ困っちゃうなぁ」

「じー」

「じー」

「おい!ゼルコバ!いい加減にしろよ!パキラちゃんが困ってるだろ!」


怒りを露わにして怒声を浴びせてきたのは、パキラちゃんのファンであるコブスであった。


「いくらキングだからってやっていいことと悪いことがあるだろ!他の生徒の模範になるように努めろよ!」


コブスがもっともらしい口上で僕を非難するが、コブスがキングだったころの素行を考えると、お前が言うな、である。


「コブスさんがキングだったころはもっと酷かったような……」

「あれは完全に営業妨害だったよな、パンを買い占めたりして……」

「あぁん?」

「「ひぃ!」」


コブスの素行を非難した男子生徒たちは、コブスに睨まれて萎縮していた。

僕はどちらの味方でもないが、悪いのはコブスだろう。


「やめて、お兄ちゃんたち!私のために喧嘩しないで!」

「「「はーい!」」」

「ゼルコバお兄ちゃん、私は誰のものでもないから、個人的なお誘いはお断りしてるんです。デートのお誘いはとっても嬉しかったけど、お断りさせてもらいますね……」

「う、うん、わかった。困らせちゃってごめんね」


なぜか僕がフラれたような展開となってしまったが、まぁいいだろう。

パキラは絶対に何か秘密を隠していると確信しているので、話を聞くのに許可を取る必要はない。

1人になった時を狙って強制的に事情聴取すればいいだけだ。

悪質なストーカーと間違われないためにも、ツバキやキエノを必ず連れて行くことにしよう。


「あっ!でもでも、放課後は教会の前でパンを配ることになってるんだ!よかったら会いにきてくれると嬉しいな」

「わかった、必ず行くよ。ちょうど僕も教会に用事があるしね」

「おい、放課後は教会だぞ」

「パキラちゃんをキングの魔の手から守らないと……」

「でもキングはコブスさんよりはるかに強いんだろ……」

「あぁん!?」


パキラのファンたちがどうでもいい争いを始めたため、僕らはそそくさと立ち去ることにした。

パキラが怪しいことは間違いないが、証拠を確実に集めないと下手をすると僕の方が逮捕されかねない。

こうなったらアレをやるしかないと考えているのだが、その前にまずはツバキに相談しないといけない。

僕は自ら封印した禁術を使うことを決心し、放課後を待つことにしたのであった。


ーーー


「僕が使える魔法の1つを、ツバキに伝えておかなければならない」

「なんでしょうか?」

「下手をすると僕の社会的立場が失われる可能性がある超危険な魔法だが、婚約者であるツバキには知っておいて欲しい」

「はい」

「おいおい坊主、まさかアレを使うつもりか?」

「そうです、サイプレスさん。今こそ禁術【精霊魔法】精霊眼を使いたいと思います」

「なんと!」


そして放課後、僕らは教会に向かう前に、クラス代表室を借りて打ち合わせをしていた。

ショウゲツたちには事情を説明し、先に帰ってもらっているので、今この部屋には僕たちしかいない。


「精霊眼?とはなんでしょうか?そんなに危険なのですか?」

「ああ、とても危険な魔法だ。しかしツバキにはどうしても伝えておかなければならないことなんだ」

「それがどんな魔法であっても、決して口外しないことを誓います。皆さんは知っておられるのですよね?」

「実は私も知らないです。どんな魔法なのでしょうか、ゼルコバ殿?」


僕たちパーティーメンバーの中で、精霊眼の効果を知らないのはスリーズとツバキだけだ。

それは僕がカグヤからこの魔法を教わった時に、スリーズがコウヤ山で修行をしていたからであり、これは不幸中の幸いであったとも言える。


「第七位階魔法【精霊魔法・奥伝】に含まれる精霊眼は、対象の本質を見抜く効果がある。これを使うと僕は相手の魂を視ることができるようになる。だけど困った副作用があってね」

「「困った副作用?」」

「そう、実は魂を視るために相手を凝視すると、服が透けて裸が見えてしまうんだ」

「っ!?」


2人は咄嗟に両腕で乙女の大切な部分を隠した。

こうなることがわかっていたから僕は精霊眼を禁術として、今日まで封印してきたのだ。


「大丈夫、普段は意識して精霊眼を使わないようにしているから、2人の裸は視えていないよ」

「そうでしたか、しかしその魔法は悪用されるととんでもないことになりますね」


他人の裸を視ることができて嬉しい人はいるだろうか。

それは覗き魔や変態と呼ばれる人種であり、僕は断じて他人の裸を無断で視るようなことはしたくない。

しかも、裸を視たことが当人に知られてしまった場合には、相手が貴族令嬢ならば最悪の場合、被害者は自害することもありうる。

それほど貴族社会では貞淑を重んじており、これを回避するためには僕は裸を視てしまった責任を取って相手と結婚する必要があるだろう。


貴族は複数の奥さんと結婚することもあるが、僕にはすでにツバキという大切な婚約者がおり、これ以上奥さんを増やすことは考えていない。

被害者の女性と責任を取って結婚しないのであれば、僕は裸を視てしまった相手の恋人や婚約者や家族から闇討ちされる可能性すらある。

いずれにしても僕は変態覗き野郎という業を背負うことになり、僕の社会的立場は一瞬にして崩壊することだろう。


僕がカグヤからこの魔法を教えてもらった時、うっかりキエノとツキとヨシノの裸を視てしまうという大失態をやらかしてしまった。

幸いにもキエノは僕の妹で、ツキとヨシノは世界樹の化身であったために刃傷沙汰にならずにすんだが、そこにスリーズがいなくて本当によかった。

スリーズは公爵家令嬢で、万が一にも裸を視てしまった日には、ヤエ公爵が再び剣を握っていたかもしれない。


「なるほど、その手がありましたか」

「スリーズ、光明を得たようですね」

「はい!」


スリーズがなんの光明を得たのかは全くわからないが、とにかく僕は精霊眼を発動してパキラの魂を確認しようと考えている。

パキラが人間ではなく魔族である可能性もあり、その場合には有無を言わさずに無力化しなければならない。


「あなたは精霊眼でパキラの魂を確認するつもりだということですね?」

「そうだ。とても大切なことなので、ツバキには言っておきたかったんだ」

「わかりました、でも1つ条件があります」

「条件?なんでも言ってよ」

「パキラの裸を視る前に、私の裸を視てください!」

「なっ!?」

「私の魂は人間と魔族が混ざり合った特殊なものかも知れません。なら、まずは私の裸を視ておいた方がいいと思いますので」


そう言うと、ツバキは僕の目の前に仁王立ちした。

その表情は覚悟を決めており、一歩も譲らないという固い意志を感じる。


「た、確かに、ツバキの魂は特殊な状態かもしれない。だけど裸を視るなんて……」

「いずれ夫婦となるなら、お互いの裸を見せ合うのは当然のことです。なにより、私の裸より先に別の女の裸を視てしまうなんて、そんなことは絶対に許せません!」


ツバキの覚悟は本物である。

彼女の覚悟を卑下することは、僕にはとてもできない。


「あのー、それならせめて後ろを向いてくれないかな?パキラを視る時も後ろから視るようにするから」

「私はちっとも恥ずかしくありません!前からどうぞ!」

「そ、その〜、前はほら、結婚した時のために取っておかないと」

「そ、そ、そ、それは……。なら後ろからどうぞ」

「俺たちはお邪魔のようだな」

「あとは若いお2人でどうぞなのじゃ」

「人間の営みとは尊いものですね」

「ぐぬぬぬ、30分くらいでいいでしょうか……」

「みんな何か勘違いしてないかなっ!?」


僕は断じてそういうことをこの場で致したいわけではないし、するつもりもない。

誤解を生むような発言は謹んで欲しい。


何はともあれ、みんなにはクラス代表室から出て行ってもらい、万が一にも不慮の事故が起こらないように見張ってもらうことにした。

部屋の中には僕とツバキの2人きり、今こそ禁術【精霊魔法】精霊眼を使う時だ。


「優しくしてくださいね、あなた……」


左手の薬指に、僕がツバキにプレゼントした婚約指輪がきらりと光る。

頬を赤らめながら後ろを向くツバキは、とても魅力的であった。


だから何もしないって。


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