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「そそそ、それでは魔法実習を始めます」
「スリーズ様が私たちを見ているわ」
「なんだかドキドキしちゃう」
「キャー!」
「せせせ、静粛に。今日はゼルコバ君の授業参観のため、お客様が見えていますので、せっかくなのでお客様にも授業に参加してもらいましょう」
1限目はいつも通り、魔法実習の時間だ。
魔法学院では生徒の魔法消費を促すため、1限目と3限目は必ず魔法実習を受ける事になっている。
「そそそ、それではサイプレスさん、協力をお願いします」
「おう、俺か。わかった、何をすればいい?」
「かかか、可能な限り多くのファイアーボールを出現させ、【念動】で動かしてみてください」
先ほど登校した際に判明したのだが、サイプレスとポドカルパスは実は面識があったということだ。
かつてサイプレスが冒険者として王都で活動していた際に、ポドカルパスと一緒に依頼を受けたことがあるということだ。
「いいぜ、可能な限り、な」
サイプレスが無造作に魔法を発動させると、10個のファイアーボールが出現してサイプレスの周囲を旋回し始めた。
サイプレスは10個ものファイアーボールを同時に出現させ、第三位階魔法【念動】により自在に操っている。
ファイアーボールを操るのが苦手な僕としては、どうやればこんな魔法が使えるのか、本当に不思議だ。
「うわぁ、これが一流の魔法士か」
「ショウゲツ様、私たちももっと練習しないといけませんね」
「シルベストリスは炎魔法以外でやろうな」
「わかってますわ!もう!」
一流の魔法士が魔法を教えてくれるとあって、Fクラスの周囲には他のクラスの生徒たちも集合していた。
なんなら上級生達も見学に来ている。
「実はまだ出せるぜ、さらにファイアーボール」
サイプレスがさらに魔法を使うと、追加で無数のファイアーボールが出現した。
最初に出したファイアーボールの周囲に9個のファイアーボールが見られることから、その総数は100個となる。
「す、すごい数のファイアーボールだ!」
「なんでそんなにたくさんのファイアーボールを操ることが出来るんですか?」
「僕なんて1つのファイアーボールを動かすので精一杯なのに……」
「サササ、サイプレスさん、どうもありがとう。さらに腕を上げたようですね。よければ今の魔法の解説をしてもらえませんか?」
「ああ、わかったぜ。生徒諸君はファイアーボールを動かす時、どうやって動かしている?」
「どうやってって、【念動】を使って、意識を集中しています」
「ほぅ、そうか。しかしその方法で操ることが出来るファイアーボールはせいぜい2、3個か、多くても10個が限界だろう」
「それならサイプレス先生はどうやってあんなにたくさんのファイアーボールを操っているんですか?」
「それはな、俺の弟子のゼルコバが説明してくれるぜ。この間教えたことをやってみろ、坊主」
「うわっ、突然来た!は、はい、やってみます」
僕はファイアーボールを操るのは得意ではない。
魔力ロープや魔力滑車を操って動かすのが得意なのは、かつて日本で仕事としてロープや滑車を使って作業をしていた経験があるため、イメージしやすいからだ。
しかしファイアーボールというのはイメージするのが難しく、これまではあまり追及して鍛錬をしてこなかった。
僕が意識を入れ替えたのは、悪霊と対峙した時にあまり活躍できなかったからだ。
僕は神魔融合で生み出したファイアーボールを操って悪霊にぶつけようと思ったが、悪霊はふわふわと空中を浮遊しており、素早く避けられてしまった。
もちろん、風魔法を使い高速で飛翔して接近戦に持ち込めばファイアーボールを当てることも可能だっただろうが、それは魔法士としてはあまりにも拙い方法だ。
そのため僕は精霊殿に滞在していた2日間でサイプレスに修行をつけてもらい、【念動】でファイアーボールを操る際のコツを教えてもらったのであった。
「それでは、ファイアーボール!」
僕が魔法を使うと、空中に3つのファイアーボールが出現し、僕の周囲を旋回し始めた。
さらに魔法を使うと、3つのファイアーボールの周囲にさらに3つのファイアーボールが出現し、最初に生み出したファイアーボールを中心にして惑星のように旋回を始めた。
「いいだろう、生徒たち、いま坊主が使っているのが、【念動】の自動化だ」
「「「「「【念動】の自動化!?」」」」」
「そうだ。意識して操っているのは最初に出した3つのファイアーボールだけだ。後に出したファイアーボールは、自動化した【念動】により決められた動きを繰り返しているだけに過ぎない」
「僕は3つを操るのだけでも精一杯ですけどね」
「さらに言えば、俺はファイアーボールに込める魔力量をそれぞれ変化させて使っている。相手に致命傷を与えるつもりのファイアーボールには多くの魔力を込め、囮として使うつもりのファイアーボールには少ない魔力を込めるんだ。そうすると魔力の節約になるし、込める魔力の量を変化させるのは修行にもなるからな」
そう言うと、サイプレスは大きいファイアーボールと小さいファイアーボールを1つずつ生み出した。
「さぁ問題だ、どちらのファイアーボールの方がより多くの魔力が込められているかな?」
「えっと、普通に考えたら大きい方のファイアーボールの方が強そうに見えるけど……」
「私もショウゲツ様の意見に賛成ですわ!」
「シルベストリス、こういう時は大体ひっかけ問題なのよ。よって、正解は小さい方のファイアーボールです」
「そっちの黒い方のお嬢ちゃんが正解だな。しかし戦闘中にとっさに出されたら区別をつけられるかな?」
「そ、それは……」
「戦闘中に【鑑定】を使い続け、常に相手がどの魔法に1番多くの魔力を込めているのか感知することができなければ、あっという間にやられてしまうぜ」
魔法を使った戦闘中には様々な状況が常に推移していく。
そんな時に大きいファイアーボールを出されたら警戒するだろうし、もしかすると本命の方のファイアーボールは見逃してしまうかもしれない。
そうならないように、サイプレスは常に【鑑定】で魔力の多寡を感知しているという。
僕はかつてサイプレスがライカンスロープと戦闘した際に、ライカンスロープが見逃したファイアーボールの形状が変化して一撃で仕留めていたことを思い出した。
「このように、ファイアーボールは初歩的な魔法ではあるが創意工夫によって強力な攻撃手段となるんだぜ。お前たちも練習してみるといい」
「「「「「はい!」」」」」
その後はみんなでファイアーボールを使う練習を開始したが、驚くべき事にキエノは10個のファイアーボールの周囲に9個のファイアーボールを生み出してたくみに操っていた。
僕より後に魔法の修行を開始したのに、100個ものファイアーボールを自在に操ることができるとは、さすが聖女だ。
ちなみにシルベストリスは生み出した水球を暴走させていたが、サイプレスが安全に処理してくれたので被害者は出なかった。
「ゼゼゼ、ゼルコバ君、調子はどうですか?」
「ポドカルパス先生、あまり上手くいかなくて悩んでいます」
「ゼゼゼ、ゼルコバ君、3つのファイアーボールにさらに3つのファイアーボールを旋回させる魔法は、とても高度な技術だと思いますよ」
「そうかもしれませんが、僕はもっと魔法が上手くなりたいと考えています」
「ななな、なるほど、では1つアドバイスを贈りましょう。魔力容量が多い方が1度に操ることができる魔法の数が多い、と考えるといかがでしょうか?」
「魔力容量が多い方が1度に操ることができる魔法の数が多いのですか!?」
「だだだ、断定はできませんが、その可能性はあると考えています。かくいう私も1度に多くの魔法を操るのは苦手です」
「そうだったんですね」
サイプレスやキエノは魔力容量が【極めて多い】ため、1度に操ることができる魔法の数が多いとしても不思議ではない。
「ししし、しかし魔力容量が【極めて少ない】としても、創意工夫により素晴らしい魔法を習得することが可能でしょう。特にツバキさんの使っている魔法は参考になると思います」
「ツバキ!僕にキミの魔法を教えてくれないか!?」
「ええっ!?私なんかゼルコバ君の足元にも及びませんよ」
「そこを1つ、おねがいします!」
「うーん、それなら、私が得意な魔法矢について」
そう言うとツバキは精神を集中して、魔法学院の壁に取り付けられた的に向かって魔法矢を放った。
ツバキは愛用している弓を持っていないが、弓に矢をつがえて放つ動作を目にも止まらぬスピードで行い、矢は的のど真ん中を射抜いた。
「今日は弓を持っていないのですが、いつもと同じ動作を行うことで魔法の発動がスムーズになり精度が上がります。さらに、先日教えてもらった脳魔法のおかげで、決められた動作をより素早く正確に行うことができるようになりました」
「ツバキの魔法矢はどんな魔法なの?」
「私の魔法矢は、鏃となる部分を【性質変化】により炎に変えて威力を増しています。さらに、矢羽から風魔法を噴射することで速度を上げています」
ツバキの魔力矢はファイアーボールのように魔法を【念動】で操るのではなく、風魔法を噴射することで推進力を得ているということだ。
つまり、魔法を動かす方法は【念動】にこだわる必要はないと言うことだ。
ツバキの工夫を知った僕は1つ思いついたことがあったので、試してみることにした。
「ポドカルパス先生、試してみたい魔法が出来ました」
「ゼゼゼ、ゼルコバ君、やってご覧なさい」
「はい!」
僕は魔法のイメージを固めると、ファイアーボールを空中に出現させ、さらに3つずつファイアーボールを付け足す。
しかし先ほどまでと違うのは、最初に生み出したファイアーボールと後から生み出したファイアーボールが魔力ロープで繋がっていることである。
「出来た!魔力ヨーヨーだ!」
「魔力ヨーヨー?」
「見てて」
僕が生み出した魔力ヨーヨーは、中心となるファイアーボールの周囲を旋回する3つのファイアーボールが、魔力ロープによって接続されている。
先ほどまでと違うところはたったそれだけであるが、これによって魔法の威力は劇的に変化する。
僕は魔力ヨーヨーを高速で回転させると、ファイアーボールが風を切る音がどんどん鋭くなっていく。
「いけ!」
僕が魔力ヨーヨーを壁面の的に向かって放つと、魔力ヨーヨーは複雑な軌道を描きながら的に向かっていった。
【念動】で操っているのは核となるファイアーボール3つのみなので、自在に操ることが可能だ。
そして回転速度を出しているのは魔力ヨーヨーの遠心力によるものなので、魔力容量が少ない僕でも問題なく操ることができる。
「さらに、魔力ヨーヨーのファイアーボールを解放だ!」
ズドン!!
魔法学院の校庭に、砲弾が着弾したような轟音が轟いた。
魔法学院の壁面に着弾したファイアーボールは、そのまま壁を突き破って大穴をあけてしまった。
僕は高速回転する魔力ヨーヨーのファイアーボールの1つを切り離し、的に向かって投擲したのだ。
ファイアーボールの速度は遠心力によって生み出されたものなので、僕はタイミングを見計らって魔法を解除するだけでいい。
魔力ヨーヨーから放たれたファイアーボールの威力は凄まじく、魔法学院の壁面に大きな穴をあける程だ。
これはまたしてもやらかしてしまった。
「あーあ……」
「さすがはゼルお兄様ですわ!!」
「ゼゼゼ、ゼルコバ君、復旧おねがいしますね」
「……はい」
「さすがは勇者じゃのう、何をしても規格外じゃな」
その後、ツキが【土魔法】で壁面の復旧の手伝いをしてくれたのは非常に助かった。
そんなこんなで、僕は新たな魔法を習得し、午前中の魔法実習は終了となったのであった。




