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2日後、僕たちは王都チェリートピアを目指すべく、フジ山の精霊殿を出発することにした。
大精霊カグヤが管理するフジ山の精霊殿内では時間の流れがおかしな事になっており、満月の前後5日間は1/5の速度で時間が流れている。
昨日は放課後から精霊殿を訪れていたため、2日ほど滞在しても、外界ではまだ10時間も経過していない。
ただいま外界では早朝5時30分ごろのはずだが太陽はすでに顔を出しており、フジ山の山頂は爽やかな初夏の空気に包まれていた。
「それじゃあみんなでチェリートピアに向かおう、【精霊魔法】魔導書コクーン召喚、さらにコクーンに収納してある飛空挺ユグドラシルを召喚!」
「うわぁ!すごいですわ!」
僕が魔法を発動すると、10人が乗っても十分に収容できる大きさの飛空挺が出現した。
形状は日本でかつて乗ったことがある飛行機を参考にしているが、垂直上昇もしくは下降するために右翼と左翼は可動式だ。
僕らがこの飛空挺ユグドラシルに乗り込むと、翼が可動して風魔法を噴射し、ユグドラシルは垂直に飛び立った。
ある程度の高度まで上昇すると今度は翼が可動して、水平方向に移動を開始した。
とんでもなく魔力を消費することを除けば、これほど効率の良い移動方法はなく、長距離を移動する必要がある時は飛空挺ユグドラシルをこの頃はよく使っている。
ちなみにユグドラシルには魔導書コクーンと接続しているため、自動操縦で目的地まで飛んでくれる。
さらに飛空挺ユグドラシルにはおよそ100万の魔力を蓄積しているため、万が一僕からの魔力供給が途切れた場合でもしばらく飛行可能だ。
「何度見てもすげぇ魔法だな、坊主」
「さすがはゼルコバ殿、これを使えば王都まであっという間に到着しますな」
「たぶん1時間くらいで着くと思うから、適当にくつろいでいてね」
「ゼルコバ様とツバキはこの後魔法学院で授業を受けるのですよね?」
「そうだね、放課後に教会の前で待ち合わせしようか?」
「いえ、せっかくなので魔法学院に遊びに行きたいと思います。授業参観させていただけないでしょうか?」
「魔法学院!私も来年から通う事になりますので、見学したいですわ」
「魔法学院ですか。懐かしい場所です」
その後、1時間ほどで予定通り王都に接近したため、僕は飛空挺ユグドラシルを王都近くの森に着陸させ、魔導書コクーンに収納した。
ここからは徒歩で王都チェリートピアに移動する。
飛空挺で王都に着陸したら、王都中の人々を驚かせてしまうことだろう。
「あ、そうだ。みんな朝食はまだだよね、行ってみたいパン屋があるんだけど、どうかな?」
「有名なパン屋なんですか?」
「有名かどうかはわからないんだけど、ほら、カルミアさんの件で手がかりが掴めるかもしれないんだ」
「なるほど」
「どういうことですの?」
「実は先日、僕とツバキは協力して悪霊を退治したんだけど、その悪霊は僕らがお世話になっているアセビさんの妹であるカルミアさんのものだったんだ。しかもカルミアさんは何者かに殺害されてしまったようで、犯人を探すために捜索している所なんだよ」
「その手がかりがこれから向かうパン屋にあるかもしれないのですか!?」
「僕はそう考えている」
「ならば参りましょう」
という事になったため、僕たちは容疑者であるパン職人三兄弟の長男トロンコが経営するパン屋に足を運ぶ事にした。
「あれが坊主の言っていたパン屋か?朝早くから賑わっているじゃないか」
「本当ですね、魔法学院の生徒もいるようです」
トロンコのパン屋は魔法学院からそれほど遠くなく、朝食を買いに来た生徒もいるのかもしれない。
「あっ、コブス先輩、おはようございます!」
「げっ、ゼルコバ!」
パン屋に並ぶ学生たちの中に、元キングである3年生のコブスの姿も混ざっていた。
コブスは僕の顔を見ると、露骨に嫌そうな表情でそっぽを向いた。
「コブス、コブスじゃないか!おお、大きく育ったものだな!」
「げげっ、スリーズさん!?」
「げげっ、とはなんだ!」
「スリーズ、コブス先輩と知り合いなの?」
「ゼルコバ殿、このコブスはマグノリア将軍の息子なのですよ。私が騎士団に入団したころはまだほんの子供でしたが、あっという間に成長してしまいましたな。かつては稽古をつけてあげていたこともあります」
「ところでコブス先輩もここのパン屋にはよく来るんですか?」
「ああん?なんでテメェにそんなこと教えなきゃなんねぇんだ?」
「こらコブス、そんなみっともない喋り方をするな。ゼルコバ殿に失礼だろう」
「は、はい、すみません……」
コブスはスリーズに頭が上がらないようである。
しかしコブスもトロンコのパン屋の常連客だとすると、このパン屋には学生を惹きつける何かがあるのだろう。
「はーい、ただいまよりパンの販売を開始しまーす!お兄ちゃん達、喧嘩しないでお行儀よく並んでね!」
「「「「「待ってました!」」」」」
「パキラちゃん今日も可愛いぃ〜!」
「パキラちゃん!こここ、このパンください、あと握手してください!!」
「パキラちゃん、俺はこの特大コロッケパンと、あとスマイル1つ!」
どうやらパンの販売が始まったようだが、常連客たちの雰囲気が何かおかしい。
明らかに売り子の女の子に会いたいがために通っているような人間もいる。
「パ、パキラちゃん、今日も可憐だ……」
かくいうコブスもパキラちゃん目当ての客の1人だ。
そういえば並んでいる人間は男性しかいない。
「はい、次の方どうぞ〜」
「あ、じゃあこのバゲットサンドとクロワッサンをください」
しばらく列に並んでいると僕らの番が回ってきたので、僕は適当に注文した。
そんなに多くの種類のパンがあるわけではないが、朝食に食べるのにちょうどいい感じのパンがいくつか用意されている。
「はい、こちら商品になります。代金は500リンです」
「あ、じゃあ大銅貨で払います」
「はい、こちらお釣りの中銅貨です。またきてね、ゼルコバお兄ちゃん」
「あ、ありがとう」
「……」
僕がお釣りを受け取る時、パキラは僕の右手をしっかりと握ってお礼を言った。
確かにパキラは整った顔立ちをしており、こんなに丁寧に接客されたら常連客になってしまう男性も多いだろう。
しかし不審なのはパキラが僕の名前を知っていたことだ。
加えて、何かの魔法が流れ込んできたような気がする。
気のせいか、後ろにいるキエノから殺気が発せられたような気がした。
「パキラちゃん、新しいパンが焼けたから取りに来ておくれ」
「はーい、パパ!パンの補充をするのでしばらくお待ち下さーい」
そういうとパキラは厨房の方に移動し、パンの補充を始めた。
後ろに並んでいる客たちの迷惑にもなるし、作業を眺めていても仕方ないから、僕たちは店を出る事にした。
それにしてもパキラという少女、なぜ一緒に暮らしていないのにトロンコの事をパパと呼ぶのか。
僕はトロンコの行動をネズミ型魔木騎士に見張らせているので、トロンコに妻子がいないことは確認済みだ。
ただの従業員にしては不可解な言動である。
パキラには注意して、トロンコの行動を観察することにしよう。
ーーー
「お、おい、あれってスリーズ様じゃないか?」
「ほ、本当だ!いつ見てもお美しい!」
「スリーズ様ー!こっち向いてー!」
「これは大ニュースだ!公爵令嬢スリーズ様のご来校!あっ、ゼルコバ商会長おはようございます!」
朝食にパンを食べた僕たちが魔法学院に移動すると、あっという間に女子生徒たちが集まってきた。
どうやら彼女たちはスリーズに憧れているらしい。
ブルーフォレスト商会の編集長であるラティフォリアも、この騒ぎを察知して駆けつけてきた。
「スリーズ大人気だね!」
「やめてくださいゼルコバ殿」
「あぁ、現キングと伝説の元クイーンのツーショット、最高だよっ!お写真よろしいでしょうか?」
「スリーズはクイーンだったんだね」
「ゼルコバ殿、昔の話です。ところでキミ、写真?とはなんだろうか?」
「スリーズ、紹介するよ、彼女はラティフォリア。今度僕が立ち上げるブルーフォレスト商会の編集長で、魔法で見たものを写真という精巧な絵画にすることができるんだ」
「そうだったのですね。ゼルコバ殿のお知り合いとあれば、その写真というのを撮ってもらって構わない」
「ありがとうございます!」
「あっ、ゼルお兄様!私もお兄様との写真、いただきたいです!」
「おっと、そちらのご令嬢はどなたでしょうか?」
「紹介するよ、僕の妹のキエノ。それでこちらが僕の魔法の師匠、サイプレスさん。こっちは世界樹のツキとヨシノだ」
「キエノさんて、聖女キエノさんかな!?今最も熱い人じゃないかっ!あわわ、英雄達が集合してる!今日の記事は差し替えだっ!ところで皆さんはどういったご用件で魔法学院を訪れたのですか?」
「今日はゼルお兄様の授業参観ですよ。あとは私の学校見学です」
「英雄達が授業参観!?ゼルコバ商会長はつくづく規格外だねっ!」
ちなみに魔法学院の授業参観は随時受付可能である。
貴族の子女の場合、遠方から親族がやってくることもあるためだ。
また、入校に際しては教員の許可を取る必要があるため、これから職員室に向かわなければならない。
こうして僕らは生徒達の注目を集めつつ、魔法学院で授業を受ける事にしたのであった。




