075
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僕が使える全ての魔法を惜しげもなく応用して王都を捜索した結果、カルミアを殺した犯人と思われる容疑者はすぐに見つかった。
僕はまず【精霊魔法】でドライアドと合体し、樹木創造によって作り出したネズミ型魔木騎士をドライアドの分霊の依代とし、これを1万体ほど用意して王都チェリートピアに放った。
さらにネズミ型魔木騎士は魔導書コクーンと【精霊魔法】により接続されており、1万体のネズミ型魔木騎士から収集された情報を速やかに解析して結果を教えてくれる。
僕の頭の中には犯人の顔はしっかりと刻み込まれているため、これに近い顔の人物を探すように指示を出しておけば、すぐに容疑者を絞り込むことが出来る。
こうして絞り込まれた容疑者は、次の3名となった。
・パン屋の主人、トロンコ
・パン屋の主人、ペロンコ
・パン屋の主人、マロンコ
なぜ3名の容疑者が皆パン屋の主人なのかというと、実はこの3人は兄弟なのだ。
兄弟なので必然的に顔も似ており、ネズミ型魔木騎士による捜査では絞りきれなかったというわけだ。
僕はこの3人についてより詳細に情報を収集するため、ネズミ型魔木騎士に監視させることにした。
カルミアはかつて第五位階まで到達した冒険者だったというから、この3人のうちいずれかは第五位階魔法士を相手にして真っ二つに両断することが出来るほどの実力を持っていることになる。
また、魔法により崖崩れを意図的に引き起こして証拠隠滅を図ったわけだから、優れた魔法士であることも予想される。
しかし僕が数日監視した限りでは、この3人はいずれも気のいいパン屋の主人に過ぎない。
とてもそんな強力な魔法士であるようには見えないのだが、もしかすると実力を隠しているだけかも知れないので、このまましばらく監視を続けることにした。
ところで僕は今日、ツバキを連れてフジ山の精霊殿を訪れていた。
満月が近くなったため、精霊殿の時間は外界の5分の1の速度となっており、学校が終わった後に精霊殿で過ごしても、十分に余裕を持って滞在できる。
しかも、これまで別行動していたサイプレス、キエノ、ツキ、ヨシノ、スリーズも精霊殿に来ていると念話で連絡があったため、婚約者であるツバキをみんなに紹介したいと思ったのだ。
「みんな、久しぶり!元気そうで何よりだよ!」
「お久しぶりです、ゼルお兄様!ところでそちらの女性はどなた様でしょうか?」
「紹介するよ、こちら、マンティスアロー男爵家のご令嬢のツバキ・マンティスアローさんで、僕の婚約者なんだ」
「初めまして、ツバキと申します。皆様のお話はゼルコバさんから伺っております」
「まぁ!ゼルお兄様の婚約者の方だったのですね!私はキエノ・リョーマイケルと申します。どうぞよしなに」
「ほぅ、坊主に婚約者が出来たとは、これはめでたいな!」
「とは言ってもまだ父上や母上に報告していないし、ツバキのご両親にも挨拶出来ていないので、認めてもらえるかどうかわからないけど……」
「うちの両親はダメとは言わないはずです!でも私の方がゼルコバ君のご両親に認めてもらえるかどうか……」
「絶対に認めてもらうから安心して」
「はい、あなた」
「仲睦まじいようで何よりじゃの」
「ゼルコバ様、ツバキさん、心より祝福いたします」
「ぐっ、先を越されてしまった……。ゼルコバ殿、ツバキ殿、おめでとうございます」
スリーズはなぜか少し落ち込んでいたが、みんなにツバキを紹介することが出来て本当に良かった。
「ゼルコバ、ツバキ、おめでとう。さっそく2人の祝言を挙げましょう」
「いえ、カグヤ様、そこは貴族の端くれとして、きちんと段階を踏んでからにさせていただければと……」
「そうですか?では祝言はまたの機会とするとして、めでたいことには変わりませんので今日は宴会にしましょう。ツバキ、精霊御膳をたくさん食べるのですよ」
「精霊御膳?」
「ああ、そうだツバキ。精霊御膳をたくさん食べると、最大で魔力容量が元の10倍まで成長するんだ」
「す、すごい!それじゃあゼルコバ君も?」
「ああ、僕の元の魔力容量は10だから、10倍に成長した結果として100になったんだ」
「あっ……」
魔力容量の話題になるたびに、僕は惨めな気持ちにさせられる。
「でもツバキ、魔力容量を増やす前に必ずやらなければならない修行があるんだ」
「修行ですか!?興味があります」
「よかった。脳魔法という魔法なんだけど、体感時間を引き延ばして素早く動くことが出来るようになる。こんな風にね」
僕は脳魔法を使い、瞬間的にツバキから距離を取った。
僕は体の周囲を【性質変化】で生み出した風で覆っており、音速を超えた速度で移動することができる。
「す、すごい!その動きはコブス先輩と戦った時にもしていましたね」
「そうだよ、ツバキは目がいいんだね」
「弓を使いますので、視力には自信があります」
「素晴らしいことだね、それじゃあさっそく修行を始めるとしよう」
その後、ツバキは脳魔法の修行を開始し、なんと夕方までには脳魔法を習得することができた。
ツバキの魔力容量は【極めて少ない】ため、【鑑定】の精度が高かったようだ。
僕もサイプレスから【念動】の使い方について教えてもらったりしつつ、有意義な時間を過ごしたのだった。
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「そう言えばキエノ達の功績集めは順調かな?」
「はい、今は継続して小さな功績を積み重ねています!」
「キエノはもう【精霊魔法・奥伝】を授かるのに相応しい功績をあげています。悪霊都市を解放したのが大きかったですね」
その日の晩、僕らは相変わらず美味しい精霊御膳に舌鼓を打っていた。
今日はタケノコの炊き込みご飯と鮎の塩焼きに松茸の土瓶蒸し、デザートにみかんが出た。
春夏秋冬の味覚を同時に楽しむことができ、とても贅沢な宴会となった。
「悪霊都市?もしかして悪霊に支配された場所だったの?」
キエノ、サイプレス、ツキ、ヨシノの4人は、【精霊魔法・奥伝】を習得するために、チェリーリア王国を旅してまわっていた。
大精霊カグヤによると、【精霊魔法・奥伝】を授かるために必要な功績は小さなものを積み重ねてもよいとのことだ。
国家を揺るがすような大事件を解決せずとも、小さな事件や問題を解決することでも、魂の器は少しずつ成長するらしい。
「そうだぜ、坊主。キエノ嬢ちゃんは聖女と呼ばれているんだ」
「サイプレスおじさま、その話はしないでくださいませ!」
「かかか、これはすまん」
キエノが珍しくむくれている。
キエノは聖女と呼ばれることに抵抗があるようだ。
「それにしても悪霊がたくさんいる都市を解放するだなんてすごいね。僕なんか悪霊一体を祓うのにすごく苦労したのに」
「それは私の固有魔法【聖天】が悪霊退治に相性がよかったからですわ」
「キエノ嬢ちゃんの魔法で悪霊が溶けるように除霊されるのはやばかったぜ」
「キエノの魔法は悪霊相手に劇的に効くからのぅ」
「素晴らしい魔法だと思います」
サイプレス、ツキ、ヨシノの3人がキエノの魔法の威力を思い出し、口々に絶賛した。
キエノの固有魔法【聖天】は聖なる属性を含んでいるため、裏魔法を使わなくても悪霊を祓うことが出来るらしい。
「えっと、もしよければキエノの武勇伝を聞かせてくれないかな?」
「言いたくありませんわ」
「まぁまぁ、そうむくれないで。キエノの活躍を知りたいんだよ」
「なんてことありませんわ。功績集めの旅の途中で困っているというお話を聞きましたので、少し魔法を使っただけですの」
「その結果として聖女と呼ばれるようになったってわけだな」
「そう言えば聖女って何かな?」
「それはじゃの、フォレスティナ様のオリジナル木像が祀られている大きな教会があるのじゃが、そこに教皇という者がおって、悪霊都市を解放した功績を讃えてキエノを聖女に認定したのじゃ」
「え!?教皇から聖女に認定された?すごいじゃないか!」
「ぜんぜんすごくありませんわ!」
「少し困った方に付き纏われるようになってしまいましたしね」
「あー!思い出させるのはおやめください!」
「そう言えばキエノ嬢ちゃんは王様から勲章が授与されることになったから、王都に呼び出されていたっけな?」
「キエノには桜花勲章が似合うと思いますよ」
「あ、ありがとうございます……」
桜花勲章は世界樹であるヨシノの推薦がないと貰えない、特別な勲章だ。
現在桜花勲章を持っているのは、ヤエ公爵と僕だけだ。
桜花勲章は素晴らしい栄誉であるが、キエノはあまり嬉しそうではない。
ヨシノが言う「少し困った方」という人に問題があるのだろうか。
「まぁまぁみんな、本人も嫌がっているようだし、あまり深く追求しないことにしよう」
「さすがはゼルお兄様ですわ!そうだ、今度私が第八位階に到達したら一緒にフォレスティナ様に会いに行きましょうね」
「えっ、もう第八位階に!?」
「はい、あと数年のうちには必ずや第八位階に到達してみせます!魔力消費量が第八位階に到達した後にフォレスティナ様のオリジナル木像に祈りを捧げると、第八位階魔法を授けてもらえるそうですわ」
第八位階魔法【神化】
それは究極の諸刃の剣だ。
使うと一時的に神の如き魔法を使うことが出来るようになるが、一定時間経過後には神界に行かなければならない。
また、一度神界に旅立つと、2度と現世には戻ってこれないとされている。
「そうだったんだね、それじゃあキエノが第八位階に到達したら、一緒にフォレスティナ様に会いに行こう」
「はい!」
キエノはすっかり元気を取り戻し、もりもりと精霊御膳を食べ進めた。
第八位階魔法は人類では到達不可能とされる領域で、その域に到達したのは人間では勇者リョーマのみだという。
人間より遥かに長い寿命を持つ樹木は長い年月をかけて魔木となり、精霊殿で修行を積んだ後に第八位階に到達するという。
かく言うツキやヨシノもそのような過程を経て第八位階魔法を習得し、世界樹となった。
その域に僅か数年で到達するとは、我が妹ながら聖女に相応しい活躍だ。
僕の場合には太陽光を浴びている限り無限に魔法を使うことができるので、もちろんすでに第八位階に到達している。
しかし第八位階魔法【神化】は今のところ使う予定がないので、習得は後回しにしていたのだ。
あと、実は第八位階魔法を習得せずに第九位階まで到達するとどうなるか気になっているので、みんなには内緒で目下実験中だったりする。
僕は魔導書コクーンを通して数万体の魔木騎士に日中は魔力を供給し続けており、日常生活をしている間にも膨大な魔力を消費することが可能となっていた。
第九位階にはもうすぐ到達できそうなので、そのまま第十位階も目指すつもりだ。
やっぱり十という数字はキリがいいので、なにかご褒美が用意されていると嬉しいなと考えている。
「あ、そう言えばツキとヨシノにお願いがあったんだった。僕の魔導書コクーンのコピーを2人の本体の近くに置いておきたいんだけど、許可して貰えないかな?」
「魔導書のコピー?もちろん問題ないが、どう言う意味があるのじゃ?」
「今度ブルーフォレスト商会を立ち上げることになったんだけど、魔法のタブレットに常時接続できるサーバーが必要なんだよね。2人の本体の近くなら安全だろうし、万が一2人の本体が襲撃を受けた時にもすぐに対応できるようになるから」
ブルーフォレスト商会で配布する予定の魔法のタブレットは、編集長であるラティフォリアやFクラスのみんなが作った記事を掲載する予定だ。
魔法のタブレットは機能に制限をかけた状態で配布する予定なので、それらを統合して一括で管理するためのサーバーがあった方が都合がいい。
今は王都リョーマイケル伯爵邸の裏庭に魔導書コクーンの本体を設置しているが、万が一これが破壊されるなどした場合に、予備のサーバーがあった方が良いだろう。
「何やら勇者ゼルコバはまたしても面白いことを考えているようじゃな。それでは久しぶりにアジュガローマに行ってみるとしよう。わしの治療もお願いしますぞ、先生!」
「わかったよ、それじゃあ今度の休みの日にアジュガローマに行こう!」
「ゼルコバ様は今王都の魔法学院に通っているのでしたね?それでは私の本体にも、お時間がある時にお越しください」
「ありがとうヨシノ。さっそく明日にでも一緒に来てくれないかな?」
「はい!」
こうして久しぶりに合流した僕らは、これからの予定などをお互いに話し合い、精霊御膳をたらふく食べたのであった。
ちなみに僕の魔力容量は上限に達しているため、これ以上増えることは無い。




