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しくしくと泣くツバキを宥めながら個室に移動した僕たちは、ジャカランダが淹れてくれた紅茶を飲みながら心を落ち着けることにした。
しばらくするとツバキは泣き止み、覚悟を決めたように秘密を打ち明けてくれた。
「実はマンティスアロー男爵家には家族以外には絶対に他言してはならない秘密があり、それがこの角と羽なのです」
そう言ったツバキの頭にはすでに角は無く、羽もいつのまにか引っ込んでいた。
しかし制服の背中に空いた穴はそのままなので、ツバキはポドカルパスのマントをそのまま羽織っている。
「マンティスアロー男爵家の初代様はかつて勇者リョーマ様と共に魔王を撃ち倒しましたが、その恋人は実は魔族の男性だったのです」
「魔族?それって敵じゃないの?」
「はい、初代様と恋人の魔族の出会いは戦場で、お互いに倒すべき敵同士でした。しかし戦いを重ねるごとにいつしか情が生まれ、瀕死の重傷を負った魔族を初代様が救命したことにより、2人の間には愛が生まれました。その後2人は結婚し、大魔王討伐の地であるリョーマ湾の警戒の使命を必ず果たすことを誓い、当時の国王陛下より男爵領を拝領したのです」
ツバキの角と羽の秘密は、どうやら初代様とその結婚相手の魔族にあったようだ。
2人は敵同士として出会ったものの、その後結婚し、その子孫は人間と魔族の混血となった。
その遺伝子がツバキにも脈々と受け継がれていたというわけだ。
思えば勇者に協力して魔王を撃ち倒した貢献者としては男爵家では家格が低すぎると思っていたが、そのような理由があったようだ。
しかも、マンティスアロー男爵領の領民1000人は皆戦うことが出来る戦闘員で、リョーマイケル伯爵家が保有する騎士団に匹敵する戦力を維持している。
どう考えても、男爵家に課されるべき重責ではない。
「そうだったんだね、話してくれてありがとう。僕はツバキさんが魔族の血を受け継いでいると知っても、全く気にしていないよ」
「ありがとうゼルコバ君。しかし私は魔法学院を去り、マンティスアロー男爵領に帰ろうと思います」
「そんな!これからツバキさんはどうするつもりなの!?」
なんとツバキは魔法学院を自主退学して故郷に帰るという。
せっかく仲良くなってパーティーまで組んだ仲なのに、それではあまりにも寂しい。
「私はマンティスアロー男爵領で歳の近い家臣の子供と結婚し、後継を作らなければなりません。その後は領内で魔王復活を警戒しつつ、余生を過ごそうと思います」
「ダメだそんなの!ツバキさんの人生はこれからなのに、自由が失われてしまうじゃないか!」
「心配してくれてありがとうゼルコバ君。ゼルコバ君と過ごした日々は一生の思い出になりました。私は十分、自由な日々を楽しむことが出来ましたよ」
とてつもなく寂しい話だ。
ツバキと過ごす時間は、僕にとってすでになくてはならないほど大切なものだった。
魔法学院のクラスメイトや冒険者仲間として以上に、僕にとってツバキの存在はなくてはならないものだと魂が叫んでいる。
ツバキのように気の合う女の子は、もう2度と僕の目の前に現れないかもしれない。
このままだとツバキはマンティスアロー男爵領に帰り、誰か知らない男と結婚してしまうぞ。
何か方法はないのか!?
「そうだ、ツバキさん、この話は家族以外に話してはならない秘密だと言ったね?」
「そうです」
「ならば僕がツバキさんの家族になれば問題ないんじゃないかな?」
「え?それはどういう意味ですか?」
「こういう意味だよ」
頭の上にはてなマークを浮かべるツバキの前に僕は跪き、【精霊魔法】でドライアドと合体して樹木創造を使い始めた。
イメージするのは、この世に2つとない至高の逸品だ。
僕の持つありったけの魔力と技術で最高の婚約指輪を作り、ツバキに婚約を申し込むのだ。
僕は樹木創造によって生み出した魔木の指輪に、綺麗に整列させた魔力の粒を込めていった。
さらに神気も込める。
神気と魔力を同時に使ってもお互いに混ざり合うことは今までなかったが、魔力の粒を意識して操作できるようになった今では、それが可能となったようだ。
整列した魔力の隙間に神気が充填されていき、やがてそれは虹色の光沢を持った神々しい指輪となった。
「僕と婚約してくれないだろうか、ツバキ・マンティスアローさん」
「えっ?えっ?ゼルコバ君?」
「僕は真剣なんだ。ツバキさんと過ごす時間は他の何にも変え難い。短い時間しか一緒に過ごしていないけど、これから家族として共に人生を歩んでいきたいと思う。僕と婚約してください!」
「そ、そ、そ、そんな……」
「そんな?」
「そんな幸せな人生が送れるとは夢にも思いませんでした。私でよければ、貰っていただけますか?」
「もちろんだ、ツバキさん!僕と婚約してください!」
「はい」
パチパチパチパチ
「ゼルコバ少年、ツバキ姫、婚約おめでとう。とてもお似合いの2人だと思うよ」
「あら〜ん、ロマンチック〜。若いっていいわねぇん?」
家族以外に魔族の件を話してはならないとすると、ポドカルパスとジャカランダの口を封じる必要があるが、いい雰囲気なのでその話はやめておこう。
「ところでゼルコバ少年が裏魔法が使えない理由がわかったよ」
「え!?なんでしょうか?」
「先ほどゼルコバ少年が使っていた魔法には神気が含まれていたようだ。ゼルコバ少年は勇者だったんだね。ならば裏魔法は使えなくて当然。勇者の魂には神気の大樹が宿るとされており、魂を解放した時に発動するのは、裏魔法ではなく神魔法だとされている」
なんと、僕の魂には神気の大樹が宿っているため、僕は裏魔法が使えないのだという。
その代わりに使えるのは、神魔法という魔法なのだそうだ。
神魔法には聞き覚えがある。
コウヤ山の大精霊クウカイが概略を教えてくれた超強い必殺技が、神魔法と呼ばれる魔法だったからだ。
しかし神魔法を使うにはもっと魂を大きく育てる必要があるため、以前教わった時には発動することが出来なかった。
「神魔法、しかしそれは僕にはまだ使えないと思っていたんですが……」
「魂は日々成長している。ゼルコバ少年は魔法学院に入学し、仲間を得て、色々な活動を通して多くの人とそれぞれの関係性を築いている。勇者が人々に導きを与えるように、人との出会いが勇者を成長させる糧となるんだよ。これまで出来なかったこと、見えなかったもの、不可能だったことも、今ならできるかもしれない。さらに、ツバキ姫と婚約したことで、ゼルコバ少年の魂はさらなる飛躍を遂げたことだろう」
ポドカルパスが僕に重要な気づきを与えてくれている。
大精霊の試練は、完全に達成せずとも僕に良い影響を与えているのだ。
未だ道半ばではあるが、僕の魂は日々成長し、神気を十分に扱うことができる大きさに達しているのかもしれない。
「それでは試してみよう。私がこれから裏【強化】を使うから、神気をもって我が魔法を打ち破ってみるのだ、いくぞ!」
「はい!」
すると再び、僕の全身に倦怠感と脱力感がまとわりついてきた。
ポドカルパスが使う、裏【強化】の効果に違いない。
先ほどは抵抗できなかったが、今度は神気と魔力の融合魔法で【強化】を試してみることにするぞ。
「神魔融合【強化】!っ!出来た!」
僕の全身を覆っていたポドカルパスの裏【強化】が霧散し、僕の体にはかつてない力がみなぎっていた。
魔力だけを用いた時とは違い、さらに1段階上の出力となった【強化】だ。
「さらに、今度は神気のみで魔法を使ってみます!神【強化】!」
その瞬間、僕の全身から眩い虹色の光が発せられ、僕の体は垂直に吹き飛んだ。
僕はイタコ組合の天井を突き破り、そのまま外へと飛び出してしまったのだ。
そして一瞬で神気切れとなった僕は、そのまま落下していった。
僕は危うく地面に激突する寸前に意識を取り戻すことが出来たため、風ジャンプの応用で受け身を取ることができた。
風ジャンプはサイプレスに魔法を習ってから、意識して練習を続けている、最も基礎的な魔法の1つだ。
基礎練て大事なんだなと思った僕であった。




