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「そそそ、それでは私は準備があるので、広場で待っていてください」
「はいは〜い、それじゃあ坊や達はアタシと一緒に入会試験するわよ〜ん」
「入会試験!?一体どんなことをするんですか?」
「決まっているじゃな〜い、裏魔法が使えるかどうかチェックするのよ〜ん?」
裏魔法
裏魔法は先日、魔法実習の際にポドカルパスに課題として出されており、僕はまだ裏魔法を習得していない。
霊媒師になるには裏魔法の習得が必須だということなのだろうか。
「それじゃあ衣装があるならそっちの着替えスペースを使ってちょうだいねぇん?」
「衣装?特にありませんが」
「私もこの服装で大丈夫です」
「あらそうなのねぇん?」
僕らの今日の服装は、いつも通りの動きやすい軽装だ。
特に防御力が高いわけではないが、普段身につけている身軽な服装で十分に戦闘もできる。
防御力は魔法で補えば良いだけの話だ。
「それじゃあこっちよ〜ん」
「「はい」」
ジャカランダに案内されたのは先ほど通過してきた広場だった。
個性的な霊媒師達が昼間からだべったり作業したりと、それぞれ思い思いに過ごしている。
「じゃ、裏魔法をなんでもいいから使ってねぇん。一つでも発動できれば合格よぉん?」
「裏魔法は練習中なので、ちょっと時間をもらってもいいですか?」
「もちろんよぉん。どうしても出来ないようならオネェさんが手取り足取り教えて、あ、げ、る、ちゅ!」
だからそれやめろ!
僕の思考は千々に乱れながらも、ポドカルパスが見せてくれた【性質変化】鬼火を思い出していた。
炎は本来熱を発しており、ご存じのとおり触れば熱い。
しかしポドカルパスが生み出した鬼火は、熱いどころか周囲の熱を奪っており、逆に冷たい。
どうしてこのような現象が起こるのか、まだ僕には理解できていなかった。
「挑戦あるのみだ、第一位階魔法【性質変化】鬼火」
すると僕の手のひらの上には、蒼い炎が生み出された。
普通に熱いし、なんなら通常のファイアーボールよりも高温の、蒼炎と呼ばれる炎だ。
「ダメよそれじゃ、ただの強力なファイアーボールじゃない。魔法士なら合格だけど、霊媒師としては不合格ねぇん。やっぱりベッドの上でアタシが直接教えてあげるしかないようねぇん」
お巡りさん、コイツが犯人です!
「冗談よぉん。あ、ポドちゃんが来たみたいだから、お師匠様に教わった方がいいわよねぇん?」
「フッ、待たせたなお前達!」
「「ポ、ポドカルパス先生!?」」
颯爽と登場したポドカルパスは、道化師のような仮面で顔を覆っており、ツヤツヤテカテカの黒マントとシルクハットを身につけていた。
その手にはステッキが握られており、まるで怪盗紳士のような出立ちだ。
「我が名は怪盗ポドカルパス!悪霊怨霊から王都を守る、愛と正義の霊媒師なのだっ!とうっ!」
ポドカルパスは掛け声と共に風ジャンプで跳躍し、僕らの目の前に華麗なる着地を決めた。
いつもは普通の中年男性なのに、仮面をつけた途端、ポドカルパスは豹変した。
ポドカルパスは話し出す時に少し吃る癖があるのだが、先ほどの口調はいつものポドカルパスとは全く別人のようだ。
「ゼルコバ少年、ツバキ姫、裏魔法が使いたいか!?」
ツバキ姫!?
「は、はい!使いたいです!」
「ならば魂を解放しろ!話はそれからだぞ」
「た、魂を解放?一体どうすれば??」
「そんなの決まってるじゃない、ありのままの自分を曝け出せばいいのよ、ポドちゃんやワタシのようにね」
ありのままの自分
僕にはそんなもの、無い。
いや、普段通りにしているのがありのままの自分だ。
ともかく、僕には他人には見せられない真の自分なんてものは無い。
「そんなことないわよぉん。だって、その証拠にゼルコバちゃんは裏魔法が使えない。一生自分に嘘をついて生きていくつもりなの?」
「う、嘘をついているわけではありませんが……」
「それならこの場で全ての服を脱ぎ捨てるといいわ。そうすれば新たな世界が見えるかもねぇん?」
僕にこの場で全裸になれというのか!?
そんなことしたら見えてくるのは新たな世界ではなく、騎士団に連行されて地下牢に幽閉される未来だぞ。
しかしイタコ組合には個性的な服装や露出が多い服装の人間が多い理由がわかった。
みんな魂の解放を得るために、それぞれオリジナリティあふれる格好をしているのだ。
確かにこれは建物で囲まれた隔離空間を用意する必要性がある。
こんな人たちが公道に面したところでたむろしていたら、通報間違いなしだ。
「私は人前で肌を晒すくらいなら舌を噛んで死にます」
ツバキが貴族令嬢らしい貞淑な発言をしている。
かつて僕が暮らしていた日本ならば、最先端ファッションだと言えば、大事なところさえ隠されていればそんなに大事にはならないかもしれない。
しかしここは異世界で、貴族が存在する封建社会だ。
女子は公衆の面前で素足を晒してはいけないし、ましてビキニアーマーなんて絶対にダメだ。
「うーん、じゃあしょうがないから霊媒師になるのは諦めることねぇん?」
「そ、そんな。服を脱がずになんとかなる方法はありませんか、ポドカルパス先生」
「フッ、大変熱心で結構なことだ。ゼルコバ少年よ、服装はあくまでも魂の解放を得るための手段に過ぎない。本質的には自らの魂を認識し、それを自由に操ることなのだっ!とうっ!」
ポドカルパスはまたしても無駄に風ジャンプで跳躍し、僕から少し距離をとった。
「その熱意に協力し、ゼルコバ少年とツバキ姫の魂に裏魔法を使い、魂に直接教えてあげるとしよう。しかと見よ、悪霊怨霊はこのような攻撃をしてくるぞ。裏第五位階魔法【強化】!」
「こ、これは!」
「っ!」
ポドカルパスが裏第五位階魔法【強化】を使用した瞬間、僕の全身から力が抜けていくような感覚があり、次第に立っていることすらつらくなってきた。
これは【強化】の逆の効果、弱体化だ!
「裏魔法の【強化】は相手の力を奪う効果があるぞ!魂を解放して、これを打ち破ることができなければ、悪霊怨霊とは相対することができない!心してかかれ、とうっ!」
ポドカルパスはまたしても風ジャンプで無駄に跳躍している。
「ぐっ、こ、これは思ったよりキツい」
裏魔法【強化】に対抗するために僕も【強化】を発動しているが、体中の力がどんどん失われていく。まるで穴の空いているバケツに水を注いでいるような気分だ。
しかし悪霊怨霊がこんな凶悪な魔法を使ってくるとしたら、それを知らずに遭遇しなくて良かった。
これを克服しなければ、僕はいずれ悪霊怨霊と遭遇して敗北するに違いない。
「んじゃあアタシも行くわよぉ、裏第三位階魔法【念動】!」
「こ、これは、アヒャ、アヒャヒャヒャ!」
ジャカランダが使ってきたのは【念動】によるくすぐり攻撃だ。
しかし普通の【念動】は自らの魔力しか動かせないはずなのに、裏魔法の【念動】により僕の魔力が勝手に操作されてくすぐられている。
僕も対抗して魔法を発動させようにも、思った通りに魔力を練ることができない。
恐るべし裏魔法!
「あは、あははは、ひひひひ!やめ、やめて、やめてよぉ!!!」
バチィン!
ツバキが裏【強化】と裏【念動】の波状攻撃に苦しめられていたところ、何かが裂けるような大きな音がして、あたりに土煙が舞った。
「ほう、我が裏魔法を打ち破るとは。ツバキ姫、おめでとう、合格だ!」
「やるじゃないお嬢ちゃん、ワタシの見込んだ女だけのことはあるわねぇん」
「えっ!?ツバキさん、おめでとう!!」
なんとツバキが先に裏魔法を習得してしまった。
僕はこれまで魔法の習得は得意な方だと思っていたけど、僕を上回る才能がここにいたのだ。
「あ、あれ?私、一体……?」
「すごいやツバキさん、裏魔法を習得したんだね!ん?その角と羽は一体?」
「えっ?角?羽?」
土煙が晴れてくると、ツバキの頭部に角が一本生え、背中に蝙蝠羽が一対生えているのが見えた。
それはいつか見た、魔族のモニリニアや魔族に変身したアーコレードとそっくりな角と羽であった。
ツバキは自らの体に起こった変化に気がつき、みるみるうちに顔が青ざめていく。
「キャ、キャァァァァ!!!」
「ツ、ツバキさん!?」
ツバキは涙を流し、その場にうずくまってしまった。
「とうっ!」
ポドカルパスが颯爽と現れ、纏っていたマントをツバキの体に覆い被せた。
幸いなことに土煙が功を奏し、ツバキの角と羽を見たものは、僕らの他には誰もいなかったようだ。
「ツバキ姫、怖い思いをさせてしまったね」
「イタコ組合の個室を開けるから、お茶でも飲んで少し休憩しましょうねぇん?」
僕らはシクシクと泣くツバキを慰めつつも建物の中に入り、個室にてお茶をいただいて心を落ち着けることにした。
ツバキの身に起きた異変の理由を、僕はまだ知らない。




