066
僕がコブスと一緒に校庭に向かうと、なぜかそこには上級生達が集合していた。
校庭の真ん中は空いており、壁に向かって魔法の練習をしている者は誰もいない。
皆、これから始まる最高の見せ物に、心躍っているのだ。
「キング頑張れー!今月の小遣いは託したぞー!」
「一年さっさと負けろー!来月の小遣いもつぎ込んだぞー!」
「ヒューヒュー!闘いがはじまるぜぇ!イエァ!」
暇な2年生と3年生が、僕とキングの闘いを心待ちにしている。
しかもこの絶好の機会に、上級生達はどっちが勝つのか賭けをしているようだ。
「はいよー!どっちが勝つか予想してー!倍率はコブスが2.2倍、ゼルコバが7.8倍だよー!ぐっしっし」
クイーンであるニシキが賭けの胴元をやっていた。
ニシキ先輩に返さなければならないご恩が、また一つ増えてしまったようだ。
「コブス先輩、僕はあなたと闘いたくありません。魔法学院のキングはあなた以外にはあり得ません」
僕はコブスと一緒に校庭に出たが、それはFクラスのみんなを安心させるためだ。
キングの座には興味なかったので、僕が退けばよいのであれば臆病者の謗りを受けよう。
「あぁ?てめぇ舐めてんのか?学生のお遊びと思うなよ、キングってのはそんな生優しい称号じゃねぇんだよ。魔法学院の最強背負って生きてんだ、命懸けなんだよ!」
コブスはキングの座に命を懸けているというが、本気の殺し合いを経験したことのある僕からすると、それは学生のお遊びに過ぎない。
コブスはベルセルク・ライカンスロープロードが本気で襲いかかってきた時、果たして同じ事を言えるだろうか。
「わかりました、お相手させていただきます。どのようなルールで闘いましょうか?」
「あぁん?なんでもありに決まってんだろ。魔法あり、武器ありだ。俺は殺し以外なら大抵のことは許されるんだよ」
犯罪をもみ消してもらえるような口ぶりから推測するに、コブスはいいところのお坊ちゃんのようだ。
なんでもありと言われてしまったが、学生相手なので多少手加減はしてあげないといけないだろう。
僕とコブスが校庭の真ん中に進んでいくと、審判を買って出たニシキが試合開始の合図をした。
「それじゃあコブス対ゼルコバ!試合開始!」
「がははは!ニシキ、俺がこのガキをぶちのめすところをよく見ておけよ!俺のことを元キングと呼んだことを謝罪させてやるからな!」
「いいから早くおやりよ」
「うっせぇ!わかってんだよぉ!」
コブスは怒鳴り散らしながら僕に殴りかかってきた。
その拳にはメリケンサックのような凶器が握られており、第五位階魔法【強化】により岩をも砕くほどの威力になっていることだろう。
ガツン!
「ぐえ!」
しかしその拳は僕には届かない。
最低でも僕の魔法障壁を突破しなければ、僕には一切の攻撃が通らないからだ。
ちなみに世界樹をイメージして作り出した僕の魔法障壁は、普通の岩なんかよりも遥かに強堅だ。
「ひ、卑怯だぞ、この臆病者!」
「卑怯?なんでもありなのでは?それでは魔法障壁は解除しましょう」
コブスの言うところによると魔法障壁は卑怯だと言うことなので、禁止されてしまった。
別に僕としては全く問題ないので、魔法障壁は使わないことにしよう。
「おら、死ね!」
パシン
またもコブスが殴って来たので、僕はその拳を軽く受け止めた。
脳魔法を使うまでもなく、コブスのおそーいパンチを受け止めるのはとても容易い。
「なっ!俺様の拳を受け止めただとぉ!?どんな魔法を使ってやがるんだ?」
あなたと同じように【強化】しか使っていませんが。
ただし、コブスの【強化】は雑すぎて、僕の【強化】と比べるとその出力には大きな差がある。
僕は筋肉の繊維一本一本を意識して【強化】しているが、コブスの【強化】は全身に分散しているため、消費した魔力に比べて得られる恩恵が少ないのだ。
「ちくしょう、こうなったら、固有魔法【金剛盾】!」
コブスが固有魔法【金剛盾】を使用すると、コブスの周囲に六つの魔法盾が出現した。
そのうち二つを自らの両拳に装着し、残りの四つで僕の逃げ場を塞ぐつもりのようだ。
「俺様の【金剛盾】は決して砕くことができない、最強硬度の魔法盾だ!この【金剛盾】で俺は魔法学院のキングの座を勝ち取った!くらえ、ダブルシールドバッシュ!」
コブスの固有魔法【金剛盾】は、決して砕くことのできない最強の盾だという。
ちょうど僕も盾を使った戦闘が得意なので、どちらの盾がより強いか試してみよう。
僕は魔木の指輪を通して魔力バックラーを生み出すことにした。
そう言えば、ファイアーボールでもそうだったように、魔力の粒を制御してうまく配置することで、魔法の威力も格段に上がるらしい。
僕の魔力バックラーは元々は魔法障壁を応用して作り出しているが、これに一工夫して魔力の粒を揃えてみてはどうだろうか。
僕は魔力の粒を意識して魔法を使うことで、今まで以上の密度で魔力を込めることができるようになっていた。
これは当然の話で、てんでバラバラに魔力を押し込むと無駄な空間が多くなってしまうからだ。
魔力の粒を揃えて綺麗に整理整頓してあげれば、これまで魔力バックラーに込めていた魔力を遥かに上回る量の魔力を込めることができる。
「第一位階魔法【性質変化】魔力バックラー」
「第一位階魔法だと?そんなもんで俺様の第六位階魔法に敵うわけねぇだろうが!」
【性質変化】により僕が生み出した魔力バックラーは、高密度な魔力の粒を綺麗に揃えて作り出したもので、神々しい静謐さで僕の右手に現れた。
魔法を使う際に魔力を込めすぎると光を放って制御出来なくなるが、この魔力バックラーは全く光らず、静かさの中に圧倒的な存在感を内包していた。
何か途轍もないものを作り出してしまったような気がするが、この魔力バックラーを使ってコブスの【金剛盾】を打ち破ろうと思う。
「おらぁ、死ねぇ!」
パリン
「ん?」
何かが砕け散るような音がして、コブスの【金剛盾】は無惨にも破壊されてしまった。
パリン、パリン、パリン
「んんん???」
僕に圧をかけるつもりでコブスが動かしていた【金剛盾】4枚は、僕の魔力バックラーによる打撃で次々と砕け散ってしまった。
残るはコブスが両手に装着した2枚の【金剛盾】のみである。
「ちょ、ちょっと待て」
「どうしました?」
「一回休憩だ。水を取ってこい」
「は、はあ」
「いいからさっさと行け!」
「わかりましたよ」
水を取ってこいというコブスからの謎の指示により僕が後ろを振り返ったその時、諦めの悪いコブスは卑怯にも背を向けた僕に殴りかかって来た。
「隙ありぃ!なんでもあり、勝てばいいんだよぉ!」
「残念ながらその程度では僕には勝てませんよ」
脳魔法発動。
すると体感時間は引き延ばされ、コブスの動きは停止した。
コブスの動きは鈍いので、そんなに脳に負担をかけずとも良いので楽で助かる。
これがベルセルク・ライカンスロープロードのベルを相手にしている時だと、あと2段階ほど脳魔法の精度を上げて、ようやくまともに打ち合える速度となる。
パリン、パリン
「おまけにデコピン」
ドゴォン!!
ものすごい派手な音を立てて、卑怯者のコブスは校庭の反対側に吹っ飛んでいった。
僕はデコピンを放つ際に、風魔法を合わせて放っていた。
この風魔法も、きちんと整列させた魔力の粒を用いたものである。
魔力の粒をきちんと整列させて魔法を使うと、魔力消費はそれほど多くしなくても桁違いの威力となる。
いつもの感覚で魔法を使うと、やりすぎてしまうこともあるようだ。
「わぁぁぁ!コブスが吹っ飛んだぞぉ!」
「1、2、3、ダメだぁぁぁ!コブス選手、立ち上がることが出来ません!挑戦者ゼルコバの勝利!新キングはなんと一年生です!」
「「「「「うぉぉぉぉ、キング、キング、キング、キング!」」」」」
鳴り止まないキングコールに、僕は静かに右腕を挙げて応えた。
僕の頬を一条の涙が伝い落ちる。
ーーーどうしてこうなった。
こうして僕は魔法学院の新キングはとなったのであった。
ニシキ先輩覚えてろよ。




