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放課後。
「そそそ、それでは放課後の校庭使用についてルールを説明します」
僕、ツバキ、ショウゲツ、クロマの4人は放課後の魔法訓練のため、校庭に集合していた。
僕らの前にはポドカルパスがおり、校庭使用のルールについて教えてくれることになっている。
シルベストリスは取りに行くものがあると言って、少し遅れてくるそうだ。
あたりを見渡すと、1年生で僕ら以外に校庭を使おうというものは他にいないが、2年生3年生の先輩達は何組か魔法の訓練をしているようだ。
「ほほほ、放課後は日が暮れるまでの間は自由に校庭を使って魔法の自主練習をすることができます。ただし、他の生徒の迷惑にならないように、お互いに適切な距離を取って魔法を使うようにしてください」
「それでは校庭利用に関して特に申請とかは必要ないということですか?」
「ゼゼゼ、ゼルコバ君、その通りです。しかし担任の先生に規則を確認するという判断は、とても適切でしたよ」
「ありがとうございます」
「さささ、さぁどうぞ、魔法の自主練習をしてください。くれぐれも安全には気をつけて魔法の練習をするようにしてください」
至極当たり前な注意事項を伝えると、ポドカルパスは校舎に戻って行った。
校庭の利用については自由に使ってよかったみたいだ。
さっそく東面の的に向かって魔法を使ってみようかな。
「ゼルコバ君、お手本を見せてよ」
「お手本?えっと、僕にできる魔法なら大丈夫だけど、どんな魔法がいいの?」
「ありがとう!それならファイアーボールが見たいな。【性質変化】で炎を作るのは出来るんだけど、【形状変化】で球状に形を変えるのと、【念動】で火球を飛ばすのがけっこう難しいんだ」
ファイアーボール、つまり火球のことだ。
これは最も初歩的な攻撃魔法でありながら、3つの魔法を同時に発動させる必要があり、習得難易度は意外と高い。
「わかった、ファイアーボールだね。それならまず安定した炎を維持できるようにすることと、炎を綺麗な球状に保つことに集中してみたらどうかな」
僕はショウゲツ達に見せるため、敢えて分かりやすいように炎を手のひらの上で球状にし、ゆっくりと上下させて見せた。
「うわー、やっぱりゼルコバ君はすごいなぁ。魔法を発動させるのが速くて正確だし、火球の動きもスムーズだ。それに比べて僕なんかは……」
「よいしょっと、あら、ごめんあそばせぇ!おほほほほ」
遅れてきたシルベストリスが、何やら一抱えもある木箱を持ってきた。
よく見ると中にはリンゴがぎっしりと詰まっており、けっこう重量がありそうだ。
ちなみにリンゴ一個は金貨一枚相当の価値があるので、この木箱一つだけでもかなり高額である。
「シルベストリスさん、その木箱に入ったリンゴは何かな?」
「え?魔法の訓練をするんでしょう?火傷対策にリンゴは必要じゃない」
火傷すること前提の魔法訓練って、そんなの聞いたことがないぞ。
「あら、ゼルコバ君はファイアーボールを使うのが得意なのね。私も実はファイアーボールは得意なの。むむむ、出でよ、ファイアーボール!」
「みんな伏せろ!」
シルベストリスが魔法を発動した瞬間、膨大な魔力が突如として手のひらに集中し、巨大なファイヤーボールが放たれた。
それだけならまだいいのだが、生み出されたファイアーボールはコントロールを失い、あろうことが東面の壁の方向ではなく、全く違う方向に向かって飛んでいってしまったのだ。
そしてその先には上級生の先輩達が魔法の訓練をしているのが見える。
「(脳魔法発動だ!)」
僕は咄嗟に脳魔法を発動し、体感時間を遅くした。
僕は音速を上回る速度で疾走し、暴発したファイアーボールに迫る。
僕はこの2年間で脳魔法にさらに磨きをかけ、体表面に纏った風魔法を操作することで、音速を超えた速度で移動することが可能となっていた。
学校には神の枯枝は持ち込むことができないので、僕は魔木の指輪を通して魔力バックラーを生み出し、制御を失ったファイヤーボールを殴り飛ばした。
ファイヤーボールは殴られた衝撃で爆発したが、その爆風すらも追いつかないスピードで、僕は速やかに元の位置に戻っていた。
空中に魔法障壁を生み出し、それを踏み台にして移動したのだ。
この間、瞬きする程度のわずかな時間しか経過しておらず、僕がファイアーボールを殴り飛ばして戻って来たことを察知できたのは、かなりの実力者だけだろう。
ドォン!
一拍遅れて、ファイヤーボールの爆発音が魔法学院の校庭に響く。
シルベストリスの魔法は威力だけは申し分ないが、制御不能だとすると間違いなくいずれ味方を巻き添えにして大被害を与えることだろう。
シルベストリスは魔力のコントロールについて、じっくりと習得する必要がある。
「なんだ、何事だ?」
「一年生が魔法を暴発させたらしいぞ」
「おいおい、放課後の校庭使用はマナーを守って欲しいもんだな」
突然の爆発に驚いた先輩達がわらわらと集まってきてしまった。
それもそのはず、背後から不意打ちで攻撃されることなど誰も予想していないので、先輩方を驚かせてしまったようだ。
「す、すみません、私の魔法が拙いばかりに……」
「シルベストリス、お前は基礎から魔法を勉強しなおした方がいいぞ」
「面目ありませんわ」
シルベストリスはショウゲツに叱られてしゅんとしている。
もしかすると、1限目の魔法実習の時間に聞こえた爆発音も、シルベストリスが原因だったのかもしれない。
「おうおう、一年よぉ、校庭の使用はマナーを守る必要があるって教わらなかったのか?」
「危うく人が死ぬところだったんだぜぇ?」
すると、大柄な上級生が僕らに向かって怒声をあげて迫ってきた。
彼らの言うところ、もっともである。
「す、すみません、私が魔法を暴発させてしまいました」
「俺からも謝罪させてください、ご迷惑をおかけしました」
シルベストリスは恐縮して上級生に謝罪し、ショウゲツもAクラス代表として謝罪した。
「謝ってすむ問題だと思ってんのか!?」
「おやめ、アンタ達。しつこいよ」
大柄な上級生がさらに詰め寄ってこようとしたところ、威勢の良い女性の上級生の声が割って入った。
「「ク、クイーン!」」
「あの子達も謝っているじゃないか。初心者が魔法を暴発させることなんて良くあることさ。後ろから魔法が飛んでくることもあるんだから、気を引き締めて訓練することだね」
「クイーンがそう言うなら……おい、一年、次は気をつけろよな!」
「は、はい!申し訳ありませんでした!」
クイーンと呼ばれた上級生が大柄な上級生を嗜めると、彼らはいそいそと立ち去っていった。
「アンタ達、面倒くさい奴に絡まれて災難だったね。アタシはニシキ・ブラックパイン、魔法学院三年生で、クイーン背負ってる。よろしくな!」
「おねーちゃん!」
「よう、クロマ。友達と魔法の自主練か、頑張ってるようだね」
なんとニシキはクロマの姉だったようだ。
ニシキは支給された制服を改造してコートのように羽織っており、薄手のシャツの下にはサラシをキツくしめて上半身を固めている。
さらに靴はイカついブーツで、ダボダボのヤッケズボンを履いている。
鳶職人が履いているようなやつだ。
見るからに気合いが入っており、女番長というイメージがぴったりだ。
「ところで少年、さっきの動き、ビビッと来たぜ!キングの座を狙ってんだろ?今から現キングをぶちのめしにいこうぜ?」
「え、えーと。申し遅れました、ゼルコバ・リョーマイケルと申します。ところでキングとかクイーンてなんなんですかね?」
どうやらニシキは先ほどの僕の動きを目で追うことができていたようだ。
このことからも、ニシキはかなりの実力者であることがわかる。
ところで、僕はFクラスのクラスメイト達から影でキングと呼ばれていることを知っている。
どう言う意味なのかは前から気になっていたのだ。
「はん、意味なんて一つしかないよ。魔法学院で1番強い男がキング、1番強い女がクイーンだ。ゼルコバなら間違いなくキングになれるだろうぜ」
「そうだったんですね。しかし僕はキングを目指しているわけではありません」
「そっか。ま、ゼルコバの強さはいずれ魔法学院に知れ渡るだろうから、アンタが望む望まないに関わらずいずれはキングと呼ばれるようになるだろうね」
魔法学院で1番強い者がキングやクイーンと呼ばれるようだ。
あまり興味を惹かれない称号ではあるが、言葉の意味がわかったので良しとしよう。
「おねーちゃん、自主練習の邪魔だからどっか行って!」
「へいへい、邪魔者は消えるとするよ。ゼルコバ、今度アタシと魔法で勝負だよ!じゃあな」
クロマはいつものお嬢様言葉ではなく、自然な言葉で姉のニシキと会話していた。
クロマのお嬢様キャラは、ショウゲツの気を引くために意図的にやっていたんだなと言うことが判明した。
ニシキは改造制服のコートを翻して、威勢よく去っていった。
まさに姉御って感じだ。
「シルベストリスは炎魔法禁止な」
「はぁい、ですわ」
その後、シルベストリスが持ってきたリンゴを校庭にいた上級生達にみんなで配って謝罪して周り、その日の放課後自主練習は解散となったのだった。




