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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第二章 第七位階魔法【精霊魔法】〜王都チェリートピア襲撃事件〜
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ライカンスロープとは半人半獣の狼人間のことで、人ではなく魔物に分類される。

人種と魔物の何が違うかというと、秩序を持って社会的な生活に参加できるかどうかで区分するのが一般的だ。

魔族は人間にとって害悪であるのに人種として区分されるのは、彼らが社会的な生活を送ることができるからである。

僕はまだ出会ったことはないが、獣人ともいつか交流してみたいと思う。


一方で、このベルセルク・ライカンスロープロードはどうか。

僕は万が一にも話が通じる可能性に賭けて、声をかけてみることにした。


「あのー、もしよければここはお互い協力体制を築くというのはいかがでしょうか?僕はあなたが冥界に帰るお手伝いをすることができます」

「グルルルル、オレ、ニンゲン、コロス、クウ、タノシイ、オイシイ」

「そこをなんとか、矛を納めていただけないでしょうか。食糧なら人間以外のものを用意させますので、何卒!」

「グルルルル、ヤワラカソウナ、ガキカラ、クウ」


ダメだこりゃ!

交渉する余地が全くない。

考えてもみれば、ここで交渉が成立するようであれば、ベルセルク・ライカンスロープロードは魔物ではなく獣人だ。

僕は覚悟を決めてベルセルク・ライカンスロープロードと闘うことにした。

ベルセルク・ライカンスロープロードは鼻をスンスンとさせると、ニヤリと笑って僕以外の別の獲物を仕留めるべく、両脚曲げ、そして跳ねた。

目の前の僕を無視して別の方向を向いており、その先にはショウゲツが腰を抜かしている。


「(ショウゲツ君が狙われている!これはまずい!)」


ベルセルク・ライカンスロープロードが先ず狙ったのは、ショウゲツであった。

ベルセルク・ライカンスロープロードは目にも止まらぬスピードで尻餅をつくショウゲツの目の前に移動し、口から溢れ出る涎を長い舌で絡めとり、ニヤリと笑った。


「ひっ、ひぃぃぃ!」

「イタダキマース」


突然目の前に現れた死に恐怖し、ショウゲツは失禁してズボンを濡らしていた。

ベルセルク・ライカンスロープロードは通常個体のライカンスロープよりもさらに2回りほど大きく、しかもその体は歴戦の古傷だらけだ。

大冥霊クジャが言っていたとおり、こいつは凶暴過ぎてナラク谷の生態系を乱すほど闘いまくったのだろう。

そのベルセルク・ライカンスロープロードが突然目の前に現れて自分を殺そうとしてくるのだから、ショウゲツが粗相をしても当然である。


「お前の相手はこの僕だろうがぁ!」

「グル?」

『主、私も加勢します』

「俺もいくぜ」


僕、ドライアド、サイプレスの3人が同時にベルセルク・ライカンスロープロードに迫る。


もうこいつと交渉することはできない。

魔物は人種ではないのだということがはっきりとわかった。


僕が脳魔法を使いつつバックラーで殴りつけ、ドライアドが騎士モードのまま盾を構えて突進し、サイプレスは闇の精霊シャドーと共に遠距離攻撃で援護をする。

即席のパーティーとしてはいいバランスだと思う。

僕とドライアドは【精霊魔法】により魂が結びついているから息ぴったりだし、サイプレスはベテランだから状況判断が上手い。


ゾクリ


言い知れない悪寒が僕の背筋を凍りつかせた。

咄嗟の判断で脳魔法の精度を1段階引き上げると、体感時間が引き伸ばされて世界は止まる。


はずだったのだが、ベルセルク・ライカンスロープロードが止まらない!

動きが速すぎて脳魔法を限界ギリギリまで使っても追いつかないのだ。

ベルセルク・ライカンスロープロードは僕の魔力バックラーを避けつつ右腕を切り飛ばそうと鉤爪を振るい、僕はこれをギリギリで手首を返して受ける。


ギシリ、と手首が嫌な音を立て、鈍痛が走りつつも僕はベルセルク・ライカンスロープロードの一撃をバックラーで受け止めて、吹き飛ばされた。

手首を返して変な角度で強烈な一撃をもらってしまったため、手首を痛めたのだ。


他の2人はどうなった!?


ドライアドが構えていた盾にはすでに大穴がいくつも空いており、ベルセルク・ライカンスロープロードの手刀を食らうたびに大穴が増えていく。

仕方なくドライアドは盾を捨てて徒手空拳に切り替えてベルセルク・ライカンスロープロードに殴りかかるが、その拳はヤツには届かない。

鋭い鉤爪でドライアドの拳はズタズタに引き裂かれ、すでに両腕は肘から先が失われている。


サイプレスはというと、いつの間にか姿を消していた。

おそらくサイプレスは闇の精霊シャドーと共に潜影で影に潜み、チャンスを伺っているのだろう。

時折り、物陰から闇色の魔法が飛び出してベルセルク・ライカンスロープロードを攻撃しているが、鬱陶しそうにするだけで大したダメージではなさそうだ。

ドライアドの大楯に穴を開ける威力の手刀を喰らえばサイプレスは即死するだろうから、良い状況判断だ。


しかしそうこうしているうちにドライアドがもう限界だ。

ドライアドの両腕はもうほとんど残っていないし、体も爪痕だらけで満身創痍だ。

それでもドライアドはショウゲツの盾となり敵に立ち向かっていく。


何か策を練らなければならないが、考えている余裕がない!

とりあえずベルセルク・ライカンスロープロードをこの場から遠ざけないと、瞬きしている間に死人が出てしまう。

僕は魔力滑車と魔力ロープを飛ばしてベルセルク・ライカンスロープロードを絡め取ろうとするが、全ての魔力ロープは弾かれるか避けられるかして当たらない。


「【精霊魔法】雷の精霊ボルト召喚!纒桜迅雷!」


決闘の冥霊デュエルによる拘束から解放されたヨシノが、【精霊魔法】で雷を纏いつつ戦いに加わった。

ヨシノの固有魔法【雷魔法】はその名の通り雷を操る魔法で、電撃を放つことができる。

また、【精霊魔法】雷の精霊ボルトと合体することで雷を纏うことができ、高速で移動することも可能だ。

問題はその速度がベルセルク・ライカンスロープロードに通用するのかであるが、果たしてどうか。


「行きます!」


ヨシノは自らの顔の前で腕を交差させ、雷を纏いつつベルセルク・ライカンスロープロードに突撃した。

それは雷を思わせる一撃で、王都襲撃事件では魔族のモニリニアの腹を貫いた一撃だ。

これをベルセルク・ライカンスロープロードは腕を振るい、無造作に打ち払った。


「くっ、放雷!」


ヨシノは体当たり攻撃をベルセルク・ライカンスロープロードに弾かれてそのまま吹き飛んで行ったが、吹き飛びつつも雷を放つ。


「ギャウン!」


その雷がベルセルク・ライカンスロープロードの体に直撃し、ヤツは悲鳴を上げた。

初めて僕らはベルセルク・ライカンスロープロードにダメージを与えることが出来たようだ。


「グルルルル!グルルァ!」


しかしヨシノの雷はかえってベルセルク・ライカンスロープロードの怒りを掻き立ててしまったらしく、ヤツは怒り狂ってヨシノに迫撃を加えようと突進する。

僕もそれを追って駆け出すが、すでにベルセルク・ライカンスロープロードはヨシノに迫っている。

ここで脳魔法使用だ!

さっきから過度の脳魔法使用で、すでに限界ギリギリだが、このままではヨシノが殺されてしまう。


『主よ、私と合体してください』


ヨシノだってサイプレスだって、精霊と合体して魔法を使っている。

僕とドライアドも今回の戦いを通して絆はさらに深まり、お互いの呼吸もピッタリと合っている。

さらに僕は【精霊魔法・奥伝】まで到達しているから、精霊と合体できない道理はない。

あとは自分を信じて魔法を使うのみだ!


『ドライアド、もちろんだ!【精霊魔法】樹木の精霊ドライアド合体!』


その瞬間、満身創痍の状態であったドライアドの依代は、変形して僕を包み込む鎧となった。

さらに僕の魂に樹木の精霊ドライアドが一体化して、僕の体は樹木の一部になったかのようだ。


『右手のお怪我も瞬時に治りますよ』


すると、先ほどまで鈍痛を感じていた右手首が、嘘のように痛くなくなっていく。


『私と合体している間は多少手足を切り飛ばされてもすぐに再生することができるでしょう』

『ありがとう、ドライアド!これでダメージを受けても持ち堪えられるようになったぞ!』


僕はベルセルク・ライカンスロープロードの背中に突進した。

ヨシノは追い詰められてはいるものの、纏った雷でヤツを威嚇していたため、食い殺されずに済んだようだ。

しかし弾き飛ばされた衝撃で壁に背中を強く打ち付けたらしく、口からは血を流している。


「ヨシノから離れろ!」


僕はありったけの魔力を込めてベルセルク・ライカンスロープロードの背中を殴りつけた。

ベルセルク・ライカンスロープロードはヨシノに気を取られているため、僕の拳は初めてヤツに届いた。


「グルルルルァ!」


さらに殴りつけた瞬間に魔力ロープをベルセルク・ライカンスロープロードに取り付け、マリオネットで吊り上げる。


「ぐぎぎぎ!なんて怪力なんだ!」


しかしベルセルク・ライカンスロープロードの膂力が強すぎて、吊り上げることができない。

魔力ロープの強度は十分なので、巻き上げる力をさらに強くする必要がある。


そんな時に便利なのが動滑車を利用した倍力システムだ。

僕は魔力ロープをさらに伸ばしつつ、魔力滑車の数を次々に増やしていった。


動滑車とは吊り荷と一緒に動く滑車のことで、2倍の距離を巻き上げる必要がある代わりに1/2の力で

重い物を楽に動かすことができる。

この場合は吊り荷であるベルセルク・ライカンスロープロードの体に魔力滑車を取り付け、さらに空中に設置した魔力滑車を経由して魔力ロープで吊り上げる。

ギリギリと魔力滑車と魔力ロープに荷重がかかり、ベルセルク・ライカンスロープロードの巨体がじわじわと浮き上がっていく。

とにかくベルセルク・ライカンスロープロードをヨシノから遠ざけ、屋敷の外に追い出すことが先決だ。

僕はベルセルク・ライカンスロープロードをマリオネットで吊り上げると、窓から外にヤツを移動させていく。


「マリオネット連発!ありったけの滑車とロープでヤツの動きを封じる!」


僕は次々と魔力で滑車とロープを空中に設置し、ベルセルク・ライカンスロープロードの体の自由を奪って、ヤツを外に引きずり出していき、ついにその全身を外に放り出した。

低燃費な魔力滑車と魔力ロープであるが、これだけ大量に設置すると魔力の消費量は著しく、またロープにかかるテンションもそれに応じて高まっている。

しかしここでベルセルク・ライカンスロープロードを解放してしまえば、二度と拘束するチャンスは訪れないかも知れず、魔法を解除することは絶対に出来ない。


「グルルルル、固有魔法【熱血】」


マリオネットにより引きずられていくベルセルク・ライカンスロープロードは、ついに固有魔法を発動した。

魔力ロープで締め上げた手足から、赤々とした血液が流れ出る。

その血液は意思を持っているかのように魔力滑車と魔力ロープに浸透していき、さらに超高熱をともなって発火した。


「(固有魔法【熱血】だと!?血を操って熱を発する魔法か!?このままだとヤツを拘束し続けることが出来ないぞ!)」


ベルセルク・ライカンスロープロードの体に取り付けた魔力滑車と魔力ロープは、固有魔法【熱血】によって次々に焼却されていく。

さらに悪いことに、僕の魔力が底をつきかけている。

神の枯枝に蓄えた1万もの魔力は残り数百程度となっており、魔木の指輪の魔力もほとんど空っぽだ。

まだ朝陽が登ってくる時間までにはほど遠く、このままでは魔力切れにより敗北間違いなしだ。


「なんじゃ、ゼルコバよ。苦戦しているようじゃな」

「お兄様、加勢いたします!」


ここに来てありがたい応援が駆けつけてくれた。

ヤエ公爵邸の外で待機していたツキとキエノだ。

2人はそれぞれ得意とする魔法を発動した。


「【土魔法】手枷足枷」

「【精霊魔法】太陽の精霊アポロン召喚」


ツキの固有魔法【土魔法】は、その名の通り土や岩石や鉱物を生み出したり操ったりする魔法だ。

ツキは【土魔法】により生み出した岩石でベルセルク・ライカンスロープロードの手足を拘束し、ヤエ公爵邸庭園の地面に繋ぎ止めた。

ベルセルク・ライカンスロープロードの固有魔法【熱血】は血液を操って高温を発することができるが、さすがに岩石を熔解させることはすぐにはできず、全身から発熱しながらも大地に繋ぎ止められている。

僕のマリオネットがほとんど焼き切られてしまったことを考えると、状況に適した魔法だ。


「太陽の精霊アポロン、太陽球を使ってください!」


僕は日中、太陽光を浴びている間は魔力が無限に回復するという特殊な体質である。

しかし光を発する物であればなんでも良いというわけではなく、ランプなどの火や炎による光では魔力は回復しない。

しかしキエノの使う第七位階魔法【精霊魔法】により召喚されたのは、太陽の精霊アポロン。

さらにそのアポロンが太陽球なるチカラを発動した瞬間、空中には深夜のヤエ公爵邸を煌々と照らし出す小さな太陽が生み出され、僕の魔力は瞬時に回復していった。


「ありがとうキエノ!この魔法は僕にとって最高の恩恵をもたらしてくれるぞ!」

「ゼルお兄様に喜んでいただいて、キエノは嬉しく思います」


僕は瞬時に神の枯枝に蓄えた魔力を再び補充すると共に、体内で大量の魔力を練って自らの肉体を巨大化させた。

僕の体は樹木の精霊ドライアドと合体しているため、樹木を魔法で成長させるように巨大化することが可能となっていた。


「いっけぇぇぇ!」


僕は両腕を剣のように鋭く尖らせて、ベルセルク・ライカンスロープロードに突き刺した。

息つく間もない怒涛の刺突により、ベルセルク・ライカンスロープロードの体中から鮮血が吹き出している。


「グルルルルゥ!固有魔法【熱血】灼血鎧しゃっけつがい!」


ベルセルク・ライカンスロープロードが使用した灼血鎧しゃっけつがいは、吹き出した鮮血を操って自らの鎧とする魔法だ。

さらに灼血鎧は超高熱を帯びており、なんとツキが使用した【土魔法】手枷足枷による拘束具も熔解しつつある。


「逃すかぁ!」


僕は右手に握り込んだ神の枯枝に蓄積した1万もの魔力を瞬間的に放出し、刺突と共に強撃を放った。

天を斬り裂くほどの大魔力が放出され、その刺突の威力は計り知れない。


ギィン!!


刺突と大魔力の瞬間放出による強撃は、ベルセルク・ライカンスロープロードの灼血鎧の一部を抉りつつも致命傷を与えることはできなかった。

灼血鎧により体を覆われたベルセルク・ライカンスロープロードの防御力は非常に高く、現状の僕が出せる最強の一撃でもまだ仕留め切ることが出来ない。

これを連発している間にも、ベルセルク・ライカンスロープロードは拘束を解いて脱出してしまうだろう。


『主、【精霊魔法】の理解をさらに深めてください』

『ドライアド、何か心当たりがあるのか!?』

『私は樹木の精霊です。この世の全ての樹木を再現することが出来ます。主ならば数多ある樹木の中から、必ずやヤツを討ち倒す手段を導きだせるはずです』


固有魔法【熱血】を操るベルセルク・ライカンスロープロード。

身体能力は凄まじく高く、かつてないほどの強敵だ。

魔力はキエノのおかげで十分に回復しているが、ツキによる拘束は解かれつつあり、このままではベルセルク・ライカンスロープロードに逃げられてしまう。

このままベルセルク・ライカンスロープロードが逃げてしまえば、多くの人命が失われることは間違いない。

この状況を打開できる【樹木魔法】とはなんだろうか。


僕は逼迫したこの状況で、速やかに答えを導き出す必要があった。











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