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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第二章 第七位階魔法【精霊魔法】〜王都チェリートピア襲撃事件〜
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ーーー


スリーズが機械仕掛けのレッドドラゴンをブレスごと斬り伏せたのを確認した僕は、次に何をするべきか冷静に考えていた。


「(アーコレードの危険度はもはや低いだろう。とすると、僕はモニリニアを倒しに向かうべきだ。モニリニアは手札として考えていた機械仕掛けのレッドドラゴンが破壊されたので、もしかすると逃げようと考えるかも知れない)」


蝙蝠羽の魔族モニリニア

本人の魔法は魔水晶を操って相手の魔法を吸収したり、吸収した魔法を打ち返したりすることができる。

また、魔水晶を直接相手にぶつけて攻撃することもできる。

さらに、手品の冥霊トリックのチカラにより、無生物を収納したり出現させたり出来るらしい。


ということは、王都の城壁を砲撃した大砲を運搬して設置したのは、モニリニアと手品の冥霊トリックによるものだったのだろう。

さらにモニリニアはヨシノの魔法によって胴体を貫かれたにも関わらず、このように再び僕の目の前に現れた。

奴はあの窮地を、どうにかして生き延びる術を持っているということだ。


モニリニアは魔水晶に魔法を吸収できるという点にさえ気をつければ戦闘面ではそれほど怖くないが、兵站輸送係として考えればこれほど恐ろしい敵もいない。

魔族モニリニアとはぜひともこの場で決着をつけておきたい。


『ドライアド、アーコレードを抑えておいてくれ。僕はモニリニアを倒してくる』

『御意』


スリーズは剣を振るった位置に座り込んでおり、動く様子がない。

脳魔法の酷使によって気絶寸前なのだろう。

しかもスリーズは空を飛ぶモニリニアに迫撃する手段がないから、やはりモニリニアを倒すのは僕しかない。


モニリニアは決闘場の上空を飛んでおり、地上にいる僕のことはまるで警戒していない。

モニリニアの飛んでいる高さは目測で30m程度。

この距離を一瞬で詰めて、奴に一撃を与えたい。

空を飛ぶ魔法としては風魔法を使用する方法があるが、風魔法で空を飛ぶのは燃費が悪く、限られた魔力しか使えない夜間に使うことはあまりよろしくない。

となれば別の方法を考える必要がある。


「(ふむ、魔法障壁で足場を作って、駆け上がったらどうだろうか)」


試しに僕が魔法障壁を生み出して乗ってみると、うまくいきそうだ。

脳魔法はギリギリまで使用を避けたいので、僕は下半身の筋力を【強化】しつつ、空中に生み出した魔法障壁を駆け上がった。


「そ、そんな馬鹿なぁ、魔王様謹製のメカ・レッドドラゴンが破れるなんてぇ」

「(いける!)」


僕がある程度接近すると、モニリニアは呆けて独り言を呟いているようだった。

僕はその瞬間を狙って脳魔法を使用し、体感時間を引き延ばして一気に加速した。

狙うはモニリニア、背中をバックラーで殴りつけて、地面に叩き落とすのがいい。


「むっ、ぎゃああ!」


僕は一瞬でモニリニアの背後に周ると、強烈な一撃をモニリニアの背中にお見舞いした。

モニリニアは墜落寸前で体勢を整え、なんとか空を飛んで逃げようとしている。

しかし僕はすでにこの展開を予想していた。


「ふふふぅ、さっきの一撃は強烈でしたがぁ、ワタクシは飛んで逃げることができるのですぅ、なっ、体の自由がきかないぃ!?」


僕が地獄騎士の冥霊ドガとの戦闘中に編み出した新魔法マリオネットは、魔力で生み出した滑車と魔力ロープさえあればどんな位置からでも相手を拘束することができる。

僕は魔法障壁で作った足場を駆け上がりながら、空中に魔力滑車と魔力ロープを設置していたのだ。

飛んで逃げようとするモニリニアを、空中に待機させた魔力滑車から発射された魔力ロープが絡め取り、ついにモニリニアの動きを完全に封じることができた。


「観念しろ、モニリニア。もうお前のことは逃がさないからな」

「くうぅ!アーコレード様ぁ、ここは一旦逃げましょう。冥界で修行をして、勇者にリベンジするのですぅ」


アーコレードは樹木の精霊ドライアドによって抑えられている。

武術全般の達人であるドライアドにかかれば、アーコレードの身柄を拘束することなど容易い。


「逃げる、だとぉ?」

「そうですぅ、ワタクシの魔法を使えばどんな状況からでも脱出できるのですよぉ、このようにねぇ!固有魔法【イリュージョン】」


モニリニアは固有魔法【イリュージョン】を発動すると、7体のモニリニアそっくりな偽物が出現した。

おそらく、モニリニアが操る魔水晶も本物1つと偽物7つの計8つだったのだろう。

7体の偽モニリニアはニヤニヤと笑うと、散り散りに逃げ始めた。

しかし本体は僕の魔力ロープで絡め取られているので、脱出することはできないはずだ。


「さらに、【冥霊魔法】手品の冥霊トリックよ、分身とワタクシの位置をチェーンジ!」

「なにっ!?」


手品の冥霊がモニリニアの指示にしたがって力を解放すると、偽モニリニアの一体と本物モニリニアの位置がお互いに入れ替わった。

なんと手品の冥霊トリックは、対象とした人や物の位置を入れ替えるチカラを持っていたのだ。


「さらにアーコレード様とワタクシの分身をチェーンジ!」

「あっ!こら待て!」


さらに手品の冥霊トリックはチカラを解放し、偽モニリニアとアーコレードの位置を入れ替えてしまった。

偽モニリニアはニヤニヤ笑いながらドライアドに組み伏せられている。

おそらくヨシノの攻撃を受けてモニリニアが生き延びていたのは、この手品の冥霊トリックのチカラによるものだったのだろう。

ヨシノがモニリニアの胴体を貫通する直前、偽物モニリニアを作り出し位置を入れ替えたのだ。


「そうですぅ、逃げて冥界で修行しましょう。正直に言って、今の勇者の実力は我々を上回っていますぅ。生き延びてこそリベンジの機会があるのですよぉ」

「そんなのダメだ」

「引き際を間違えてはいけませんよぉ。ここは冷静になり、再戦の機会に備えましょうぅ」

「絶対にダメだ!俺はここでクソガキを殺すことができたら、死んでもいい!」

「なっ、玉砕覚悟ぉ?絶対に逃げた方がイイのにぃ」

「ここで逃げたら、クソガキとヨシノが旅に出てしまうだろうが!!」

「はぁ、それが何かぁ?」

「そうしたらクソガキに命令されて、ヨシノが【あんなこと】や【こんなこと】までさせられてしまうかもしれないだろ!」

「……えぇ」

「俺はヨシノの純潔を守るためなら、ここで死んでもいい!」

「格好イイことを言っているようで、全く説得力がありませんがぁ」


アーコレードとモニリニアが離れたところで言い争っているが、なぜか僕の名誉が傷つけられているような気がする。


「しかし死んでもイイというなら、そんなアナタにはこちら、冥玉でございます」

「冥玉?これは一体なんだ」

「マァマァ、それでは手品の冥霊トリック、腹話術!」

「なっ、何をする、体が勝手にぐぉぉ!」


モニリニアはアーコレードの背中に手を当てており、アーコレードを自由に操作することができるようだ。

アーコレードはモニリニアに操られ、謎の黒い玉飲み込んだ。

その黒い玉は悍ましい瘴気をさらに凝縮して固めたような呪物で、そんなものを飲み込んでしまったアーコレードの角はさらに伸び、眼球は完全にどす黒く変色している。



「「あー、あー、よろしいぃ、それでは【冥霊魔法】ナラク谷の大冥霊クジャ様召喚!」」

「大冥霊召喚だと!?」


その瞬間、どす黒い怨恨が唸りを上げるようにアーコレードの体から溢れ出し、禍々しい魔力が膨れ上がった。

【精霊魔法】と【冥霊魔法】が対を為すとすれば、大冥霊とは大精霊と同格の存在であるはずだ。

僕が知る大精霊といえばフジ山の大精霊カグヤで、その実力は計り知れない。

そんな大精霊カグヤと同格の大冥霊クジャが召喚されてしまったら、万が一にも勝ち目はないだろう。


「ぬぅぅ、我を喚び出す不届者はどこのどいつだ」


重厚感のある怒りの言葉と共に呼び出された大冥霊は、出現と同時に瘴気を放出した。

火砕流のような凄まじい瘴気が膨らみ、爆風となって全方位を蹂躙する。


『まずい!ドライアド、ヨシノを頼む!』

『御意』


僕は咄嗟に脳魔法で体感時間を引き延ばし、スリーズをかばうことにした。

スリーズはまだ脳魔法の反動から回復しておらず、瘴気による爆風が直撃すれば重傷を負ってしまうだろう。

ヨシノはドライアドに任せることにした。


「ぐうぅ!なんて威力なんだ!これが大冥霊のチカラか」


僕は全力で魔法障壁を展開し、スリーズを守った。

今まで温存していた魔力がゴリゴリと削られていくのを感じる。

しばらくそのまま耐えていると、次第に爆風は収まった。



「(観客席のみんなは無事なのか!?)」


僕が観客席に目を向けると、そこにはサイプレスが大汗を流して立っているのが見えた。

サイプレスは潜影によって観客席まで移動しており、巻き込まれた王族や父を守ってくれたのだ。


「ヨジノぉ!ギザマ、ヨクモヨジノヲォ!」

「ぬぅ、なんだこの虫ケラは」


景品にされていたヨシノは観客席とは少し離れた場所におり、決闘の冥霊デュエルによって魔法の使用を制限されてる。

間一髪、ドライアドが大楯でヨシノを守ったが、素敵なパーティードレスは少し焦げている。


「クジャ様、ワタクシでごさいますぅ、モニリニアですぅ。そしてこの者が不遜にもクジャ様を召喚した張本人ですぅ!こやつはチェリーリア王国の第二王子のアーコレードで、今はスファエロテカ様に祈りを捧げ、魔族となりましたぁ!」

「なに?人間の第二王子が魔族に?これは滑稽だ、がはははは!」


大冥霊クジャは身長2mを超える大男で、顔面には鬼を連想させるような角と牙が生えている。

その皮膚は赤く、上半身は何も纏っていない。

地獄の炎を思わせるようなオレンジと黒のゆったりとしたズボンを履いており、裸足である。


「ゴ、ゴゴゴ、コノヤロウ、ブブブ、ブチコロシテヤル!」

「なんだ、魂が壊れかけているではないか、虫ケラめは我を召喚するには何もかもが足りていなかったようだ」


アーコレードは両目からどす黒い液体を流しており、地べたを這いつくばっている。

言葉も片言となっており、錯乱しているようだ。


「クジャ様、厚かましいお願いではございますがぁ、我々2人を冥界に連れ帰ってはいただけないでしょうかぁ。勇者が思ったより強く、敗北寸前なのですよぉ」

「なんだモニリニア、武功を立てて【冥霊魔法】の新たなる高みに登るのだといって人間界に向かったクセに、とんだ勇み足だったようだなぁ」

「はいぃ!申し開きもございません!何卒、どうかどうかよろしくお願いいたしますぅ」

「ぬぅ、まあそういうことであれば仕方あるまい。しかしこの虫ケラは魂がほとんど壊れかけているから、このままではすぐに死んでしまうだろう。面白いので生きたまま連れて帰りたい」

「ありがたき幸せぇ!こやつもクジャ様のお慈悲に感激して咽び泣いておりますぅ!」

「ゴ、ゴロ、ゴロス……」

「その反骨心、嫌いではない。【冥霊魔法】グリモワール」


クジャが【冥霊魔法】を使うと、いつのまにかその右手には魔導書が出現していた。

魔導書グリモワールは怪しく光ると、パラパラと勝手にページがめくれていく。


「【冥霊魔法】テイム!さあ虫ケラよ、魔導書グリモワールに収納されるがいい。さすれば我が冥霊殿に連れて帰り、治療をしてやろう。想像を絶する苦痛がお前を待っているがな」

「ヤ、ヤメロォォ……」


魂が壊れかけているアーコレードは、情けない声を上げながら魔導書グリモワールに吸い込まれてしまった。

すると決闘の冥霊デュエルによる隔離が解除され、元のヤエ公爵邸に戻されたようだ。

先ほどクジャが使った【冥霊魔法】テイムの効果により、アーコレードの魔法が解除されたのだ。


魔導書に対象とした生物を取り込むことができる【冥霊魔法】テイムは、アーコレードを取り込んで魔導書に吸収してしまう魔法のようだ。

クジャの口ぶりからすると、出し入れ自在のようである。

もしかすると、テイムと同等の魔法が【精霊魔法】にも存在するかもしれない。

まずはここを生き延び、カグヤに確認したいと思う。


「では帰るとしよう。そこな少年よ、お前が勇者だな?」

「勇者?なんのことですか?」

「嘘をついても無駄だぞ。我にはお前の心臓に宿る神気の若木が視えている。勇者にとってはこやつらが相手では少し物足りなかっただろうから、置き土産に強敵を用意してやろう」

「いえ!全然お構いなく!さっさと帰ってください!」

「遠慮するな。コレはナラク谷の領域で暴れ回っていたところを我がテイムした魔物で、生態系を乱すほどの強敵だから安心して闘うといい」


やめて!

そんな凶暴な魔物を置いていかないで!

僕のそんな願いは聞き入れられず、クジャは魔導書グリモワールから一体の魔物を召喚した。


「【冥霊魔法】ベルセルク・ライカンスロープロード召喚。ではな、勇者よ。強くなったら我を倒しに冥界にこい」


ナラク谷の大冥霊クジャは、そう言い残すとモニリニアと共にヤエ公爵邸の床に沈み込んで消えていった。

おそらく冥界に帰ったのだろうと思う。


「グルルルル」


その代わりにこの場に残されたのは、ベルセルク・ライカンスロープロード。

かつて僕が対峙した個体とは比べ物にならないほどの狂気を湛えた、悪しき狼人間の魔物だ。

しかもロードという名が示す通り、確実に第六位階に達しており、固有魔法を使ってくるだろう。


アーコレードとの決闘とは比べ物にならないほどの死闘が、今まさに始まろうとしていた。


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