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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第二章 第七位階魔法【精霊魔法】〜王都チェリーリア襲撃事件〜
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ーーー


私の名前はヨシノ。

王都に根を下ろす世界樹の化身で、今日はヤエの屋敷で晩餐会に参加している。

普段は人間たちの集会に顔を出す事はないのだが、今日はゼルコバ様が主賓として参加しているので、私も参加することにした。

私の命は勇者であるゼルコバ様と共にあり、片時も離れていたくない。


しかしそのゼルコバ様は、スリーズを慰めるために外にいってしまった。

スリーズはゼルコバ様がヤエの素早い動きを習得していることに驚き、自身の不甲斐なさを恥じているのだろう。

今はスリーズの気持ちを考えて、ゼルコバ様と離れてしまったがいた仕方ない。

主賓がいなくなってしまったため、他の参加者はやや時間を持て余しているようだ。


「さてと、私は日課の剣術の稽古でもしてこようかね」

「ヤエ、もう剣は辞めたんじゃなかったの?」

「おトイレですよ、ヨシノ様」

「そうでしたか。いってらっしゃい」


男性陣は目を逸らしたり、服の裾をいじったりして、私とヤエの会話を聞かなかったことにしてくれたようだ。

私の言語理解能力の低さが露呈してしまったようだ。

これからはゼルコバ様につまらない女だと思われないように、冗談の一つも言えるようにならないといけないだろう。


「プルヌス、私に冗談を教えてください」

「えっ?それこそご冗談では?」

「今のが冗談なのですか?」


私の理解では、冗談とはユーモア溢れる面白い小話のことだ。

先ほどの会話で面白いところなどあったのだろうか。


「ヨシノ様、どうして突然冗談を知りたいと考えられたのですか?」

「ゼルコバ様につまらない女だと思われてはいけませんから、練習をしておきたいと思いまして」

「さすがは勇者じゃの」

「あらー」

「ヨシノ様はゼルコバ殿に喜んでもらいたいのですね」

「そうです、クラマ。ヤエのように冗談の一つでも言えるようになれば、ゼルコバ様が退屈された時でも楽しく過ごせると思うのです」

「ヨシノ様はありのままが1番だと思いますよ」

「そうでしょうか。冗談収集は今後の課題ですね」

「ヨシノ様、こんなのはどうかな。布団が吹っ飛んだ!」

「えっと、ショウゲツ。布団が吹っ飛んだら大変ですよ」

「こら、ショウくん。変なこと言わないの」

「変?どう言ったところが変なのか興味があります」

「えーっと、ヨシノ様。先ほどのショウゲツの冗談の解説は必要でしょうか?」

「ぜひお願いします」


そのように私がプルヌス達から冗談について教えてもらっていると、使用人が駆けてきてプルヌスに耳打ちをした。


「なに?アーコレードが訪ねてきただと?あやつを招待した覚えはないが」

「ちょうどいいではないですか、父上。アーコレードに態度を改めるように言いましょう」

「ふむ、ヨシノ様はいかがお考えでしょうか」

「私は構いませんよ。人間のことは人間で解決してください」

「承知しました。それでは通せ」


私はアーコレードの事は特に何とも思っていない。

ただ、王族の一人として多少の付き合いはあるし、今後ゼルコバ様に迷惑をかけるような事は控えて欲しいので、話し合いは必要だろうと考えた。

程なくしてアーコレードが従者を連れて現れた。

従者の老人はローブで全身を覆っており、怪しげな人物のように見える。


「これは父王陛下ご機嫌麗しゅう」

「アーコレードか、お前には色々と言いたいことがあるが、その頭につけた飾りは何だ?」

「頭?そんな些細な事よりも、父上は偽勇者の企みをご存知でしょうか?」

「偽勇者、ゼルコバのことか?あの者は偽物などではない。それはヨシノ様も保証しておられるし、姉上も勇者であると断言したので間違いないぞ。しかもリョーマイケル伯爵の目の前でご子息を中傷するとは、配慮が足りていないぞ」


私はアーコレードの様子がおかしいことに気がついた。

アーコレードの頭につけた飾りは角のように見え、直接頭から生えているのではないだろうか。


「それこそが偽勇者の計略、いえ、フォレスティナの陰謀と言った方が正しいでしょう」

「アーコレード、フォレスティナ様を罵るのはおやめなさい。不敬ですよ」

「ヨシノ、お前は偽勇者に洗脳されているだけなのだ。すぐに俺が救ってやるから、今は静かにしていろ、な?」


アーコレードはそう言って私にウインクしてきた。

世界樹として数千年生きてきて初めて感じる悪寒が、私の背筋を走る。


「アーコレード、何をわけのわからないことを言っている。お前は異常だぞ」

「おお、クラマ、愚かなる兄よ。俺の目にはお前達の方が異常者のように見えるぞ」

「なに!俺のことはまだしも、父上を異常者とのたまったか!?」

「まあいい、今日は話し合いに来たわけではないのだ。ところであのクソガキはどこだ?」

「クソガキはあんただよ、さっさと失せな」


ヤエが戻ってきたようだが、なぜか剣を持っている。

しかもそれはかつてヤエが使っていた、スリーズのミスリル剣だ。

もしかしてヤエはこの招かれざる訪問者の到来を予見していたのだろうか。


「これはヤエ公爵、今日は美しい月夜の晩ですよ。外で月でも眺めてきたらどうですか?」

「ほう、言うじゃないか。それならエスコートが必要だねぇ。表に出な」

「たとえ視力を失ったとしても、剣聖と謳われた貴女と戦うつもりはありませんよ。俺が偽勇者を討伐すれば目が覚めることでしょうから、大人しくしていてください」

「アーコレード、ゼルコバ様を討つと言いましたか?」

「そうだ、ヨシノ。俺は今夜ゼルコバを討ち、俺とお前は結魂式を挙げるのだ」


私はアーコレードがゼルコバ様を討つと言ったので、彼を明確に敵として認識した。

静かに魔力を練り始め、いつでもアーコレードに向かって放てるように準備をした。

しかしここで【雷魔法】を使うと、ヤエの家を破壊してしまうから、場所を変える必要があるだろう。


「アーコレード、あなたは私に執着しているようなのですが、はっきり言って迷惑です。しかしゼルコバ様を討つと言ったあなたを放置することは出来ません。表に出てください。私があなたを討ちます」

「おいおいヨシノ、物騒なことを言うんじゃない。俺はお前と戦うつもりはないのだ。モニリニア」

「ふふふぅ、ワタクシをお呼びでしょうかぁ?」

「少しヨシノの相手をしてやってくれ。決して傷つけるんじゃないぞ」

「かしこまりましたぁ」

「なっ!お前は」


ローブを纏った老人は変装を解くと、見覚えのある魔族の男が現れた。

アーコレードが連れてきた従者は、蝙蝠羽を生やした魔族モニリニアだったのである。

モニリニアはゼルコバ様と私が協力して倒したはずだったが、私の詰めが甘かったのか、生き延びていたのだ。

モニリニアは例の水晶を展開して、いつでも魔法を吸収できるように待機していた。

ここで【雷魔法】を使うと、モニリニアの水晶に吸収されてしまうため、迂闊に攻撃できない。


「それでは俺が真なる神スファエロテカ様より授かった真の第七位階魔法をとくと見よ。【冥霊魔法】決闘の冥霊デュエル召喚」


スファエロテカ

それは私が知る限り、かつて魔王率いる魔族の軍団と共にチェリーリア王国を襲撃した、邪神の名前である。

アーコレードはスファエロテカから第七位階魔法を授かったと言ったが、それはつまり邪神に祈りを捧げて魔族に変身したということだ。

アーコレードはすでに後戻りできない呪いを受けてしまったのだ。


そして【冥霊魔法】は【精霊魔法】と対をなす第七位階魔法で、冥界より冥霊を召喚して使役することが出来るようになる。

しかし資格無き者が冥霊のチカラを使うと、その対価として使用者の魂は汚染されていく。

真の第七位階魔法が試練を達成した者にしか与えられないのは、魂に過度の負荷がかかることを防ぐためであるが、アーコレードが【冥霊魔法】を受け取るための試練を達成したとは考えにくい。

このまま【冥霊魔法】を使い続ければ、アーコレードは魂が汚染されて、最終的には自我が崩壊してしまうだろう。

アーコレードはなんと愚かなことをしてしまったのだろうか。


「くくく、決闘の冥霊デュエルよ、この屋敷を決闘場として封鎖し、ヨシノを景品に指定しろ」


アーコレードが召喚した決闘の冥霊デュエルは禍々しい黒い光を放つと、冥霊のチカラを解放した。

突如として公爵邸は檻のような物に囲われて、外の世界から隔離されてしまった。

さらに、私の周囲にも檻が現れ、私の行動を制限するつもりのようだ。


「っつ!【精霊魔法】雷の精霊ボルト召喚、さらに【精霊魔法】纒桜迅雷!」


私は【精霊魔法・中伝】で習得する精霊との合体魔法を使用して、檻が閉じきる前に脱出を試みた。

しかし檻は私の体と共に移動するようで、素早く動いたところで脱出することは出来ない。

そのうち檻は完全に閉じ、それ以降は魔法を発動することすら出来なくなってしまった。


「もう、ヨシノはお転婆だなぁ。ヨシノには特等席で勇者が死ぬところを見せてあげるからね」

「醜悪」


アーコレードが操作すると、私を閉じ込めた檻はふわふわと宙に浮かび、彼の目の前に着地した。

どうやら私は決闘の冥霊デュエルのチカラにより、決闘の景品に指定されてしまったようである。

その時、ゼルコバ様が念話で話しかけてきた。

ゼルコバ様の声を聞くと安心する。


『もしもし、ヨシノ?何か公爵邸が檻のようなモノに囲われてるんだけど、そちらは大丈夫?』

『ゼルコバ様、モニリニアという蝙蝠羽の生えた男が生きていたようで、襲撃を受けています』

『襲撃?怪我人はいるの?』

『いえ、今のところはおりませんが、私は景品になってしまったので身動きが取れません』

『け、景品?どういうこと!?』

『さらに、アーコレードが魔族に変身して敵に与しています。アーコレードはゼルコバ様との決闘を望んでいるそうです』

『わかった。すぐ行くけど、応援を呼んでから向かうよ』

『お待ちしております』


口惜しいことに、ゼルコバ様を危険に巻き込んでしまうことになった。

アーコレードが屋敷に入ってきた時に先制攻撃しておけばこんなことにはならなかったのに。

しかしアーコレードと明確に敵対したのは彼がゼルコバ様を討つと宣言した時なので、未来を予知していなければそれは出来ないだろう。


そう言えば、ヤエはトイレに行くふりをして実は剣を取りに行っていたようだが、もしかしてこうなることを予想していたのだろうか。

私は少し顔を動かしてヤエを見ると、彼女と目が合った。

ヤエは余裕の表情を崩さず、ただ静かに微笑んでいる。

ヤエに何が視えているのか推し量ることはできないが、それでも彼女の余裕を信じていいだろう。


「さて、父上、偽勇者はどこにいるのですか?俺はもう待ちきれないんだ」

「そんなもんおらん」

「おい!答えろよ!クラマ、クソガキはどこにいる!?」

「目の前にいるが、それがどうした?」

「ふざけてんじゃねぇぞ!ヤエ婆、裏切り者はどこだ!」

「裏切り者はアンタだよ」

「母上、可愛い息子にヤツの居場所を教えてくれませんか?」

「お前はもう私の息子ではありません」

「ショウゲツぅ!白状しろ!」

「ひいっ!し、知りません!」

「ぐぅぅぅ、どいつもこいつも俺をバカにしやがってぇ!殺してやりたいほど腹が立つ。しかし家族は大切だ。ならばメイドを殺す」


アーコレードの怒りが増すたびに、頭部の角はむくむくと成長しているようであった。

家族は大切だが、怒りを発散するためにメイドを殺してしまおうというのは、何とも身勝手な話だ。

アーコレードは心まで魔族になってしまったのだろう。


「おやめ、殺すならまずこの老いぼれにしな」

「ダメだ、王族を殺してしまっては俺の正当性が保てなくなる。使用人ならストレス解消のために多少殺してもいいだろう。なに、減ったらまた雇いなおせばいいだけのこと」

「やめなさい、アーコレード。それをするなら私は【神化】を使ってでもあなたを止めます」

「ヨシノ、それはダメだ。俺はまだ第八位階に到達していないし、俺たちは結魂すらしていない。【神化】するのは2人で寿命を迎える時にしような」


何ともおぞましいことを言う男である。

アーコレードと一緒に天界で永遠に暮らすことなど、想像するだけでも最悪の気分になる。

こんな男に執着されているかと思うと、吐き気がする。

と、その時だった。


「ごめんくださーい」


朗らかな少年の声が、殺伐とした晩餐会場に響いた。

大声ではないのに、聞き取りやすい。

アーコレードに殺されそうになっていた使用人達も、安堵の表情を浮かべている。

存在するだけで人々に安らぎをもたらし、再び立ち上がる勇気をくれる者。

それこそが、私の大好きな勇者ゼルコバ様なのだ。


「来たな、クソガキぃ!俺と決闘しろ!」

「受けてたとう、アーコレード」


こうして、勇者ゼルコバ様と魔族となったアーコレードの決闘が始まった。

景品となった私に出来ることはただ一つ、ゼルコバ様の無事と勝利を祈ることだけだ。



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