049
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それから俺は茫然自失となり、王都チェリートピアを彷徨い歩いていた。
俺の頭の中はどうすれば邪悪なクソガキ、ゼルコバ・リョーマイケルを抹殺できるのか、そればかりを考えていた。
しかし何の理由もなくクソガキを殺そうとしても正当性が保てないし、奴の魔法は強力だ。
俺一人では大義を成すことができない。
誰か他に協力者でもいればよいのだが。
「ゼルコバを抹殺するための協力者を得なければならないが、誰に協力を求めるか……」
「そこのアナタ、何やらお困りのようですねぇ。もしよければワタクシが占って差し上げますよぉ?」
俺に声をかけてきたのは怪しげな老人で、道端に水晶を置いて占いをして日銭を稼いでいる者のようだった。
普段はこんな胡散臭い老人の話など聞くことはないのだが、途方に暮れていた俺は気まぐれに占い師の口車に乗ってやることにした。
「ふん、下賎な占い師め。俺の悩みが解決できるというならやってみるがいい」
「ほほほ、それではさっそく。ほぉ、これは素晴らしい、アナタには英雄の気質が備わっているようですねぇ」
「ふうん?続けろ」
占い師のおべんちゃらに少し気を良くした俺は、少し興味を持って話を聞いてやることにした。
「しかし最近は理不尽な出来事により大切な人、もしくは物が奪われてしまうという、不遇な境遇にあるようですねぇ」
「……当たってる」
「そしてアナタはその理不尽を跳ね返すべく立ちあがろうと考えているが、協力者を得るまでそれは出来ないでしょう」
「ほう、ならば答えろ占い師、俺の探している協力者は一体どこにいるというのだ」
「そう答えを焦らないでくださいませぇ。その前にコチラをご覧ください」
占い師はそういうと、懐から一体の像を取り出した。
どこぞの女神のようであるが、その両目からは涙を流している。
「これはこの世界を統べる真なる神スファエロテカ様の像でございますぅ。スファエロテカ様もまた、アナタと同じように、理不尽な出来事により不遇な状況に苦しんでおられるのですぅ」
この世界の主神はフォレスティナという名前だったはずだ。
その姿は教会に祀られており、第六位階魔法を取得する際には祈りを捧げた記憶がある。
もっとも、それは俺が6歳ごろの話であり、それ以来一切神に祈ったことなどない。
「考えてもみてください。なぜ今の神は第七位階に到達した者にすべからく魔法を授けないのか。そして勇者とやらをあまりにもエコ贔屓するのか。全ては神を僭称するフォレスティナの企みによるものなのですよ」
「そんな……」
バカな、と俺は思わなかった。
心当たりがあったからだ。
勇者を僭称するクソガキ、ゼルコバ・リョーマイケルは10歳そこそこで第七位階に到達して、俺の知らない第七位階魔法を使っていた。
これはもしかすると、フォレスティナがそのように操作した結果だったのかもしれない。
だとすると辻褄が合ってくるのが、ヨシノの態度だ。
なぜヨシノが出会って間も無いクソガキにあのように傾倒しているのか、もしかすると、フォレスティナがそのように仕向けた可能性があるのではないか。
ヨシノはフォレスティナ信者であることは間違いない。
事あるごとにフォレスティナを引き合いに出して、神聖視している。
そのフォレスティナから、勇者の存在をそそのかされ、クソガキと共に旅に出るようにお告げを受けたとしたらどうだろう。
「あ、ありうる」
「ほほほ、そうでしょう。アナタの愛する人、そしてアナタの家族まで、全てフォレスティナの手のひらの上で踊らされているのですよ」
「そ、そんな。それは、何とかしないと……」
この話が真実だとすると、事は俺とヨシノの円満な関係性のみならず、適正な国家運営にすら関わる大事だ。
まさか、父王陛下も勇者とやらに唆されて、判断能力を失ってしまったのではないか。
「そうでしょう。しかしそれには力が必要だぁ。そんなアナタに真の第七位階魔法を授けられるお方が、こちらの真なる神スファエロテカ様なのですよ」
「真なる神、スファエロテカ、様?」
「そうですぅ。スファエロテカ様は第七位階に到達した者を差別する事なく、暖かく包み込んでくださいますぅ。アナタもスファエロテカ様に祈りを捧げれば、即座に真の第七位階魔法を授かる事でしょう」
「ほ、本当か?真の第七位階魔法、そんなものが……」
そういえば、俺が教会で司祭を斬り殺そうとしてクソガキに邪魔された時、ヨシノは真の【精霊魔法】について言及していた。
つまり俺が15歳の時に大精霊から受け取ったのは偽物の第七位階魔法だったわけだ。
偽物の第七位階魔法を授けてやると言って、人を騙そうとしている存在がいる。
つまり、フォレスティナこそが大ペテン師の元締めにして、この世界を掻き乱す悪神なのである。
「さぁ、共に世界を救いましょう。何を隠そう、アナタの協力者こそがこのワタクシ、正義の使徒モニリニアなのですから」
何という幸運か、俺の求めていた協力者は目の前の占い師、モニリニアだったのだ。
フォレスティナの陰謀を確信した俺は、迷いを捨てて真なる神スファエロテカに祈りを捧げることにした。
「真なる神スファエロテカ様、どうか俺に第七位階魔法を授けてください」
俺はこの時、生まれて初めて心の底から神に祈りを捧げた。
愛する人、大切な家族、守るべき王国と民草。
それらを救うために、どうしても力が必要だ。
『愛しい我が子よ、お前の苦しみはこのスファエロテカが受け止めました。今まで辛かったわね』
「(スファエロテカ様!)」
『さぁ、真の第七位階魔法【冥霊魔法】を授けましょう。さらに、お前が心の底から欲している能力を持つ冥霊を与えるので、契約しなさい。そうすればお前は、世界を救う救世主となる事でしょう』
真の第七位階魔法【冥霊魔法】
その魔法が俺の中に流れ込んでくると、体の芯に凍えるような冷気が走った。
その心地よい冷気により、俺の頭は冴え、目標も定まった。
俺が心の底から欲している能力、それは誰にも邪魔されずに偽勇者を討ち倒すための決闘を確実に達成することができる能力、それと、俺の固有魔法【爆雷】を最大限に引き立てる盾役の騎士を召喚する能力だ。
これさえあれば俺は確実にクソガキを抹殺して、ヨシノと名誉とこの国の平和を取り戻すことができるだろう。
『お前の望みはよくわかりました。それでは、決闘の冥霊デュエルと、地獄騎士の冥霊ドガと契約することを赦します』
「っつ!俺と契約しろ、決闘の冥霊デュエル、地獄騎士の冥霊ドガ!」
すると、俺の魂が冥霊と結合する感覚があった。
これが真なる第七位階魔法【冥霊魔法】の効果なのだ。
偽勇者はフォレスティナから特別な魔法を与えられて調子に乗っていただけにすぎない。
今こそ、その欺瞞に満ちた虚栄を打ち砕く時だ。
「【冥霊魔法】を授かったようですねぇ。実はワタクシも真の第七位階魔法をスファエロテカ様より授かりましたから、これでコチラが圧倒的に有利でしょうねぇ」
「そうか、モニリニアも第七位階に到達していたのか。これは心強い、俺の名はアーコレードだ。共に勇者を僭称する愚か者を討ち倒すぞ」
「それはもう、ぜひともよろしくお願いしますぅ。ところでアーコレード様は武器はお持ちですかぁ?」
「武器?……武器は、先ほど偽勇者の操る精霊に破壊されてしまった」
俺が愛用していた特注のミスリル剣は先ほど、偽勇者の姑息な精霊により破壊されてしまっていた。
武器さえあればすぐにでも偽勇者を殺しに行けるのに、口惜しいものだ。
「それならばコチラをお使いください」
「それは、国宝のオルハリコン剣では!?」
「大義を成すため、特別にご用意させていただきましたぁ」
モニリニアが差し出してきたのは、王城の宝物庫に保管されているはずの、オルハリコン剣であった。
眩しいくらいに輝く金色の刀身、間違いなく本物である。
大義を成すため、仮にモニリニアがオルハリコン剣を盗んできたのだとしても、俺はそのことに関与していないし、正当性はこちらにある。
俺は落ちていた物を拾ったに過ぎないのだ。
「よし、これについては深く追求しないが、大義を成すために受け取ってやろう」
「それは良かったぁ。そして、憎き勇者めを討つのはとっぷりと日が暮れてから、しかし夜明けにはまだ遠い、そんな真夜中にしましょう」
「ほう、それはなぜだ?」
「勇者めはねぇ、昼間は無限の魔力を使うことが出来るのですよぉ。ズルいですよねぇ」
「無限の魔力だと?そんな、あり得ない」
「これが事実なのですよねぇ、なので我々は勇者と対等な条件で戦うために、夜襲をかけることにしている、というわけですぅ」
「その無限の魔力とやらも、陰謀なのだな?」
「そう、全てはフォレスティナの企んだことぉ。卑劣なあの女は、勇者を使って人間を支配しようと企んでいるわけですぅ」
無限の魔力、それがあのクソガキが10歳で第七位階に到達できた理由に違いない。
もはや確信を持って言える。
フォレスティナは偽勇者と手を組んで、この世界を乗っ取ろうとしているのだ。
何という巨悪が身近に潜んでいたものだ。
絶対に許せないし、そんな卑劣な男にヨシノが攫われてしまうと考えると、居ても立っても居られない。
「ならば決行は今夜、ヤエ公爵邸で偽勇者のための晩餐会を開くという。その晩餐会にて偽勇者の悪行を暴露し、父王陛下や愚兄の目を覚まさせてやるのだ」
俺は使用人から、今夜開かれる晩餐会のことを聞かされていた。
しかし招待されていないし、仮に誘われても出席するつもりもなかった。
しかしちょうどいい、特別な客人として晩餐会に出席してやろう。
その場で勇者と決闘し、必ずヨシノをこの手に取り戻すのだ。
「ふふふぅ、その意気込みですよぉ。今夜が楽しみですねぇ」
その時、モニリニアが占いで使っていた水晶に反射して、俺の頭に黒い角のようなモノが生えているのが見えたような気がした。
しかし俺はそれを無視して、オルハリコン剣に魔力を蓄えることにした。
真夜中までに、オルハリコン剣にありったけの魔力を蓄積しておかなければならない。
その後ろではモニリニアがニヤニヤと笑っているのを、アーコレードは全く気がついていなかったのであった。




