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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第二章 第七位階魔法【精霊魔法】〜王都チェリーリア襲撃事件〜
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目が覚めると、見知らぬ天井があった。


「ここは……」

「目覚めたか、ゼルコバよ」

「父上」


声のする方を向くと、父アスペラ・リョーマイケルの姿があった。

そうだ、ここはヤエ・チェリーブロッサム公爵邸だ。

晩餐会が始まってしまう。


「僕はどれくらい意識を失っていたでしょうか」

「私が到着した時にはすでにこの部屋にお前が寝かされていたので、かれこれ2時間ほどだろう」


そういえば僕はヤエ公爵とお手玉取りゲームをしていたはずだが、神経を【強化】する魔法で脳に負荷を与えすぎたか、もしくは魔力の使いすぎで気絶したのだ。


「すぐに支度をして晩餐会に行かないと」

「うむ、ゆっくりで良いぞ。それより体調に異常はないのか?」

「大丈夫だと思います」

「なら良かった」


僕は近くのテーブルに置いてあった魔木の指輪や神の枯枝を装着すると、父に従って部屋を出た。

ユリネはいつも通り僕の腕に絡みついている。

廊下を進むと広間に向かって降りる階段があった。

赤い絨毯が敷かれており、木製の艶のある手すりには美しい彫刻が施されている。


「ゼルコバ様!」

「ゼルコバ殿!」


父と僕が広間に姿を見せると、ヨシノとスリーズが僕に気がついて駆け寄ってきた。

ヨシノは淡いピンク色のノースリーブのカクテルドレスに桜柄のボレロを羽織っている。

スリーズは情熱的な赤いカクテルドレスで、何も羽織らず肩を出している。大粒の真珠のイヤリングが美しく輝いている。


「二人ともドレスがよく似合っているね」

「まぁ!嬉しいです」

「あ、ありがとうございます」


僕が二人の装いを褒めると、ヨシノは素直に嬉しそうにし、スリーズは照れてもじもじしていた。


「既に陛下もお着きです」

「ゼルコバ殿、こちらへどうぞ」


ヨシノとスリーズに案内されたのは、大広間に用意された円卓であった。

円卓は一つしかなく、陛下もすでに着席している。

陛下の隣に座っている女性は王妃様だろうか。

他に、クラマがおり、その隣に僕と同じ年頃の男の子がいる。

僕はヤエ公爵の隣の席に案内されたので、大人しくそこに座ることにする。

ヤエ公爵の反対側には当然のようにヨシノが座り、その隣にスリーズ、父アスペラと続く。


「おや、ゼルコバ様、目が覚めたようだね。体調は大丈夫かい?」

「はい、おかげさまで、回復しました。ゲームの途中で気絶してしまい申し訳ありませんでした」

「なに、無理もない。私も初めてアレを使った時には気絶したものさ」


僕が着席し、ヤエ公爵が手を挙げると広間はピタリと静まり返った。


「今日はアスペラ・リョーマイケル伯爵と勇者ゼルコバ様をお迎えして、私的な晩餐会に招待させてもらいました。参加者はうちの身内だけだから、好きに飲み食いしておくれ。そこに座っているのはプルヌス、ロマツ、クラマ、ショウゲツだよ。気が向いたらおしゃべりするといい」

「姉上、そんな雑に紹介しないで」

「なにぃ、弟のくせに姉に物申すってのかい。表に出な」

「ヤ、ヤエ公爵、そちらの方は陛下であらせられるのでは?」

「そのようですよ、ゼルコバ様。私にとっては姉に逆らう生意気な弟ですけどね。あと、スリーズの両親は出張で王都にいないから、また今度紹介させてもらうとしようかね」


この場はヤエ公爵の独壇場だ。

流石の陛下も実の姉には頭が上がらないようで、苦笑いしている。


「勇者ゼルコバよ、わしはプルヌス・チェリーブロッサム三世じゃ。これは家内のロマツ、これは息子のクラマ、そして孫のショウゲツじゃ。どうか仲良くしてやってくれ」

「へ、陛下、頭をお上げください。お目にかかれて光栄です。こちらこそどうぞよろしくお願いします」

「ゼルコバ殿、クラマ・チェリーブロッサムです。先日は褒賞を中断してしまい申し訳なかった。今日はこうして挨拶できて嬉しいよ」

「クラマ様、ご紹介いただきありがとうございます。こちらこそどうぞよろしくお願いします」

「ところでゼルコバ殿はヤエ公爵から一本取ったって聞いたけど、スゴイね!」

「あ、そっ、そうです、ゼルコバ殿。お祖母様からお手玉を奪い取ったのですよね!一体どのようにされたのですか!?」

「う、奪い取ったわけじゃないんだけど……」

「ゼルコバ様の疾さが私を上回った、それが事実だよ。だから花マルも進呈させてもらったんだ」

「す、すごい」

「……信じられない」

「その花マルは剣聖の証では……?」

「け、剣聖ですか?」


クラマが驚いた顔で、僕の胸につけられている花マルを発見した。

スリーズもそれに気がつき、花マルを凝視している。


「そう、ヤエ公爵は剣聖と呼ばれており、圧倒的な剣術と魔法で敵を薙ぎ払う、チェリーリア王国最強の魔法士なんだ。そのヤエ公爵はありとあらゆる勲章を授与されているんだけど、いつも、大変良く出来ました、と書かれた花マルしか身につけない。いつしかその花マルは剣聖の証と呼ばれるようになったんだ。だから花マルは王国騎士にとって、憧れの勲章なのさ」

「クラマ、それは過去の話だよ。目を患った、か弱い私はもう引退したんだからね。その花マルはコウヤ山の大精霊様に賜った大切な物だから、私にとっての勲章はそれ一つで十分なのさ。ま、それも今日、ゼルコバ様に進呈したから、さらに身軽になったね」


この花マルはそんなに大切な物だったのか。

しかし僕は剣術が出来ないから、剣聖の証に相応しくない気がするのだけれど。


「まぁ、ゼルコバ様、桜花勲章もぜひつけていただけないかしら?」

「あ、そうだった。陛下、素晴らしい勲章をいただきありがとうございました。桜花勲章は今日つけようと思って持ってきていたんだった」


僕はジャケットの内ポケットから桜花勲章を取り出した。

桜花勲章は小さな木箱に収められており、木箱の中には勲章が傷つかないように布が貼り付けてある。


「なら私がつけて差し上げます」


突然、ヨシノが花マルに対抗して桜花勲章を僕の左胸につけ始めた。


「その桜花勲章も激レアな勲章だよね。ゼルコバ殿は珍しい勲章をいくつもお持ちのようだ」

「えっ、これって珍しいものだったんですか?」

「そうだよ、今王都で桜花勲章を持っているのは、ヤエ公爵とゼルコバ殿だけじゃないかな」

「うむ、そうじゃ。桜花勲章は国王が授与する物じゃが、世界樹の化身であるヨシノ様の推薦が必須なのじゃ。どこぞの勲章蒐集家も、桜花勲章だけはわしにねだっても手に入らないから悔しそうにしておったぞ」

「ああ、アーコレードですね。アイツには困ったものだ」


アーコレード、彼は今日この場にいない。

本来なら王族が全員集合しているのだから出席してもおかしくないはずなのだが、招待されなかったのか、それとも辞退したのかはわからない。

王家ファミリーの中で、アーコレードだけが異質な存在のようである。


「アーコレードに桜花勲章はあげられません。王都の危機に彼は出て来ませんでした。ゼルコバ様が駆けつけてくれたから良かったものの、そうで無ければ私は第八位階魔法【神化】を発動するところでしたから」

「ヨシノ様すみません、私の目がもう少しマシだったら良かったのに」

「ヤエを責めているわけではありませんよ。私はただ、ゼルコバ様に救われた命をゼルコバ様にお返ししたいだけなのです」

「ヨシノ様のおっしゃる通りじゃ。アーコレードは盾役となるマグノリア将軍がフジ山に遠征しているからと言って出撃を断ったからな」


マグノリア将軍。

彼は騎士団を率いてフジ山で異常行動をしたレッドドラゴンの警戒に当たっていたが、現在は騎士達と共に王都に帰還中であると言う。


「アーコレードは今日も教会でゼルコバ様に迷惑をかけていましたね。困ったものです」


ヨシノが言っているのは、アーコレードが教会から出ていくように促された時に、激怒して司祭を斬りつけようとした件だろう。

あの時は流石に無視できないと思ったので、ミニドライアドを召喚してアーコレードの凶行を食い止めたのであった。


「そういえば私は今日、ゼルコバ様と結魂しました」

「「「「えっ!?」」」」


料理は次々に運ばれてくるのだが、食べている暇がない。

どれも美味しそうなので、話の合間に素早くいただくことにする。

白身魚のカルパッチョが美味しい。

王都で鮮魚が食べれるとは思わなかった。


「素敵な結魂式になりましたね、ゼルコバ様」

「ごくん。うん、思い出に残る素晴らしい結魂式だったよ。これからもよろしくね、ヨシノ」

「はい!」

「そ、それはおめでとうございます」

「あー、アーコレードがいつにも増して荒れてるのはそれが原因だったのか」


陛下は絶句しつつもお祝いの言葉を述べ、クラマはアーコレードの機嫌が悪い理由が納得できたようであった。


「アーコレードはさ、ヨシノ様にガチ恋しているんだ」

「ガ、ガチ恋!?」

「そう、本気で好きなわけ。だからアーコレードが勲章集めをしているのは、本当は桜花勲章をヨシノ様から貰いたいからなんだ。アーコレードは魔法の才能があって、史上最年少で第七位階に到達したから、王国史に残る天才魔法士だって騒がれたものさ。本当はヨシノ様と結魂したくて頑張って魔法の練習をしたのかもしれないけど、本命のヨシノ様とは結魂できず。さらにはゼルコバ殿が突如として現れてヨシノ様と結魂してしまったのだから、荒れる気持ちも多少はわかる。でもだからと言って褒賞の場を乱したり、教会の人に迷惑をかけるようなことをするのは良くないことだけどね」


そうだったのか。

アーコレードはヨシノ様ガチ恋勢だったようだ。

だとするとアーコレードが僕を異常なまでに敵視する理由も納得できる。

しかし当のヨシノはというと、あまり興味がないようだ。


「アーコレードには、人間は人間同士で添い遂げるべきだといつも言っているのです。なかなか私の言うことを理解しないので、困っています」

「えっと、僕もいつか誰かと結婚して子供を持つかもしれないけれど、ヨシノはそれについてはどう考えてるの?」

「私の望みはゼルコバ様が天寿を全うし、寿命を迎えるその瞬間に使われるであろう第八位階魔法【神化】と同時に私も【神化】を使うことです。それまでの間にゼルコバ様はパートナーとなる人間と子を成すのが良いと思いますが、最期は二人で天界に向かい、永遠に歩んで行きましょうね」

「えっ、うん、わかった」


僕の終末手帳に、最期はヨシノと一緒に【神化】すること、という予定が書き込まれた。

というか、僕が第八位階に到達すること前提なんだね。

たぶんするけど。


「ヨシノ様とゼルコバ殿が天界に向かわれる時は、チェリーリア王国を挙げての慶事になるでしょうね」

「祝っていいのか悲しむべきなのか良くわからん祭事になりそうじゃな」

「ショウゲツ、頼むぞ」

「……はい」



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