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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第二章 第七位階魔法【精霊魔法】〜王都チェリーリア襲撃事件〜
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「クウカイ様!た、大変です。魔力容量が増えています!」

「ヤエ、おはよう。さっそく精霊御膳の効果に気が付いたようだね」

「精霊御膳の効果ですと!?」

「そう。精霊御膳フルコースを食べると、元の魔力容量の100%が増加して、最大で10倍の魔力容量を得ることができる。だから最低でも、魔力が増え続けている間はここにいた方がいいよ」

「なっ、なんと……」


私の元の魔力容量は50程度だが、これが10倍ともなれば500となる。

魔力容量500と言えば魔力容量が【極めて多い】と評価される数値だ。

しかも私の魔力回復速度は【極めて早い】から、それだけでも素晴らしい強化だ。


「それでは朝食を食べたら修行を開始しよう」

「はいっ!」


足はまだ痛むものの体力はすっかり回復して、私は朝から精霊御膳を完食した。


ーーー


「それでは昨日のおさらいから始めよう。ヤエは昨日、一度もお手玉を取ることが出来なかったが、どうすれば私のスピードに追いつくことができると思う?」

「そっ、それは。尋常ならざる厳しい修行を繰り返し、動きの無駄を無くすことでしょうか?」

「闇雲に汗を流しても意味ないよ。素早くお手玉を取るための秘訣があるんだ。でも動きの無駄を無くすというのは良いことだ。どのようにしたら動きの無駄がなくなるか。それにはまずは頭を【強化】する」

「こうでしょうか」


言われた通り、私は頭に第五位階魔法【強化】を使った。


「はっはっは。それでは頭が固くなっただけだよ。【強化】するのは頭の中にある神経と呼ばれる回路だ。普段意識していないかもしれないけど、神経には常に微弱な魔力が流れており、この伝達速度で認知機能が定められているんだ」

「頭の中に神経という回路?微弱な魔力が??」


にわかには信じがたいことであったが、自らの頭の中には神経という、微弱な魔力を流すための回路があったらしい。


「そう。ヤエは魔力を使い果たして気分が悪くなったり、気絶したことはないかな?」

「はい、あります」


 私は魔力容量が少ないため、訓練中に魔力を使い果たしてしまうことはよくあった。

初めて魔力を使い果たした時には気絶したことがあるが、最近は魔力を使うことに慣れてきたのか、限界まで魔力を消耗することはほとんどない。


「その状態は魔力枯渇と呼ばれ、生命の維持に影響を与えるほど魔力が失われてしまった状態なんだよ。まずはこの神経を流れる微弱な魔力を感知することが先決だ」

「神経を流れる微弱な魔力、今まで意識したことはありませんでした」

「そうだろう。では、【鑑定】を使用して自分の頭の内部を探ってみなさい」

「はい」


第四位階魔法【鑑定】は、対象とした物や生物の情報を読み取る魔法だ。

私はこれを固有魔法【癒しの風】に乗せることで、広範囲の索敵を得意としていた。

【鑑定】は最も得意とする魔法の一つであると言える。

私は自らの頭の内部に集中して【鑑定】を発動した。


「(頭の中に微弱な魔力が流れているのか?うーむ、よくわからない)」


「もし難しいようであれば、魔力枯渇になるギリギリまで魔力を減らしてから【鑑定】してみるといい。魔力が少なければ少ないほど【鑑定】の精度は上がるからね」

「魔力が少なければ少ないほど【鑑定】の精度が上がる?そうだったのですね」


そういえば、魔力容量が【極めて多い】者で【鑑定】が得意な人間は滅多にいない。

私はなぜか【鑑定】だけは誰にも負けないほど優れていたが、魔力の少なさが幸いしていたとは意外である。


魔力をクウカイに抜き取ってもらいつつ、再度【鑑定】で頭の内部の魔力を探る。

すると、確かにごく微弱ではあるが、魔力の流れを感知した。

魔法の訓練を始めてから頭の中を流れる魔力など意識したことはなかったが、神経と呼ばれる回路は確かに存在するようだ。


「はい、確かに、私の頭の中には微弱な魔力が流れているようです」

「よろしい、ではその微弱な魔力が流れている部分を意識して【強化】してみるといい」

「はい、【強化】」


すると、その瞬間周囲の景色は一変した。

クウカイの動作がゆっくりになり、見ようと思えば狐耳に生える毛の一本一本まで詳細に見ることができる。

自らの鼓動の音が大きく聞こえ、次第に拍動はゆっくりになっていく。

心臓の鼓動が遅くなっているのではなく、私の体感する時間が引き伸ばされているのだ。

全ての動きがスローモーションのように感じられ、体感時間は無限に引き伸ばされていく。

どこまでもどこまでも緩やかな時が流れ……

そして、私は突然気絶した。


ーーー


「目が覚めたかい?」

「一体、何が……」

「魔力枯渇だね。神経を【強化】すると、本来は脳内に微弱に流れている魔力が急激に活性化されて、加速度的に魔力消費量が増えていってしまうんだ」

「そうだったのですね。しかし、世界の全てがゆっくりと流れていました。と言うことは、神経を【強化】した状態で活動することができれば、凄まじい速度で動くことができるのでしょうか」

「そう言うことになる」


先ほど体験した緩やかな時間の中で動けば、私は何倍もの速度で動くことができるようになる。

これを習得することができれば、ファンタズマ・ミストタイガーが背後から急に襲ってきたとしても対処することが可能になるだろう。

ただ、咄嗟に切り替えが出来るかどうかが問題だ。


「さらに、これを応用することで、決められた動作を精密に繰り返すことも可能だ。ヤエ、ゆっくりでいいからこのお手玉を取ってごらん」

「はい」


私はクウカイに言われるまま、手を伸ばしてお手玉を取った。


「お手玉を取る、という動作をした時に、神経の中を魔力がどのように流れているかを【鑑定】で観察して、覚えておくんだ。そして、その時の魔力の流れを再現することで、全く同じ動作を何百回でも繰り返すことが出来るようになる。さらにこの同じ動作をする瞬間だけ【強化】を神経に使うことで、魔力消費を最小限にして素早い動きができるようになる」


ただ漠然と神経を【強化】すると、加速度的に魔力を消費して魔力枯渇の状態になってしまう。

そうではなく、あらかじめ決められた動作をする瞬間にだけ神経を【強化】することで、魔力消費を抑えつつも素早い動作が可能となるのだ。


「これは、そうか、これがクウカイ様のおっしゃる秘訣だったのですね」

「その通り。これを練習して確実に発動できるようにすれば、ヤエはビャッコに襲われても喰い殺されることなく下山出来るだろう」

「この素晴らしい魔法には名前はあるのでしょうか?」

「名前?いや、特にないなぁ。頭の中にある脳を使う魔法だから、脳魔法ってところかな?」

「脳魔法!これの習得を目指します」

「励むといい。精霊御膳もたくさんお食べ」

「はい!」


ーーー


その日から私は脳魔法の修行を続け、足が完治する頃にはこれを自在に操ることが出来るようになった。

あらかじめ決められた動作をする瞬間に脳魔法を発動することで、私は凄まじい速度を出すことが出来るようになった。

また、不意打ちなどを受けて対処する必要がある時には体感時間を遅くすることも出来るが、この場合は脳魔法の使用時間が長くなるので魔力消費量に注意しなければならない。


「ヤエ、卒業おめでとう。もし第七位階に到達したら、真の【精霊魔法】を授けてあげるから、その時はまた来なさい」

「ありがとうございます。その際にはまたお世話になります」


私は精霊御膳の効果のおかげで、元の魔力容量の10倍もの魔力を使うことが出来るようになっていた。

もっとも、すでに30代に近い私が毎日魔法を使い続けたとしても、魔力消費量が第七位階まで届くのは難しいだろうが。


「それでは餞別にこれをあげよう。私の手書きの地図だ。ここが今いる場所、ここが分霊殿。尾根を伝ってこのように歩いていけば、分霊殿まで最短距離でたどり着くことができる」

「ありがとうございます」


私はクウカイの手書きの地図を受け取り、道を確認して大切に懐にしまった。

どうやら私は自分でも気が付かないうちに、コウヤ山の山頂付近までたどり着いていたようだ。


「それと、もしヤエが勇者と呼ばれる存在に将来出会うことがあったら、その者にここに来るように伝えて欲しい。超強い必殺技を教えてあげるから、ぜひ足を運ぶように、とね」

「承知しました。その勇者という者は幸せ者ですね。しかしどのように見分ければ良いものか。勇者を詐称する輩もいるかも知れません」

「それもそうだ。ではヤエには特別な眼をプレゼントしよう。受け取ってくれるかな?」

「もちろんです。ありがたく頂戴します」


するとクウカイは私の顔のあたりに手をかざし、魔法を使った。

私は自分の両目に温かい魔力が流れ込んでくることを感じたが、逆らわずに受け入れる。


「今あげたのは精霊眼の【体験版】だ。もし勇者が本物であった場合、心臓に近い場所に神聖な種、もしくは苗木が宿っていることだろう。それは神気の種と言って、勇者がフォレスティナ様から授かる特別な物だ。これを宿した人物こそが、勇者に違いない。もし仮にヤエの目が将来見えなくなったとしても、神気の種だけははっきりと視ることが出来るだろう」

「ありがとうございます。勇者様に会うことができたら、必ずここに来るように伝えます」

「本当は精霊眼は第七位階に達した者にしか与えてはいけないのだけれど、【体験版】だから大丈夫だろう。資格無き者に高位の魔法を与えると、魂が崩れてしまうこともあるからね」

「それは恐ろしいですね。無理に【精霊魔法】をねだらなくて正解でした」

「はっはっは。冗談が言えるほど回復したなら重畳。花マルをあげよう」


そう言って、クウカイは私の胸に、大変良く出来ました、とかかれた花飾りをつけてくれた。

何らかの魔法で作り出した物だろう。


「それでは、何もお礼が出来ずに恐縮なのですが、そろそろ行きます。助けてくださり、食事を与えてくださり、修行をつけてくださり、誠にありがとうございました」

「気をつけて行っておいで」

「はいっ!」


そうして私は再び、門のような柱を潜って外に出た。

下山中、案の定ファンタズマ・ミストタイガーと遭遇したが、脳魔法を活用することで難なく突破することができた。


コウヤ山から生還した私はその後、多くの者に脳魔法を伝授しようとしたが、大半の者は習得することができなかった。

魔力容量が【極めて多い】者ほど習得率が低く、逆に魔力容量が少ない者の方が習得できる可能性があった。


時がたち、視力が落ちて引退した後も勇者を探していたが、なかなか発見することが出来ない。

勇者が現れるまで、私の寿命は持つだろうか。

最近はそればかり気にかけて、日々を過ごしている。


そんな時、孫娘のスリーズが勇者を連れてくると言ってきた。

勇者を僭称するものはこれまでにもいたが、今回の勇者は果たして本物であろうか。


私が応接室で待っていると、スリーズが世界樹の化身ヨシノと一人の少年を伴って入室してきた。

一眼でその少年を見て、私は彼が本物の勇者であることを確信した。

その少年の心臓に近い場所に、芽吹いたばかりの苗木が光り輝いているのが視えたからだ。


これでやっと、クウカイとの約束を果たすことができる。

せめてもの恩返しに、私は少年にクウカイからもらった地図と伝言を渡すつもりだ。


せっかくなので、ついでにお手玉取りゲームで少し遊んでみよう。


「ようこそいらっしゃいました、勇者ゼルコバ様。私がチェリーブロッサム公爵家の当主、ヤエ・チェリーブロッサムでございます。どうぞこちらへおかけください」

「はい、本日はお招きありがとうございます。リョーマイケル伯爵家三男のゼルコバ・リョーマイケルと申します。勇者として恥ずかしくないように、鍛錬を積んでいきたいと考えております。失礼いたします」


私の人生、花マルである。


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