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彩り豊かな山菜、野菜、果実、魚、肉、米、ありとあらゆる食材がふんだんに使われた御膳が僕たちの前にずらりと並び、宴の準備が完了した。
配膳してくれたのは大精霊様と同じように白衣を纏い緋袴を履いた巫女達で、顔にはそれぞれお面をつけており素顔は見ることができない。
「あやつらはおそらく、フジ山の樹海に自生する魔木の化身じゃろう。わしも一時期ここで修行していたことがある」
「そうなんだ」
世界樹の化身ツキが言うところによると、お面を被った巫女達は、魔木の化身だろうとのことだ。
確かに、あれだけの本数の魔木があれば、位階が高い魔木も多くあるのだろう。
魔木の化身達が僕らの前に用意してくれた料理のかずかず、それらは全て、かつて僕が日本で食べていた料理、和食であった。
「それでは皆様、お手元の甘酒をお持ちください。新たに第七位階魔法を習得したゼルコバ・リョーマイケルに乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「あ、ありがとうございます」
その甘酒は麹から作られており、酒精は含まれていなかった。
キエノは生まれて初めて眼にする和食に驚いており、どうやって手をつけたら良いかわからずにいた。
「お兄様、こちらの棒を使ってお食事をいただくのでしょうか?」
「あはは、それはお箸だよ。こうやって使うんだ」
「まぁ、お兄様はとても器用にお箸を使うことが出来るのですね!さすがは第七位階に到達されたお方です」
大精霊様はニコニコしていたが、そのやりとりを見ても何も言ってこなかった。
僕がかつて日本で暮らしていたということは、大精霊様には確実にバレていると思う。
キエノは不慣れながらも箸に挑戦し、ツキは上手に箸を使いこなし、サイプレスは諦めてフォークをもらって御膳を食べていた。
旨みを感じる味噌汁を久しぶりに飲んだ僕は、和食というものがこれほど美味しかったのだということに感動していた。
「皆さんたくさん召し上がってくださいね。きっと良いことがありますよ」
「良いこととは一体なんでしょうか?」
「この精霊御膳をたくさん食べると、魔力容量が上がります」
そうだ、黄金アケビを【鑑定】した時にも、わずかに魔力容量が上がるという効果があったのだ。
おそらくこの料理には、同じような効果がある食材がふんだんに使用されているのだろう。
「なに?魔力容量が上がるだと?これはたくさん食べないと」
「はむっ、こんなに美味しい料理ならいくらでも食べられます!」
サイプレスとキエノは魔力容量が上がると聞き、より一層食が進む。
僕は気になっていたことを大精霊様に質問することにした。
「そう言えば大精霊様、フジ山の樹海で見つけた黄金アケビという果実を【鑑定】したところ、魔力容量がわずかに上がるという効果を秘めていました。
もしかしてこちらの食材も、同じような効果があるのでしょうか?」
「うふふ、私のことはカグヤと呼んでください。フジ山の樹海にはラッキーアイテムを配置しているので、黄金アケビ以外にも魔力容量が上がる効果を秘めた物を採取することが出来ますよ」
大精霊様はカグヤと名乗り、僕に名前を呼ぶことを許可してくれた。
黄金アケビはカグヤがわざと配置していたラッキーアイテムだったのだ。
「実は先日、黄金アケビを採取して持ち帰って食べたのですが、僕の魔力容量は上がっていないようなのです。何か理由があるのでしょうか?」
僕たちは先日、モンテ・アジュガにて黄金アケビを食べている。
サイプレスやキエノの魔力容量が上がったのかは不明だが、少なくとも自分の魔力容量が上がっていないことだけははっきりとわかる。
『ゼルコバの魂が異世界より渡ってきた時に、魔力容量が固定値となったのです。そのため、魔力を使用してもすぐに元の魔力量に回復するのですよ。ですから、精霊御膳を食べても魔力容量が増えないのでしょう』
カグヤの声が、音を介さずに直接脳内に響いた。
他の人には聞こえていないようだ。
「こっ、これは……」
「これは念話という魔法で、【精霊魔法・初伝】に含まれています。内緒話をする時に便利でしょう?」
『陽の光を浴びていなければ魔力容量の固定化が無効になるようなので、今度は夜に自身を【鑑定】してみるといいですよ。きっと魔力容量が増えているはずです』
またしてもカグヤの声が二重に聞こえた。
どうやら僕が無限に魔力を使用できる理由は、魔力容量が10で固定されているから、というのが判明した。
どういうわけだが陽の光を浴びていないとこの体質は無効になるようなので、夜は魔力容量増加の効果が得られるということだろう。
「そうだったんですね。これは僕も張り切って食べないといけないな」
夜に僕が弱体化するのは、なんとか対策しないといけないと思っていた。
わずかにでも魔力容量が増えるのであれば、これほど嬉しいことはない。
僕たちは盛大に飲み食いし、デザートのあんみつをいただいたところで精霊御膳のフルコースは終了となった。
流石に満腹で、もうこれ以上は食べられそうにない。
「えー、それでは宴もたけなわではございますが、ここでゼルコバとツキの結魂式を執り行いたいと思います。ご両人、上座へどうぞ」
いつのまにか金屏風が設置され、2人分の席が新たに設けられていた。
まるで披露宴の高砂のようだ。
「え、えっと結魂についてよくわかってないんだけど、これも第七位階魔法なんだよね?」
「そうじゃ、結魂とはすなわち魂と魂の結びつきを示す。結魂した者同士は、どんなに離れていてもお互いに念話で意思疎通できるし、お互いを召喚することができるようになる」
「ツキは僕と結魂するのは大丈夫なの?」
「もちろんじゃ。むしろこちらからお願いしているのじゃから、ダメな理由なんて全くないのじゃ」
「それじゃあ、これからもよろしくね」
「はいなのじゃ」
「さあ、ゼルコバ、ツキ、両手のひらをお互いに合わせて、結魂と2人同時に唱えてください」
「「結魂」」
僕とツキがそう唱えると、途端に僕の魂とツキの魂が結合するような感覚を覚えた。
これを拒絶することなく相手を受け入れると、次第に魂の結合は安定していった。
「結魂は魂の結びつきですので、お互いを想いやってこれからの人生を共に歩んでいくように」
「はい!」
「はいなのじゃ」
僕たちはみんなに祝福されながら、無事に結魂することができた。
キエノはゼルコバとツキの結魂を目の当たりにして、より一層やる気を高めていた。
「(私もいつかお兄様と結魂、きゃっ!)」
結魂式が完了したことで宴はお開きとなり、カグヤが締めの挨拶をした。
「それでは宴はここまでにして、今日のところはゆっくりと休みましょう。お風呂の用意がありますから、よければ入浴することもできますよ」
「わぁ、ぜひお湯に浸かりたいですわ」
「なんて贅沢なんだ。湯に浸かるなんて、滅多にないことだぜ」
この世界ではお湯はとても貴重である。
日常生活では、貴族であっても濡れタオルで体を拭う程度が普通だ。
シャワーなんてものはなく、浴槽にお湯を溜めるだけでも一苦労だ。
しかし僕はもともと日本で暮らしていた記憶があるため、お風呂が恋しいという気持ちは人一倍強かった。
「カグヤ様、お言葉に甘えてお風呂に入らせていただきます」
「遠慮なさらずに。浴場は露天風呂となっており、青い方の暖簾が男性用で、赤い方の暖簾が女性用となっていますから、間違えないようにしてくださいね。あと、お洋服は洗濯させますので、入浴後はこちらの浴衣を着てください」
そう言って、カグヤは巫女達に浴衣を持ってこさせた。
久しぶりにお風呂に浸かって体をほぐした僕たちは、体の芯まで温まったので疲れを癒すことができた。
サイプレスは浴衣の着方がわからないようだったが、僕が教えてあげたのでなんとかなった。
その後、男性チームと女性チームはそれぞれ別の部屋に案内され、床に敷かれた布団にて就寝した。
サイプレスは旅で慣れているのか、初めての布団でも全く問題なくすぐに眠りについていた。
僕はというと、転生してからずっとベッドで寝ていたので若干違和感を感じつつも、ぐっすりと眠ることができたのであった。




