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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第二章 第七位階魔法【精霊魔法】〜王都チェリーリア襲撃事件〜
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032

レッドドラゴンに聖水を飲ませると、瘴気は完全に浄化された。

キエノはもはや、聖なる水差しが無くても、自由に聖水を生み出すことができるようになったようだ。

僕は念の為もりんちゅ1号に搭乗してから、試しにレッドドラゴンの拘束を解いてみることにした。


「ギャウウ」


レッドドラゴンは投網による拘束が解かれた後も、暴れ出すことはなかった。

僕にこてんぱんにされたのが、よっぽど恐ろしかったみたいだ。

もしかすると、暴れると食べられてしまうと思っているのかも知れない。


「おい坊主、コイツはもしかして……」

「はい、たぶんサイプレスさんがかつて闘った個体だろうと思われます。左眼に傷痕が残っていますので」


サイプレスがまだ冒険していたころ、フジ山で珍しい果実を取ろうとしてレッドドラゴンに襲われたことがある。

かつての恐ろしい記憶が思い出されたのか、サイプレスの表情は若干こわばっていた。

それ以来サイプレスはフジ山には行っていないようだったが、強烈な記憶として今も思い出されるのだろう。


「あ、そうだ。黄金アケビという果実を取ってきたんですが、見てもらえませんか?」

「黄金アケビ?おい坊主、それってもしかして……」

「はい、たぶんあの果実だと思うんです」


僕はもりんちゅ1号の背中から黄金アケビを取り出すと、サイプレスに渡した。

サイプレスは黄金アケビを手に取ると、そのまま食い入るように見つめて動かなくなった。


「せっかくだからみんなで食べてみようよ。10個くらいあるから、味見くらいならできるはずだ」


僕はスイカほどの大きさがある黄金アケビの果実を割いて、中の白い果肉を取り出して食べてみた。

濃厚な甘さが口いっぱいに広がり、イメージ通りのアケビの味がした。

種は固くて食べられないため、飲み込まずに口から出す。

ちょっとお行儀が悪いので、貴族が晩餐会で食べるには不向きだと思う。

騎士達にも少しずつ分けてあげると、みんなうまいうまいといって食べ始めた。

修道女達は種を口から出すのがはしたないと思ったのか、種と果肉を分けてから口に運んでいる。


「ゼルお兄様、種と果肉を分けていただけませんか?」

「えー、キエノ、それくらい自分でできるでしょ?」

「お兄様に取り分けていただいた果肉の方が、きっと美味しいと思いますの」


確かに、誰かに剥いてもらったリンゴの方が、自分で剥いたリンゴよりも美味しいのは間違いない。

僕は黄金アケビの種と果肉を取り分けると、小皿に乗せてキエノに渡そうとした。


「あーん」

「なんだよ、甘えん坊だなぁ」

「えへへ」


仕方なく僕が食べさせてやると、キエノは満足したのか修道女達と一緒に後片付けを手伝い始めた。

サイプレスはまだ固まったままである。


「サイプレスさんも一口いかがですか?甘くて美味しいですよ」

「ああ、食べる。そうか、これがあの時の果実か……」


サイプレスは感慨深くぼやきながら、黄金アケビを口に運んだ。

今はそっとしておこう。

こうしてモンテ・アジュガで突発的に始まった宴会はお開きとなった。

アスペラ伯爵には個室があてがわれたが、騎士達は礼拝堂で雑魚寝するというので、魔力ロープでハンモックを作ってあげると大好評だった。


ーーー


翌朝。


「ゼルコバよ、私は王都へ向かう。陛下に報告しなければならないことが多くあるからだ。その結果としてお前は王都に呼び出されることになると思うので、これを持っておきなさい」


アスペラが差し出したものは、複写式魔法契約書であった。

複写式魔法契約書に文字を書き込むことで、対となる魔紙に同じ内容が表示される。

この効果を利用すると、遠方にいる人とも即座に意思疎通を図ることが出来る。

言うまでもなく、高級品だ。


「王都に呼び出されることになったら、複写式魔法契約書でそれを伝えるから、すぐに参上するように」

「はい!」


僕がアスペラとやりとりしていると、ツキが杖をつきながらやってきた。


「アスペラ伯爵よ、すまんがこれも王都に持っていってもらえないじゃろうか」


そういってツキが指差したのは、瘴気爆弾を封印した土の箱だった。


「これは?」

「オークロードが瘴気爆弾とやらを起爆したところ、瘴気が吹き出してわしは行動不能になるほどのダメージを負ったのじゃ。その瘴気爆弾の残骸がこの箱の中に入っている。魔王とやらが製作に関わっているらしい。王都に持っていって、詳しく調べてみて欲しいのじゃ」

「承知しました。しかしかなりの重量がありそうですな」


アスペラが指示を出すと、騎士達が土の箱を担ごうとする。

4人がかりでなんとか持ち上げることはできるが、これを担いだまま下山するのは難しそうだ。


「そう言えば、今は使わなくなった荷車があったじゃろう。あれに乗せてアジュガローマまで引っ張って行けば良いのじゃ」

「それは名案ですね。しかしアジュガローマに向かう馬車道は崩落しており、今は通行止めになっているのでは?」

「それは大丈夫じゃ、馬車道を復旧しながらがら下山しよう。ゼルコバ、手伝うのじゃ!」

「わかりました!」


そういうとツキは待機させていたもりんちゅ1号の腕に腰掛けて、僕に現地に向かうように指示を出した。


「あっ、ツキ様ずるいですわ!私も緑の巨人に乗ってみたいです」

「キエノ、それだと両手が塞がっちゃうから無理だよ」

「ぶー」


駄々をこねるキエノを置き去りにして、もりんちゅ1号は軽やかに歩き出した。

その後ろを、騎士団が荷車を引きながらついてくる。

荷車には瘴気爆弾が入った土の箱と、黄金アケビが3つ乗っている。

陛下への献上品である。


馬車道は砂利を敷いてあるだけの道だったが、馬車1台なら十分に通行可能であり、ところどころに待避所があるので、対向車が来てもすれ違うことが出来る。


しばらくすると、崩落箇所にたどり着いた。

崩落箇所には沢筋があり、岩盤は湧水によって濡れている。


「ふむ、この場所は10年ほど前の大雨の時崩落して以来、通行止めとなっているのじゃ。再び土を盛ってもまた崩れてしまうので、そのままになっているのじゃ」

「ふむ、【樹木魔法】で樹木を操って、橋をかけるのはどうだろう。ツキ、【土魔法】で排水路を作ってくれないかな」

「もちろんじゃ」


僕はもりんちゅ1号を宙に浮かせ、崩落箇所がよく見えるように移動した。

岩盤から湧き出てくる水は、ツキの【土魔法】で一箇所に集めて、速やかに排水されるように地形を整える。

その後、僕はその辺に生えている実生の樹木を掘り上げて、崩落箇所の崖下に適当な間隔で植え付けた。


橋をつくる材料として今回使うのは実生のスギだ。


スギは常緑高木となる針葉樹で、まっすぐな幹が特徴的な樹種だ。

日本ではスギ花粉のせいで嫌っている人が多かったけど、今回はこれを生きた柱として橋の材料にしようと思う。

スギは湿った土壌を好むので、環境的に見ても適地であると思う。


僕は植え付けたスギに魔力を込めると、樹齢100年の魔木に成長させた。

その後、枝を絡ませて骨組みを作ると、馬車が余裕で通れる幅の橋が完成した。

さらにツキの【土魔法】で敷石を設置し、馬車の車輪が樹皮を傷つけないようにしてやれば、生きた樹木で造った橋の完成だ。

スギ達には、人間を攻撃しないように指示を出しておくことにする。


橋を渡った僕たちは、その後も馬車道の補修などして、無事にアジュガローマまでたどり着くことが出来た。

馬車道が使えるようになると、商人もモンテ・アジュガまで馬車で来られるようになるので、物資を運搬するのもかなり楽になることだろう。


「それでは父上、お気をつけて」

「うむ、ゼルコバも修行を続けるように。商売も継続するのだぞ」

「は、はい!(すっかり忘れていた)」


父アスペラに別れを告げた僕たちは、アジュガローマにあるイレックス商会の支店を訪ねて、モンテ・アジュガに定期的に食糧などを運搬してもらうように交渉することにした。


いちおう、商会を立ち上げるというのが出発点だったので、商売も頑張っていきたいと思う。

父に釘を刺されてしまったし。


モンテ・アジュガではブドウの葉のお茶とワインを生産しているので、お金は十分にあるということだった。

イレックス商会にとっても良い取引となるだろう。

しかし、イレックス商会の場所がわからないため、誰かに教えてもらうしかない。


「すみません、イレックス商会の支店はどこにあるでしょうか?場所を教えてもらいたいのですが……」


僕とツキはもりんちゅ1号をアジュガローマの外で待機させると、街の門の近くに立っている騎士に声をかけた。

見張りをしていた騎士は驚いた様子で、僕の顔をまじまじと確認した。


「え?もしかして、ゼルコバ様でしょうか」

「はい、そうですけど、どうかされましたか?」

「アジュガローマの街をオークの侵攻から救って下さった、勇者ゼルコバ様?その節はありがとうございました!私どもリョーマイケル伯爵家騎士団アジュガローマ支部一同、ゼルコバ様にはなんとお礼を申し上げればよいかと考えておりました!」

「え?えっと……」


「ゼルコバ様?」

「本物のゼルコバ様?」

「ゼルコバ様に間違いない」

「ゼルコバ様!」

「勇者ゼルコバ様だ!」

「勇者様のご帰還だぁ!」

「「「キャー、ゼルコバ様こっち向いてー!」」」

「ラララ〜、かの者こそ勇者なり〜」


ゼルコバという名前を聞いた瞬間、アジュガローマの街は大騒ぎとなり、群衆が押し寄せて僕を担ぎ始めた。


「「「わっしょい!わっしょい!勇者ゼルコバ様のお通りだ!」」」


「えっ、えっ、え〜っ!?」

「や、やめるのじゃ!わしは関係ないから下ろしてくれ〜!」


その後、僕とツキは役所に強制連行され、市長から直々に感謝の言葉と金一封を手渡された。

そのまま宴会に突入し、散々接待されてアジュガローマで一泊することになってしまった。

結局、イレックス商会との交渉は出来ず、翌朝、僕たちは誰にも見つからないように大急ぎでモンテ・アジュガに逃げ帰ったのであった。




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