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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第二章 第七位階魔法【精霊魔法】〜王都チェリーリア襲撃事件〜
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レッドドラゴンの目の前に着地した僕は、威嚇するレッドドラゴンに向かって間合いを詰めた。

神の枯枝と採取した黄金アケビはもりんちゅ1号の背中に格納しており、行動の邪魔にはならない。

僕はこの時、第七位階に上がったことで、テンションが上がっていた。


「(風に乗せた【鑑定】で相手の動きが詳細にわかる。戦闘中にも役に立つ技術だったんだな。流石はサイプレスさんだ)」


サイプレスが教えてくれた魔法の効果に感動しつつ、僕はレッドドラゴンにぐいぐい近づいていく。

レッドドラゴンが大きく腕を振りかぶって、鋭い爪で引っ掻き攻撃をしてきた。

これをもりんちゅ1号の体をずらして躱した僕は、すかさずレッドドラゴンの顔面にビンタを喰らわせる。


神気を込めた魔力による、愛情ビンタだ。


今のもりんちゅ1号でレッドドラゴンを殴りつけると、下手をすると致命傷を与えてしまう可能性がある。

このレッドドラゴンは瘴気にやられてしまったために、正気を失っているだけだ。

瘴気を払ってやれば、フジ山に君臨する偉大なる空の王者に戻ってくれるだろう。

おそらく、魔物にも生態系か何かがあるだろうから、昔からフジ山を縄張りにしているレッドドラゴンを討伐してしまうと、思わぬ悪影響が出る可能性がある。

だから僕は環境に配慮して、レッドドラゴンにはなるべくダメージを与えないようにして、瘴気だけ払ってやろうと思っている。


バリン!


何か透明なガラスのようなものを破壊した手応えがあった。

もしかして魔法障壁というやつだろうか。

それほど堅い印象もなかったため、構わずそのままレッドドラゴンの横っ面を叩く。


「ギャン!」


レッドドラゴンは子犬のように叫ぶと、怒りに眼を血走らせて僕を睨みつける。

生まれて初めてぶたれたとでも言いたげな眼差しだ。


「僕はキミのためを思ってやっているんだから、おとなしく浄化されなさい」


動物虐待をしている危ない人のような言動だが、神気を打ち込んで瘴気を払うにはこれしかないのだ。

レッドドラゴンが回転しながら尻尾で薙ぎ払い攻撃をしてきたため、右手で受け止めて左手でビンタする。

僕がビンタをするたびに、レッドドラゴンの体からは黒い煙が薄れていっており、確実に効果はあるようだ。


ところで、魔法障壁とはどのような魔法なのだろうか。


暴れるレッドドラゴンの尻尾を掴んでいると魔法障壁は発動しないが、一旦距離をとってからビンタ攻撃をすると、やはりガラスを突き破るような手応えと共に魔法障壁が破壊される。

例えばだが、ある一定以上の速度を持った物体に対して自動で防御する魔法、といったところだろうか。

この時、攻撃を感知する魔法と、攻撃を防御する魔法の二つが必要となる。


つまり、これは第四位階魔法【鑑定】を応用した魔法なのかもしれない。


【鑑定】を常に自分の周囲に展開させておき、指定した速度や威力をもった攻撃に対してのみ自動で反撃するバリアを展開するようにしているのだろう。


では、バリアはどのようにして作り出すのか。


【念動】であらかじめ魔力を空中に漂わせておき、漂わせた魔力を【性質変化】でガラスのように固くしているのだろうか。

ガラスって脆いイメージがあるから、何か別のものが良いような気がするんだけど……


魔法はイメージが大切だ。

僕はなるべく強固な物を考えてみることにした。

普通ならば、頑丈なものと言えば、鋼鉄や岩石を思い浮かべるだろう。

しかし僕の固有魔法は【樹木魔法】だ。

魔法障壁にしても、樹木をイメージした方が良いに決まっている。

僕は出会った中で最も頑丈で偉大な樹木を思い浮かべた。


それはツキの本体である、世界樹だ。


ツキの世界樹はケヤキという樹種の樹木で、日本でも最高級の建築用木材として知られていた。

材は堅く、よくしなる。

ケヤキの材は広葉樹の中でも特に高密度で、重くて堅い性質を持つ。

ストロー状の導管を構成する細胞壁は非常に厚く、傷にも強くて頑丈だ。

硬いだけでなく、繊維が粘り強く絡み合っているため、衝撃や曲げに対して非常に強い。


鋼鉄や岩石といえど、長い年月風雨にさらされれば、劣化して朽ち果てていく。

鉄は形を失い、岩石も徐々に風化していくことだろう。

しかし世界樹は、数千年という長い期間、同じ場所に存在するという偉業を成し遂げた存在だ。

しかも樹木は生きているため、常に生命活動を行っており、例え傷ついても自らの生命力でもって修復することができる。

まさしく僕のイメージにピッタリな、圧倒的に頑丈な存在、それが世界樹だ。


僕は周囲に展開していた風に乗せた【鑑定】を操作し、レッドドラゴンの目の前に世界樹をイメージした魔法障壁を生み出した。


「ガァ!ギャン!?」


レッドドラゴンは噛みつき攻撃によってもりんちゅ1号の首を狙うが、強固な魔法障壁に阻まれてしまい、牙が何本か折れてしまった。

自らの誇る最強の牙が折れたことに呆然としたレッドドラゴンは、口内で魔力を練り始めた。

きっと、必殺技のブレスを放つつもりだろう。


しかし僕ともりんちゅ1号を目の前にして、そんな大きな隙を晒すことは許されない。

すかさずビンタでレッドドラゴンの横っ面を叩き、ブレスをキャンセルする。


「ガァァ!」


怒ったように、またしてもブレスを放つ準備をし始めるレッドドラゴン。

何度やっても無駄だ、愛情ビンタでブレスをキャンセル。


「ギャン!」


レッドドラゴンはすっかり戦意を喪失し、尻尾は垂れ下がり、怯えている様子だ。

背中を見せて逃げ出そうとするレッドドラゴンだったが、僕はそれを許さない。

なぜならレッドドラゴンの体は、まだ瘴気で汚染されたままだからだ。


「(愛情ビンタで払える瘴気は体の表面だけだな。体の内側に浸透している瘴気を浄化するためには、キエノが作り出す聖水を飲ませる必要があるかもしれない)」


この場でビンタを続けてもレッドドラゴンを完全に浄化することが出来ないと悟った僕は、レッドドラゴンを捕獲してモンテ・アジュガに連れて帰ることを決めた。

そうと決まれば話は早い。

僕は【性質変化】と【形状変化】で魔力を魔糸にし、魔糸を編み込んで魔力ロープを作り出す。

さらに魔力ロープから投網を作り出して、レッドドラゴンに向けて投擲した。


「ギャウウ!」


レッドドラゴンは投網に捉えられ苦しそうにもがいているが、頑丈な投網は決して千切れることはない。

緻密に編み込まれた魔糸は芯と外皮の二重構造からなる、ダブルブレイド構造だ。

外皮は耐摩耗性に優れており、レッドドラゴンの爪で引っ掻かれても全く傷がつかない。

さらに、強度を担う芯の部分が切断されなければ、決して投網を破ることは出来ないだろう。


僕はかつて日本で使っていたツリークライミング用のロープをイメージして、この世界で誰にも再現不可能な強度の魔力ロープを作り出すことに成功した。


「ふふふ、足掻いても無駄だよ。この魔力ロープはキミの力では引きちぎることは決して出来ない」

「ギャン、ギャン!」

「さぁ、残った瘴気を浄化してあげるから、一緒にモンテ・アジュガまで帰ろう」

「ギャイン!?」


僕はレッドドラゴンを捕獲した投網を担ぐと後ろを振り返り、レッドドラゴンに襲われていた人に別れの挨拶をする。

レッドドラゴンに襲われていた人たちには、頑張って自力で下山してもらうことにしよう。


「あのー、僕は急用が出来たのでそろそろ出発します」

「は、はひっ」


その人は銀色に輝く美しい剣を持っており、ピンクゴールドの長髪を後ろで束ねている。

たぶん本来ならとてつもない美女なのだろうが、汗と涙と鼻水で顔面がぐちゃぐちゃになっているので、今は残念な感じになっている。


「あ、それと、これリンゴなんですけど、よかったらどうぞ。火傷にも効くそうなので、重症の方に食べさせてあげてください」

「あ、ありがとう、ございましゅ……」


僕はたまたまおやつ用に持ってきていた真っ赤なリンゴを差し出した。

これは母カマツが持たせてくれた最高級のリンゴで、一口食べればありとあらゆる外傷がたちどころに治る素晴らしい果実だ。


「それでは、無事の下山を祈ります。さようなら」

「あっ、あなた様のお名前を、お名前をお聞かせください!」

「あっ、名乗るほどの者ではありませんので、それでは〜」


危なかった。

やっぱり探ってきたか。

しかし、もりんちゅ1号に搭乗していたおかげで、顔バレはせずに済んだ。

やはり魔木装甲はとても便利だな。

そう思った僕は、風を操ってモンテ・アジュガへの帰路を急いだ。

レッドドラゴンは途中からすっかりおとなしくなり、モンテ・アジュガに到着するころには飼い犬のように従順になっていたのであった。


ーーー


「(あの緑の巨人は一体何者だったのだろうか。おそらく、巨人の内部には誰かがいて、魔法で巨人を操っていたはずだ。あの圧倒的な力、スピード、魔法を操る技術、私などとは全く比べものにならない。ぜひあの方に弟子入りしたい!)」


稀代の天才魔法士、スリーズ・チェリーブロッサムは、なんとしても緑の巨人を操る謎の魔法士を探し出すことを心に決めた。

生まれて初めて彼女の胸に宿った感情は、強烈な憧れと淡い乙女の恋心であった。



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