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昼食は修道女たちが焼いてくれた焼きたてのパンと、干したブドウ、チーズなどを食べた。
赤いブドウの葉のお茶はわずかに酸味があり、野外でいただくととても気分がいい。
食後にブドウ茶を楽しんでいると、サイプレスがやってきた。
「坊主、面白い魔法を考えたな。魔力を糸のように【形状変化】させ、さらにこれを編み込むことで魔力ロープを作るとは、なかなか高度な技術のようだ。それを極めれば必殺技になるかもしれないぜ」
「本当ですか!?頑張って使いこなせるようにしたいと思います!」
サイプレスは僕の魔法を誉めてくれた。
僕は嬉しくなって、魔力ロープをどんどん作っていく。
さらに魔力を【性質変化】させることで、魔力ロープの伸縮率も変化出来るようになった。
よく伸びるロープは弾力があり、ハンモックのように加工することもできた。
「これは面白いですわ」
「あはは、でもキエノ、家に帰ったら多分怒られるからやらないようにね」
「それならモンテ・アジュガで堪能することにしますわ」
魔力ロープで作ったハンモックは大好評で、人数分作ってあげることにした。
みんなでハンモックでお昼寝をすると、昨日からの疲れもすっかり癒された。
「勇者殿、午後からも治療をお願いするのじゃ!」
ツキが鼻息荒く僕に言った。
午前中、枝に潜んでいたカミキリムシ幼虫を駆除したことで、かなりツキのテンションが高まっているようだ。
ツキは足が不自由なために常に杖をついており、間違いなく世界樹本体の根に問題があるものと思われる。
「はい!それではもう一度【鑑定】」
僕は世界樹を【鑑定】しつつ、再度魔力を流して治療を試みた。
頭の部分の黒いものは、カミキリムシを除去したことでかなり改善されている。
お腹の部分の黒いものは、瘴気爆弾の影響だろうから、いずれ良くなるだろう。
現在進行形で問題があるのは、足の部分だ。
僕は世界樹の根に集中して魔力を流し治療を図るが、何かに阻害されてうまく魔力が通らない。
「うーん、やはり根に問題がありそうですね。根元の地際部分を掘ってみても良いでしょうか?」
「思いつくことはなんでもやってほしいのじゃ!ぜひやってもらいたいのじゃ」
ツキの鼻がピスピス動いて、とても可愛らしい。
本人は自覚がないようだが、テンションが上がるとツキの鼻は動くようだ。
「うーん、こんな時スコップがあればよかったんだけど、剣だと穴掘りには向いてないんだよなぁ。仕方ない、素手で掘るとしよう」
僕は【性質変化】で指先に纏った魔力を鉄のように硬く変化させ、さらに第五位階魔法【強化】を両手にかけつつ、世界樹の根元を掘り始めた。
これが意外にも使い勝手がよく、ザクザクと穴掘りができる。
素手なら根を痛める心配もないし、これが正解だったのかもしれない。
しばらく掘り進めると、根元の樹皮を軽く叩いて、音を確認する。
異常があれば、樹皮が浮いていることがあるからだ。
根元の表面の土を【性質変化】させた風で吹き飛ばしつつ、外観目視にて異常がないかチェックしていく。
三箇所ほど掘削して確認したところ、異常が発見された。
「む、これは、シロアリだ!」
「シロアリ!?」
シロアリは植物遺体などを食べる社会性昆虫で、アリの仲間ではなく、ゴキブリの仲間であるとされている。
家屋の木材などを食害して人に迷惑をかけることがあり、稀に生きている樹木に侵入することもある。
前世ではヤマトシロアリやイエシロアリなどを見かけたことがあるが、いずれも専門的な知識を持った駆除業者が特殊な方法で対処していた。
駆除方法の概要は知っているが、異世界で果たして同じ方法が通用するのだろうか。
とりあえず、試してみないことには始まらない。
「お兄様、シロアリとはなんですの?」
「シロアリというのは、木を食べる小さな昆虫のことだよ。もしかすると、数十万頭ものシロアリが世界樹の根株に巣を作って、食害しているかもしれないね」
「す、数十万頭!?そんな大量のアリに齧られたら、わし無くなってしまうのでは!?アリなら夏になると世界樹の幹をうろついているが、あやつらそんな悪事を働いておったのか」
「シロアリというのは実はアリじゃなくてゴキブリの仲間なんです。黒アリは樹木に悪影響は無いから、今回退治するのはあくまでシロアリですよ」
「そうじゃったのか……先生〜、よろしくお願いしますのじゃ〜」
ツキは涙目で僕に縋り付いてくる。
そんなに一生懸命お願いされなくても、もちろん治療するつもりだ。
「この治療には材料が必要になります。ツキ様、枯枝を何本がいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「どんどん使ってくだされ。あと敬語は不要じゃ。わしと先生の仲ではないか」
「それじゃ遠慮なく、枯枝を、何本かいただくね」
「どうぞどうぞなのじゃ」
すっかりツキに信頼された僕は、魔力ロープを作り出して再度木登りする。
枯枝を剪定するときは、本当はチェーンソーがあるとよかったんだけど、そんなものは無いからやはり魔法で解決しようと思う。
僕は手をチョップのように構えると、手の側面を魔力で作った刃が高速で流れていくイメージで、枯枝を付け根から切除した。
木屑が舞い、硬いケヤキの材を魔力の刃が高速で削っていく。
枯枝には硬い枯枝と、腐朽して柔らかくなった枯枝があり、これを組み合わせて使うことにする。
適当に枯枝を落とした僕は地上に戻り、さっそく工作に取り掛かる。
「まずは硬くてしっかりした枯枝を使って、円筒形の容れ物を作ります」
僕は【樹木魔法】で、枯枝をイメージした形状に加工していく。
拳が入るくらいの太さの筒で、長さは50cmくらいのものを10個ほど作った。
硬い枯枝で作った円筒形の容器の側面には、いくつか孔を開けておく。
「そしてこの円筒形の容器を、シロアリがいそうなところに密着させて、埋め戻します」
「ふむふむ」
僕は先ほどシロアリを発見した箇所や、木の根の窪んだところなど、怪しそうなところに10本の筒を埋め込んだ。
「さらに、筒の中に餌となる柔らかい枯枝を入れておき、蓋をする。シロアリが食いついたら殺虫成分を含んだベイト剤を投入して、巣全体を駆除するんだけど、とりあえず今回はここまでだね」
「ほー、そんな方法でシロアリがいなくなるんじゃのぅ」
「根っこを掘り返すわけにもいかないからね、急がば回れ、時間はかかるけど、着実に治療していこう」
「わかったのじゃ、先生にお任せするのじゃ」
「あはは、先生じゃないよ。僕の名前はゼルコバ・リョーマイケルだ」
「それではゼルコバよ、これからも治療をよろしくなのじゃ。あっ、そうだ!一つお願いがあるのじゃけれど、良いじゃろうか?」
「お願い?なんでも言ってよ」
「もしよければわしとケッコンして欲しいのじゃけれど、どうじゃろうか?」
「けっ、結婚!?僕にはまだ早いかなー、なんて」
「なに、まだ第七位階まで到達しておらんのか?ならば早急に位階を上げた方がよいと思うのじゃけど?」
「えっ?第七位階?ケッコンて、魔法のことだったの?」
「そうじゃ。第七位階魔法【精霊魔法】に含まれる、魂と魂の繋がりを作る魔法、それが結魂じゃ。結魂していれば、互いの居場所に瞬時に移動したり、念話によって離れていても情報を共有出来るので、大変素晴らしいのじゃ」
「なるほど、それは素晴らしいね。ぜひ第七位階になって、僕と結魂して欲しい」
「もちろんじゃ!」
「(私もいつかお兄様とケッコンしたいですわ……)」
二人の会話を密かに聞いていたキエノは、この日生まれて初めて、将来の夢ができたのであった。
「(私もいつか絶対、第七位階に到達しますわ!!)」




