025
僕達が礼拝堂にたどり着くと、その時まさにオークロードが礼拝堂の石壁を破壊したところだった。
「いけない!すぐに救助に向かわないと」
「うげぇ、この黒い煙の匂いはかなり強烈だ」
「なんのこれしき、ぐぅぅ、息ができない、ゴホッゴホッ」
サイプレスは【念動】で風を動かして顔の周りに黒い煙が来ないようにしていたが、騎士達は黒い煙を吸い込んでしまい、皆苦しそうだ。
「僕が先行します!サイプレスさん、キエノをよろしくお願いします。デーツさん達は隙を見て救助をお願いします」
「りょーかい」
「面目ない」
僕はすぐに魔法の準備に取り掛かった。
アジュガローマで生み出した魔木の生垣で使ったケヤキの指輪は10個、そして元々僕が持っていた1個と合わせて、合計11個の指輪を持ってきた。
指輪にはそれぞれ、馬車に蓄えてあった魔力を移し変えており、1個につきおよそ100の魔力を蓄積させている。
さらにユリネに溜めてある魔力100と、僕自身の魔力容量がわずかに10。
合計1210の魔力を使って戦わなければならず、夜明けまではまだまだ時間がかかる。
僕はさっそく、背負っていたエノキの苗木を地面に植えると、【樹木魔法】で急速成長させる。
魔力100を使って樹齢100年の魔木の大木を作り出すのだが、僕は成長中の魔木を操作して、自分自身の体を樹木の中に納めた。
さらに、魔木を変形させて、胴体、腕、頭を作り、最後に根っこを引き抜いて脚部を整えてやれば、樹木で作った緑の巨人の完成だ。
「コイツの名前は、もりんちゅ1号だ!」
「おお〜、こりゃあ強そうだぜ(名前の意味はよくわかんねぇけどな)」
「ゼルコバ隊長、カッコいいです!(名前以外はカッコいいです!)」
皆口々に、もりんちゅ1号を賞賛する。
もりんちゅ1号の魔力容量は約1000で、これは魔木を成長させた後に自動回復した分だ。
根を地面から引き抜くと魔力の自動回復は出来なくなってしまうようだが、これを使えばオークロードと互角に戦うことができるはずだ。
もりんちゅ1号の胴体には空間があり、呼吸するには充分な量の空気が内部に蓄えてある。
「行きます!」
緑の巨人、もりんちゅ1号は、初めはゆっくりと歩み出し、次第に駆け足で移動を開始した。
オークロードが突進で石壁のバリケードを壊しながら進んでいるのが見える。
キエノの無事を確認することができたのは幸いだった。
キエノの隣には銀髪の可愛らしい女の子がいて、魔法を使って石壁のバリケードを作り出しているようだ。
「僕の妹から離れろ!」
「ブヒッ!?」
僕はオークロードの腕を引っ掴んで、勢いよく後ろにぶん投げた。
もりんちゅ1号は、体長5mを超えるオークロードを相手にしても、全く体格で負けていない。
パワーとスピードも申し分なく、【鑑定】をもりんちゅ1号を通して発動させることにより、周囲の状況確認もできている。
「よかった、間に合った!オークロード、お前の相手はこの僕だ!キエノ、良く頑張ったね。あとはサイプレスさんの指示に従って、僕はオークロードを抑えるから」
「お兄様!?」
キエノは状況がうまく飲み込めていないようだったが、丁寧に説明している暇はない。
今はとにかくオークロードをやっつけなければ。
そう思った僕は、先ほど投げ飛ばしたオークロードに向かって突進した。
「ブヒィ!なんだお前は!これでもくらえ、【黴魔法】腐敗の吐息」
オークロードは第六位階魔法を発動すると、口からカビの胞子のようなものを吐き出した。
触れるとマズいかもしれないと思ったため、もりんちゅ1号を前傾姿勢にしてしゃがませると、勢いはそのままにタックルする。
オークロードと僕はもつれ合って、礼拝堂の外に飛び出した。
あたりは黒い煙が立ち込めている。
どうやらこの黒い煙は、オークロードが使うカビのような魔法とは別物らしい。
考えている余裕はない。
今はとりあえずオークロードに攻撃だ。
「おりゃ、おりゃ、おりゃりゃりゃりゃ!」
「ブヒッ!ブヒィ!ブーッ!」
僕はオークロードをもりんちゅ1号の腕力でねじ伏せると、そのまま連続パンチを繰り出した。
もりんちゅ1号のパワーは凄まじく、オークロードはなすすべもなく殴られ続ける。
「ブヒィ!もう、許して。ごめんなさい、ごめんなさい、ブヒィ!」
あまりの猛攻に悲鳴をあげて許しを乞うオークロード。
僕は肩で息をしながら、動きを止めて冷静になった。
もりんちゅ1号の魔力はまだ800以上残っている。
予備の魔力を蓄えたケヤキの指輪もあることだし、まだまだ余裕がある。
「許してやってもいいが、この黒い煙を止める方法を今すぐ言え!さもなくば」
「ブヒィ、ぐるじぃぃ、言います、言います、ブヒィ!」
僕はオークロードを殴るのを止めて、両腕で今度は首を絞める。
たまらず悲鳴をあげたオークロードは、黒い煙の止め方を白状すると言ってきた。
「よし、では立って案内しろ。少しでも不審な動きを見せたら、また殴るからな」
「ブヒィ!こ、こちらです、ブヒィ!」
オークロードを歩かせてしばらくすると、黒い煙の向こうに大樹の幹が見えてきた。
その根元には、今なお黒い煙を吐き出し続ける物体がある。
「これはなんだ!?」
「ブヒィ、これは魔王様謹製の瘴気爆弾です。熱とともに瘴気をぶち撒ける、恐ろしい兵器です、ブヒィ」
この黒い煙は瘴気というらしい。
しかも魔王という存在がおり、こんな危ないものを作り出すことができるようだ。
これは対策を考えなければならない。
そう考えていた僕は魔力が急激に失われていくのを感じた。
高濃度の瘴気に近づくだけで、もりんちゅ1号はダメージを受けているようだ。
この瘴気、かなり危険だ。
「早く瘴気を止めろ!」
「ブヒィ、止めることなんてできません、ブヒィ!」
次の瞬間、もりんちゅ1号は急に制御不能になり、その場に崩れ落ちてしまった。
魔力残量は300にまで減ってしまっている。
「ブヒィ、言い忘れていましたが、瘴気を受けた者は正気を保てなくなり、濃度によっては即死するほどの危ない毒です、ブヒィ」
「なんだって!?くそう、この場から早く離れなければ……」
「ブヒィ、そうはさせないブヒ!ブヒヒヒヒ、形勢逆転、ブヒィ!」
もりんちゅ1号はその場にうずくまり、オークロードは動けない僕を殴ったり蹴ったりしてきた。
かろうじて、もりんちゅ1号はうずくまりつつも地面に根を張ることで魔力を回復させることが出来るのが幸いであった。
しかし高濃度の瘴気により、もりんちゅ1号は行動不能になってしまったため、今は耐え続けるしかない。
「ブヒィ!愉しい、無抵抗な相手を痛めつけるのは、とても愉しい、ブヒィ!ブビャビャビャビャ!」
オークロードも瘴気の影響により、正気を保てなくなっているようだ。
駄洒落のような話だが、かなり強力で恐ろしい効果である。
と、その時、もりんちゅ1号の肩に、雨粒が1つ落ちてきた。
その雨粒が当たった箇所はほんのりと暖かくなり、機能が回復するのを感じる。
雨粒は、1つ、2つ、次第に雨は強くなり、もりんちゅ1号の体を濡らしていく。
「(これは、もしかして聖水!?キエノ、サイプレスさん、ありがとう!)」
聖水を全身に浴びたことにより、瘴気にやられていたもりんちゅ1号は、再び立ち上がった。
そして、僕の中で何かの種が発芽したのを感じる。
これは間違いなく、教会にてフォレスティナ様に授けてもらった聖なる種だ。
聖なる種は邪を祓う神気を僕に与えてくれるのだ。
「ブヒィ!?なんで瘴気が効かないブヒィ?あり得ない、ブヒィ」
「オークロード、キミに名前はあるのか?」
「ブヒィ?なぜそんなことを聞く、ブヒィ?」
「いいから答えろ」
僕ともりんちゅ1号の体は光輝いており、地面に張っていた根を引き剥がして歩き始める。
「ブヒィ、我が名はブマタンゴ!第六位階魔法を操る、偉大なるオークロードよ、ブヒヒヒヒ!」
「そうか、ブマタンゴ、この一撃でさよならだ」
「ブヒッ!?」
もりんちゅ1号は腰を落とし、神気を込めた魔力を練った右腕を、全力で振り抜いた。
必殺技、右ストレートである。
「おりゃあぁ!」
「ブヒィー!」
もりんちゅ1号のパンチとともに解き放たれた魔力はブマタンゴを飲み込み、そのまま吹き飛ばした。
ブマタンゴは聖なる魔力の奔流をまともに受け、塵も残さずに消滅した。
こうして、モンテ・アジュガ救出作戦は、大勝利に終わったのであった。




