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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第一章 勇者の旅立ち 〜アジュガローマ、モンテ・アジュガ防衛戦〜
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アジュガローマからモンテ・アジュガまでは、徒歩で一日の移動距離であるとされている。

標高差約600mで距離約15kmの登山道を徒歩で進むわけだが、健脚であれば実際には半日程度で到着することができる。

修道女のトネリは暗闇の中、この道を3時間で駆け降りてきたのだから、驚異的なスピードである。

かつては迂回路を使えば馬車でも行けたのだが、ある年の大雨被害により崩落し、復旧されていないため現在は通行止めとなっている。


ゼルコバ、サイプレス、デーツ達騎士団10名は、深夜にアジュガローマを出発して、そろそろモンテ・アジュガに到着しようという距離まで迫っていた。


「坊主、作戦を確認するが、まずは修道女達の救出が優先だ。というか、オークロードを倒す必要はないから、人命救助が最優先だ」

「はい、僕も賛成です!」

「了解だ!」


ゼルコバ、サイプレス、デーツの3人で意見を出し合い、具体的な作戦を決めていく。


「まず、オークロードに気づかれないように礼拝堂に接近して、裏口から中に入る。その後、オークロードが追ってこなければ、修道女全員とキエノお嬢ちゃんを連れて、アジュガローマまで撤退する。問題は黒い煙と、オークロードに気づかれちまった時の足止めなんだが……」

「オークロードは私達が命懸けで食い止めよう」


デーツ団長は決死の覚悟でそう言った。

騎士達の実力はおよそ一般オークと互角だ。

10人いるとはいえ、オークロードを抑えるには荷が重いのではないか。


「黒い煙についてですが、キエノが聖なる水差しというアーティファクトで作る聖水を使えば、浄化できるそうです。サイプレスさんの魔法で聖水を雨のように降らせてみてはどうでしょうか」

「それは有効だろうと思う。俺はキエノお嬢ちゃんの護衛と、聖水を【念動】で散布することにしよう」


サイプレスがキエノについてくれれば護衛にもなるし、聖水を上手く使って黒い霧対策をすることもできる。

問題はオークロードを抑える係が押し負けてしまう可能性があることだが、これは僕に考えがあった。


「オークロードを抑える係は、僕に任せてもらえないでしょうか?」

「できんのか、坊主」

「やってみせます!【樹木魔法】を使った活用方法を新たに思いついたので、それを試してみたいのです」

「ゼルコバ様には本当はあまり危険なことはしないでいただきたいのですが……」

「騎士団から数名、修道女達の救助に向かう人員を出してくれないかな」

「それでは3名の騎士を救助に向かわせ、修道女達を救助したらすぐに下山の誘導と補助をするようにしましょう。ゼルコバ隊長と私を含む残り7名の騎士で、オークロードが追ってきた場合には対処することになります」

「俺はキエノお嬢ちゃんの側にいて、必要なら聖水で黒い霧を消すことにするぜ」

「皆さんよろしくお願いします。それではサイプレスさん、いつも通り【隠密】をお願いします」

「お前らこれは俺の第六位階魔法だが、決して他人に言うんじゃないぞ」

「「「「「はっ!」」」」」


サイプレスは全員に【隠密】をかけると、手振りで進むように指示を出した。

理想はオークロードに気づかれないように修道女達とキエノを救出できれば一番良いのだけれど、果たしてそう上手くいくだろうか。


ーーー


一方その頃、助けを待つキエノと修道女達は、礼拝堂で眠れぬ夜を過ごしていた。

時折り、例のオークが礼拝堂の壁に体当たりしてくるが、頑丈な石壁は今のところ耐えている。


「この礼拝堂の壁はわしの第六位階魔法【土魔法】により造り出したものなのじゃ」


世界樹の化身ツキは意識を取り戻し、キエノが生み出した聖水を舐めるようにして飲んでいた。


「ツキ様、体調はいかがですか?」

「キエノの聖水のおかげでだいぶ良くなったが、いまだに体は重く、最悪の気分じゃ。本体との接続も途切れてしまったままじゃ」


ツキはそう言うと、長椅子の上に横たわった。

おそらく、世界樹の本体にも黒い煙がまとわりついているため、それを浄化しないとツキの体調は回復しないだろう。


ドンッ!


「ヒイッ」


時折り、オークが礼拝堂の石壁に体当たりし、その度に怖がりな修道女が小さな悲鳴を上げる。

修道女長のアルバは、青白い顔をしつつもみんなを励ます。


「皆さん、心配しないでください。きっとトネリが助けを呼んできてくれます。それまでの辛抱です」


一体どれほどの時間が過ぎただろうか。

今まで定期的に鳴り響いていたオークの体当たりが、突然止まった。

このままどこかに行ってくれ。

皆がそう思っていたところ、オークが突然叫び出した。


「ブヒヒヒヒ!ようやく魔力が回復したぞ!忌々しいこの壁を破壊してやる、【黴魔法】腐敗の吐息!」

「いかん!みんな、後ろにさがるのじゃ」


ツキが飛び起きてそう叫んだ瞬間、今まで持ち堪えてきた堅牢な石壁は、砂のようにぼろぼろと崩れ出した。

オークの魔法により、石壁の強度が失われてしまったようだ。

すかさずツキが魔法を発動し、オークの足止めを試みる。


「【土魔法】石壁!みんな、聖水で濡らした布で顔を覆って、外に逃げるのじゃ」

「聖なる水差しよ!皆さん聖水です」


ツキは第六位階魔法【土魔法】で礼拝堂の石壁を作り替え、即席のバリケードとしてオークの足止めをしている。

その隙に、ケヤキの扉にかけてあるかんぬきを外して外に出ようとするが、焦りと恐怖により修道女達の手が震え、思うように扉を開けることができない。

ツキが魔法で作った石壁を体当たりで破壊し、迫り来るオーク。

もうダメだ、誰しもがそう思ったその時、オークは後ろに引っ張られるようにして、派手に転んだ。


「よかった、間に合った!オークロード、お前の相手はこの僕だ!キエノ、良く頑張ったね。あとはサイプレスさんの指示に従って、僕はオークロードを抑えるから」

「お兄様!?」


親愛なる兄の声がする方向をキエノが見ると、もうもうと立ちこめる土煙の中から、緑の巨人が現れたのであった。




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