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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第一章 勇者の旅立ち〜アジュガローマ、モンテ・アジュガ防衛戦〜
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021

その日、アジュガローマに住む人々は奇跡を目撃した。


1000頭のオーク軍団が押し寄せ、城壁は敵の魔法と苛烈な攻撃により陥落寸前。

アジュガローマに駐在するリョーマイケル伯爵家騎士団は、わずか50名で、厳しい戦いを強いられていた。

市民達も崩れそうな城壁を土嚢で補強するなどして、防衛に協力していた。

騎士たちは押し寄せるオークを弓で攻撃し、石を投げ落として必死に戦った。

もうダメだと思われたその時、奇跡的にも援軍が現れた。

崩れかけた城壁の前に、10人の騎士が突如として現れたのだ。

騎士たちは大きな盾を構えてオーク軍団の突進を食い止める。

1000頭のオーク軍団に対して、たった10人で何が出来るというのだろうか。

誰もが10人の騎士達の討死を覚悟して、顔を背けるものもいた。

その時、一人の騎士が上空に向かってファイアーボールを放つ。

そのちっぽけな魔法が攻撃を目的としたものでないことは明らかだ。

では一体、何のために?


その答えはすぐに出た。


なんと、10本もの巨大な魔木が突如として現れたのだ。

魔木は騎士達が背負ってきたもので、彼らは剣で穴を掘り、苗木を植え付けた。

その苗木が急速に成長して、樹齢約100年の巨木となった。

魔木の巨木は城壁を守るようにして聳え立ち、オークの突進をものともしない。

さらに、太枝を振るってオークを吹き飛ばしていく。


「主神フォレスティナ様が、その御業により奇跡を起こされたのだ!」


あまりの出来事に、城壁で戦っていた騎士達の手も思わず止まる。

有志で参加していた市民も、突如として現れた巨木を仰ぎ見て、歓喜の声を上げた。

涙を流すものもいた。

オーク軍団の勢いはもはや完全に失われ、呆然と立ち尽くすオークもいた。

こうしてアジュガローマの街は陥落の危機を逃れ、10本の魔木はアジュガローマの守り神として語り継がれていくことになったのであった。


ーーー



一方そのころ、城塞都市リョーマのリョーマイケル伯爵邸に、1人の少女が訪れていた。

少女は銀髪碧眼にして、深緑色のローブを纏っており、足が不自由なのか杖をつきながら歩いていた。


「あのぅ、もし、ゼルコバ・リョーマイケル殿に会いにきたんじゃが、とりついでもらえないじゃろうか?」

「おや、お嬢様、こんにちは。あいにくゼルコバ様は留守なんですが、どういった御用でしょうか?」

「えっと、とりあえず勇者殿にご挨拶と、足の治療をしてもらおうかなって」


門番の兵士は少女を不審に思って静止するが、少女の身なりは整っており、高貴な身分の人間である可能性を考えて、慎重に対応していた。

その時、たまたま庭を散歩していたキエノが、何事かと思って門番に声をかけた。


「あら、ごきげんよう。そちらの愛くるしいご令嬢は一体どなたかしら?」


銀髪碧眼の少女は眉目秀麗にしてあどけなさも残す美少女で、深緑色のローブに使われている刺繍は金色に輝いており、身分の高い人物であると思われた。


「キエノ様、こちらのご令嬢がゼルコバ様に会いに来たとおっしゃっているのですが、どのようにしたものか困っていたところなのです」


慕っている兄の客人とあれば、こんなところで立たせておくわけにはいかない。

兄の交友関係把握は、キエノにとって最優先事項であった。


「(もしかしてお兄様の恋人かも!?これは事件ですわ!)」


「まぁ、兄のお客様だったのですね。それならどうぞこちらへ、庭園でお茶でも飲みながらお話をうかがいますわ」


キエノは連れていた二人のメイドに指示を出すと、前庭の景色の良い場所にガーデンチェアとテーブルを用意させ、自ら紅茶を淹れ始めた。

マンティスアロー男爵領より取り寄せた、ボス茶で作った最上級品であった。

少女はコツコツと杖をつきながら、ゆっくりとキエノの後について着席した。


「歳のせいか足が悪くてかなわんのぅ。先ほどは上手くとりなしてくれてありがとう」

「いえいえ、お礼には及びません。ところで、私はキエノ・リョーマイケル、ゼルコバ・リョーマイケルの妹ですわ。よろしくお願いしますわ」

「これはご丁寧にありがとう、わしは世界樹のツキと言うものじゃ。どうぞよろしく」


セカイジュという言葉の意味がよくわからなかったが、少女の名前はツキというらしい。

キエノは構わず、少女と兄の関係性について探りを入れることにした。


「それで、ツキ様はゼルお兄様と一体どのようなご関係なのですか?もしかして恋人だったり?」


キエノの目は爛々と輝いていた。

もしくはギラギラと燃え盛っていた。

これは兄のため、リョーマイケル伯爵家のため、必要な確認事項なのである。


「えっと、フォレスティナ様から勇者殿が現れたと聞いたのでご挨拶に来たのじゃ。それで、もしよければ足の治療をしてもらいたいのと、勇者殿が嫌でなければケッコンもしておきたいかなと思って」


ツキが突然、ケッコンという言葉を口にしたことによって、キエノの思考は千々に乱れた。


「(け、けけけけけ、結婚!?とりあえずお茶でもいかが?みたいなノリで結婚ですの!?巷ではそんなに簡単に結婚してしまうものなのかしら?)」


キエノは決して表には出さなかったが、内心では動揺しまくっていた。

慌ててティーカップを持つ手がガクガクと震えている。


「(でも私だっていずれ見ず知らずの貴族の殿方に嫁ぐことになるかも知れないのだから、突然の結婚は割とフツーなのかも知れませんわ)」


キエノは自らの立場を振り返り、見ず知らずの人間と結婚するというのは、自分にも起こりうることだと考え直した。

しかし、兄の結婚相手となれば話は別だ。

入念なる身辺調査と、厳密なる審査をする必要がある。


「それで、ゼルコバ殿に会いたいのじゃけれども、今はこちらにおられないとか?」

「そうです、兄はモンテ・アジュガに向かうと聞きましたわ。なんでも、モンテ・アジュガにどうしても行かなければならないと。お父様も大勢の騎士達を連れてアジュガローマに向かってしまったし、何か問題でも発生しているのかしら」


アスペラ伯爵は、御用商人イレックスから複写式魔法契約書によりオーク軍団の侵攻とアジュガローマ陥落の危機を知り、昨日のうちに騎士1000人を連れて出発していた。

そのため、現在屋敷にいるリョーマイケル伯爵家の人間は、母カマツとキエノのみであった。

と、そこにカマツがたまたま通りがかり、キエノが見慣れない少女とお茶を飲んでいるのを見つけて近寄って来た。


「あらキエノ、そちらのお嬢様はお友達かしら?私にも紹介してくれないかしら?」

「お母様!とても素晴らしいタイミングでお越しくださいました!席を用意させますのでどうぞこちらへ」


ガーデンチェアが一つ追加され、3人分の新しいティーカップが即座に運ばれる。

今度はメイドがお茶を淹れ、3人に配る。


「お母様、こちらはセカイジュのツキ様ですわ。ゼルお兄様とケッコンするために当家を訪れたそうです!」

「世界樹のツキじゃ、よろしくお願いする。ケッコンはあくまでもゼルコバ殿のご意向次第でお願いしたいと考えているのじゃ。主たる目的は、勇者殿にご挨拶と、足の治療を頼もうと思っているのじゃ」

「キエノの母のカマツと申します、どうぞよしなに。えっと、ツキ様は世界樹であらせられるのですか?」

「そうじゃ。この身体は魔法により創られており、本体はモンテ・アジュガにある世界樹なのじゃ。残念ながらゼルコバ殿とは入れ違いになってしまったので、こちらで待たせてもらうか、モンテ・アジュガに引き返すか、悩んでいたところなのじゃ」


ツキは目を瞑ってうーむと考え込んでいる。

そんなツキを見て、カマツは冷や汗を流していた。


「(この方は世界樹の化身でしたのね……。世界樹といえば、主神フォレスティナ様に仕えるこの世界の守護者と聞きますわ)」


「ツキ様、もしよければ当家にご滞在なさってはいかがかしら。ゼルコバは確かにモンテ・アジュガに向かいましたが、アジュガローマは今オークの軍団から攻撃を受けており、必ずしも安全とは限りません。夫のリョーマイケル伯爵が1000人の騎士を連れて救援に向かったので、いずれゼルコバとともに帰ってくるはずですわ」

「なんと、アジュガローマが攻撃されているとな!?これは一大事じゃ、はやく駆けつけねば」


「あっ、危ない!」

「ぬぉー」


慌てて立ち上がったツキは、バランスを崩してしまった。

咄嗟にキエノがツキを助けようと手を伸ばすが、二人とも転倒してしまう。


「申し訳ないのじゃ……歳はとりたくないものじゃのう」

「えへへ、ご無事で何よりですわ」


ツキはひっくり返って、キエノの上に尻もちをついていた。

キエノの屈託のない笑顔に、ツキは心が温かくなるのを感じた。

とその時、ツキの身体が淡く緑色に輝き出した。


「あれ!?これは、本体からの強制召喚!やばい、キエノよ、すぐにわしから離れるのじゃ!」

「えっ?えっ?え〜!?」


ツキが慌ててジタバタともがくが、足が不自由なのか上手く立ち上がることができない。

キエノは意味がわからず混乱するばかり。

するとツキから発せられる光はますます強くなり、カマツは思わずあまりの眩しさに顔を覆った。


光がおさまると、二人の姿はその場からかき消えてしまっていた。

世界樹による奇跡としか言いようがない。


「フォレスティナ様、どうかキエノをお守りください……」


カマツは娘の無事を祈るしかなかったが、世界樹の化身と行動を共にしている限りは安全だろうと思い、取り乱すことはなかった。


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