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異世界吟詠 〜精霊使いのリリとリザードマンのクロ〜  作者: 遊星


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4話 報酬

王都に戻ったリリとクロは、バウンサーギルドで依頼の報酬を受け取った。


「リリ、バウンサーデビュー祝いだ。この報酬はお前が取れ」


「ありがとう、じゃあ遠慮なくいただくよ。でもグラスランドウルフの皮とヒドラの肝は、処理してくれたクロが多めに取ってね」


「ふふ、しっかりしてるな。俺とリリは対等なパートナーだからな。そうさせてもらおう」




市場の故買屋でクロが交渉している。


「なんだよ、しみったれてるな!上質なグラスランドウルフの皮10枚とヒドラの肝だぞ?」


「そんなこと言ってもね……グラスランドウルフは最近よくとれるからね、この辺りが精一杯だね」


その時、店主がクロの大きな背中に後ろに隠れていたリリに気づく。


「あれ?後ろにいるのはリリちゃんかい?」


「おじさん、久しぶり!私のバウンサーデビューの獲物だから、もう少し色つけてくれない?」


「う〜ん、リリちゃんに頼まれちゃ断れないな!2割増しでどう?」


「2割5分じゃないと、リリ泣いちゃうかも!」


「仕方ないな、リリちゃんを泣かせたら故買屋の名折れだ!今回限りだぞ!」


「ありがとうおじさん!」


言いながらリリが故買屋の胸に飛び込む。その様子をクロは目を丸くして眺めている。


「なあリリ、お前この世界に来て間もないって言ってたよな?なんであんなに仲いいんだ?」


「あ、それはね……」


リリが語った顛末はこうだ。




死の間際にタウロンに転送されたリリ。王室付きの悪魔使いがタウロンに迫った危機を救う勇者を召喚するよう、悪魔に依頼したそうだ。


しかし救国の英雄として召喚されたリリは、剣を振るう膂力も無くタウロン語も精霊語も全く解さない。ただの、か弱い少女だった。


王と側近は大いに失望したが王宮付きのアニマが何気なく呟いた精霊語を、リリの類稀な耳と喉が完全にトレースしてみせた。


その瞬間、王宮の謁見室に大雨が振り注ぎ、石畳の床を土と草が埋め尽くした。


泥と水に塗れた王宮アニマが諦めたような呆れたような声を絞り出した。


「王よ。驚くべきことに、この少女は私に匹敵しうるアニマの素質を秘めています」


「彼女が、先ほど意味もわからず発した精霊語は地と水の精霊に凄まじい力を出させました」


それから、王宮アニマにタウロン語を習うことになったが、50語ほど習った時リリが申し出た。


「先生、私を人の多い市場に連れて行って。街の人が話している言葉を聞いたほうが言葉を覚えられると思うの」


王宮アニマは、半信半疑のままリリを市場に置いて夕方迎えに来る日を7日ほど過ごした。


7日目の晩には、リリはタウロン語を完全にマスターしていた。



……これは多言語を学ぶのにいちばん効率のよい方法なのだ。

ロゼッタストーンの解読で有名なシュリーマンは20以上の言語を操る天才だった。彼が言語を覚えるために取った方法が、市井で1日佇んで聞こえる言葉をひたすら復唱する、というものだったのだ。


リリは知らず知らずのうちに言語を学ぶ最善の方法を選んでいたのだ。


さらに王宮アニマを驚かせたのは、その7日のうちに水と地の精霊語をも完全にマスターしていたことだった。


「バカな!一つの精霊語すら、普通は辞書と首っ引きで一生かけて覚えるものなのだぞ!いったいどうやって?」


「え?だって市場で立ってる間に精霊さんが話しかけてくれるから、すぐ覚えれたよ?」


王宮アニマは、信じられないといった様子で頭を振るばかりだった。


「それで、市場にいるうちに親切なお店の人が果物やらなんだかくれるから仲良くなっちゃって、だいたいのお店の人と顔見知りになっちゃったの」


クロはその話を聞いて、大きな口が塞がらなくなった。


「リリは確かに独特の愛らしさがあるが、商人も精霊も一瞬で虜にしてしまうとは……!」


「どうしたのクロ?歯でも痛いの?」


無邪気に問うリリの言葉に、ますます圧倒されるクロだった。




バウンサーギルドの酒場で食事を取りながら、クロがエールを呷っている。リリは子供らしくミルクだ。


「いやあ……しかしリリ、お前には恐れ入ったよ。毛皮と肝もリリが高く売ってくれた分は取ってくれ」


「ホント?ありがとう!クロとわたしは対等のパートナーだもんね!遠慮なくいただくよ!」


無邪気に微笑むリリの笑顔に、また心臓を撃ち抜かれるクロ。


「ところでリリ、ヒドラを倒す時違う属性の精霊を同時に使役してたよな?俺も色んなアニマと一緒に仕事をしたが、あんなことをできる奴はいなかったぞ」


「あ、あれはね遊牧民の喉歌で低い声を出しながら喉を笛みたいに鳴らして同時に高音を奏でる倍音唱法なの。応用できるかなと思ってたけど、うまくいって良かったわ」


「ば、ばいおん?なんだそれ?」


クロが知らないのも無理もない。モンゴルの遊牧民に伝わる歌唱法「ホーミー」だ。もともとは広い草原で遠くに声を届けるために発達した歌唱法だ。


しかもオリジナルのホーミーは音を2音同時に出すだけだが、リリは精妙な喉のコントロールで2音同時に「詠唱」することができる。


「ま、まあとりあえず次のミッションを探そうか。仕事してるうちに悪魔使いの情報も入ってくるはずだ」


「分かっら!次のしごろもがんばろーれ!」


「あれ?リリ?お前なんで呂律が回ってないんだ」


「へ?そんなことないろ」


異変を感じたクロが、リリのミルクを引ったくって一口飲む。


「おいマスター!これ馬乳酒じゃねーか!子供になんてもの飲ませてるんだ!」


「え?だってミルクなんてすぐ腐っちまうし、うちでミルクと言われたら馬乳酒のことだよ?薄い酒だし大丈夫だろ」


「そんな無責任な!」


とクロがマスターに抗議している間に、リリが馬乳酒を飲み干す。


「あ〜あ〜!」


「なんかこのミルク、ヨーグルトみたいに酸味があるし、なんだか気持ちよくなるし美味しいね!」


そう言ってリリが椅子の上に立ち上がる。


「初ミッション成功で気分もいいし、ここにいる皆にエール一杯ご馳走しちゃう!」


ドッと歓声が上がる。


「いいぞ嬢ちゃん!可愛い子に奢ってもらう酒はたいそう美味いだろな!」


「待て待てリリ!30人はいるぞ!報酬あらかた消えちまうぞ!」


「クロ、無くなったらまた稼げばいいんだよ!マスター!私にミルクもう一杯!皆で乾杯しよ!」


酒場に歓声が渦を巻く。


お調子者のソードマンが音頭を取る。


「じゃあ、リリちゃんの初ミッション成功を祝して、乾杯!」


リリが2杯目の馬乳酒を飲み干し、机に突っ伏して倒れる。


(あ〜あ、リリのやつ、バウンサーどもを一瞬で手なづけちまったよ。今晩も寝ずの番だな)


呆れながらエールをチビチビ飲むクロだった。




酔いつぶれたリリを2階の宿に運ぼうと席を立ったクロに、話しかける者がいる。物静かな者が多いヴォドンには珍しい、軽薄な優男風のヴォドンだ。


「ようクロ、いいパートナーを見つけたし羽振りがいいみたいだな。

デカいヤマがあって人を集めてるんだが、一口乗らないか?」


「上級ヴォドンのイサクか。噂は聞いてるぜ、どんなヤマだ?」


「アンデッドドラゴンの討伐だ。禁術を使うヴォドンが背後にいるって噂だ」


「面白そうだな。待ってろ、リリをベットに運んでから詳しい話を聞く」


「頼りにしてるよ、クロ」


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