↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界吟詠 〜精霊使いのリリとリザードマンのクロ〜  作者: 遊星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/33

24話 舞踏会(中編)

万雷の拍手とともにリリに注がれた視線が、大階段上に現れた人物に移る。タウロン連邦の王セトルベル・タウロンが楽しげに階段を下りてきたのだ。


王は40代半ばといった年齢だろうか。背は低いが恰幅の良い体型に、人懐っこい笑みを浮かべている。


「先ほどの歌声、風変わりだがまことに美しく見事であったぞ。はて、どこかであったことがあったかな……」


リリは膝を地面近くまで折る最敬礼のカーテシーをおこない、応える。


「陛下とはお初にお目にかかります。ダーキン・エレネークの娘リリアンでございます。勿体なき御言葉を賜り恐悦至極に存じます」


「おおそうか、そなたのような美女を余が忘れるわけはないな。ダンスに誘いたいところだが、諸侯の若い衆に背中を切りつけられても困る……後日、何か褒美を送らせよう」


国王のジョークに、周りの大臣達も破顔する。国王はリリの手の甲に口づけすると、上機嫌で去っていった。


(こ、国王が口づけを!)

(ぜひ彼女と踊る栄誉を!)

周りの貴族たちも大いに色めき立ち、リリにダンスの誘いが殺到する。あまりの人だかりにメガンの指示を見る間もなく戸惑うリリだが、他の者を押しのけ前に出た、黒髪の大柄な貴族の手を思わずとってしまう。


「誰だあの粗暴な男は……?」

「傭兵国家バルディリのクロフォード男爵?所詮は戦争で身を立てている野蛮な国だな……」


20代半ばくらいの軍人然とした武骨な男だ。イブニングコートの上からでも分かる筋肉の盛り上がり、そして顔や首に刻まれた傷跡が、彼がくぐり抜けてきた戦場の数を物語っていた。


押しのけられた貴族たちのやっかみを浴びながら、クロフォード男爵はリリをフロアに連れ出す。そのステップはとても洗練されているとはいい難いものだった。


しかし、リリを見つめる目、触れる手からは力強さとともに気遣いが伝わってきて、リリは不思議なくらい安らぎと懐かしさを覚えた。


ダンスが終わり、名を問うた。しかし彼は何か言いたそうな顔のまま、一礼すると無言で立ち去った。


リリはその後ろ姿を目で追っていたが、力が抜けたようにふらつく。その肩をメガンが支えた。


「リリ、素晴らしい歌声だったぞ。しばし休め」


メガンがネロスの方を振り向いた時には、彼はすでに手近の侍従に休憩できる部屋を確保するよう依頼していた。




クロフォード男爵は、リリとのダンスを終え足早にホールを後にし、王宮を囲む庭園を歩いている。その横に、彼にしか見えない悪魔が現れ楽しそうに話しかけた。


「ようバルディリのクロフォード男爵、大した紳士ぶりだったな」


「うるせえ、黙ってろイシェル」


クロフォードは貴族らしからぬ粗暴な口ぶりで返すと、鬱蒼とした大木によじ登り隠していた蛮刀を手にした。




ネロス達が王都に旅立つ日、サロホーリに残り静養していたクロは悪魔イシェルに尋ねた。


「イシェル、俺を一時人間の姿に変えるのは、どのくらいの代償が必要だ」


「舞踏会に乗り込む気だな?クロ。ただ人間に化けるだけじゃ駄目だぜ。架空の貴族になり、その一時場の全員がその存在を信じるよう幻を見せないと、お前の望みは果たせないぜ。


その力も含め……お前の初めての願いだ。大サービスで尻尾1本で勘弁してやるよ。

ただし効力は1時間だけ。尻尾はお前らリザードマンの再生能力でもどんなヴォドンでも永久に生えてこない。ずっと俺のものだ。

どうだ?」


「それで構わない。いいのか?サービスなんかして」


「一度悪魔の力を使って二度と使わないなんて奴は過去に居ない。投資は後からいくらでも回収できる算段さ」


「……そうかもしれねえな」




リリが目覚めると、こぢんまりとしているが瀟洒な寝室に横になっていた。王宮の舞踏会に出席していたのは覚えているが、どうこの部屋にたどり着いたのか思い出せない。


と、ドアの鍵を開け誰かが入ってくる。思わず身を固くしたリリだが、メガンとネロスの姿を見て力を抜く。


「目が覚めたかリリ。疲れただろう、少し何か食べなさい。コルセットも緩めてあるから」


と、メガンがサイドテーブルの軽食を勧める。


「リリ、素晴らしい歌声だったよ!芸術を解さない私ですらなんというか……魂が震えたね。おかげでオーラムだけでなく国王まで釣れた。

やりやすくなったよ」


「どほいうこと?……このサンドイッチめちゃくちゃ美味しい!」


サンドイッチを頬張るリリを、ネロスは楽しそうに見ている。


「夜はこれからだ、しっかり食べて休んでくれ。……生き餌が元気なほど釣りは上手くいくからね」




夜半を過ぎ諸侯が一堂に会する宴が終わる頃、明け方まで続く舞踏会は違った顔を見せ始める。


庶民が生涯に稼ぐ額を遥かに越える金額が飛び交う賭博、怪しい儲け話、名家を失脚させる醜聞と密談。舞踏会での偵察戦が終わり、いよいよ貴族にとっての斬り合い撃ち合いが始まるのだ。


そして、王宮内に無数にある休憩室や周囲の広大な庭園は、一夜限りの情欲と政治的魂胆が交錯する逢引の場となることもまた、公然の秘密なのだ。




夜更けの庭園を、国王セトルベル・タウロンとネロス・ナハトヴァーが連れ立って歩いている。


「舞踏会の場では諸侯の手前ああ申したが、やはりあの歌姫、リリアンと言ったか……もう一度会わずには気がすまん!恥ずかしながらこれほど魅せられたのは20年ぶりじゃ」


「陛下、何を恥じることがございましょう。美と芸術を解されるは名君たる証拠。私めが手配して御座います。義妹も陛下のお手つきとなれば、これほどの栄誉は御座いません」


「おぉ、そうか。ネロス、出来るやつよ。後日褒美を取らそう」


「恐縮です陛下……あれは?まさかお妃様!?陛下失礼!お隠れを!」


と言って、手近の茂みに王を押し込みともに隠れるネロス。


(なんだネロス、あれは妃ではない、大臣のオーラムではないか。ビックリさせおって……まさかオーラムもリリアン嬢を?)


(いえ、何か様子がおかしいようです。しばらくここで窺いましょう)




森の中に佇むリリの背後から、オーラムが声をかける。


「リリアン嬢、こんな夜更けにどうされました?殿方と逢引ですか?」


「オーラム大臣閣下……いえ、少し外の空気を吸いに」


穏やかなオーラムの表情が一変する。


「いや、お前は逢引に来たのだ。

お互い猿芝居はやめようかリリ」


樹上からオーラムとリリの間にドサッと何かが落ちてくる。死体だ。舞踏会で最初にリリと踊った良家の子弟が死体になっている。


「舞踏会で踊ったこの小僧から逢引に誘われたお前は、痴情のもつれから刃傷沙汰となり刺し殺された。小僧は責任を感じ自害した。

全く、愚かで悲しい事件だな」


いつの間にか背後に回った蜘蛛女がリリの首にナイフを突きつけている。


「ひどいことを……貴方はこうやって自分の欲望の為に何人もの人を犠牲にしてきたのね」


「昔私は妻に約束したんだよ。“いつかは王になり、君を王妃にする”と。


私も、多少は他人を犠牲にしたさ。他の貴族や軍人や政治家がそうであるようにね。


でも私は他人の何倍も自分を傷つけて犠牲にして、今の地位にいるんだ。なんら恥じることは無いね」


「……悪魔契約ね」


「最初は2歳の娘を捧げた。私を拙く父と呼びはじめたばかりの娘さ。

引き換えに4属性のアニマの力を得て、王族暗殺犯にでっち上げたリザードマンの村を皆殺しにした。

それで私は英雄になった。


2回目は宮廷に入った頃だ。私の杯に毒が入っていた。血を吐き、石畳を掻きながら悪魔に約束したよ。妻を捧げると。そして私は不死の再生能力を得た。


分かるかリリ?私が王妃にすると約束した妻はもういない。もう私には戻るところもない、止まることは出来ないんだよ。


そこに現れたのがリリ、お前だ。悪魔と契約した私だから分かる。お前は私を止める力がある。私の不倶戴天の敵だ!全てを失った私を邪魔する唯一の敵なんだ!」


リリは全ての温度も感情も失ったような、冷たい声色で言い放った。


「悲しい人、貴方は何処に行こうとしているの?」


「殺せぇぇー!」


と叫ぶオーラムの絶叫をかき消す声が響いた。


「許さんぞ!!」


茂みから飛び出した国王セトルベル・タウロンが腰の剣を抜き払い、オーラムに迫る。


「逆賊オーラム、貴様の悪行許しがたい!王自ら成敗してくれる、そこに直れ!」


オーラムが、まさに悪魔よりも遥かに悪魔的に、引きつった笑いを浮かべる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。