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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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第7話 チートvsプロの技術

 五十手目が近づいた頃、俺は一つの結論に至っていた。


 チートだけでは、この女には勝てない。


 理由は単純だ。【絶対因果】で手牌の質を底上げすることはできる。だが、リーゼロッテはその「底上げされた手牌の強さ」に対して、瞬時に最適な応じ方ができる。強い手で大きく仕掛けても、相応の強さで受けてくるか、あるいは降りてこちらに最小限の利益しか渡さない。チートで手を強くすること自体は有効だが、それで「大きく稼ぐ」ためには別の工夫が必要だ。


 逆に、ブラフだけでも足りない。前の手で初めて純粋なブラフを通したが、あれはリーゼロッテの計算が「チートによる乱れ」を起点に狂っていたからこそ通じた一撃だった。盤面が安定した状況で純粋なブラフを連発すれば、すぐに読まれる。


 つまり、この二つを「組み合わせる」ことに、攻略の鍵がある。


 チートで手を強くしながら、同時にブラフを混ぜる。強い手と弱い手が同じ顔で来る。リーゼロッテの計算が、どちらが本物か判断できなくなる。その状態を作り出せれば、初めてこの女との勝負が五分以上になる。


 考えてみれば、これは俺の前世での戦い方そのものだった。イカサマの技術を持ちながら、それを毎回使うのではなく、使わない時間を意図的に挟む。「いつ使うか分からない」という不確定性こそが、相手の読みを壊す最大の武器になる。チートとブラフの関係も、全く同じ構造だ。異世界に来ても、博打の本質は何も変わらない。


(やってやろうじゃないか)


 俺はチップを静かに積み上げながら、次の一手の準備に入った。



     *



 四十八手目。俺は【絶対因果】を使って手牌を底上げした。フルハウス。強い手だ。だがここでは、あえて小さくベットした。強い手を持っているのに、慎重なベット。リーゼロッテが蓄積してきた「アキトの強手パターン」に、また新しい誤差を投げ込む。


 リーゼロッテは少し考えてから、やや大きめに応じてきた。こちらが慎重なベットをした時に、強く出てくるという読みか。あるいは、こちらの手牌が弱いと判断したか。どちらにせよ、彼女の計算の中に「強手=小さいベット」というパターンが一つ追加された。


 カードをめくる。俺のフルハウスが勝った。チップが戻ってくる。


 ここで俺は、周囲の観客の顔をさりげなく確認した。フロアを挟んだ向こうに立っている客たちの何人かが、眉を顰めていた。「なんであの男がまた勝ったんだ」という顔だ。理由が分からないからこそ、その当惑が顔に出る。俺の挙動に何一つ怪しい点がない以上、「ただ運が良いだけ」としか映らないのだろう。それで構わない。イカサマは、バレた瞬間に終わる。


 四十九手目。今度はチートを使わなかった。手牌はツーペア。中程度の強さだ。だがここで、俺は大きくベットした。前の手で「強手=小ベット」を印象づけた直後に、「大ベット=弱手かもしれない」という混乱を与える。


 リーゼロッテの目が細くなった。考えている。前の手の逆、ということはこれは弱い手か。だとすれば降りるべきだ。しかし、本当に弱い手なのか。それとも、また別のパターンで来ているのか。


 長い沈黙の後、リーゼロッテはフォールドした。


 俺は内心で小さく息をついた。ツーペアでもう一度降ろすことができた。チートとブラフの組み合わせが、リーゼロッテの判断基準を少しずつ侵食し始めている。


「アキト様」


 カードを集めながら、リーゼロッテが静かに口を開いた。


「……あなたは、少し前と戦い方が変わりました」


「そうか?」


「はい。以前は観察の時間が長く、チップの動きも小さかった。今は攻めと守りの切り替えが不規則になっています」


 俺は思わず笑った。全部見えてるじゃないか、この女。


「正確だな」


「ただ」


 リーゼロッテは一拍置いた。


「その不規則さが、規則的になり始めています」


 俺の笑みが、わずかに固まった。


 咄嗟に、俺は自分の直近の五手を振り返った。チートを使った手の後にブラフ、ブラフの後にチート。確かに、そういうリズムになっていた。意識していなかっただけで、俺の中に「次はこっちを出す」という無意識の流れが生まれていたのだ。


 不覚だった。相手の計算を乱そうとしていた俺自身が、より大きなパターンに填まっていた。こういう指摘をされると悔しいが、同時に清々しくもある。完璧に読まれる前に気づかせてくれる相手というのは、敵ながら上物だ。


「……なるほどな」


 俺は素直に認めた。誤魔化すよりも、認めて次を考えた方が早い。


「よく見てるじゃないか」


「そのくらいは」


 リーゼロッテは淡々と答えた。だがその声に、ごくわずかに、何かが滲んだ気がした。誇りか、自信か、あるいは――この勝負への集中か。



     *



 五十手目。


 リーゼロッテの言葉の意味は、すぐに分かった。俺の「チートとブラフの組み合わせ」は、確かに有効だった。だが、俺はその組み合わせ方に、無意識のパターンを作ってしまっていたらしい。強手の後にブラフ、あるいはブラフの後に強手。二手セットで読まれてしまえば、また元通りだ。


 さすがだ、と俺は思った。こちらが新しい手を打てば、すぐにその「新しさの形」を把握してくる。まるでいたちごっこだ。相手が完璧に処理しきる前に、俺は常に一手先を打ち続けなければならない。消耗戦だが、それが今夜の勝負の形だ。


(そこが面白いんだろうが)


 俺はむしろ、口元が緩むのを感じた。完璧に読まれる寸前まで追い詰められながら、それでも次の一手を考え続ける。これこそが勝負の醍醐味だ。追い詰められた時ほど、俺の頭は冴え渡る。それはギャンブラーとして前世から変わらない、体に染み付いた本能だった。


 五十手目。俺は意図的にパターンを崩した。チートも使わず、ブラフでもなく、純粋に中程度の手で、中程度のベットを置いた。「何でもない手」だ。リーゼロッテの読みのフレームから外れた、意味のない一手。


 リーゼロッテが応じた。俺が勝った。小さな勝ちだが、意味がある。「チートかブラフか」という二択で読んでいた相手の頭に、「どちらでもない普通の手もある」という第三の選択肢を叩き込んだ。


 三択になれば、相手の判断精度は下がる。


「……」


 リーゼロッテは無言だった。だが、今度の沈黙は少し質が違った。これまでの無表情の沈黙とは違い、何かを整理しているような、わずかな緊張感を孕んでいた。


(感じてる。この女も、感じてる。俺という相手の「底が見えない感覚」を)


 これが、俺という博徒の本当の武器だ。チートでもブラフでも純粋な技術でもなく、「何を仕掛けてくるか分からない」という不確定性そのものが、相手の思考に砂を撒く。


 どれだけ優秀な計算機でも、入力できない変数が増えれば、正確な出力は出せなくなる。リーゼロッテという女は、俺が思っていた以上に完璧だった。だからこそ、完璧さの裂け目に差し込む楔も、丁寧に、じっくりと打っていく必要がある。焦らない。これは時間のかかる崩し方だが、今夜はまだ時間がある。


 五十二手目、五十三手目と、俺は意図的に「無害な手」を続けた。チートもブラフも使わず、ただ普通に中程度の勝負をする。リーゼロッテの頭が「また新しいパターンが来るのか」と身構えている時間を作る。そして、その緊張が少し緩んだ瞬間を見計らって――


 五十五手目。俺はここで初めて、チートとブラフを同じ一手に同時に込めた。


 手牌はスリーカード。悪くない。だがこの手を、わざと迷いながら小さくベットした。「弱い手を持っているが、少しだけ勝負に出てみた」という演技だ。しかし実際には、スリーカードという十分な強さがある。リーゼロッテが「弱い手のブラフだ」と読んで強く返してくれれば、こちらがその分を根こそぎ持っていける。


 リーゼロッテが俺を見た。


 今度は、明確に違う。これまでの観察眼とは異なる、何かを探るような目だ。俺の表情を見ている。呼吸を見ている。指先を見ている。それでも、答えが出ないのだろう。


 珍しいことが起きた。


 リーゼロッテが、深く息を吸ったのだ。


 外から見れば僅かな動作だ。だが俺には分かった。この女がここまで呼吸を乱したのは、今夜初めてのことだった。


 そして、彼女は大きくレイズした。チップを積み増して、強く受けてきた。


(来た)


 俺は静かに応じ、カードをめくった。スリーカードが、リーゼロッテの手――ツーペアを上回った。大きなチップの山が、俺の側に来た。


 会場が、どよめいた。周囲の観客たちの間から、ざわめきが一気に広がった。誰かが息を呑む音が聞こえた。誰かが「おい、今リーゼロッテが負けたぞ」と隣に囁いた。別の誰かが「しかも大きく持っていかれた」と続けた。


 リーゼロッテは静かにカードを集めた。その動作は、相変わらず完璧だった。だが、俺は見逃さなかった。束をまとめる時、一枚だけ、滑らかさが崩れた。


 この女が、動揺している。


 それと同時に、俺は自分の魔力残量を確かめた。ここまでの数手でそれなりに消費してきたが、まだ余裕はある。ただ、後で大技を使う必要が出てくる可能性を考えると、ここからは使い所をより慎重に選ばなければならない。チートは残弾の限られた銃だ。乱射すれば、肝心な時に空撃ちになる。今夜の勝負、クライマックスはまだ先にある。



     *



 六十手目を前に、勝負の景色が変わった。


 チップの総量は今、最初とほぼ同じ水準まで戻っていた。削られ続けた分を、全て取り返した計算だ。さらに、ここからが本当の意味での上乗せになる。


 リーゼロッテも、それを分かっているはずだ。彼女にとって、このポーカーゲームは「客を最終的に凌駕して終わる」ものでなければならない。このままアキトに逆転されれば、初めて彼女が客に敗北を喫することになる。それが意味するものは、プロとしての誇りへの傷だけではない。フォルトゥーナのディーラーとしての立場にも、関わってくる。


 プレッシャーは、リーゼロッテにもかかっている。


 それは卓の向こう側の空気が、わずかに変わったことで分かった。リーゼロッテはいつも通り無表情だ。だが、その無表情の「密度」が違う。感情を消しているのではなく、感情を全力で押さえ込んでいる時の緊張感がある。百二十年以上生きてきた長命種のエルフが、今、限界まで集中を研ぎ澄ましている。それが、俺には分かった。


「……一つ、聞いてもいいですか」


 静かな声が、卓を挟んで届いた。俺は顔を上げた。リーゼロッテが、こちらを見ていた。表情はいつも通りの無表情に見えた。だが、目の奥に何かある。


「どうぞ」


「あなたは、本当にカードが強いのですか。それとも、何か別のものを持っているのですか」


 俺はしばらく無言でいた。正直に答えるか、煙に巻くか。一瞬考えてから、俺は前者を選んだ。これほど真剣に戦ってくれた相手に、はぐらかしで返すのは、俺の美学に反する。


「両方だよ」


「……」


「俺はカードも強い。でもそれ以外に、俺には運がある。異常なほどの、な」


 リーゼロッテはしばらく黙った。その目が、俺の顔から手元へ、また顔へと動いた。信じるか信じないか、判断しているのだろう。


「……信じます」


「え?」


 予想外の答えだった。俺は思わず聞き返した。


「信じる、というのは?」


「あなたが何かを持っている、ということを。それが何かは、まだ分かりません。ですが」


 リーゼロッテは初めて、ほんのわずかだが、口元を動かした。笑った、というより、何かを決意した時の顔に見えた。


「だからこそ、私も本気を出します」


 次の瞬間から、リーゼロッテが変わった。


 これまでの完璧な無表情が、さらに研ぎ澄まされた何かに変わった。カードを配る速度が、わずかに上がった。ベットの判断速度も上がった。無駄を削ぎ落として、さらに鋭くなった刃のような、圧倒的な集中だった。


(こいつ、まだ余力を残してたのか)


 俺は背筋が粟立つのを感じた。恐怖ではない。純粋な興奮だ。


 これが、本物のリーゼロッテだ。全力のリーゼロッテだ。百二十年生きてきたエルフの、プロのディーラーとしての全てを出し切った姿が、今この卓の向こうにある。そう思うと、腹の底から笑いたくなった。周囲の観客たちも感じたのだろう、二番卓の周囲に流れていた空気が、ぴたりと止まった。誰も言葉を発しない。誰もカップを持ち上げない。みんなが、固唾を呑んでこちらを見ていた。


「上等だ」


 俺は静かに笑った。チップを手に取り、指先で弾く。今夜の勝負は、ここからさらに深みに入る。チートとブラフを組み合わせた攻防の先に、この女の本当の底がある。そしてその底を見た時、俺は初めて、本当の意味でこの勝負に勝てる。


「楽しみにしてるぜ」


 白銀の髪の女が、新しいカードの束を手に取った。その目が、今夜初めて、真剣な光を湛えていた。


 六十手目の勝負が、始まろうとしていた。


 チートとブラフを組み合わせた攻防の先に、この女の本当の底がある。そしてその底を見た時、俺は初めて、本当の意味でこの勝負に勝てる。頭の中では既に次の数手が組み上がりつつあった。チートを使うタイミング、ブラフを被せるタイミング、何もしない手を挟むタイミング。そのどれを、どの順番で打つか。それが今夜の、俺という博徒の腕の全てだった。


 リーゼロッテの指がカードを配り始めた。一枚、また一枚と、吸い込まれるような精度で俺の手元へ滑り込んでくる。


 これほど強い相手と、これほど長く勝負したことは、前世でも今世でも記憶にない。恐ろしい女だと思う。同時に、最高の相手だとも思う。この感覚を知るために、俺はギャンブラーとして生きてきたのかもしれない。チートがなければとっくに負けていた。ブラフがなければここまで来られなかった。そして、この女が本気を出してくれなければ、これほど燃え上がることもなかった。全部が揃って、初めて今夜の勝負が成立している。


 俺はカードを手に取り、静かに中身を確かめた。今夜の勝負の、本当の佳境がここからいよいよ始まる。

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