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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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6/10

第6話 まずは小手調べ、ポーカー勝負

 三十手を超えた辺りから、俺はようやく覚悟を決めた。


 チップの残りは最初の四割ほど。じわじわと、しかし確実に削られ続けている。観察を続けながら手応えをつかんできたとはいえ、このペースで行けば素直に負ける。潔く白旗を揚げる趣味は俺にはないし、そもそもここで沈むわけにはいかない理由が一つある。


 懐の薄さだ。宿を取る金はまだあるが、余裕は多くない。この勝負で大きく稼がないと、明日の飯代すら心許なくなる。異世界転生初日から野宿というのは、さすがに笑えない話だ。


 だが、焦ってスキルを切っていたら、俺はとっくに使っていた。あえてここまで我慢したのには理由がある。この女の「どこで崩れるか」を、自分の目で確かめたかったからだ。チートで力押しすれば勝てるかもしれない。だが、それだけでは二度目がない。リーゼロッテという相手を本当の意味で攻略するには、技術の弱点を見極めた上で仕掛ける必要がある。


 そしてその弱点は、三十手かけてようやく輪郭が見えてきた。


(そろそろ本気出すか)


 俺は指先でコインを弾く癖のある動作をさりげなく抑え、代わりにチップを静かに積み上げた。三十二手目。手牌はフラッシュ――同じ柄が五枚揃う、強い手だ。こういう手で勝負に出る機会を待っていた。


 だが、手牌の強さだけで勝てる相手ではない。それは三十手の間で嫌というほど思い知らされた。リーゼロッテは、手牌の強弱を正確に読んでくる。強い手を持っているときの俺のベットパターンを、もう把握されている可能性が高い。


 だから、今回は少し変える。


 俺は迷っているふりをしながら、ゆっくりとチップを積んだ。強い手を持っているのに、迷っているように見せる。単純なブラフではない。「あえて迷いを見せる」という一段上の偽装だ。リーゼロッテがこちらの強手パターンを把握しているなら、この「迷い」は彼女の計算に誤差を生む。周囲の観客の誰かが「なにを躊躇している」と小声で漏らした。いい。思わせぶりな間が、この卓の緊張をさらに高めていく。それも計算のうちだ。


 リーゼロッテは静かにベットを受けた。


 カードをめくる。俺のフラッシュに対し、リーゼロッテの手はスリーカードだった。俺の勝ちだ。チップが久しぶりに、まとまった量でこちらへ戻ってくる。


「……なるほど」


 リーゼロッテが、珍しく独り言のように呟いた。声は小さかったが、俺の耳にははっきり届いた。


「なにが」


「アキト様は今、迷っているように見せながら、強い手を持っていらした」


「そうか?」


「五手前まで、強い手の時のベットは速かった。今回は遅かった。意図的に変えたのだと分かります」


 やはり、全部お見通しか。だが俺は笑った。


「分かっててなぜ受けた」


「……私もまた、フォールドする頃合いを誤りました」


 わずかな沈黙。それから彼女は何事もなかったかのようにカードを集め始めたが、俺はその一言の重みを噛みしめていた。リーゼロッテが自分のミスを認めた。それも、淡々と、しかし正確に。


 余計な言い訳をしない。感情的にもならない。誤りを誤りとして処理して、次に進む。それもまた、この女の強さの一つだった。だが、今日初めて彼女が「誤りました」と口にしたことの意味は、それだけではない。俺という相手が、リーゼロッテの計算に「誤差を生む存在」として認識されたということだ。


 小さな一歩だが、確かな一歩だった。



     *



 三十五手目。チップは最初の六割弱まで回復していた。


 さて、いよいよ【絶対因果】を使う頃合いだ。


 俺は静かに頭の中でスキルを呼び起こした。女神から授かったこの力の感覚は、異世界に来てから何度か使うことで、だんだんと馴染んできていた。魔力を消費するという感覚は、元の世界にはないものだったが、今では使う前に残量をある程度把握できるようになっている。今の残量は、小規模の操作なら十数回、中規模なら数回といったところだ。


 ここで使う用途は決まっている。「次に配られるカードの中に、強い役が来る確率」を引き上げる。消費は小さい。だが、効果は確実だ。


 一点だけ注意が必要なのは、使いすぎないことだ。今この勝負はまだ続く。最後の詰めのために、魔力は温存しておかなければならない。あくまでここでの目的は「流れを変えること」と「リーゼロッテの反応を引き出すこと」の二つだ。一発逆転を狙う場面ではない。


(いくぞ)


 念じた瞬間、ほんの僅かに世界の手触りが変わる感覚があった。指先がわずかに熱を持つような、あるいは空気の密度が変わるような、言葉にしにくい感触。それが【絶対因果】が発動した証だと、俺は経験から学んでいた。


 面白いのは、この力を行使している間、対戦相手には何も伝わらないという点だ。俺の指が動くわけでも、目が泳ぐわけでも、呼吸が変わるわけでもない。世界の側が静かに書き換わるだけで、俺自身は完全に平静を保ったままでいられる。イカサマのための道具として、これほど優秀なものは存在しない。ただし魔力という「燃料」は有限だ。使いすぎれば後が詰まる。この女との勝負はまだ続く。温存を忘れてはいけない。


 リーゼロッテがカードを配る。俺の手元に滑り込んできた五枚を、そっと傾けて確認した。


 フルハウス。三枚と二枚の組み合わせで揃う、かなり強い手だ。狙い通りだった。


 だが、俺は慌ててベットしなかった。ここで強手を持っているときのパターンをまた繰り返せば、リーゼロッテに読まれる。わざと二手ほど様子を見てから、三手目に仕掛ける。タイミングをずらすことが、今の俺に最も必要な駆け引きだった。


 三十六手目は小さくベット。三十七手目はあえてフォールドして、手を見せずに逃げる。チップを少し失うが、それよりリーゼロッテの計算に「空白」を作ることの方が価値がある。強い手を持っていながら降りる、という選択は、相手の蓄積したデータを大きく撹乱する。リーゼロッテがわずかに顎を引いたのが見えた。計算が狂った、というサインだ。


 三十八手目。俺はチップを大きく積んだ。


 リーゼロッテは静かに見つめてきた。その目が、いつもよりほんの少しだけ細くなったように見えた。考えている。計算している。俺のこれまでの手のパターンと、今この瞬間のベットの大きさと、タイミングのずれを――全部組み合わせて、答えを導こうとしている。


 だが今回は、チートで底上げした手牌がある。どんなに正確に計算されても、「チートで引いた強い手」は計算に入ってこない。俺の手牌の傾向を完璧に把握したとしても、確率の外から来た強さには対応できない。


 リーゼロッテが、ベットを受けた。


 カードをめくる。リーゼロッテの手はフラッシュ。強い手だ。だが、俺のフルハウスには届かない。


「……」


 リーゼロッテは無言だった。だが、今度はカードを集める動作が一拍だけ遅かった。俺は見逃さなかった。


(面白くなってきた)


 チートで強手を引いた効果は手牌の質だけではない。リーゼロッテの「計算モデル」を狂わせることにある。これまでの三十手で彼女は俺の手牌の傾向を完璧に把握していた。どのタイミングで強い手が来やすいか、どういうベットパターンの時に俺が自信を持っているか――そういったデータが、彼女の中に積み上がっていた。


 ところが今の手は、そのデータから外れた位置から来た。俺のフルハウスは、リーゼロッテのモデルが「この局面でこの客は強い手を持っていない」と判断した状況で出現した。モデルと現実が噛み合わない。それが、一拍の遅れとして現れた。


 これだ。これが俺の狙いだった。


 人間の頭がどれほど優れていても、予測の外から来た情報への対応には、必ずラグが生じる。リーゼロッテほどの処理能力を持つ女でも例外ではない。そのラグを、俺は丁寧に、手ごとに積み上げていくつもりだった。



     *



 四十手目を超えた頃、異変が起きた。


 リーゼロッテが変わった。


 いや、正確には、変わったのはその打ち方だ。これまで彼女は、俺の手のパターンを蓄積して精度を上げていくスタイルで戦ってきた。ところが四十手を境に、彼女のベットタイミングが微妙にランダム化し始めた。俺がパターンを分析しにくくなるよう、意図的に変化を入れてきたのだ。


(気づいたか。俺が計算の外から手を打ち込んでることに)


 完璧に把握したはずの俺の手の傾向が、途中からずれ始めている。その原因を、リーゼロッテは分析できないはずだ。イカサマの痕跡は一切ない。ただ、不自然に強い手が来るタイミングが発生している。それが彼女の計算を乱している。


 賢い。「分からないなら、自分も変化を入れて互いの情報を撹乱する」という判断は、一流の博打打ちの発想だ。対処できないなら、状況そのものを変えてしまう。この女は、土台が崩れたときでも正しい対応が打てる。それだけで、素人とは桁が違う証明になった。


 だが、そこに俺は活路を見た。


 リーゼロッテが「変化を入れる」ということは、彼女自身の行動も読みにくくなるということだ。完璧な計算から外れた動きをする時、人間は必ずどこかで「判断」をする。判断の瞬間には、感情が滲む。それがどんなに小さくても。


 四十五手目。俺はチートを使わなかった。手牌はワンペア。弱い。普通なら小さくベットするか、場合によってはフォールドを検討する手だ。


 だが今の俺には、別の考えがあった。


 ここまでの数手で、リーゼロッテは自分の打ち方を変化させた。それは、俺への対応が「完全な計算」から「判断を含む計算」へとシフトしたことを意味する。完全な計算には感情が入り込む余地がない。だが、判断が必要になった瞬間、人間は必ず何かを「信じる」か「信じないか」の選択を迫られる。


 その選択肢を、俺が提示する。


 強い手かもしれない。弱い手かもしれない。チートかもしれないし、純粋な運かもしれない。判断材料が「分からない」状態のまま、強いベットを叩きつける。それがブラフの本質だ。相手に「信じる」か「信じないか」を選ばせ、その選択に揺さぶりをかける。


 しかし今までのリーゼロッテには、このブラフが通じなかった。俺のパターンを完璧に把握していたから、どんなブラフも見抜かれた。だが今は違う。彼女の計算モデルは、俺という相手によって既に乱されている。


 これが、ブラフを仕掛けるベストのタイミングだ。


 俺は表情を一切動かさなかった。目も合わせない。ただチップの山を睨んで、もう一枚足した。


 チートなしの、純粋なブラフだ。


 リーゼロッテが俺を見た。今度は明確に、視線の質が変わった。いつもの「観察」とは少し違う。迷っている。そう、この女が今、迷っている。


 長い沈黙があった。フロアのざわめきが、この卓の周囲だけ遠のいているように感じた。


 俺は微動だにしなかった。呼吸すらも、意識して一定に保つ。胸の中では心臓が暴れているが、それを外に出してはいけない。ブラフの勝負は、相手が「降りるか受けるか」を決める、その一瞬が全てだ。その一瞬まで、俺は絶対に揺れない。


 リーゼロッテの目が、一度だけチップに落ちた。それから俺の顔に戻った。また、チップへ。また、俺の顔へ。


 これが迷っている証拠だ。俺は確信した。


 リーゼロッテがフォールドした。


(よしっ)


 内心でガッツポーズを決める。表面は平静のまま、俺はチップを引き寄せた。ワンペアでリーゼロッテを降ろした。純粋な技術でだ。チートは使っていない。前世から積み上げてきた「ハッタリ」の一撃が、初めてこの女に通った瞬間だった。


 リーゼロッテは沈黙していた。長い沈黙だ。それからゆっくりと、カードを集めながら口を開いた。


「……アキト様」


「なんだ」


「一つ、確認させてください」


「どうぞ」


「今の手は、強い手でしたか。それとも」


 俺は口の端だけで笑った。


「どう思う?」


 リーゼロッテはしばらく黙った。それから、これまでで最も小さく、しかし確かに眉を動かした。たった一ミリにも満たない動きだ。だが俺は見た。


「……分かりません」


 その四文字が、今日一番の収穫だった。


 あのリーゼロッテが「分からない」と口にした。これまで四十手以上、どんな場面でも淡々と正確な判断を下し続けてきた女が、たった一度のブラフで「分からない」と言った。それがどれほどの意味を持つか、この女自身が一番よく分かっているはずだ。


 チップを指先で整えながら、俺は深く息を吸った。チートあり、ブラフあり、観察あり。ようやく勝負の形が見えてきた気がする。チップの残りは今、最初の七割ほどまで戻っている。逆転の目が、少しずつ、確かに生まれ始めていた。


 周囲の観客がまた増えている。気づけばフロアの他の卓から流れてきた客たちが、二番卓の後方に厚い人垣を作っていた。誰かが「あの客、まだ粘ってるどころか、盛り返してきてるぞ」と囁くのが聞こえた。別の誰かが「リーゼロッテが迷ったのを見たか?」と答えた。この卓が、今フォルトゥーナで最も熱い場所になっている。


 そういうのも、嫌いじゃない。


「さてと」


 俺はチップを一枚、指先で弾いて宙に浮かせ、掌で受け止めた。


「本番はここからだぜ、リーゼロッテ」


 白銀の女は無言のまま、次のカードを手に取った。その指先が、ほんの僅かだけ、いつもより力を込めて束を握っているように見えた。


 一方的に削られるだけだった展開は、ここで終わった。これからは――本物の勝負だ。


 フォルトゥーナの二番卓に、重く静かな沈黙が降りている。客たちの視線が、俺とリーゼロッテの間に張り詰めた糸の上をなぞるように行き来している。チートあり、ブラフあり、純粋な技術あり。俺が持てる全ての手札を出しながら、この完璧な女の仮面を一枚ずつ丁寧に剥がしていく。それが今夜の勝負の本質だった。まだ終わりは見えない。だが、始まりの形だけは、ようやく整った。次の手が、今、静かに配られようとしていた。

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