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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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第68話 焔の紋章

 翌朝、宿の一室には昨夜の戦いの余韻がまだ色濃く残っていた。テーブルの上に広げられた書類を、五人とロドリゴが囲んでいる。窓から差し込む朝日が、緊張感に満ちた面々を静かに照らしていた。


「この紋章、見たことないか」


 アキトが尋ねると、ロドリゴは書類を手に取り、しばらく凝視した。眉間に深い皺を刻みながら、記憶を辿るように目を細めている。


「……いや、俺には心当たりがねえ。だが、街の古老なら知ってるかもしれねえ」


「古老?」


「ラグーサに古くから住む、物知りの老人だ。裏の世界の歴史にも詳しい。……会わせてやる」



    



 案内されたのは、港からほど近い、古びた一軒家だった。蔦が絡まる外壁には、長年の風雪を耐えてきた重厚な趣きがある。周囲には潮の匂いが漂い、家の前には小さな庭が手入れされていた。扉を叩くと、皺だらけの顔をした老人が姿を現した。


「ロドリゴかい。珍しいね、こんな朝早くに」


 老人は寝間着のまま、眠たげな目をこすりながら応対した。


「急ぎの用件でな。ちょいと、これを見てほしいんだ」


 ロドリゴが書類を差し出すと、老人は眼鏡をかけ直し、じっくりとその紋章を見つめた。次第に、その表情が険しくなっていく。皺の刻まれた顔が、みるみるうちに緊張の色を帯びていった。


「……こいつは、まずいものを見つけちまったな」


 老人は低く呟くと、一行を家の中へと招き入れた。



    



「この紋章は、『焔の輪』と呼ばれる組織のものだ」


 老人がゆっくりと語り始めた。古びた椅子に腰掛けながら、遠い記憶を辿るように目を細めている。


「焔の輪?」


「もう三十年以上も前になるか。大陸各地の裏社会を陰で束ねていた、巨大な秘密結社だ。奴隷売買、密輸、闇賭博――あらゆる非合法な商売に、その手を伸ばしていたと言われている」


 老人の言葉に、五人の間に緊張が走った。窓の外から聞こえる波音だけが、重い沈黙を埋めていく。


「三十年前、って。……もう解体されたんじゃないのか」


 アキトの問いに、老人は首を横に振った。しわがれた声には、確かな重みがあった。


「表向きにはな。だが、儂は知っている。あの組織は、決して滅びちゃいねえ。ただ、姿を隠しただけだ」


 老人はそう言うと、テーブルの上に置かれた古い地図を広げた。大陸全土を描いたその地図には、いくつもの印がつけられている。


「これは、儂が若い頃に集めた情報だ。焔の輪の活動が疑われる場所に、印をつけてある」


 地図に記された印は、大陸各地に散らばっていた。その数の多さに、五人は改めて事態の深刻さを実感した。


「こんなに広範囲に……」


 シルヴィアが息を呑む。かつて聖騎士団として大陸各地を巡ってきた彼女にとっても、これほどの規模の組織の存在は、想像を超えるものだった。地図に刻まれた無数の印を目で追いながら、これまでの平穏な日々の裏に、これほどの闇が広がっていたのかと、改めて背筋が寒くなる思いだった。



    



「証拠でもあるのか」


 アキトが尋ねると、老人は苦い表情を浮かべた。長年胸に秘めてきた記憶を呼び覚ますように、深く息を吐いてから口を開いた。傍らのミミが、心配そうに老人の顔を見つめている。


「儂の若い頃の話だ。この街でも、焔の輪の残党らしき連中の噂が、何度も立ち消えては、また現れる。……まるで、深く根を張った雑草のようにな」


「もしかして、過去に何か大きな事件と関わりが?」


 リーゼロッテが尋ねると、老人は遠い目をした。窓の外の海を見つめるように、視線を遠くへと向けている。


「大陸中を騒がせた悪徳貴族の事件も、闇の賭博組織が絡んだ騒動も……。あれもこれも、根っこを辿れば、同じ組織に行き着くという噂が絶えなかった」


 老人の言葉に、部屋の空気が一層重くなった。ミミが不安げにアキトの服の裾を握りしめる。


「ご主人様……。もしそうだとしたら、これから先、すごく大変な戦いになるのです……?」


「ああ、そうかもな。……だが、だからって、退くわけにはいかねえだろ」


 アキトがミミの頭を優しく撫でると、彼女は少しだけ表情を和らげた。


「わかったのです。ミミも、どんな敵が相手でも、絶対に怖がらないのです! 約束するのです!」


 その健気な言葉に、一同の間に温かい空気が流れた。


 その言葉に、アキトの脳裏に、これまで戦ってきた敵たちの顔が次々と浮かんだ。バルザス、黄金杯商会のゴードン、クラウス。もしそれらが全て、同じ根から生えた枝葉に過ぎなかったのだとしたら――。



    



「もしそうなら、俺たちがこれまで戦ってきた奴らは、全部繋がってたってことか」


 アキトの声には、隠しきれない衝撃が滲んでいた。これまでの戦いの数々が、一本の糸で結ばれていたのだとしたら――その事実は、あまりに重い。


「なあ、爺さん。あんた、なんでそんなに詳しいんだ」


 アキトがふと尋ねると、老人は苦笑を浮かべた。皺だらけの顔に、複雑な感情が入り混じっているのが見て取れた。


「儂も、若い頃はそれなりに裏の世界に片足を突っ込んでいたものでな。……焔の輪に、大切な仲間を奪われたこともある。あの組織のことは、忘れたくても忘れられねえのさ」


 老人は静かにそう語ると、窓の外の暗い海へと視線を向けた。


 その言葉には、深い悲しみと、消えることのない怒りが滲んでいた。長年抱えてきた過去の重みが、老人の皺深い顔に刻まれている。


「悪かった、辛いことを思い出させちまって」


 アキトが申し訳なさそうに頭を下げると、老人は穏やかに首を振った。


「いや、構わんよ。……お前さんたちなら、あの組織に一泡吹かせられるかもしれん。儂も、少しは力を貸そう」


「本当か、爺さん」


 アキトが思わず身を乗り出した。予想外の申し出に、瞳には確かな希望の光が宿っている。


「ああ。若い頃の伝手が、まだいくつか生きている。……ラグーサ以外の街にも、焔の輪の動向を探ってきた者たちがいる。連絡を取ってみよう」


 老人は立ち上がると、部屋の奥から古びた手紙の束を取り出した。長年大切に保管してきたのであろうそれらには、様々な印が押されている。


「これは……」


「儂の昔の仲間たちとの繋がりだ。生きているかどうかも定かじゃないがな。……試してみる価値はあるだろう」


 老人はそう言いながら、手紙の一つ一つを丁寧に整理していった。長年の月日を経てもなお色褪せない、確かな絆の証だった。


 老人の申し出に、アキトは深々と頭を下げた。


「恩に着るぜ、爺さん」


「なに、礼はいらん。儂もまた、あの組織に決着をつけたい一人なんだからな」


 老人の瞳には、これまでにない強い光が宿っていた。長年胸の奥にしまい込んでいた想いが、ようやく形を持ち始めているようだった。


「可能性の話だ。だが、儂の勘は、そう告げている。……焔の輪の本拠地は、大陸中央、古い伝承では『灰色の都』と呼ばれる場所にあるとされている」


「灰色の都、ですか」


 リーゼロッテが帳面に素早く書き留める。ペン先が紙をこする音だけが、静かな部屋に響いた。


「その都について、もう少しだけ詳しく教えてもらえますか」


 リーゼロッテが尋ねると、老人は思い出すように目を細めた。皺深い顔に、遠い記憶を辿るような表情が浮かんでいる。


「伝承によれば、大陸中央、山々に囲まれた盆地にあるとされている。灰色の霧が常に立ち込め、外部から容易には見つけられない場所らしい。……もっとも、あくまで伝承だ。真偽のほどは分からん」


「霧に包まれた都、か。……随分と物騒な話だな」


 アキトが腕を組みながら呟いた。得体の知れない場所への不安と、それでも進むしかないという覚悟が、その表情には入り混じっていた。


「詳しい場所までは、儂も知らん。だが、噂を集めれば、いずれ辿り着けるだろう。……ただし、生半可な覚悟じゃ、命がいくつあっても足りんぞ」


 老人の警告に、五人はそれぞれの表情で頷いた。その眼差しには、恐れよりも、むしろ確かな決意が浮かんでいた。



    



 老人の家を辞去した後、五人は無言のまま宿への道を歩いていた。夕暮れの港町に、鴎の鳴き声が響いている。長い一日の情報収集を終え、それぞれの胸には、様々な想いが去来していた。


「これで、目指すべき場所が見えてきたな」


 アキトが静かに呟くと、リーゼロッテが頷いた。


「ええ。……ですが、決して容易な道のりではありません。準備を整える必要があります」


「わかってる。だが、退く理由にはならねえ」


 アキトの決意に満ちた言葉に、ガイウスもシルヴィアも、そしてミミも、それぞれの想いを胸に、静かに頷いた。


「大陸中央、って言っても広いですよね……。ミミの鼻でも、匂いだけじゃ流石に辿り着けないのです」


 ミミがしょんぼりと耳を垂らす。


「気にすんな。地道に情報を集めていきゃ、いつかは辿り着ける。それに、お前の鼻は、こういう時のためだけにあるわけじゃねえだろ」


 アキトが励ますように言うと、ミミは少し元気を取り戻したように顔を上げた。その表情には、確かな決意が戻りつつあった。


「わかったのです! ミミも、いろんなことで役に立ってみせるのです!」


 ミミが元気よく拳を突き上げると、その明るさに一同の顔にも自然と笑みがこぼれた。重苦しい話の後だからこそ、彼女の屈託のなさが、何よりの救いになっていた。



    



「なあ、リーゼロッテ。灰色の都まで、どれくらいかかりそうだ」


 宿への道すがら、アキトが尋ねた。夕闇が徐々に濃くなる中、彼の横顔には、これまでにない真剣な色が浮かんでいた。


「正確な距離は、まだ分かりません。ですが、噂だけでも、相当な距離があると考えるべきでしょう。まずはこの街で、もう少し詳しい情報を集めるべきかと」


「そうだな。……焦って動いても、ろくなことにならねえ」


 アキトの言葉に、シルヴィアが頷いた。


「ロドリゴの伝手を使えば、灰色の都に関する情報も、いくらか集められるかもしれない」


「頼りになるな、ロドリゴ。……借りばかり増えていくが」


「いいってことよ。困った時はお互い様だ」


 ロドリゴが豪快に笑いながら答えた。その笑顔には、これまでの疲労を忘れさせるような、確かな温かさがあった。



    



 宿に戻った五人は、改めてテーブルを囲み、これからの方針について話し合った。


「まずは、この街でできる限りの準備を整えましょう。灰色の都までの旅は、これまで以上に過酷なものになるはずです」


 リーゼロッテが冷静に方針を示す。窓の外に広がる夜景を見つめながら、彼女の声にはこれまでにない緊張感が滲んでいた。


「装備の補充、食料の確保、それに――」


 リーゼロッテが指折り確認するように続ける。


「情報収集も欠かせねえな」


 アキトが引き取るように付け加えた。


「ああ。焔の輪について、もっと詳しく知る必要がある。奴らの活動範囲、拠点の詳細、そして何より、あの火傷の男の正体」


 ガイウスが低い声で言うと、シルヴィアも頷いた。真剣な眼差しが、これから続く困難な道のりを見据えていた。


「その通りだ。敵の全容を把握しないまま突っ込むのは、あまりに危険すぎる」


 ガイウスも重々しく頷いた。長年の戦場経験が、無謀な行動の危うさを何よりも理解させていた。


「わかってるよ。だからこそ、焦らず一つずつ確かめていく必要がある」


 アキトの言葉に、一同は改めて頷き合った。窓の外はすでに夜、宿の灯りが穏やかに部屋を照らしている。


「エレナとバロウにも、状況を伝えておいた方がいいでしょうね。長期の不在になる可能性もあります」


 リーゼロッテの提案に、アキトは頷いた。


「そうだな。手紙を書いておくか。……あいつらにも、心配かけっぱなしだからな」


 その夜、アキトは久しぶりに、故郷の店に向けて手紙をしたためた。これまでの旅の経緯、そしてこれから向かう新たな戦いについて、できる限り正直に書き記していく。ペンを走らせながら、脳裏には銅貨三枚亭での穏やかな日々が浮かんでは消えていった。


「アキト、いったい何を書いているのですか」


 リーゼロッテが覗き込むように尋ねると、アキトは少し照れたように手紙を隠した。


「別に、大したことじゃねえよ。ただ、エレナたちにも、ちゃんと状況を伝えとかねえとな」


「その手紙、見せてもらっても?」


「……まあ、別にいいけどよ」


 アキトが差し出した手紙に目を通したリーゼロッテは、思わず小さく微笑んだ。飾らない言葉で綴られたその文面には、アキトなりの不器用な気遣いが滲んでいた。


「いい手紙だと思います」


「それ、褒めてんのか?」


「ええ、もちろんです」


 リーゼロッテの素直な言葉に、アキトは照れくさそうに頭をかいた。


 窓の外には、静かな夜が広がっていた。アキトは手紙を丁寧に折りたたむと、ロドリゴに差し出した。


「ロドリゴ、これ、明日にでも街の郵便屋に出しておいてくれるか」


「おう、任せとけ」


 ロドリゴが快く引き受けてくれたことに、アキトは心から感謝した。この街で得た繋がりは、単なる情報源以上の、かけがえのないものになっていた。


「さて、明日からは本格的に灰色の都への手がかりを追うことになる。……気を引き締めていこうぜ」


 アキトの言葉に、四人はそれぞれの形で頷いた。窓の外、ラグーサの夜空に浮かぶ月が、これから始まる新たな旅路を静かに見守っているようだった。


「銅貨三枚から始まった旅が、まさかここまで大きな話になるとはな」


 アキトが夜空を見上げながら呟く。だが、その表情に迷いはない。


「振り返れば、随分と遠くまで来たものです」


 リーゼロッテが隣で同じ空を見上げながら、静かにそう呟いた。エルフという長命種族ゆえに、これまで幾多の権力者の興亡を見てきたであろう彼女にとっても、この旅の重みは特別なものなのかもしれない。


「あの頃は、まさかこんな大きな組織を相手にすることになるとは思わなかったのです」


 ミミが尻尾をゆらゆらと揺らしながら呟く。奴隷市場で拾われたあの日から、随分と長い道のりを歩んできた。


「だが、あの頃と変わらないものもある。……お前たちと過ごす、この時間だ」


 シルヴィアの言葉に、一同はそれぞれの形で微笑んだ。焔の輪という巨大な影の正体を暴くその日まで、この博徒の物語は、まだまだ続いていく。

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