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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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第67話 倉庫街の奥、火傷の男

 倉庫街に足を踏み入れた瞬間、空気が変わったのをアキトは肌で感じた。潮風に混じる、微かな血と油の匂い。表向きの商会の看板を掲げたその建物群は、明らかに何かを隠すための装いだった。石畳には、荷車の轍が幾重にも刻まれ、この場所が頻繁に使われていることを物語っている。


「見張りは二人、あの角にいるのです」


 ミミが小声で囁いた。獣人特有の鋭敏な嗅覚が、暗闇の中でも確かに敵の位置を捉えている。耳をぴんと立てたまま、彼女は闇の奥を見つめていた。この数日の街での探索で培った勘が、今この瞬間、確かな力となって発揮されている。


「俺とガイウスで片付ける。シルヴィアは後方の警戒を頼む」


 アキトの指示に、ガイウスが無言で頷いた。二人は物陰を伝いながら、見張りの死角へと回り込んでいく。



    



 一瞬の交錯。アキトが指先で弾いた小石が、見張りの一人の気を逸らした隙に、ガイウスの拳がもう一人の鳩尾に沈み込む。声を上げる間もなく、二人の見張りはあっけなく地に伏した。手際の良さは、これまでの旅で幾度となく培われてきた連携の証だった。


「上出来だ」


 アキトが小さく口笛を吹きながら呟いた。地に伏した見張りたちを一瞥し、素早く次の行動へと意識を切り替える。


「褒めてる暇はねえ。先を急ぐぞ」


 ガイウスの言葉に頷き、アキトたちは倉庫街の奥へと進んでいった。ロドリゴが証言した、一際大きな建物が闇の中に姿を現す。月明かりに照らされたその輪郭は、周囲の倉庫とは明らかに違う威圧感を放っていた。


「あそこか」


 建物の入り口には、他にも二人の見張りが立っていた。だが、その油断しきった様子は、内部の警備の手薄さを物語っているようでもあった。夜も更け、緊張感の緩んだ見張りたちは、まさか自分たちが標的にされているとは思ってもいないようだった。



    



 残る見張りも同様に無力化し、五人はついに建物の中へと足を踏み入れた。埃っぽい倉庫内には、木箱が整然と積み上げられている。だが、その配置は明らかに不自然だった。等間隔に並んだ木箱の隙間には、人一人が通れるだけの通路が意図的に作られているようだった。


「この奥に、地下へ続く階段があります」


 リーゼロッテが素早く見つけた隠し扉を指差す。木箱の陰に巧妙に隠されたその入り口は、注意深く探さなければ気づかないほど精巧に作られていた。彼女の観察眼がなければ、見過ごしていたかもしれない。


「本命はこっちか」


 アキトが扉を開けると、地下へと続く石造りの階段が姿を現した。松明の灯りがぼんやりと下方を照らしている。ひんやりとした空気が、階段の奥から漂ってきた。


「慎重にな」


 シルヴィアの言葉に一同は頷き、静かに階段を下り始めた。足音を殺しながら一段一段進むたび、緊張感が高まっていく。



    



 地下に広がっていたのは、想像を超える光景だった。広大な空間に、大量の武器と、見慣れない紋様の描かれた木箱が所狭しと並んでいる。壁際には、鎖に繋がれた人影がいくつか見えた。松明の炎が壁に不気味な影を落とし、地下空間全体に重苦しい空気が満ちていた。


「あれは……!」


 シルヴィアが息を呑む。捕らえられているのは、明らかにこの街の住人たちだった。怯えた様子で、身を寄せ合っている。やつれた顔には、長期間の監禁を思わせる疲労が色濃く滲んでいた。


「まさか、人身売買まで……」


 リーゼロッテの声に、隠しきれない怒りが滲んでいた。かつて自らも奴隷市場で買われた経験を持つミミが、震える声で呟く。


「こんなの、絶対に許せないのです……」


「静かに。まずは助け出す」


 アキトが囁くと、五人は慎重に鎖の元へと近づいていった。



    



「動くな」


 冷たい声が、地下空間に響き渡った。振り返ると、そこには黒いローブを纏い、フードを目深に被った男が立っていた。右手の甲には、確かに古い火傷の痕が刻まれている。松明の灯りに照らされたその姿は、まるで闇そのものが人の形を取ったかのような、不気味な存在感を放っていた。


「……お前が、黒幕か」


 アキトが低く問いかけると、男は静かに笑った。フードの奥から覗く口元だけが、薄く弧を描いている。緊迫した空気の中、その笑みだけが妙に人間離れした静けさを湛えていた。


「黒幕、とは大層な呼び名だな。私はただの、駒の一つに過ぎない」


「駒、ね。……なら、お前を倒せば、その先が見えてくるってわけだ」


 アキトがコインを弾き、不敵に笑う。男の周囲から、次々と武装した部下たちが姿を現した。地下空間の各所から現れたその数は、優に十人を超えていた。



    



「お前たち如きが、この計画を止められると思うな」


 男の声には、確かな余裕があった。フードの下、その眼差しは冷たく、こちらを見下しているのが手に取るようにわかった。


「計画? 何の計画だ」


「知る必要はない。……お前たちはここで、静かに消えてもらう」


 男の声は淡々としていたが、その言葉の冷たさが、地下空間の空気を一層重くしていった。


 男が手を掲げると、部下たちが一斉に武器を構えた。シルヴィアが剣を抜き、ガイウスも臨戦態勢を取る。


「面白え。全員かかってこいよ」


 アキトが不敵に笑った瞬間、地下空間に戦いの火蓋が切って落とされた。剣戟の音、怒号、そして魔法の光が交錯する中、五人は捕らわれた人々を守りながら、敵の包囲網に立ち向かっていく。松明の炎が激しく揺らめき、地下空間全体が戦場と化していった。


 火傷の男は、戦いの輪から一歩退き、冷ややかにその光景を見つめていた。その口元には、何かを見透かすような、不気味な笑みが浮かんでいる。


「さて、どこまで足掻けるか。……見せてもらおうか、噂の博徒の実力とやらを」


 地下深く、閉ざされた空間で繰り広げられる死闘は、まだ始まったばかりだった。



    



 シルヴィアの剣が、襲いかかる部下の一人を瞬時に斬り伏せる。元聖騎士団長としての実力は、多勢を相手にしても些かも揺るがなかった。


「危なげないな」


 ガイウスも拳で敵を薙ぎ倒しながら、感心したように呟いた。十二年の戦場経験が培った身のこなしは、狭い地下空間でも遺憾なく発揮されている。汗一つかかない様子で、次々と迫る敵を的確に打ち倒していった。その姿は、まさに歴戦の戦士そのものだった。


「ミミ、そっちは任せた!」


「わかったのです!」


 ミミが敵の死角から飛び出し、小さな短剣で相手の脚を狙う。俊敏な動きで敵の隙を作り出すその働きは、決して侮れないものだった。


「リーゼロッテ、捕らわれてる人たちを!」


「わかっています! 少し時間をください!」


 リーゼロッテが鎖の錠前に取り掛かりながら、周囲を警戒する。彼女の細く器用な指先が、鍵のない錠前を巧みに操っていく。


 その間にも、アキトは次々と迫る敵の攻撃を、紙一重で躱していった。剣を振るう部下の一人の動きを見切り、足を払って転ばせる。


「数だけは多いが、統率は取れてねえな」


 アキトは冷静に敵の陣形を観察していた。慌てふためきながら襲いかかってくる部下たちの動きには、明確な連携が見られない。付け焼き刃の戦力であることが、その乱雑さからも窺えた。


「バラバラに突っ込んでくるだけなら、恐れるに足らねえ」


 アキトはそう呟くと、迫る敵の一人の懐に飛び込み、鮮やかな体術で相手を無力化していく。前世で培った喧嘩の経験が、こういう乱戦でこそ真価を発揮していた。


「これで最後の錠前です!」


 リーゼロッテが最後の鎖を解き放つと、捕らわれていた人々が一斉に安堵の声を漏らした。


「早く、上に逃げてください! 出口はあちらです!」


 リーゼロッテが力強く指示を出すと、解放された人々は震えながらも、必死に階段へと駆け出していった。


「よし、あとはこいつらだけだ」


 アキトが周囲を見渡すと、すでに部下たちの大半が地に伏していた。シルヴィアとガイウスの実力の前に、烏合の衆に過ぎなかった彼らは、なす術もなく打ち倒されていったのだった。


「……見事だな」


 火傷の男が、初めて感嘆したような声を漏らした。だが、その表情に焦りの色はまだない。


「これで終わりだ。……観念しろ」


 アキトが男へと一歩踏み出す。剣を構えることもなく、素手のまま静かに間合いを詰めていく。だが、その瞬間、男の足元に黒い魔法陣が浮かび上がった。


「まだ、終わりではない。……今日のところは、これで退かせてもらう」


 男の声には、余裕を装いながらも、どこか焦りのような色が混じっていた。フードの奥の瞳が、一瞬だけ大きく揺れたように見えた。


「逃がすかよ!」


 アキトが駆け出すが、魔法陣の光が瞬時に膨れ上がり、男の姿を包み込んだ。


「くそ、転移魔法か!」


 アキトが舌打ちしながら、消えていった場所を睨みつけた。手の届く距離まで迫っていたはずなのに、あと一歩のところで逃げられてしまった悔しさが、全身に滲んでいた。


 光が収まった時、そこにはもう誰もいなかった。地下空間に、静寂だけが残される。


「……逃げられたか」


 アキトが悔しげに拳を握りしめた。だが、すぐに気を取り直したように、周囲を見渡す。


「全員、無事か」


 アキトが仲間たちの様子を確かめるように問いかけた。地下室の埃と硝煙の匂いが、まだ辺りに漂っている。


「問題ない」


 シルヴィアが剣を鞘に収めながら、静かに答えた。返り血一つ浴びていないその様子には、卓越した剣技が滲んでいた。


「ミミも平気なのです!」


 ミミが元気よく手を挙げて応じた。


 シルヴィアとミミが答える中、リーゼロッテが慌てて駆け寄ってきた。


「アキト、怪我は」


 リーゼロッテが心配そうに駆け寄り、アキトの全身に視線を走らせる。土埃と汗にまみれたその姿を、上から下まで丹念に確認していった。


「かすり傷程度だ。それより、あいつが残していったもんがねえか、調べてみよう」


 アキトはそう言って、傷口を軽く押さえながら立ち上がった。


 アキトが辺りを見渡すと、男が立っていた場所の近くに、一枚の書類が落ちているのに気がついた。



    



「これは……」


 リーゼロッテが拾い上げた書類に目を通し、表情を険しくした。灯りの乏しい地下室の中、彼女は書類を目の高さまで掲げ、文字を注意深く読み取っていった。


「何が書いてある」


 アキトが覗き込むように尋ねる。粗末な灯りの下、書類の文字はかすかに滲んで読みづらかったが、それでも要点は十分に見て取れた。


「荷の輸送記録のようです。……宛先の欄に、大陸中央の都市の名が並んでいます。それに、この紋章――」


 リーゼロッテが指し示した紋章に、アキトは眉をひそめた。見覚えのない、しかしどこか不吉な印象を与える意匠だった。


「見たことのない紋章だな」


「私も初めて見るものです。……ですが、これだけの規模の輸送網を持つ組織だとすれば、単なる一地方の犯罪組織とは思えません」


 リーゼロッテは書類をさらに丁寧に確認しながら、深刻な面持ちでそう分析した。指先で紋章の細部をなぞるようにしながら、記憶を辿っているようだった。


 リーゼロッテの分析に、一同の間に緊張感が走った。事態は、想像していたよりも遥かに大きなものなのかもしれない。



    



「とりあえず、この場を離れましょう。証拠品は持ち帰って、詳しく調べる必要があります」


 リーゼロッテが書類を丁寧に折りたたみ、懐に仕舞い込んだ。


「解放した街の人たちは?」


「先に外に逃がしました。おそらく、無事に街の中心部まで辿り着いているはずです」


 シルヴィアが答えると、アキトは安堵したように息をついた。


「よし、俺たちも撤収するぞ。……にしても、思ったより手強い相手だったな、まったく」


「転移魔法まで使うとなると、相当な資金力と技術力を持つ組織であることは間違いありません」


 リーゼロッテが険しい表情で呟く。地下室を出て、五人は静かに倉庫街を後にした。夜はすでに更け、街全体が深い眠りについている。潮風が、戦いの余韻を洗い流すように五人の頬を撫でていった。



    



 宿に戻ると、ロドリゴが心配そうな顔で待っていた。


「無事だったか!」


 ロドリゴが安堵の表情を浮かべながら、勢いよく立ち上がろうとして、傷の痛みに顔をしかめた。それでも心配そうな眼差しは、五人から離れなかった。


「ああ、なんとかな。……お前が教えてくれた情報のおかげで、色々わかった」


 アキトが疲れた様子で椅子に腰を下ろしながら答えた。全身についた土埃を払いつつ、ようやく緊張の糸が緩んでいくのを感じていた。


 アキトはそう言うと、これまでの経緯をかいつまんで説明した。人身売買の実態、火傷の男の存在、そして謎の紋章が記された書類のことを。


「転移魔法まで使う組織、か。……こいつは、俺の想像を超えてたな」


 ロドリゴが唸るように呟く。傭兵として様々な裏社会を見てきた彼をもってしても、これほどの規模の組織は予想外だったようだ。


「とにかく、今夜はもう休みましょう。この書類については、明日改めて詳しく調べます」


 リーゼロッテの提案に、疲れ切った一同は素直に頷いた。長い夜だった。だが、確かな収穫もあった。


 各々が部屋に戻る中、アキトは最後まで窓の外を見つめていた。港町の夜景は、何事もなかったかのように静まり返っている。だが、あの地下で見た光景――鎖に繋がれた人々の怯えた瞳は、アキトの脳裏に強く焼き付いていた。


「なあ、アキト」


 隣に来たリーゼロッテが、静かに声をかける。


「今日、救えた人たちがいる。それは、間違いなく良いことです」


「ああ、わかってる。……ただ、あの紋章の正体が気になってな。これ、もしかしたら、俺たちが思ってるより、ずっと大きな話かもしれねえ」


「そうかもしれません。……ですが、どんな相手だろうと、私たちは立ち向かうまでです」


 リーゼロッテの力強い言葉に、アキトは小さく笑った。


「頼もしいこと言うじゃねえか」


「今更ですか」


 いつものやり取りに、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。窓の外、ラグーサの夜空には、いつしか雲が晴れ、満天の星が広がっていた。真実へと続く道は、まだ始まったばかりだった。

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