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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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第60話 決勝、確率を狩る者

 決勝当日。カルディナの中央広場に組まれた特設会場は、これまでとは比較にならないほどの熱気に包まれていた。大陸各地から詰めかけた観客は数万を超え、王侯貴族の来賓席まで設けられている。大陸博打大会、その頂点を決める最後の一戦を一目見ようと、誰もが息を呑んで開幕を待っていた。


「凄まじい人だかりだな……」


 控室の窓から会場を見下ろし、アキトは小さく口笛を吹いた。すり鉢状に組まれた特設スタンドは、見渡す限り観客で埋め尽くされている。大会本部が急遽増設したという最上段の立ち見席にまで、人が溢れていた。


「これだけの規模の勝負は、私も初めてです」


 リーゼロッテの声にも、いつになく緊張が滲んでいる。シルヴィアは扉の前で剣の柄に手を添えたまま、微動だにせず周囲を警戒していた。ミミはアキトの袖をぎゅっと握りしめ、耳をぴんと立てている。


「ご主人様、変な匂いは今のところしないのです。……でも、なんだか嫌な予感がするのです」


「予感、か。まあ、今日ばかりは俺も同じ気持ちだけどな」


 クラウスの忠告――「私だけが動いているわけではない」という言葉が、頭の片隅にこびりついている。何が起きても対応できるよう、四人はそれぞれの役割を確認し合った。


「ゲームの形式は、五枚札のポーカー。三本先取した方が優勝、と本部から通達がありました」


 リーゼロッテが手元の書類に目を通しながら告げる。会場の熱狂とは対照的な、事務的な口調だった。


「五分五分の真剣勝負ってわけだ。上等だ」


 アキトは骨の鳴る音を立てて首を回すと、控室を出た。会場へと続く廊下の先に、大歓声に包まれたステージが見えてくる。



    



 舞台上、卓を挟んで対峙するクラウスは、これまでと変わらぬ柔和な笑みを浮かべていた。あの応接室での不穏な会話などなかったかのような、完璧に取り繕われた表情だった。


「よく来たな、アキト殿。今日という日を、心から楽しみにしていたよ」


「そりゃどうも。せいぜい楽しませてもらうぜ」


 アキトも椅子に腰を下ろし、不敵な笑みを返す。両者の間に流れる空気は、これまでのどの対戦相手とも違う、張り詰めた緊迫感を孕んでいた。


 実況席のアナウンサーが高らかに開幕を告げると、会場中が地鳴りのような歓声に包まれた。ディーラーがカードを切り、配り始める。


 第一局。アキトの手札はスリーカード――七のスリーカード。悪くない手だ。ベットを重ね、勝負に出る。対するクラウスの手札はツーペア。数字の上ではアキトが優勢だった。会場は序盤から白熱した攻防に沸き立っている。


「私の負けのようだな」


 クラウスがそう呟いた、その刹那――卓上に置かれていたクラウスの手札の一枚が、誰の手も触れていないにもかかわらず、ふわりと僅かに浮き上がったように見えた。目の錯覚かと思うほど、一瞬の出来事だった。


「……!」


 次の瞬間、開示されたクラウスの手札は、ツーペアからフルハウスへと変わっていた。


「なっ……」


 アキトは思わず目を見開いた。数字が変わったわけではない。だが、確かに一枚――八のペアだったはずの札が、いつの間にか三枚に増えている。


「運が良かったようだ」


 クラウスは涼しい顔でチップをかき集めた。会場は「フルハウス!」と沸き立っているが、卓の裏に控えるアキトの仲間たちは、誰一人としてその歓声に乗れずにいた。


「今の……」


 観客席の最前列で、リーゼロッテが息を呑む。彼女の脳裏には、これまで積み重ねてきた情報の断片が、一気に繋がっていくような感覚があった。


「アキト、今の見ましたか。あれは絶対に……」


「ああ。見た」


 アキトの声が、低く沈む。



    



 第二局、第三局と勝負は進んだが、奇妙な現象は繰り返された。アキトが優勢な局面になると、決まってクラウスの手札が土壇場で強化される。あるいは、アキトの手札そのものが、なぜか土壇場で弱まる。第二局では、アキトが完成させたはずのフラッシュが、なぜか一枚だけ数字が変わり役から外れるという不可解な現象まで起きた。会場は歓声に沸いていたが、卓の裏に控える仲間たちの表情は、次第に険しさを増していった。


「……ミミ、あの指輪だ」


 シルヴィアが小さく囁いた。


「クラウスの右手の指輪。あれから、時折ひどく嫌な気配を感じる」


「ミミも気づいてたのです。あの指輪、なんだか死んだ匂いがするのです」


 クラウスの右手の薬指に嵌められた漆黒の指輪。よく見れば、そこには禍々しい紋様が刻まれている。おそらく、あれこそが不自然な現象の元凶だ。


「二対一で、クラウスの勝ち越し、か」


 控室代わりの休憩スペースで、アキトは苦い顔をしていた。三本先取のうち、すでに二本を落としている。あと一本負ければ、それで終わりだ。額に浮かんだ汗を拭う仕草にも、いつもの余裕は見られなかった。


「アキト、あの指輪は間違いなく呪具の類です。おそらく、身につけた者の敗北を、強制的に覆す力を持っている」


「俺の【絶対因果】と、真逆の力ってわけか」


「ただし、あなたのように自在に操れるものではないはずです。おそらく発動には制限がある――現に、毎局必ず発動しているわけではありません」


 リーゼロッテの分析に、アキトは頷いた。確かに、これまでの三局のうち、明確に不自然だったのは二局だけだ。無制限の力ではない証拠だ。


「シルヴィア、あの指輪について、他に何か情報は」


「いや、ここまでの情報収集では、指輪そのものについては何も掴めていない。だが、あれほどの呪具となれば、そう簡単に手に入るものではないはずだ。相当な使い手か、相当な資金力を持つ者が絡んでいると見て間違いない」


「金の匂いがするなら、やっぱりクラウスの後ろにいる誰かが用意したもの、ってことか」


「おそらくは。……気をつけろ、アキト。相手はもう、単なる大会の対戦相手じゃない」


「なら、次の一局に懸けるしかねえな」


 アキトは静かに、しかし確かな決意を込めてそう告げた。


「もう魔力は残っているのですか」


 リーゼロッテが心配そうに眉を寄せる。


「ギリギリだ。だが、やるしかねえ」


 アキトは拳を握りしめた。負ければ、それで全てが終わる。だが、退く道など、最初からどこにもなかった。仲間たちの視線が、静かに背中を押していた。



    



 最終第四局。会場の熱気は最高潮に達していた。両者に配られたカードが、静かに開かれていく。実況席のアナウンサーですら、もはや軽口を叩く余裕を失い、固唾を呑んでカードの行方を見守っていた。


 アキトの手札は――スペードのストレート。八、九、十、十一、十二。悪くない、いや、かなりの好手だ。


 クラウスの手札はワンペア。数字の上では、圧倒的にアキトが優勢だった。観客席のあちこちから、勝敗を確信したようなどよめきが漏れ始める。


「また、来るぞ」


 アキトは静かに呟き、自分の伏せ札に指をかけたまま、意識を集中させた。クラウスの指輪が、淡く黒い光を帯び始める。今まさに、不正な力が発動しようとしている瞬間だった。


「――させるかよ」


 アキトは残る魔力の全てを、指輪の力に対抗させるように放った。【絶対因果】――「不正な確率操作が失敗する確率」を、限界まで引き上げる。二つの異なる力が、目に見えない次元でせめぎ合った。控室で聞いた覚悟を、今この瞬間にすべて注ぎ込む。仲間たちが積み上げてきた情報、共に乗り越えてきた数々の勝負――そのすべてが、この一投に懸けられていた。


「な……!?」


 クラウスの顔が、初めて明確に歪んだ。指輪の黒い光が、明滅を繰り返しながら弱まっていく。彼の手札は、ワンペアのまま、変化を拒んでいた。


「ば、馬鹿な……なぜ発動しない……!」


 クラウスが動揺も露わに指輪を睨みつける。その完璧に取り繕われていた表情が、初めて大きく崩れた瞬間だった。会場中がそのただならぬ様子に気づき、ざわめきが広がっていく。実況席のアナウンサーも、困惑気味に実況を続けていた。


「お前の手品、種は割れてんだよ」


 アキトはニヤリと笑い、卓上に指輪を指差した。会場中の視線が、一斉にその指先の先へと集まっていく。


「その指輪、負けそうになると都合よく手札を書き換える呪具だろ。ずっとそれで、対戦相手を騙してきたんじゃねえのか」


「な、何を根拠に――」


「根拠なら、今この瞬間に証明されただろうが。俺が対抗したら、途端に効かなくなった。……偶然で片付けられる話じゃねえよな」


 会場中に響き渡るアキトの言葉に、観客席が騒然となる。大会本部の役人たちが慌ただしく卓の周囲に集まってきた。



    



「エルドレッド殿、その指輪を確認させていただきたい」


 本部の審判が険しい表情でクラウスに詰め寄る。周囲を固める役人たちの数は、いつの間にか十数名に膨れ上がっていた。クラウスはしばし抵抗する素振りを見せたが、逃げ場のない状況に、やがて観念したように指輪を外した。鑑定を行った魔道具師が、青ざめた顔で告げる。


「……間違いありません。これは、確率を強制的に反転させる呪いの指輪です。持ち主が敗北しかけた瞬間に、一度だけ結果を書き換える力を持っています」


 会場が水を打ったように静まり返り、次の瞬間、地鳴りのようなどよめきに包まれた。これまでクラウスが積み上げてきた勝利の記録――その多くが、この呪具によるものだった可能性が浮上した瞬間だった。


「これは……いったい誰から?」


 審判の問いに、クラウスは唇を噛みしめ、しばらく沈黙していた。会場中の視線が彼一人に注がれる中、その沈黙はやけに長く感じられた。だが、やがて力なく答えた。


「……知らない。ある夜、覆面の男が私の元を訪れ、これを渡された。『これを使えば、確実に勝てる』と。……それだけだ」


 会場中がその言葉に息を呑んだ。アキトは静かに拳を握りしめる。男爵、ガイウス、そしてクラウス――これまでの不穏な出来事の全てが、一本の糸で繋がった瞬間だった。だが、その糸の先にいる者の正体は、依然として闇の中だ。


「大会規定に基づき、エルドレッド選手は失格。よって、優勝はアキト選手に決定します!」


 審判の宣言と同時に、会場は割れんばかりの大歓声に包まれた。実況席のアナウンサーが声を張り上げ、観客たちが総立ちになって拍手を送る。数万の歓声が波のようにうねり、大地を揺らすほどの熱気となって会場全体を包み込んでいた。ミミが真っ先に駆け寄り、アキトに飛びついた。


「ご主人様、優勝なのです! やったのです!」


「ああ、ありがとよ」


 アキトはミミの頭を撫でながら、控室の方へと視線を向けた。呆然と立ち尽くすクラウスの姿があった。その表情には、これまでの余裕はどこにもなく、ただ茫然自失としたものだけが浮かんでいる。


「なあ、クラウス」


 アキトが声をかけると、クラウスはのろのろと顔を上げた。その瞳には、これまでの余裕も傲慢さもなく、ただ疲れ果てた青年の素顔だけが浮かんでいた。


「お前も、誰かの駒だったんだろ。だったら、次は自分の意思で卓につけよ。……じゃなきゃ、勝っても負けても、後味が悪いだけだぜ」


 その言葉に、クラウスは何かを言いかけて、結局何も言わずに俯いた。かつて自信に満ちていた口元が、今は小さく震えている。役人たちに連れられていくその背中を、アキトはしばらく無言で見送っていた。


「アキト、大丈夫ですか」


 リーゼロッテが心配そうに声をかける。


「ああ。……ちっと、後味の悪い勝ち方だったけどな」


「それでも、あなたは正々堂々、最後まで戦い抜きました。誇っていいはずです」


 その言葉に、アキトは小さく頷いた。会場の熱狂は依然として続いており、勝利の余韻に浸る間もなく、次々と祝福の声が飛んでくる。



    



 優勝式典が執り行われ、アキトの頭上に大陸博打大会の栄冠――金の月桂冠が授けられた。観客席からの歓声は鳴り止まず、会場全体が祝祭のような熱気に包まれている。花吹雪が舞い、楽団が高らかに祝賀の曲を奏でていた。


「大陸博打大会、優勝者アキト選手に、盛大な拍手を!」


 実況席の声に応えるように、数万の観客が一斉に拍手を送る。壇上でその歓声を浴びながら、アキトはふと隣に視線をやった。リーゼロッテ、シルヴィア、ミミ――三人の仲間たちが、それぞれの表情でこちらを見つめている。


「お前らのおかげだよ、正直な話」


 柄にもなく素直な言葉が、思わず口をついて出た。ここまで来られたのは、決して自分一人の力ではない。情報を集め、支え、時に叱咤してくれた仲間たちがいたからこそ、この栄冠がある。


「今更ですか」


 リーゼロッテが呆れたように笑い、シルヴィアも小さく頷いた。ミミは涙目になりながら、アキトの手を強く握りしめている。四人が積み上げてきた日々の重みが、その一瞬に凝縮されているようだった。


「これで、一件落着――とはいかねえだろうな」


 アキトは月桂冠に触れながら、小さく呟いた。覆面の男、指輪の出所、そして「私だけが動いているわけではない」というクラウスの言葉。積み残された謎は、まだ多い。だが、今この瞬間だけは、勝ち取った栄光を素直に噛み締めたかった。


「今日くらいは、何も考えずに祝杯を挙げましょう。謎を追うのは、明日からでも遅くありません」


「珍しくお前が言うと、説得力あるな」


「当然です。私はいつだって正しいことしか言いません」


 いつも通りの軽口に、ミミがくすくすと笑い声を漏らす。シルヴィアも普段は見せない、柔らかな笑みを浮かべていた。壇上から見下ろす観客席には、数えきれないほどの笑顔が広がっている。この大陸のどこかで、まだ見ぬ黒幕が糸を引いているとしても、今この瞬間の喜びまでは、誰にも奪えない。


 夕暮れの空に、大陸中から集まった観客たちの歓声がいつまでも響き渡っていた。大陸博打大会は幕を閉じたが、アキトたちの物語は、まだ終わらない。裏に潜む何者かの影を追う新たな旅が、静かに、しかし確実に始まろうとしていた。会場を包む茜色の光の中、四人はしばらくの間、ただ黙って肩を並べていた。それぞれの胸に去来する想いは違えど、この瞬間を分かち合えることだけは、誰の目にも確かだった。

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