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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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第33話 黄金杯、その名の下に

 翌日の昼下がり、アキトたちは身なりを整え、街の中心部から少し離れた場所に建つ、真新しい建物へと向かっていた。


 石造りの重厚な外壁に、金色の杯を模した紋章が掲げられている。『黄金杯商会』が運営するという新設の賭場は、遠目にも一目で分かるほどの豪奢な佇まいをしていた。フォルトゥーナほどの規模ではないが、地方都市の施設としては、破格の贅を尽くした造りであることが窺える。周囲には見張りらしき人影も複数配置されており、単なる娯楽施設にしては、警備が過剰なほど厳重であることも見て取れた。


「随分と羽振りが良さそうですね」


 リーゼロッテが建物を見上げながら、感心とも呆れともつかない声を漏らした。


「金の匂いがぷんぷんするな。しかも、あんまり綺麗な金じゃなさそうだ」


 アキトはニヤリと笑いながら、懐に忍ばせた僅かな銀貨を確かめた。昨日の情報収集で得た手がかりを頼りに、今日は純粋な客として、この賭場の内情を探ることになっていた。


「シルヴィア、ミミ、心配すんな。今日はただの偵察だ。大人しく様子を見るだけでいい」


「承知しております。ですが……何か不穏なものを見つけた際は、すぐにお知らせします」


「ミミも鼻を利かせておくのです!」


 四人は緊張の面持ちで、賭場の正面入り口へと足を踏み入れた。入り口に立つ屈強な門番は、四人の身なりを一瞥した後、特に咎めることもなく道を開けた。旅の博徒風の身なりでも、それなりの資金を持つ客であれば歓迎する、という商売柄の判断らしい。


「思ったより、あっさり通してもらえましたね」


「客商売だからな。金を持ってそうな面してりゃ、誰でも中には入れてくれるもんだ」


 扉をくぐった瞬間、むせ返るような香水と葉巻の匂い、そして絶え間ない歓声とチップの音が、四人を出迎えた。



 店内は、想像していた以上の賑わいを見せていた。豪華なシャンデリアの下、様々な卓が並び、それぞれで熱心な客たちが勝負に興じている。ルーレット、カードゲーム、サイコロ賭博――フォルトゥーナで見た光景と、それほど大きな違いはないように、一見しては思えた。


「ふん、思ったより普通じゃねえか」


「油断は禁物です、アキト。表向きは、ですよ」


 リーゼロッテが小声で釘を刺す。彼女の視線は、卓を仕切るディーラーたちの手つきや、フロア全体の警備の配置を、抜け目なく観察していた。


「……あのディーラー、少しおかしいですね」


「どこがだ?」


「カードの配り方です。あれは……微妙に、客に不利なイカサマが仕込まれている可能性があります」


 リーゼロッテの元プロディーラーとしての観察眼が、早くも何かを捉えていた。


「へえ、さすがだな。俺には全然分からねえ」


「あなたは大局的な駆け引きには長けていますが、細部の手先の技術については、まだまだ修行が足りませんね」


「手厳しいなあ、おい」


 そう言いながらも、アキトはリーゼロッテの観察眼に、改めて感嘆せずにはいられなかった。長年カジノの現場に立ち続けてきた彼女だからこそ見抜ける、細やかな不正の兆候。それは、どれだけ場数を踏んだ博徒であっても、一朝一夕には身につかない領域だった。


 二人がそんなやり取りを交わす傍らで、ミミはフロア全体をきょろきょろと見回していた。その大きな耳が、時折ぴくりと動く。


「ご主人様、なんだかこの場所、変な匂いがするのです」


「変な匂い、とは」


「みんな笑ってるけど、本当は苦しそうな匂い、なのです。それに、緊張してる匂いも、いっぱいするのです」


 ミミの野生の勘は、この賑やかな空間の裏側に潜む、重苦しい空気を敏感に感じ取っていた。表面上は華やかな娯楽施設に見えるこの場所が、実際には多くの客を苦しめる装置として機能していることを、幼い獣人の少女は誰よりも早く察知していた。



 フロアの奥、一段高くなった特別席には、上等な服に身を包んだ恰幅の良い男が、悠然と椅子に腰掛けていた。周囲には屈強な護衛たちが数人控え、彼が動くたびに、周囲の従業員たちが緊張した面持ちで頭を下げている。


「あの男が、この賭場の責任者か何かか?」


「おそらくは。商会の幹部クラスの人間でしょうね」


 シルヴィアが低い声で呟いた。彼女の視線は、男の周囲を固める護衛たちの立ち居振る舞いに向けられていた。


「あの護衛たち、只者ではありませんね。動きに無駄がない。恐らく、それなりの実戦経験を積んだ手練れです」


「穏やかじゃねえな」


 アキトは軽い調子で応じながらも、内心では警戒を強めていた。単なる商人の護衛にしては、明らかに実力が突出している。何か、表沙汰にできない事情を抱えている組織特有の緊張感が、その場に漂っていた。


 シルヴィアはさらに観察を続けた。護衛たちの立ち位置、視線の配り方、そして時折見せる緊張した表情。それらの断片から、彼女は一つの推測を組み立てていった。


「アキト殿、恐らくあの護衛たちは、単なる用心棒ではありません。動きの質から見て、正規の軍事訓練を受けた者たちでしょう。……もしかすると、退役した傭兵か、あるいは」


「あるいは?」


「かつての騎士団関係者、という可能性も考えられます。あの規律だった立ち居振る舞いは、素人が一朝一夕で身につけられるものではありません」


 その推測に、アキトの表情が僅かに引き締まった。金の力で、元は正義を掲げていたはずの人間たちまでもが、闇の側へと取り込まれていく。それは、バルザスの一件でも垣間見た、権力と金が絡み合う組織特有の、腐敗の構図そのものだった。


「……胸糞悪い話だな」


「同感です」



 しばらくフロアを見回った後、アキトたちは一つのカード卓に腰を下ろした。少額の賭け金で、様子を見ながら勝負に興じる。


「ようこそ、旦那方。何をお楽しみになりますか」


 卓を仕切るディーラーの女性が、営業スマイルを浮かべながら声をかけてくる。


「軽くポーカーでも頼むよ」


「かしこまりました」


 数回の勝負を重ねる中で、アキトは徐々に、この賭場特有の"癖"を見抜き始めていた。リーゼロッテが指摘した通り、ディーラーの配り方には、微妙な不自然さが確かに存在した。だが、それは露骨なイカサマというより、統計的に僅かに店側が有利になるよう調整された、巧妙な仕掛けだった。


(フォルトゥーナじゃ、こんな汚え真似はしなかったな)


 純粋な技術と運の勝負を信条としていたフォルトゥーナとは、根本的に運営の哲学が違う。ここは、客を公正に楽しませる場ではなく、ただ搾り取るためだけの装置なのだと、アキトは肌で理解した。かつて自分自身も、イカサマを駆使して他人から金を巻き上げてきた身ではある。だが、そこには常に、対等な勝負という一線があった。この賭場のやり口には、その一線が根底から欠けていた。


 勝負を続けるうち、隣の卓で、一人の若い男が悲痛な声を上げているのが耳に入った。


「そ、そんな……! また負けた……! 待ってくれ、もう少しだけ賭けさせてくれ!」


「お客様、これ以上のお貸し出しは規定によりできかねます。あちらの窓口で、正式な借用契約の手続きをどうぞ」


 従業員の事務的な口調に、若い男は絶望的な表情を浮かべながら、案内された窓口へとふらふらと向かっていった。その後ろ姿を見送りながら、リーゼロッテが眉をひそめる。


「……あれが、噂の貸付の実態でしょうか」


「みてえだな」


 アキトは静かに、しかし確かな怒りを胸の内に感じていた。負けを重ねさせ、追い詰めたところで法外な貸付へと誘導する。それは、彼が信条とする"勝負の美学"とは、あまりにもかけ離れた、卑劣な仕組みだった。


 窓口の様子を遠目に窺うと、若い男は震える手で書類にサインをしていた。その傍らでは、笑顔を絶やさない受付係が、事務的な口調で契約内容を読み上げている。利子の数字だけが、やけに大きく強調された書類だった。


(ああいう手口で、何人もの人生を狂わせてきたってわけか)


 アキトの脳裏に、かつてバルザスが弱者から搾取していた光景が重なる。手口こそ違えど、根底にある醜悪さは、寸分違わず同じものだった。



「――ほう、随分と楽しんでいるようだな、旅の御仁」


 不意に、背後から低い声が響いた。振り返ると、先ほど特別席にいた恰幅の良い男が、護衛を伴って近づいてきていた。


「俺たちのこと、気にかけてもらえるとは光栄だな」


「なに、新顔は目立つものでね。……聞けば、随分と腕の立つ博徒だという噂を耳にしたものでな」


 男の目には、値踏みするような、油断ならない光が宿っていた。アキトは内心で身構えながらも、表面上はいつも通りの飄々とした態度を崩さなかった。


「腕が立つかどうかは、実際に卓を囲んでみりゃ分かることだ」


「ほう、面白い」


 男は愉快そうに笑うと、懐から名刺のようなものを取り出し、アキトに差し出した。


「私はゴードン。この『黄金杯商会』の、賭場運営を任されている者だ。以後、お見知りおきを」


「アキトだ。流れの博徒でね」


「アキト殿、か。……実を言うと、隣国での天馬杯の一件、噂は既にこちらにも届いておってな」


 その言葉に、リーゼロッテとシルヴィアの表情が僅かに強張った。ゴードンは、それを見透かすかのように、にやりと笑みを深める。


「案ずるな、あちらの国の指名手配など、この地では何の意味も持たない。それどころか、全財産を一夜にして失ってなお、こうして飄々と旅を続けているその胆力、私は嫌いではない」


「褒め言葉として受け取っておこう」


「近々、この賭場で少々大きな催しを企画しておってな。腕に覚えのある博徒を、あちこちから招待しているところだ。もし興味があれば、参加を検討してみてはどうかね」


「大きな催し、ねえ」


 アキトの目が、僅かに獰猛な光を宿す。この誘いの裏に、何か仕組まれた罠が潜んでいる可能性は十分にあった。だが同時に、それこそが、この商会の実態に迫るための、またとない機会でもあった。


「面白そうじゃねえか。詳しい話、聞かせてもらおうか」


 ゴードンは満足げに笑うと、懐から一枚の招待状を取り出し、アキトの手に握らせた。


「三日後の夜、特別な卓を用意させてもらう。参加者には、それ相応の資格を持つ者だけを厳選している。……せいぜい、腕試しを楽しみにしているぞ」


「資格、というと」


「勝負の規模に見合うだけの覚悟、とでも言っておこうか。もっとも、あなたにその覚悟がないとは思えないがね」


 そう言い残し、ゴードンは護衛たちを引き連れ、悠然とその場を後にした。その後ろ姿を見送りながら、リーゼロッテが小声で呟く。


「随分と、こちらの事情まで把握しているようですね」


「ああ。情報網が思ったより広い組織らしい」


「厄介ですね」


「厄介だからこそ、面白いんだよ」



 賭場を出た後、四人は人気のない路地裏で、密かに顔を突き合わせた。


「アキト、あの招待、罠の可能性が高いですよ」


「分かってるよ、リーゼ。だが、断る理由もねえ」


「危険すぎます」


「危険じゃねえ勝負なんざ、面白くもねえだろうが」


 シルヴィアが懐から招待状を覗き込み、静かに呟いた。


「この招待状の紋章、商会の正式なものです。これに応じるということは、正面から敵地に乗り込むということになります」


「上等だ。むしろ好都合だよ。あの倉庫の秘密も、貸付の実態も、全部まとめて暴いてやる絶好の機会だ」


 リーゼロッテは深く息を吐いた後、覚悟を決めたように頷いた。


「分かりました。反対しても、あなたは行くのでしょうから。……ならば、私も準備を整えます。あの卓でどんな仕掛けが待ち構えていようとも、見抜けるよう、しっかりと目を鍛えておきます」


「頼りにしてるぜ」


 シルヴィアも腰の剣に手を添えながら、静かに口を開いた。


「私も、万が一の際にはすぐに動けるよう、周辺の警備状況を再度確認しておきます。あの護衛たちの実力を考えると、油断は禁物です」


「ミミも、ミミにできることを頑張るのです! 匂いで、危ない気配を全部見つけてみせるのです!」


 三人それぞれの決意に、アキトは満足げに頷いた。


「よし、それぞれ準備を整えていこう。三日後まで、時間は限られてる」


 その言葉を合図に、四人はそれぞれ頷き合った。全財産を失い、追われる身となったこの旅の果てに、また新たな戦いが幕を開けようとしている。だが、その表情に恐れの色は微塵もなかった。むしろそこにあるのは、正義感と博徒としての矜持が入り混じった、確かな闘志だった。


「アキト殿」


 シルヴィアがふと真剣な眼差しでアキトを見つめた。


「一つ、確認させてください。あの商会の裏に何が潜んでいようと、あなたは最後まで、この件から手を引くつもりはないのですね」


「当たり前だろ」


 アキトは即答した。


「弱者を踏みにじって金を貪る連中を、見過ごすほど俺は聖人君子じゃねえ。だが、それ以上に――」


 その口調には、これまでの軽薄さとは一線を画す、確かな覚悟が滲んでいた。かつてバルザスとの死闘を経て、アキトは既に、ただの享楽的な博徒ではなくなっていた。仲間を守り、弱者を虐げる者に立ち向かうという、確固たる信念が、その根底に静かに根付いていた。


 アキトはニヤリと笑いながら、招待状を懐にしまった。


「あんな薄汚い勝負のやり方を見せつけられて、黙ってられるほど、俺は大人しい博徒じゃねえんだよ」


 その言葉に、シルヴィアは僅かに目を細め、小さく頷いた。


 アキトはニヤリと笑いながら、懐の招待状を軽く指先で弾いた。その瞳の奥には、これまでの旅で幾度となく見せてきた、賭博師としての不敵な光が、静かに、しかし確かに宿っていた。


「三日後、か。……面白くなってきたじゃねえか」


 夕暮れの路地裏に、新たな勝負への序曲が、静かに響き始めていた。三日後に待ち受ける未知の勝負に向け、それぞれが胸の内で静かに覚悟を固めていた。街の灯りが一つ、また一つと灯り始める中、四人の影は静かに宿への帰路についた。


 三日後の勝負に向け、それぞれが胸の内で静かに闘志を燃やしていた。


 未知の勝負を前に、四人はそれぞれの覚悟を胸に、静かに歩みを進めていった。

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