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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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第32話 それぞれの情報収集

 朝食を終えたアキトたちは、女将に見送られながら、それぞれの持ち場へと散っていった。


「気をつけて行っといで。この街は見た目より広いからね、迷子にならないようにね」


「ミミ、迷子にならないのです! 鼻がいいから、道もちゃんと覚えるのです!」


「そりゃ頼もしいね」


 女将の笑い声を背に、四人はそれぞれの方向へと歩き出した。街に来てまだ二日目だというのに、既にそれぞれが果たすべき役割を自然に見出している様子に、アキトは密かに頼もしさを感じていた。



 リーゼロッテが向かったのは、街の中心部にある市場だった。朝の賑わいを見せる市場には、様々な露店が軒を連ね、行き交う人々の話し声で溢れている。


「すみません、少々お伺いしたいのですが」


 リーゼロッテは布地を売る老婆の露店に立ち寄り、世間話をするような自然な口調で切り出した。


「あら、あなた、この辺りの人じゃないね。旅の方かい」


「ええ、少し前にこの街に着いたばかりです。実は、この辺りに新しくできたという賭場について、噂を聞きたいのですが」


「ああ、あそこかい」


 老婆は途端に声を潜め、周囲を窺うような素振りを見せた。


「あんまり大きな声じゃ言えないけどね、あそこは領主様肝いりの施設なんだよ。表向きは税収のためって話だけど……」


「表向き、というと?」


「実はね、あそこの運営を任されてる商会が、ちょっと胡散臭いって専らの噂なのさ。負けが込んだ客に、法外な利子で金を貸し付けてるって話も聞くよ」


 リーゼロッテの眉間に、僅かに皺が寄った。かつて自身がディーラーとして働いていたフォルトゥーナとは、明らかに異なる不穏な気配が漂っている。


「それは、穏やかではありませんね」


「まあ、あくまで噂話だからね。あたしも詳しいことは知らないよ。ただ、あそこに関わって身を持ち崩した人が、この街にも何人かいるって話は本当さ」


「貴重な情報、ありがとうございます」


 リーゼロッテは礼を述べ、次の露店へと歩を進めた。長年カジノの実務を取り仕切ってきた彼女にとって、こうした街の声を丹念に拾い集める作業は、決して不慣れなものではなかった。むしろ、細やかな情報の断片を繋ぎ合わせ、全体の構図を読み解くことにこそ、彼女の真骨頂があった。他の商人たちからも、似たような話をいくつか聞くことができた。賭場の運営元は『黄金杯商会』という名の組織で、この地方一帯に広く商圏を持つ有力な商人団体らしい。表向きは公正な経営を謳っているが、裏では阿漕な手口で客から搾り取っているという噂は、街のあちこちで囁かれていた。


(アキトに報告する前に、もう少し詳しく調べておいた方が良さそうですね)


 リーゼロッテは市場の奥、両替商が集まる一角へと足を向けた。そこで出会った初老の両替商は、他の商人たちよりもさらに踏み込んだ話を聞かせてくれた。


「黄金杯商会、ねえ。……お嬢さん、あんまり首を突っ込まない方がいいと思うよ」


「何か、ご存知なのですか」


「詳しくは言えないがね。あそこの賭場で大負けした挙句、家屋敷を担保に借金を重ねて、最後には行方知れずになった商人を、あたしゃ何人も見てきたのさ。表向きは合法な貸付だが、実態はかなりえげつないって噂だ」


「行方知れず、ですか……」


 リーゼロッテの声が、思わず低くなる。単なる阿漕な商売という次元を超えた、何か不穏な影がその言葉の奥に潜んでいるように感じられた。


「ま、あくまで噂話だからね。真偽のほどは分からないよ。ただ、賢い人間なら、あそこの賭場には近づかないもんさ」


「重ね重ね、ありがとうございます」


 両替商に礼を告げ、リーゼロッテは市場を後にした。頭の中では、これから報告すべき情報を、冷静に整理していく。かつてカジノ運営の実務を一手に担っていた彼女にとって、こうした裏の事情を読み解く作業は、決して不慣れなものではなかった。



 一方、シルヴィアが向かったのは、街の警備を担う衛兵詰所だった。元聖騎士団長という肩書は既に失われたが、剣を扱う者特有の立ち居振る舞いは、衛兵たちの目にも一目で分かるものだったらしい。


「失礼する。少々お聞きしたいことがあるのだが」


「おや、あなたも旅の剣士さんかい。何を知りたいんだ?」


 詰所の前に立っていた初老の衛兵は、意外にも気さくにシルヴィアの問いに応じてくれた。


「この街を治める領主殿について伺いたい。近く新設されたという賭場についても」


「領主様のことかい。……まあ、悪い方じゃないさ。ただ、最近は商会の連中の言いなりになってるって噂もあってね」


「商会、というと?」


「『黄金杯商会』さ。数年前からこの地方で急速に力をつけてきた連中でね。今じゃ領主様への献金額も相当なもんらしい。そのおかげで、あの賭場も特別な許可を得て運営されてるって話だ」


 シルヴィアは静かに眉をひそめた。かつて自身が対峙したバルザスの構図と、どこか重なるものを感じずにはいられなかった。権力と癒着した金の力が、街の秩序を静かに蝕んでいく――そんな不穏な予感が、胸の奥で疼く。


「その商会について、詳しく知る手立てはあるだろうか」


「うーん、詳しいことはあたしらもよく分からんが……。街の南にある商業ギルドに行けば、もう少し具体的な話が聞けるかもしれんな」


「感謝する」


 シルヴィアは丁寧に礼を述べると、教えられた商業ギルドへと足を向けた。剣を握る手には、いつしか自然と力がこもっていた。往来を行き交う人々の顔ぶれを観察しながら、彼女はこの街全体に漂う、どこか落ち着かない空気を感じ取っていた。


 商業ギルドの受付では、年若い女性職員が、シルヴィアの質問に困惑した様子を見せた。


「黄金杯商会について、ですか……。あの、失礼ですが、どういったご用件で?」


「旅の者だが、この街に関わる前に、事情を知っておきたいと思ってな。何か懸念すべきことがあれば、教えていただきたい」


 女性職員はしばし躊躇う素振りを見せた後、声を潜めて答えた。


「正式な記録上は、何の問題もない商会です。ですが……ここだけの話、最近、商会と取引のあった中小の商人が、次々と店を畳んでいるという噂があります」


「それは、商会の圧力によるものだと?」


「断定はできません。ですが、時期が重なりすぎているのは、確かに気になるところです」


 シルヴィアは静かに礼を述べ、ギルドを後にした。歩きながら、彼女の脳裏には、かつて対峙したバルザスの記憶が鮮明に蘇っていた。権力と金の力で弱者を踏みにじる者に対する、抑えきれない怒りにも似た感情が、静かに胸の奥で燃え始めていた。


(この街にも、同じような闇が広がっているというのなら……)


 剣士としての矜持が、シルヴィアの背筋を自然と伸ばさせていた。



 ミミは街の路地裏を、鼻を頼りに歩き回っていた。獣人特有の鋭い嗅覚は、こうした情報収集の場面でも、意外な力を発揮する。


「んー、この辺り、なんだか変な匂いがするのです」


 ミミが足を止めたのは、街外れにある古びた倉庫街の一角だった。表向きは何の変哲もない倉庫だが、その周辺だけ、やけに人の出入りが多いことにミミは気づいていた。


(緊張してる人の匂い……。それに、お酒と、汗と……嘘をついてる時の匂いも、ちょっとするのです)


 ミミの野生の勘は、この場所に何かしらの不穏な気配が漂っていることを、はっきりと感じ取っていた。物陰に隠れながら、しばらく様子を窺っていると、倉庫の裏口から数人の男たちが、大きな木箱を運び出しているのが見えた。


「おい、急げよ。あんまり目立つ真似すんな」


「わかってるって。……にしても、こんな真似、いつまで続けりゃいいんだかな」


「文句言うな。商会の旦那に睨まれたら、俺たちみたいな下っ端はひとたまりもねえぞ」


 その低く抑えた会話の中に、ミミは仕事への不満と、それを上回る恐れの気配を感じ取っていた。人を従わせる術に長けた組織というのは、末端の人間にまでこうした空気を植え付けるものなのだと、幼いながらもミミは肌で理解していた。


 その会話の断片を耳に挟み、ミミは小さく息を呑んだ。何やら、単なる噂話以上の、生々しい気配がその場に漂っている。


(これ、ご主人様に教えなきゃなのです)


 もう少し詳しく探ろうと、ミミは倉庫の裏手にそっと回り込んだ。積み上げられた木箱の隙間から漂う匂いを、鼻をひくつかせながら慎重に確かめる。


(お酒の匂いじゃない……。これ、何かの薬草の匂い、なのです。それも、あんまり良くない使われ方をしてそうな匂い……)


 ミミの獣人特有の嗅覚は、ただの荷物運びとは思えない、どこか不穏な気配を確かに嗅ぎ取っていた。もう少し近づこうとしたその時、背後から突然、野太い声が響いた。


「――おい、そこで何してる?」


 振り返ると、大柄な男が険しい顔でミミを見下ろしていた。倉庫の見張りをしていたらしい。


「ひゃ……! な、なんでもないのです! ちょっと道に迷っただけなのです!」


「道に迷った、ねえ。……随分と可愛らしい迷子だな」


 男は疑わしげにミミをじろじろと眺めた後、ふんと鼻を鳴らした。


「まあいい。さっさとどっか行きな。ここは子供の来る場所じゃねえ」


「は、はいなのです! すみませんでした!」


 ミミは慌ててその場を後にし、小走りに宿への帰路を急いだ。心臓がまだドキドキと高鳴っている。だが同時に、確かな手応えも感じていた。あの倉庫には、間違いなく何かしらの後ろ暗い秘密が隠されている。その直感だけは、確信を持って言えることだった。



 夕刻、四人は再び『黒猫亭』の食堂に集まり、それぞれの成果を報告し合った。


「――というわけで、この街の賭場は『黄金杯商会』という組織が運営していて、負けた客に法外な利子で金を貸し付けているという噂があります」


 リーゼロッテの報告に、アキトは腕を組みながら耳を傾けた。


「なるほどな。領主とも癒着してるって話か」


 アキトは腕を組みながら、これまでに経験してきた数々の勝負を思い返していた。金と権力が結びついた組織との対峙は、決して初めてのことではない。それでも、新たな脅威を前にした緊張感は、何度経験しても薄れることはなかった。


「はい。シルヴィア殿の調べでも、同様の話が出ています。商会が多額の献金をすることで、賭場の運営許可や、その他様々な便宜を図ってもらっている、と」


「おいおい、どっかで聞いたような構図だな」


 アキトは苦笑しながら呟いた。バルザスとの一件を思い出させるような話に、どこか既視感を覚えずにはいられなかった。


「ミミも報告があるのです!」


 ミミが元気よく手を挙げると、先ほど倉庫街で見聞きした光景を、身振り手振りを交えながら説明した。


「――というわけで、怪しい木箱を運んでる人たちがいたのです。何か、後ろめたいことをしてる匂いがしたのです」


 その報告に、アキトの表情が僅かに引き締まった。


「木箱、ねえ。……密輸か、それとも別の何かか」


「詳細はまだ分かりませんが、少なくとも、この街には何かしらの闇がありそうですね」


 リーゼロッテの言葉に、シルヴィアも頷いた。


「正義感だけで首を突っ込むのは、賢明ではないかもしれません。ですが……」


「ですが、放っておくのも、俺たちの性分じゃねえよな」


 アキトはニヤリと笑いながら、テーブルに身を乗り出した。


「せっかく新天地に来たんだ。まずはその『黄金杯商会』とやらの賭場に、正々堂々、勝負を挑んでやろうじゃねえか」


 その言葉に、リーゼロッテが慎重な表情で口を挟んだ。


「アキト、逸る気持ちは分かりますが、相手はバルザス様の一件よりも、さらに規模の大きい組織かもしれません。領主との癒着まで噂されているとなれば、正面から喧嘩を売るのは、いささか危険が過ぎるのではないでしょうか」


「分かってるよ、そこは慎重にやる。だが、まずは敵情視察がてら、実際にあの賭場に足を運んでみるのが手っ取り早いだろ」


「敵情視察、ですか」


「ああ。噂だけじゃ、実態は掴めねえ。実際にこの目で見て、どんな連中が運営してて、どんな客層が集まってるのか。それを確かめてから、次の一手を考えりゃいい」


 シルヴィアが腕を組みながら頷いた。


「一理あります。それに、あの倉庫の件も気になります。ミミが見た薬草のようなものが、もし違法な代物だとすれば、見過ごすわけにはいきません」


「そうだな。だが、いきなり首を突っ込んで返り討ちに遭っちゃ本末転倒だ。まずは情報収集を続けつつ、慎重に距離を詰めていく」


 アキトはそう言うと、懐から一枚の銅貨を取り出し、指先で軽く弾いた。


「なあに、心配すんな。相手がどんなにでかい組織だろうと、俺たちのやり方は変わらねえよ。頭を使って、隙を突いて、最後は勝負でケリをつける。それだけの話だ」


 その自信に満ちた言葉に、三人の仲間たちは、それぞれの表情で応じた。呆れながらも信頼を滲ませるリーゼロッテ、剣の柄に手を添え覚悟を決めるシルヴィア、そして無邪気に瞳を輝かせるミミ。


「ご主人様、また新しい冒険なのです! ミミ、ワクワクするのです!」


「おいおい、緊張感ねえなお前は」


「だって、ご主人様がいれば、きっと大丈夫なのです!」


 その無邪気な信頼に、アキトは思わず苦笑した。全財産を失い、追われる身となったこの旅の果てに、それでも仲間たちの信頼だけは、些かも揺らいでいない。それこそが、何よりの財産なのかもしれないと、アキトは密かに思った。


「よし、明日から本格的に動くぞ。まずは実際に賭場を覗いてみることから始めよう」


「承知しました」


「異存ありません」


「はいなのです!」


 小さな酒場のテーブルを囲む四人の間に、新たな勝負への予感が、静かに、しかし確かに満ちていくのだった。窓の外では、夕暮れの街並みが、次第に夜の帳に包まれ始めていた。この見知らぬ街での新たな戦いが、明日から静かに幕を開けようとしていた。


 アキトは懐の銅貨を握りしめながら、静かに闘志を燃やしていた。この街で新たに築き上げる何かが、これから始まろうとしている予感を、確かに感じ取っていた。


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