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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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第21話 異世界最大の競馬レース『天馬杯』

「アキト様、天馬杯についての情報が集まりました」


 翌朝、リーゼロッテが分厚い資料の束を抱えて執務室に現れた。その顔には、いつになく興奮の色が滲んでいた。徹夜で調べ上げたのだろう、目の下にはうっすらと隈も見える。それでも、その表情には疲れよりも高揚感の方が色濃く出ていた。


「へえ、随分と気合入ってるじゃねえか」


「調べれば調べるほど、規模の大きさに驚かされましたので」


 リーゼロッテは資料を机に広げながら、説明を始めた。


「天馬杯は、この大陸の主要国が合同で開催する、年に一度の国家級の祭典です。競走馬ならぬ、翼を持つペガサスたちが、大空を駆けて競い合う――そういうレースです」


「ペガサスが空を飛んで競走、ね。そりゃまた派手な話だ」


「観客動員数だけでも、この街の人口を遥かに上回るとか。各国の貴族や大商人はもちろん、一般庶民までもが、こぞって観戦に訪れるそうです」


 リーゼロッテは資料の一ページを指し示した。そこには、色鮮やかな翼を広げたペガサスの挿絵と、これまでの優勝記録が記されていた。金色や銀色に輝く翼を持つ美しい生き物たちが、大空を疾走する様子が、精緻な筆致で描かれている。


「賭け金の規模も、他のどんな賭博とは比較になりません。国家予算に匹敵するほどの金額が、一日で動くとも言われています」


 俺は思わず身を乗り出して、その挿絵に見入った。前世でも今世でも、これほど大規模な賭博の祭典には、お目にかかったことがない。想像するだけで、腹の奥がざわつくような高揚感が湧き上がってきた。


「レースの形式は、どうなってるんだ」


「距離は空路にして約三十キロ、複数の障害物や気流の変化を織り込んだ、高難度のコースだそうです。速さだけでなく、騎手とペガサスの信頼関係、そして風を読む技術も勝敗を分ける重要な要素とのことです」


「ただの速さ比べじゃねえってわけか。面白そうじゃねえか」


 俺は資料に描かれたコース図を、興味深げに眺めた。山を越え、渓谷を抜け、最後は競技場の上空を旋回してゴールする――そんな壮大なコース取りが、細やかに描き込まれていた。



     *



「国家予算に匹敵、か」


 俺は思わず唸った。フォルトゥーナでの大勝負も、バルザスとの命懸けの死闘も、確かに大きな金額が動いた。だが、国家予算という規模の話になると、これまでとは桁が違いすぎる。


「開催時期は?」


「来月です。会場は、この街からさほど遠くない、隣の都市の外れにある大競技場とのことです」


「近いじゃねえか」


「ええ、幸いにも」


 リーゼロッテは資料をさらにめくりながら続けた。


「競技場の収容人数は、十万人を超えるとか。会場周辺には、レースに合わせて大規模な市場も立つそうで、街全体が一種の祭りのような賑わいを見せるようです」


「十万人、ね。想像もつかねえ規模だな」


 前世の記憶にある、大都市の巨大スタジアムを思い出しながら、俺はその光景を思い浮かべようとした。だが、ペガサスが空を飛ぶという要素が加わると、想像力だけではとても追いつかない。


「宿泊施設の予約も、既に埋まり始めているそうです。早めに手配しなければ、当日近くになってから慌てることになりかねません」


「そこは任せるぜ」


「承知しました。既に候補は絞り込んでおります」


 リーゼロッテの仕事の速さには、いつも驚かされる。この様子だと、旅程の手配も、あっという間に完璧に整えてくれることだろう。


 俺は資料をめくりながら、興味深げに目を通していった。レースの詳細ルール、出走するペガサスたちの血統、これまでの優勝馬の記録――全てが、俺の好奇心を刺激してやまなかった。


「なあ、リーゼロッテ。今年の本命は、誰なんだ」


「資料によれば、『黄金の疾風』と呼ばれる若いペガサスが、圧倒的な下馬評を得ているようです。これまでの前哨戦全てで、他を寄せ付けない圧勝を続けているとか」


「圧倒的な本命、ね」


 俺は資料に描かれた『黄金の疾風』の挿絵を見つめた。金色に輝く鬣と、力強く広げられた純白の翼。見るからに、勝利を約束されたような堂々たる姿だった。


「騎手は、隣国の名門貴族出身の若者だそうです。幼い頃から英才教育を受け、既に数々の栄冠を手にしているとか」


「随分と、絵に描いたような優等生コンビだな」


「ええ。今年は、彼の圧勝で決まりだろうという見方が、大方の一致した意見のようです」


 俺は顎を撫でながら考えた。


「そういう時こそ、大穴を狙う楽しみがあるってもんだ」


「アキト様、まさかとは思いますが」


 リーゼロッテが、警戒するような目でこちらを見た。


「なんだよ、その目は」


「妙な胸騒ぎがします。あなたが、無謀な大勝負に出ようとしている時特有の目をしていますので」


「気のせいだろ」


 俺は軽く笑い飛ばしたが、内心では、既に想像を膨らませ始めていた。国家予算規模の賭け金が動く、大陸最大のレース。そこに、自分のチップを、いや、全財産を投じたら、一体どれほどのスリルを味わえるだろうか。


 リーゼロッテは、資料をまとめながら、なおも懸念を口にした。


「アキト様、念のため申し上げておきますが、このカジノの経営も、まだ完全に軌道に乗ったとは言えません。無謀な賭けで、これまで積み上げてきたものを失うようなことだけは、絶対に避けていただきたいのです」


「分かってるさ。今はまだ、情報を集めてる段階だろ」


「今は、ですね」


 リーゼロッテの声には、微かな不安が滲んでいた。この女の勘の良さは、フォルトゥーナ時代から折り紙付きだ。俺の中に芽生えつつある、危険な予感を、既に感じ取っているのかもしれない。


「大丈夫だって。俺はそこまで無謀じゃねえよ」


「その言葉、後で撤回しないことを祈っています」


 リーゼロッテは半信半疑といった様子で、資料を丁寧に片付け始めた。その仕草には、長年の付き合いだからこそ分かる、俺への深い理解と、それゆえの心配が滲んでいた。



     *



 その日の夕方、俺はミミとシルヴィアにも、天馬杯の話を伝えた。


「天馬杯! ミミ、聞いたことあります! ペガサスさんたちが、キラキラ光りながら空を飛ぶんですよね!」


「随分と詳しいな」


「故郷の村でも、噂に聞いたことがあるんです。実物を見たことはないですけど……」


 ミミは目を輝かせながら、興奮気味に話した。その耳と尻尾が、抑えきれない興奮を表すように、忙しなく揺れている。


「一度でいいから、生で見てみたいって、ずっと思ってました! ご主人様、本当に連れて行ってくれるんですか?」


「ああ、もちろんだ」


「やったー!」


 ミミは飛び跳ねるようにして喜んだ。この子の素直な喜びようを見ていると、俺の中に芽生えつつある危険な渇望も、少しだけ和らぐような気がした。


「私も、噂程度には聞いたことがある。国家間の外交にも影響を与えるほどの、大規模な催しだそうだな」


 シルヴィアも興味深げに頷いた。腕を組み、資料に目を通しながら、真剣な表情を浮かべている。


「聖騎士団としても、隣国での大規模な催しの動向は、無視できない情報だ。正直なところ、私自身も一度は実際に見ておきたいと思っていた」


「行くのか、アキト」


「ああ、行くつもりだ」


「なら、私も同行しよう。あれだけの規模の催しとなれば、治安上の懸念も少なくないだろう。それに――」


 シルヴィアは少し言い淀んでから、続けた。


「貴殿一人で行かせるのは、なんとなく不安でな」


「おいおい、俺はそんなに頼りねえか」


「そうは言っていない。ただ、貴殿は時々、突拍子もないことをしでかす節があるからな」


 シルヴィアの指摘に、俺は思わず苦笑した。この生真面目な聖騎士団長の目にも、俺の危うさは既に見透かされているらしい。


「ありがたいね。頼りにしてるぜ」


 シルヴィアは満足げに頷くと、資料をもう一度手に取り、真剣な眼差しでページをめくり始めた。


「それにしても、これほどの規模の催しとなると、警備計画も一筋縄ではいかなそうだ。隣国の騎士団とも、事前に連携を取っておく必要があるかもしれん」


「随分と気合の入りようだな」


「当然だ。私は聖騎士団の団長として、貴殿らの安全を守る責任がある。それに――」


 シルヴィアは少し照れくさそうに視線を逸らした。


「純粋に、ペガサスが空を飛ぶ姿を、この目で見てみたいという気持ちも、ないわけではない」


「素直じゃねえか」


「う、うるさい! 別に、大した意味はないぞ!」


 シルヴィアは慌てて否定したが、その頬は微かに赤らんでいた。この生真面目な団長の、こういう可愛らしい一面を見るのは、いつも新鮮な驚きだった。


 こうして、俺たちは天馬杯観戦へと向かう準備を、少しずつ進めていくことになった。ミミは今から何を着ていくか悩み始め、シルヴィアは団に休暇の申請を出す算段を立て始めていた。リーゼロッテは、引き続き詳細な情報収集と、旅程の手配に奔走してくれていた。


 だが、この時の俺は、まだ気づいていなかった。この胸に灯った刺激への渇望が、やがてどれほど大きな代償を伴うことになるのかを。


 夜、俺は一人、部屋で資料を読み返しながら、静かに考えを巡らせていた。


(本命に賭けるか、大穴に賭けるか……)


 資料に記された『黄金の疾風』という名前を、俺は何度も指でなぞった。三戦全勝、圧倒的な強さを誇る若きペガサス。その安定した強さに賭けるのが、堅実な選択であることは分かっている。


 だが、俺という博徒の血が、そんな堅実さに満足できるはずもなかった。


 資料の隅には、これまでの優勝馬たちの配当記録も記されていた。大本命が勝った年の配当は、驚くほど小さい。一方で、過去に一度だけ、無名の老いた馬が奇跡的な大逆転を果たした年があったらしく、その時の配当は目を疑うほどの数字だった。


(これだ……)


 俺の心臓が、静かに、しかし確かに高鳴り始めた。堅実に儲けるだけなら、これまでの日々で十分すぎるほど経験してきた。だが、あの数字を見た瞬間、腹の奥に眠っていた博打打ちとしての本能が、はっきりと目を覚ました気がした。


 前世でも、似たような瞬間が何度かあった。誰もが見向きもしない大穴に、なぜか強烈に惹きつけられる瞬間。理屈では説明できない、博徒としての直感とでも言うべきものだ。その直感が、今まさに、俺の中で強く疼いていた。


 もちろん、リスクは承知している。大穴に賭けるということは、それだけ外れる可能性も高いということだ。だが、そのリスクこそが、俺という人間を突き動かす原動力でもあった。


 その選択が、これから先の運命を大きく左右することになるとは、この時の俺には、まだ想像もつかなかった。窓の外の二つの月を見上げながら、俺はただ純粋に、次なる大勝負への期待に胸を膨らませていた。


 資料を閉じ、俺はベッドに横たわった。天井を見つめながら、頭の中では既に、様々な賭け方のシミュレーションが渦を巻いていた。全財産を投じるべきか、それとも一部に留めるべきか――そんな考えが、次第に俺の理性を侵食し始めていることに、この時の俺は、まだ気づいていなかった。


 窓の外から、涼しい夜風が吹き込んできた。カーテンが微かに揺れる音だけが、静かな部屋に響いていた。


 思えば、この街に来てからというもの、俺は数々の勝負を経験してきた。路地裏のチンチロリンから始まり、フォルトゥーナでのリーゼロッテとの死闘、バルザスとの命懸けのロシアンルーレット、そしてガレオンとのあっさりとした一戦。どれも、それぞれに違った種類の刺激と興奮を与えてくれた。


 だが、天馬杯という未知の大舞台は、それら全てとは、また異なる種類の魅力を放っていた。国家規模の賭け金、十万人の観客、そして空を駆けるペガサスたちの美しい競演。この全てが混ざり合った先に、一体どんな勝負が待っているのか。


 考えれば考えるほど、俺の胸の高鳴りは収まらなかった。眠りにつく寸前まで、俺の頭の中は、来るべき大レースへの期待で満たされ続けていた。


 隣の部屋からは、ミミが着ていく服について、リーゼロッテに相談している声が微かに聞こえてきた。「これも可愛いですけど、こっちの方が動きやすそうです」という無邪気な声に、俺は思わず口元を緩めた。


 仲間たちと共に向かう、初めての遠出。それ自体が、既に一つの楽しいイベントだった。だが、俺の胸の奥では、それとは別の種類の熱――勝負への渇望が、静かに、しかし確実に燃え上がり続けていた。


 この二つの感情が、やがてどのように交わり、どんな結末を迎えることになるのか。眠りに落ちる寸前の意識の中で、俺はぼんやりと、そんなことを考えていた。


 窓の外では、二つの月が、いつものように静かに輝いていた。この穏やかな夜の先に、どんな運命が待ち受けているのか。それを知るのは、まだもう少し先のことだった。俺はゆっくりと瞼を閉じ、深い眠りへと落ちていった。


 異世界に来てから積み重ねてきた日々の中で、今夜ほど、次の勝負への期待に胸を膨らませた夜はなかったかもしれない。天馬杯という未知の大舞台が、俺という博徒の人生に、どんな新しい一頁を刻むことになるのか。まだ誰も知らない、その答えを求めて、俺の物語は静かに、次の章へと進んでいく。仲間たちと共に迎える、初めての大舞台への旅路が、もうすぐそこまで迫っていた。俺たちの異世界ギャンブルライフは、ここからさらに大きく、そして激しく動き出そうとしていた。次の舞台の幕開けは、もうすぐそこまで、静かに、しかし確実に、そしてまた着実に迫っていたのだった。


 夜、俺は一人、部屋で資料を読み返しながら、静かに考えを巡らせていた。


(本命に賭けるか、大穴に賭けるか……)


 その選択が、これから先の運命を大きく左右することになるとは、この時の俺には、まだ想像もつかなかった。窓の外の二つの月を見上げながら、俺はただ純粋に、次なる大勝負への期待に胸を膨らませていた。

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