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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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第20話 サクッとチートで返り討ち

 十日後、噂の天才ギャンブラーは、予告通りにやってきた。


 カジノのフロアに、明らかに異国の装いをした男が姿を現した瞬間、店内の空気がわずかに緊張した。客たちの間にも、ざわめきが広がっていく。誰もが、この日を待ちわびていたかのようだった。


 長身痩躯、彫りの深い顔立ちに、隙のない立ち姿。仕立ての良い外套を纏い、指先には数個の指輪が控えめに光っている。バルザスの成金趣味とは違う、洗練された佇まいだった。歩くたびに、周囲の視線を自然と引き寄せる、そんな独特の存在感を纏っていた。


「ここが噂のカジノか。なるほど、悪くない内装だ」


 男は周囲を見回しながら、満足げに頷いた。フロア全体を一瞥するその視線には、単なる観光気分ではない、値踏みするような鋭さがあった。


 フロアで働いていたミミが、慌てて出迎えに向かおうとしたが、その足取りには明らかな緊張があった。この獣人特有の勘の鋭さが、目の前の男の只者ではない気配を敏感に察知しているのだろう。


「あんたが、ガレオン・ヴァルシュタインか」


 俺が声をかけると、男はゆっくりとこちらを振り返った。


「いかにも。貴殿がこの店のオーナー、アキト殿だな。噂は聞き及んでいる。悪徳貴族を打ち負かした、規格外の博徒だと」


「過大評価だよ」


「謙遜は結構。私はただ、貴殿の実力を、この目で確かめに来た」


 ガレオンは不敵な笑みを浮かべながら、懐から一組のカードを取り出した。指先で軽くシャッフルするその動きだけでも、只者ではないことが伝わってくる。


「勝負を所望する。私が挑んだ相手には、必ず一つのルールを課している。相手が最も自信のあるゲームで、正々堂々と戦う――それが、私の流儀だ」


「随分と紳士的なルールじゃねえか」


「相手の得意分野で勝ってこそ、真の実力が証明されるというものだ。搦手で勝った勝利など、私にとっては価値がない」


 その言葉には、長年勝負の世界を渡り歩いてきた者だけが持つ、確かな矜持が滲んでいた。俺はその姿勢に、素直に好感を抱いた。バルザスのような、卑劣な手段で勝ちを拾おうとする輩とは、根本的に格が違う。


「悪くない考え方だな。俺も嫌いじゃねえよ、そういうの」


「気に入ってもらえたなら幸いだ」


 ガレオンは薄く笑うと、俺の返事を待たずに続けた。


「じゃあ、ポーカーでいいか」


「望むところだ」



     *



 二番卓――かつてリーゼロッテが座っていた、あの卓に、俺とガレオンは向かい合った。


 周囲には、既に噂を聞きつけた客たちが集まり始めていた。「天才ギャンブラー」対「悪徳貴族を倒した博徒」という組み合わせに、誰もが興味津々といった様子だった。フロアの隅では、リーゼロッテが静かに腕を組んで見守っている。ミミも接客の合間を縫って、心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。


「では、始めるとしよう」


 ガレオンがカードを配り始めた。その手つきは、リーゼロッテにも劣らぬほど滑らかで、無駄がなかった。指先の動き一つ一つに、長年の経験が滲み出ている。


(さすがだな、これは)


 俺は内心で舌を巻いた。三百戦三百勝という戦績は、伊達ではないらしい。この男が、これまで数多の博徒たちを打ち負かしてきたであろうことが、たった数手の所作から伝わってくる。だが――


 俺はゆっくりと、手札を確認した。ツーペア。悪くない手だ。


 ガレオンが、静かにベットを仕掛けてきた。その額は、初手にしては大きい。相手の出方を早々に見極めようという狙いだろう。噂通り、駆け引きの主導権を早い段階で握ろうとする戦法らしい。


(さて、どう料理してやろうか)


 俺は密かに、【絶対因果】を発動させた。狙いは、次に配られるカードの質を、ほんの少しだけ底上げすること。バルザスとの死闘で使った規模に比べれば、これは実に些細な操作だ。魔力の消費も、ごく僅かで済む。


 俺は静かにベットを受けた。


 勝負が進むにつれ、ガレオンの巧みな話術が、卓上に降り注いでくるようになった。


「アキト殿、その落ち着き払った態度、大したものだ。多くの若い博徒は、私を前にすると、途端に呼吸が浅くなるものなのだが」


「褒めてんのか、それとも探りを入れてんのか」


「両方、と言っておこうか」


 ガレオンは薄く笑いながら、そう答えた。この手の心理的な揺さぶりも、この男の得意技の一つなのだろう。会話を通じて相手の反応を観察し、僅かな綻びを見逃さない。前世でも似たようなタイプの博打打ちに遭遇したことがあるが、ここまで洗練された手口は、そう多くはなかった。


 だが、俺の側にも、既に静かな確信があった。この程度の揺さぶりは、フォルトゥーナでのリーゼロッテとの死闘に比べれば、まだまだ生ぬるい。あの完璧な仮面の女との攻防を経験した今、大抵の相手の手筋は、驚くほど読みやすく感じられた。


 数手が経過するうちに、俺のチップは着実に積み上がっていった。ガレオンの表情にも、次第に困惑の色が滲み始めていた。



     *



「――なるほど。これは、驚いた」


 三十分後、ガレオンは苦笑を浮かべながら、そう呟いた。


 卓上に積まれたチップの大半は、既に俺の側に移動していた。ガレオンの得意とする心理戦、駆け引き、あらゆる技術は確かに一流だった。会話の端々に相手の情報を探る巧みな話術、視線の動きを利用した揺さぶり、絶妙なタイミングでのレイズ――どれを取っても、これまで俺が相手取ってきた中でも屈指の実力者だった。だが、俺のチートによる「僅かな底上げ」の前には、その技術差を覆すには至らなかった。


「貴殿の強さの秘密が、少し分かった気がする」


「秘密?」


「いや、なんでもない。私の思い違いかもしれん」


 ガレオンは何かを察したような表情を浮かべたが、それ以上は追及してこなかった。プロの博徒として、確証のないことを口にする愚を犯すつもりはないのだろう。その慎重さもまた、この男が長年勝ち続けてきた理由の一つなのかもしれない。


「今日のところは、私の負けだ。見事だった、アキト殿」


 ガレオンは潔く頭を下げると、静かに席を立った。その所作には、負けを認めてなお崩れない、確かな品格が滲んでいた。


「三百戦三百勝の記録、ここで途切れることになるとはな」


「悪いな」


「いや、むしろ清々しい。あまりに勝ち続けると、勝負というもの自体に飽きが来る。貴殿のような存在に出会えたことを、素直に嬉しく思う」


 ガレオンは懐から一枚の名刺のようなものを取り出し、俺に差し出した。


「もし、また私と勝負をしたくなったら、これを頼りに連絡をくれ。次にお会いする時は、もう少し骨のある勝負ができるよう、精進しておこう」


「ああ、楽しみにしとくよ」


 俺はその名刺を受け取りながら、素直にそう答えた。この男との縁は、これで終わりではないような、そんな予感があった。


 ガレオンはそう言い残すと、フロアの喧騒の中へと去っていった。周囲の観客たちからは、どよめきと拍手が起こった。噂の天才ギャンブラーを、たった一戦で下してしまったという事実が、また新たな伝説として街中に広まっていくのだろう。


 リーゼロッテが、静かに俺の傍へと歩み寄ってきた。


「見事な勝利でした、アキト様」


「まあな。思ったより呆気なかったけどよ」


「贅沢な悩みですね」


 リーゼロッテは小さく苦笑した。周囲の観客たちが興奮気味に拍手を送る中、俺はどこか釈然としない気持ちを抱えたまま、笑顔で応えていた。


 ミミが興奮した様子で駆け寄ってきた。


「ご主人様、すごいです! あの噂の天才ギャンブラーに勝っちゃうなんて!」


「まあな。ミミも見てたのか」


「はい! ずっと固唾を呑んで見守ってました!」


 ミミの素直な喜びように、俺は少しだけ気持ちが軽くなった気がした。この子の無邪気な反応を見ていると、複雑な感情も、いつの間にか和らいでいくから不思議だ。



     *



 その夜、俺は自室で一人、天井を見上げていた。


 勝った。それも、思いのほかあっさりと。


(なんか、拍子抜けだな……)


 三百戦三百勝という肩書きに、正直なところ、俺はもっと骨のある勝負を期待していた。だが、蓋を開けてみれば、チートを軽く使うだけで決着がついてしまった。もちろん、ガレオンの実力自体は本物だった。だが、それでも、あのバルザスとの死闘のような、命を削る緊張感には遠く及ばなかった。


 思い返せば、バルザスとの戦いでは、負ければミミの命が危険に晒され、俺自身の命すらも危うい状況だった。あの時感じた、心臓が縮み上がるような極限の緊張感。あれこそが、俺という博徒が本当に求めているものなのかもしれない。


 今日の勝負は、確かに実力者相手のスリリングな駆け引きではあった。だが、命を賭けているわけでもなければ、大切な誰かの運命がかかっているわけでもない。ただの「勝負のための勝負」に過ぎなかった。


 俺は懐からサイコロを取り出し、指先で弄びながら、深いため息をついた。


「刺激が、足りねえ」


 ぽつりと呟いた言葉が、静かな部屋に溶けていく。


 勝つことが、当たり前になりつつある。チートとブラフを駆使すれば、大抵の勝負には勝てる。それは喜ばしいことのはずなのに、なぜか胸の奥に、満たされない何かが渦巻いていた。


 扉が控えめにノックされ、リーゼロッテが顔を出した。


「アキト様、まだ起きていらっしゃいましたか」


「ああ、ちょっと考え事をな」


「今日の勝負について、ですか」


「まあな」


 リーゼロッテは静かに部屋に入ってくると、俺の向かいの椅子に腰掛けた。


「贅沢な悩みだとは思いますが、お気持ちは分からなくもありません。あなたという人は、常に刺激を求める性分ですから」


「よく分かってるじゃねえか」


「これでも、あなたの相棒ですので」


 リーゼロッテは小さく微笑んだ。その表情には、俺の性分を熟知した上での、確かな理解が滲んでいた。


「経営も軌道に乗り、街の平和も取り戻された。悪いことばかりではないはずですが」


「分かってる。分かってるんだけどよ」


 俺は起き上がり、窓辺に歩み寄った。窓の外に浮かぶ二つの月を見上げながら、俺はぼんやりと考えた。


 もっとデカい、もっと刺激的な勝負はないものか。


「なあ、リーゼロッテ。この国で一番デカい勝負って、何かあるか」


「一番デカい、ですか……」


 リーゼロッテはしばらく考え込んでから、ふと何かを思い出したように顔を上げた。


「そういえば、年に一度、国家規模で開催される大レースがあると聞いたことがあります。『天馬杯』と呼ばれる、ペガサスたちが空を駆ける競技だとか」


「天馬杯、ね」


 俺は思わず口の端を吊り上げた。何か、面白そうな響きだった。


「詳しく聞かせてくれ」


「今は、詳細までは分かりかねます。ですが、調べておきましょう」


 リーゼロッテは少し考えるような表情を浮かべながら続けた。


「国家級の催しということは、それだけ規模の大きな賭け金が動く、ということでもあります。もし本当に興味がおありなら、慎重に情報を集めてからにしましょう」


「あんたのそういう慎重なところ、嫌いじゃねえよ」


「褒め言葉として受け取っておきます」


 リーゼロッテはそう言うと、静かに部屋を後にした。一人残された俺は、窓の外の夜空を見上げながら、静かに笑みを浮かべた。


 国家規模の大レース。想像するだけで、腹の奥がざわめくような高揚感が湧き上がってくる。ガレオンとの勝負では満たされなかった渇きが、この新しい情報によって、少しずつ形を持ち始めていた。


 俺はベッドに横たわりながら、天井を見上げた。バルザスとの死闘、そしてガレオンとのあっさりとした勝負。この街での日々は、確かに充実していた。だが、心のどこかで、まだ見ぬ大勝負への渇望が、静かに、しかし着実に育ち始めていた。


 これが、俺という博徒の性分なのだろう。前世でも今世でも、この飽くなき欲求だけは、決して変わることがない。どれだけ勝っても、どれだけ稼いでも、次の刺激を求めてしまう。それは、時に自分自身を追い詰める諸刃の剣でもあるのかもしれない。


 だが、今はまだ、そんな懸念よりも、純粋な期待の方が勝っていた。天馬杯という、聞いたこともない大レース。そこには、一体どんな勝負が待っているのだろうか。


 窓の外の二つの月を見つめながら、俺はゆっくりと目を閉じた。次なる大勝負への予感を胸に抱いたまま、深い眠りへと落ちていった。


 この夜、俺が抱いた小さな渇望が、街を、そして仲間たちとの関係を、どれほど大きく揺るがすことになるのか。まだ何も知らないまま、俺は穏やかな寝息を立て始めていた。


 隣の部屋では、リーゼロッテが天馬杯についての情報を集めるべく、夜遅くまで書類に目を通していた。ミミは既に眠りについており、その寝顔には、この街での日々を通して得られた安らぎが滲んでいた。シルヴィアも、いつものように街の見回りを終え、静かな夜を過ごしていることだろう。


 この街で築き上げてきた、かけがえのない日常。それを守りながら、次なる大勝負へと踏み出そうとしている自分自身に、俺はまだ、はっきりとした自覚を持っていなかった。


 二つの月が、静かに夜を照らし続けている。この穏やかな夜が、後にどれほど大きな嵐の前触れであったかを、俺はまだ知る由もない。ただ、腹の奥に灯った小さな炎だけが、確かに、静かに燃え続けていた。


 やがて訪れる天馬杯という大レースが、この街での日々にどんな変化をもたらすことになるのか。それは、まだ誰にも分からない、遠い未来の話だった。フロアの灯りが、静かに消えていく。異世界での、また一つの夜が終わろうとしていた。明日もまた、新しい一日が静かに始まる。この街での、俺たちの物語と共に。次の一手が、まだ静かに、この夜の向こうで、ひっそりと息を潜めながら待っていた。


 その時はまだ、俺は知らなかった。この小さな渇望が、やがて全財産を賭けた、取り返しのつかない大博打へと繋がっていくことを。

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