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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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第2話 神様、そのチートはセクハラに使います

 大通りを北へ向かって歩きながら、俺は懐に仕舞い込んだ稼ぎを指先で数えていた。銅貨三枚から始まった元手が、今ではそれなりの重みを持つ紙幣の束に化けている。上出来の滑り出しだ。だが、浮かれてばかりもいられない。


(そういや、俺はまだこのチートの本当の限界を知らねえんだよな)


 女神は「小さな確率操作なら消費は少ない」と言っていたが、具体的にどの程度が「小さい」のか、実際に試してみなければ分からない。フォルトゥーナに乗り込む前に、この力の勝手を掴んでおくべきだろう。ギャンブラーというのは、握った手札の中身も知らずに卓に着くような真似は絶対にしない。


 ちょうど良く、大通り沿いの露店が軒を連ねる一角に差し掛かった。夜だというのに人通りは多く、酒場の明かりと屋台の煙が入り混じって、なんとも賑やかな空気を醸し出している。異世界だろうがどこだろうが、夜遊びをする連中の熱気だけは変わらないらしい。


 俺はまず、手頃な実験台を探すことにした。目についたのは、屋台の主人が積み上げている果物の山だ。今にも一番上のリンゴらしき果実が転がり落ちそうになっている。


(――落ちろ)


 念じると同時に、リンゴがころりと転がり落ちた。落下地点は狙い通り、俺の掌の中。屋台の主人が「おっと」と声を上げるより早く、俺はそれをキャッチしてみせた。


「兄さん、器用だね。それ、買ってくかい」


「ああ、貰うわ」


 銅貨を一枚払いながら、俺は内心でほくそ笑んだ。この程度の些細な確率操作なら、消費する魔力はほとんど感じない。次はもう少し規模を上げてみるか。


 屋台の主人が背を向けた隙に、俺はもう一つ試してみることにした。今度は目に見える現象ではなく、「感覚」の方だ。隣の屋台で串焼き肉を売っている親父が、俺の方をちらりと見て「一本どうだい」と声をかけてくる確率を弄ってみる。数秒後、案の定、親父は声をかけてきた。


「兄さん、腹減ってないかい。焼きたてだよ」


「おう、貰おうか」


 こうして串焼きを頬張りながら、俺は検証を重ねていく。人間の些細な行動――誰かが声をかける、視線を向ける、道を譲る、そういった「ついうっかり」の類の事象は、驚くほど低コストで書き換えられるようだった。まるで、世界という巨大な確率の海に、ほんの小さな石を投げ入れるような感覚だ。波紋は広がるが、海そのものを揺るがすほどの力はいらない。


 通りの向こうから、酔っ払いが千鳥足で歩いてくるのが見えた。あのままいけば、道端に停めてある荷車にぶつかりそうな軌道だ。俺はその酔っ払いが荷車を「避ける確率」を弄ってやった。結果、酔っ払いはふらりと右へ逸れ、何事もなく通り過ぎていく。


(お、これも余裕だな。人間一人の行動軌道くらいなら、大した消費じゃねえらしい)


 だんだんと、この力の「感覚」が掴めてきた。物一つの動きを変える程度なら、ほぼコストなし。人間の些細な行動を後押しする程度でも、まだ余裕がある。おそらく、大きな消費が発生するのは、明確な意志や力を持つ相手の「結果」を強引にねじ曲げる場合――たとえば、戦闘中の魔法の成否や、他者の強い意志に反する事象を操るときなのだろう。


 試しに、もう少し規模の大きな検証もしておくことにした。屋台の隅に積まれた木箱の山が、今にも崩れそうなほど不安定に積まれている。あれが崩れれば、周囲にいる客に被害が及ぶかもしれない。俺は「木箱が崩れずに持ち堪える確率」を弄ってみた。すると、明らかに重心のずれていたはずの木箱が、まるで見えない手で支えられているかのようにピタリと静止した。


(お、これは意外と軽い消費だな。物理的な均衡を保つ方向への干渉は、コストが低いのか。逆に、既に崩れ始めているものを無理やり止めるとか、動いているものを完全に逆転させるとか、そういう強引な真似になると重くなるのかもしれねえ)


 頭の中に、少しずつ検証結果が蓄積されていく。これはこれで、なかなか楽しい作業だった。前世でイカサマの技術を磨いていた時のような、緻密な検証と試行錯誤の感覚が蘇ってくる。ギャンブラーとしての血が、こういう地道な下準備を決して嫌わないのだ。



     *



 実験を続けながら通りを進むうち、俺は一人の女に目を留めた。


 露店で果物を選んでいる、燃えるような赤毛を三つ編みにした女だ。年の頃は二十代半ばといったところか。旅装らしい軽装に身を包んでいるが、身体の線がはっきりと分かる仕立てで、なかなかに目の保養になる。屈み込んで果物を吟味する姿勢のせいで、スカートの裾がわずかに揺れていた。


(……いかんいかん。実験だ、実験)


 そう自分に言い聞かせながらも、俺の中の悪魔――もとい、生粋のギャンブラー魂が疼いた。ここまでの実験で、俺は「人間の些細な行動を後押しする」程度の操作が低コストであることを確認した。ならば、「風が吹く確率」を弄って、あの女のスカートを――いや待て、これは断じて下心などではない。あくまで、風という自然現象への干渉が、どの程度のコストになるのかを検証する、真摯な実験なのだ。


(自然現象への干渉。風が、彼女のスカートの裾を、ふわりと巻き上げる確率を――百パーセントに)


 言い訳を頭の中で並べ立てながら、俺はスキルを発動させた。


 次の瞬間、どこからともなく強い夜風が吹き抜けた。露店の垂れ幕がバサバサとはためき、屋台の紙くずが宙を舞う。そして、赤毛の女のスカートの裾が、見事なまでにひらりと持ち上がった。


「――きゃあっ!?」


 女は慌てて裾を押さえたが、時すでに遅し。周囲の男たちの視線が一斉に集まり、女は真っ赤な顔で立ち上がった。


(……よし、検証完了。この程度の自然現象への干渉も、消費は軽い。実に有意義なデータが取れたな)


 俺が満足げに頷いていると、女がキッと鋭い目でこちらを睨んできた。どうやら、周囲でニヤニヤしていた俺の顔が、一番怪しく映ったらしい。


「お前、今、何かしただろう!」


「いや、俺は何も――」


「風なんて、この時間に急に吹くはずがない! 絶対に何か仕込んだな!」


 図星を突かれて、俺は思わず視線を泳がせた。まずい。この女、勘が鋭い。


「な、なあ、落ち着けって。ただの偶然かもしれねえだろ」


「うるさい! とにかくお前を締め上げてやる!」


 女が腰の短剣に手を掛けた瞬間、俺は迷わず踵を返した。ギャンブラーの美学として、負け戦だと分かった勝負には固執しない。逃げるが勝ち、というやつだ。


「悪いな、姉さん! また今度な!」


「待てこの色ボケ野郎!」


 背後から罵声と共に足音が追いかけてくる。俺は夜の街を全力で駆け抜けた。路地から路地へと飛び込み、屋台の間を縫うように走る。角を曲がった瞬間、目の前に酔っ払いの一団が道を塞いでいるのが見えた。まずい、このままではぶつかる。


(――道が開く確率、百パーセント)


 咄嗟にスキルを発動すると、酔っ払いたちが揃って左右に千鳥足でよろめき、俺の通り道がぽっかりと空いた。すり抜けざまに「兄さん元気だねえ」などと呑気な声をかけられたが、構っている暇はない。


 さらに路地を抜けたところで、今度は洗濯物を干していた老婆の脇を駆け抜けることになった。乾いたシーツが視界を遮り、俺は反射的に「シーツが体に絡まない確率」を弄って事なきを得た。我ながら、実にくだらない用途にチートを連発している自覚はある。だが、背に腹はかえられない。


 市場の裏道に出たところでようやく足音が遠のいたのを確認する。


「ふう……危ねえ危ねえ」


 息を切らしながら、俺は路地の壁にもたれかかった。心臓はまだドクドクと脈打っているが、不思議と口元は緩んでいる。追われるスリルもまた一興、というやつだ。それに、得られた収穫も大きい。今夜だけで、俺は自分のチートについて、実戦で使えるレベルのデータをかなり集めることができた。物への干渉、他者の行動の後押し、危機回避――どれもこれも低コストで連発が利く。これなら、フォルトゥーナでの勝負にも十分役立てられるはずだ。


(それにしても、あの赤毛の姉さん、勘が良すぎるだろ……。この世界、そういう手練れがゴロゴロいるのかもしれねえな)


 少しだけ気を引き締め直す。イカサマというのは、バレなければ何をしてもいいというものではない。バレた瞬間、全てを失う可能性を常に孕んでいる。だからこそ、使い所を見極める慎重さが要る。今夜の一件は、良い戒めになった。



     *



 夜が更ける頃、俺はようやく大通りに戻り、再びフォルトゥーナを目指して歩き出した。


(今日の実験でよく分かった。物一つ、人間一人の些細な行動、自然現象への軽い干渉――この辺りは低コストで連発できる。問題は、もっと大きな規模の話だ)


 たとえば、複数人が関わる複雑な事象や、明確な意志を持つ相手の結果を強引に覆す場合。あるいは、魔法のような強い力そのものを無効化するような真似。そういう「大技」は、おそらく相応の魔力を食う。今夜のような小手調べを繰り返しながら、少しずつこの力の輪郭を掴んでいくしかないだろう。


 考え事をしているうちに、夜空が白み始めていることに気づいた。二つの月が薄れ、東の空がわずかに橙色に染まっている。そして、その光の中に、ひときわ大きな建造物のシルエットが浮かび上がってきた。


 塔のように高くそびえる尖塔、金と紫を基調にした派手な外壁、そこかしこに設えられた光の魔道具が、まだ薄暗い街並みの中でひときわ眩しく輝いている。


「……あれか」


 思わず足が止まった。噂に違わぬ、いや噂以上の威容だ。城と見紛うほどの規模のカジノなど、元の世界では見たことがない。正面に掲げられた看板には、流麗な文字でこう記されていた。


 ――カジノ『フォルトゥーナ』。


「へへ……いいじゃねえか」


 俺は口の端を吊り上げ、拳を握りしめた。昨夜の路地裏の賭場も悪くはなかったが、あれはあくまで小手調べに過ぎない。ここからが本番だ。この街で最大の賭博の殿堂で、俺の全てを――イカサマの技術も、ハッタリの度胸も、そして手に入れたばかりのチートも――出し惜しみなくぶつけてやる。


 朝日が完全に昇りきる前に、俺は正面の巨大な門へと歩みを進めた。門の両脇には、屈強な門番が二人、槍を携えて立っている。値踏みするような視線が、薄汚れた俺の身なりに突き刺さった。


「……止まれ。ここをどこだと思っている」


 門番の一人が、低い声で誰何した。俺は懐から昨夜稼いだ紙幣の束を取り出し、ひらひらと見せびらかしてやった。


「知ってるさ。異世界一の、いや、この街一番の賭博の殿堂だろ? 客として来たんだよ」


 門番たちは一瞬顔を見合わせたが、やがて渋々といった様子で道を空けた。


「……入場料は前払いだ。奥で受付を済ませろ」


「毎度あり」


 俺は軽く肩をすくめてみせると、門をくぐった。目の前に広がるのは、豪奢なシャンデリアが輝く広間、無数のテーブルが並ぶギャンブルホール、そして――そこかしこを行き交う、この店で働くディーラーやスタッフたちの姿。


 朝方だというのに、店内は驚くほど活気に満ちていた。ルーレットの回る音、カードを切る音、チップがぶつかり合う乾いた音。むせ返るほどの熱気と、勝者の歓声、敗者のため息が絶えず入り混じっている。天井から吊るされたシャンデリアの光が、磨き上げられた大理石の床に反射し、店内全体を宝石箱のように輝かせていた。


(……こいつは、たまらねえな)


 俺は思わず息を呑んだ。前世で通い詰めた裏カジノとは、格が違う。金と欲望が渦巻くこの空間の空気を吸い込むだけで、身体の奥から震えるような高揚感がこみ上げてくる。ここでなら、俺は本当の意味で、自分の全てを賭けられる。


 受付らしきカウンターに向かうと、制服を着た係員がにこやかに声をかけてきた。


「いらっしゃいませ。当店は初めてでいらっしゃいますか?」


「ああ、初めてだ。よろしく頼むわ」


「かしこまりました。入場手続きをいたしますので、こちらの用紙にご記入を――」


 流れるような案内に従いながら、俺は懐から紙幣を取り出し、必要な手続きを済ませていく。手続きを終えた頃には、既に日は完全に昇り、店内の窓から差し込む朝日が、賭博に興じる客たちの横顔を照らし出していた。


 書類に必要事項を記入している最中、ふと視線を感じて顔を上げると、係員の女性がどこか興味深そうにこちらを観察しているのに気づいた。


「あの、失礼ですが……お客様、随分と手先が器用でいらっしゃいますね。ペンの持ち方一つとっても、只者ではない雰囲気を感じます」


「まあな、これでも前職はプロだったもんでね」


「プロ、ですか。どちらの?」


「賭博の、な」


 係員は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに商売用の笑みを貼り付け直した。この手の反応にはもう慣れっこだ。異世界だろうが元の世界だろうが、「賭博で食っていた」と自己紹介して真顔で受け止められた試しがない。


「当店には多くの猛者が集まりますが、油断は禁物ですよ。特に――」


 係員がそこで言葉を切り、声を潜めた。


「特に、二番卓を担当しているディーラーには、くれぐれもお気をつけください。あの方に挑んで、無事に帰れた高額プレイヤーは、そう多くありません」


「へえ。そいつは楽しみだ」


 俺はニヤリと笑った。難敵の存在を仄めかされて怯むような性分ではない。むしろ、逆だ。強い相手がいると聞けば聞くほど、腹の底から闘志が湧き上がってくる。それこそが、俺というギャンブラーの本能だった。


「さて、と」


 俺は指をコキコキと鳴らし、広間の奥へと視線を向けた。テーブルゲームの区画には、ポーカー、ブラックジャック、そしてこの世界独自らしい見慣れない賭博まで、様々な卓が並んでいる。どれから手を付けようか、じっくり吟味するのも一興だ。


 俺は不敵に笑いながら、フォルトゥーナの奥へと足を踏み入れた。この先、俺を待ち受けているものが何なのか――白銀の髪を持つ、一人の厳格なエルフディーラーとの出会いが、俺の異世界ライフを大きく動かし始めることになるとは、この時の俺はまだ知る由もなかった。

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