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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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第16話 カチリ、と鳴る静寂

「先攻は貴殿に譲ろう、アキト殿」


 バルザスの言葉に、俺は静かに頷いた。この提案自体が罠の匂いを漂わせていたが、拒む理由もない。むしろ、先に動く方が、相手の反応を観察できる分、都合が良い。この手の勝負では、常に「なぜ相手がその選択をしたのか」を読み解くことが、生き残るための第一歩になる。


 わざわざ先攻を譲るという選択そのものが、既に一つのヒントだった。もし本当に対等な確率で命を賭ける勝負であれば、先攻を譲ることに特別な意味はない。だが、もし何らかの仕掛けが「相手が銃を握った時にだけ発動する」類のものだとすれば、話は変わってくる。バルザスは、自分が絶対に安全な側にいると信じ切っているからこそ、余裕綽々に先攻を譲れるのだろう。


 俺は手にした魔導銃を、ゆっくりと自分の頭に向けた。冷たい銃口の感触が、こめかみに押し当てられる。周囲の護衛たちが、固唾を呑んでこちらを見守っているのが分かった。闘技場全体が、水を打ったように静まり返っている。


「ご主人様、ダメです……!」


 檻の中からミミの悲鳴が響いた。その声には、これまでにないほどの切迫感が滲んでいた。だが、俺は静かに首を振った。


 リーゼロッテが潜んでいるはずの暗がりにも、緊張が張り詰めているのが伝わってくる気がした。彼女もまた、この一瞬に全神経を集中させているに違いない。


「心配すんな。俺は、そう簡単にはくたばらねえ」


 言葉とは裏腹に、俺の内心は既に冷静な計算で満たされていた。この一瞬のために、俺は先ほどから密かに準備を進めていた。


(――この銃の魔法回路が、不発に終わる確率を、限りなく百パーセントに近づける)


 【絶対因果】を、静かに発動させた。狙いは、銃そのものの結果――発射された際の魔法回路の成否。これは、俺自身の運命を直接操作するわけではなく、あくまで「銃という物」に対する干渉だ。この程度なら、消費魔力もそれほど大きくない。


 だが、俺には確信があった。この勝負、絶対に何か仕込まれている。バルザスが、正々堂々とした条件で命を賭けるはずがない。だからこそ、こちらも先手を打つ必要があった。相手のイカサマを見抜けない以上、こちらのイカサマで上塗りするしかない。それが、今の俺に打てる最善の一手だった。


 女神から授かったこの力を、これほど重要な局面で使うのは初めてだった。フォルトゥーナでの勝負、路地裏の賭場、シルヴィアとの一戦――これまでの全ての経験が、この一瞬のために積み重なってきたのだと、俺は静かに実感していた。魔力の消費を感じながらも、俺の心は驚くほど落ち着いていた。


 俺は迷いなく、引き金を引いた。


 カチリ。


 乾いた音が、地下闘技場に響いた。


 不発だった。


「な――」


 バルザスの顔から、初めて余裕の色が消えた。その一瞬の変化を、俺は見逃さなかった。



     *



「アキト殿……今のは……」


 バルザスの声が、わずかに上ずっていた。俺は肩をすくめながら、銃を卓の上に戻した。


「不発だったな。運が良かったらしい」


「そんな、馬鹿な……」


 バルザスの狼狽ぶりを見て、俺は内心で確信を深めた。この反応、明らかにおかしい。ただの六分の一の確率で不発だったというだけなら、これほど動揺する必要はない。つまり――


(この男、俺の番で確実に死ぬよう、何か仕込んでいやがったな)


 おそらく、俺が銃を握った瞬間だけ、確実に即死弾が発射されるような、何らかの魔法的な仕掛けが施されていたのだろう。それが、俺の【絶対因果】によって、意図せず狂わされた。相手のイカサマを、こちらのイカサマで上書きした形だ。前世で培ったイカサマ師としての勘が、この一瞬の反応だけで、相手の企みの輪郭を鮮明に描き出していた。


 周囲の護衛たちも、主人の狼狽ぶりに戸惑いの表情を浮かべていた。普段の傲慢で余裕たっぷりなバルザスしか知らない者たちにとって、この動揺は明らかに異質なものに映っているのだろう。


「どうした、バルザス卿。顔色が悪いぞ」


「な、なんでもない! さあ、次は私の番だ!」


 バルザスは動揺を隠すように声を張り上げ、震える手で銃を取り上げた。その手つきは、先ほどまでの余裕たっぷりの態度とは、まるで別人のようだった。指輪だらけの太い指が、銃を握る前から既に小刻みに震えている。


 俺はその様子を、冷静に観察していた。この動揺こそが、何よりの証拠だ。この男は、この勝負を「安全な見世物」として設計していたはずだった。自分は絶対に死なず、相手だけが一方的に恐怖を味わう――そういう仕組みを用意していたに違いない。それが今、根底から狂わされている。


 バルザスは自分の頭に銃口を向けた。だが、その額には、玉のような脂汗が浮かんでいる。


(当然だよな。イカサマが狂ったんだ。今度は自分の番で、何が起こるか分からねえ)


 この男の頭の中では、今、必死の計算が渦巻いているはずだ。自分が仕込んだはずの細工が、なぜか機能していない。だとすれば、この銃の結果は、もはや完全な運任せの博打になっている。六分の一の確率で、自分自身が命を落とすかもしれない――その恐怖が、初めてこの傲慢な男の心を蝕んでいるのだろう。


 闘技場全体が、息を潜めるようにこの一瞬を見守っていた。護衛たちも、いつもは見ることのない主人の狼狽ぶりに、どう反応すべきか分からずにいるようだった。誰もが、次に何が起こるのか、固唾を呑んで見守っている。


 バルザスの手が、微かに震えていた。引き金にかけた指が、なかなか動かない。額から流れる汗が、ぽたりと卓の上に滴り落ちる音だけが、やけに大きく響いた。


「どうした、早くしろよ。それとも、怖気づいたか?」


「う、うるさい! 黙れ!」


 バルザスは怒鳴りながらも、引き金を引いた。


 カチリ。


 また、不発だった。


 その瞬間、バルザスの体から、力が抜けたのが分かった。安堵の表情を浮かべた男の顔は、先ほどまでの傲慢さが嘘のように、青白く強張っていた。全身から吹き出した汗が、豪奢な衣装をぐっしょりと濡らしている。この短い時間だけで、この男は何年分もの恐怖を味わったに違いない。



     *



 二巡目に入っても、俺は無言のまま銃を握った。


「アキト殿、随分と落ち着いていらっしゃいますな」


「まあな。命を賭けた勝負ってのは、俺の得意分野だからよ」


 実際のところ、心臓は激しく脈打っていた。だが、それを表に出すことだけは、絶対に避けなければならない。ここで少しでも動揺を見せれば、相手に主導権を握られる。前世で培ったポーカーフェイスの技術が、こういう極限状況でこそ本領を発揮する。


 俺はニヤリと笑いながら、再び自分の頭に銃口を向けた。バルザスの目に、明らかな恐怖の色が浮かんでいる。この男は、既に自分の仕込んだイカサマが機能していないことに気づいているはずだ。だが、それを認めるわけにもいかず、ただ見守るしかない。


 周囲を見渡すと、護衛たちも異様な緊張感に包まれていた。普段は圧倒的な力の差で客を追い詰めるだけの見世物だったはずのこの遊戯が、今、予測不可能な展開を見せていることに、誰もが困惑しているようだった。


「おい、命の賭け金が足りねえぞ」


 俺は銃口をこめかみに当てたまま、静かに口を開いた。


「お前のその綺麗な顔、歪む確率を百パーセントにしてやろうか?」


「な――!?」


 バルザスの顔が、目に見えて青ざめた。この男の中で、俺という存在が、単なるカモではなく、得体の知れない脅威として認識され始めているのが分かる。この台詞は、半分は本気、半分はハッタリだ。だが、その両方の可能性を相手に信じ込ませることこそが、俺の狙いだった。相手が何を信じればいいのか分からなくなった時点で、心理戦は既にこちらの優位に傾いている。


 俺は構わず、引き金を引いた。


 カチリ。


 三度目の、不発。


 闘技場に、乾いた音の余韻だけが響いた。ミミの啜り泣く声が、遠くから微かに聞こえてくる。その声を聞きながら、俺は改めて心の中で誓った。この勝負、絶対に負けるわけにはいかない。


「ば、馬鹿な……こんなことが……」


 バルザスは、もはや取り繕う余裕すら失っていた。額から流れ落ちる汗が、豪奢な衣装を濡らしている。ジャラジャラと鳴る指輪の音が、震える手の動きに合わせて、耳障りに響いていた。傲慢さの象徴だったはずのその装飾品が、今は滑稽なまでに彼の恐怖を強調していた。


「なあ、バルザス卿よ」


 俺は静かに、しかし確実に、言葉を続けた。


「あんた、さっき言ったよな。この世は全て、あんたが支配する『必然』で動いてるって。だったら、この結果も、あんたの言う『必然』ってやつなのか?」


「うるさい……うるさい黙れ!」


 バルザスは絶叫し、乱暴に銃を掴んだ。その手つきは、もはや冷静さの欠片も感じられない。額から流れる汗が、今や滝のように顎を伝って滴り落ちていた。


 銃口を自分のこめかみに向けたバルザスの目には、これまでにない怯えの色が浮かんでいた。この男は、これまで一度たりとも、対等な立場で他者と向き合ったことがなかったのだろう。金と権力という後ろ盾を失った今、剥き出しの恐怖だけが、その心を支配していた。


 バルザスは震える指で、なんとか引き金を引いた。


 カチリ。


 四度目の不発。


 闘技場に、乾いた音の余韻が、これまで以上に重く響いた。もはや誰も、この結果を単なる偶然だとは思っていないだろう。護衛たちの間にも、明らかな戸惑いの空気が広がっていた。


 バルザスは、その場に崩れ落ちるようにへたり込んだ。護衛たちが慌てて駆け寄ろうとするが、バルザスは片手を上げてそれを制した。プライドだけは、まだかろうじて残っているのだろう。だが、その顔には、これまでの傲慢さの欠片も見当たらなかった。


「な、なぜだ……なぜこんなことに……」


 バルザスの呟きは、もはや誰に向けられたものでもない、純粋な恐怖と困惑の吐露だった。この男が長年築き上げてきた「必然という名の支配」という幻想が、今、目の前で音を立てて崩れ去っていく瞬間だった。


「言ったろ。この世は運と実力、両方でできてる。あんたの言う『必然』なんてもんは、ただの傲慢な思い込みに過ぎねえんだよ」


 俺はゆっくりと銃を卓に戻しながら、そう告げた。バルザスは、床に座り込んだまま、呆然とこちらを見上げていた。かつての傲慢さは、もはや見る影もなかった。


 この男が積み上げてきた「絶対的な支配」という幻想が、今、目の前で音を立てて崩れ始めていた。俺はその崩壊の様を、静かに、しかし確かな満足感を持って見つめていた。


 ミミを人質に取り、命懸けの勝負を強要してきた、この卑劣な男。その化けの皮が剥がれていく瞬間を、俺は決して見逃さなかった。まだ勝負は終わっていない。だが、既に流れは、こちらに傾き始めていた。


 周囲の護衛たちの間にも、動揺が広がっているのが分かった。絶対的な主人だと信じていたバルザスが、これほどまでに取り乱す姿を見せたことは、彼らにとっても衝撃的な出来事だったのだろう。


 檻の中のミミが、涙を拭いながらこちらを見つめていた。その目には、恐怖だけでなく、微かな希望の色が浮かび始めていた。俺は小さく頷いてみせた。もう少しだけ、待っていてくれ。必ず、お前を取り戻す。


 地下闘技場に、これまでとは違う種類の緊張感が満ちていく。バルザスがどう出るか、まだ分からない。だが、この男の化けの皮を剥がした今、勝負の主導権は確実にこちらへと傾きつつあった。


 俺は改めて、この地下闘技場全体を見渡した。魔獣たちの唸り声、血の匂い、そして今や崩れ落ちた主催者。この不気味な空間の全てが、今、大きく揺らぎ始めている。


 バルザスの護衛たちの一人が、恐る恐る主人に近づいた。


「だ、旦那様……」


「触るな! 誰も、私に触るな!」


 バルザスは金切り声を上げながら、護衛の手を振り払った。プライドと恐怖がない交ぜになった、実に見苦しい姿だった。かつて「金と権力こそが必然を支配する」と豪語していた男が、今や自分自身の作った罠に足を掬われ、みっともなく取り乱している。


 俺はその様子を、静かに見下ろしていた。怒りは、まだ消えていない。ミミを人質に取ったこと、無関係な人間を巻き込んだこと、その全てに対する報いは、まだこれからだ。だが、少なくとも第一段階――この男の絶対的な自信を打ち砕くという目標は、確実に達成できていた。


 闘技場の暗がりで、リーゼロッテの気配が、微かに動いた気がした。彼女がこの状況をどう見ているのか、今の俺には分からない。だが、次の一手に向けて、着実に準備が進んでいることだけは、確かに感じ取れた。


 ミミの啜り泣く声が、静まり返った闘技場に、小さく響いていた。もう少しだけ待っていてくれ。俺は心の中でそう呼びかけながら、次の展開に備えて、静かに神経を研ぎ澄ませていった。


 バルザスがようやく息を整え、震える足で立ち上がった。その目には、まだ完全には消えていない敵意と、それを上回る恐怖が入り混じっていた。この男が、次にどんな手を打ってくるのか。俺は油断なく、その動向を見守り続けた。


 地下闘技場に響く沈黙の中、俺は静かに次なる展開への備えを固めていた。この勝負、まだ終わってはいない。だが、確実に潮目は変わり始めている。この流れを逃さず、必ずミミを取り戻し、この卑劣な男に相応の報いを受けさせる。その決意だけは、微塵も揺らいでいなかった。二つの月明かりが差し込まぬ地下深くで、俺とバルザスの命懸けの勝負は、まだ静かに続いていた。次の一手が、この勝負の行方を大きく左右することになるだろう。俺は静かに、その瞬間を待ち構えていた。この地下で始まった戦いに、必ず決着をつけてみせる。俺は改めて、そう強く心に誓った。地下闘技場の重い空気の中、俺とバルザスの視線が、再び静かに交差した。この戦いの結末を、まだ誰も予想できないでいたのだった。地下深くの静寂が、次の瞬間を待っていた。

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