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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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第12話 宣戦布告は突然に

 シルヴィアが去ってから数日、俺たちの日常は驚くほど平穏に過ぎていった。


 フォルトゥーナで稼いだ資金を元手に、リーゼロッテが中規模の宿を借り上げ、俺たちの拠点として整えてくれた。ミミはすっかりこの生活に馴染み、毎朝台所でリーゼロッテの手伝いをしながら、片言だった料理の腕を少しずつ上げている。俺はといえば、相変わらず街のカジノを何軒か冷やかしに行き、小遣い稼ぎ程度の勝負を楽しんでいた。


 あの後、シルヴィアは何度か俺たちの宿に顔を出すようになっていた。表向きは「まだ疑いは晴れていない」という理屈をつけていたが、実際のところはただの世間話や、ミミの淹れる不慣れな紅茶を飲みに来ているだけのように見えた。堅物な聖騎士団長ではあるが、根は真面目で情に厚い人間なのだろう。リーゼロッテも次第に彼女とのやり取りに慣れ始め、時折軽口を交わすまでになっていた。


 こういう緩やかな日常が、これからもずっと続くのだろうと、俺は漠然と考えていた。夜な夜な繰り広げられるチップの勝負も、ミミの拙い料理も、リーゼロッテの手厳しい財布管理も、全てが心地よい日課として馴染み始めていた。異世界に来て、まだ十日と経っていないというのに、この暮らしがまるで昔からの当たり前のように感じられるのが、我ながら不思議だった。


 だが、平穏というのは、得てして長く続かないものだ。


 その日の夕方、宿の部屋に一通の手紙が届けられた。使いの男は、届けるだけ届けると、逃げるようにその場を去っていった。その様子だけでも、只事ではない雰囲気が漂っていた。まるで、内容を知られたくない、あるいは関わり合いになりたくないとでも言うような、そそくさとした態度だった。


「なんだこりゃ」


 俺は封を切りながら首を傾げた。上質な紙に、金の縁取りが施された、いかにも高級そうな封筒だった。指先で触れただけでも、相当な値打ちの紙だと分かる。中の便箋には、流麗な文字でこう書かれていた。


「拝啓 噂に名高きギャンブラー、アキト殿


 此度、私、アルフォン・フォン・バルザスが主催する私的な社交の場へ、貴殿をご招待申し上げたく存じます。当夜は、我が邸宅の一室にて、選ばれし者のみが参加を許される特別な余興をご用意しております。ぜひとも、貴殿の類まれなる才覚を、私の前で披露していただきたい。


 なお、この招待は辞退を許しません。貴殿の周囲の者たち――特に、あの愛らしい獣人の少女や、聖騎士団長殿の身の安全のためにも、ぜひご参加をお勧めいたします。


 当日、お待ちしております」


 俺は手紙を読み終えると、しばらく沈黙した。差出人の名前は「アルフォン・フォン・バルザス」と、これ見よがしに大きく記されていた。手紙の端には、金の紋章が押されている。貴族らしい仰々しい体裁だが、その内容は明らかに脅迫状そのものだった。


「……何だこれ、随分と胡散臭い招待状だな」


 リーゼロッテが横から手紙を覗き込み、その表情がすっと険しくなった。手紙を持つ手が、微かに震えているのが分かった。


「アルフォン・フォン・バルザス。この街のカジノ街を裏で牛耳っている悪徳貴族の名です」


「知ってるのか」


「フォルトゥーナに勤めていた頃、何度か名前を耳にしました。表向きは貴族としての体裁を保っていますが、裏では違法な賭博場の運営、脅迫、あらゆる汚い商売に手を染めているという噂です」


 リーゼロッテの声には、明らかな警戒の色があった。


「フォルトゥーナも、彼の影響力から完全に自由というわけではありませんでした。表立って敵対はしませんが、水面下では常に緊張関係にあったと聞いています。彼に目をつけられて、無事だった者はほとんどいません」


「随分と評判の悪い野郎だな」


「ええ。肥満体型で、指という指に成金趣味の指輪をつけている姿を、私も何度か遠目に見たことがあります。金と権力こそが全てだと信じて疑わない、典型的な傲慢な貴族です」


 リーゼロッテの声は、いつになく硬かった。この女がこれほどまでに警戒を露わにするのは珍しい。それだけ、バルザスという男の危険性が本物だということなのだろう。


「その男は、これまでにも似たような手口で、他人を陥れたことがあるのか」


「噂レベルの話ですが、何人かの商人や貴族が、彼に逆らった結果、財産を全て失い、街から姿を消したという話を聞いたことがあります。表向きは『事業の失敗』として処理されていますが、実態は分かりません」


「なるほどな。分かりやすい悪役ってわけだ」


 リーゼロッテの説明を聞きながら、俺は改めて手紙に目を落とした。


「それに、この文面――」


「ミミやシルヴィアの名前を出してるところか」


「ええ。これは明確な脅しです。あなたが参加を拒めば、彼女たちに危害を加える、という含みがあります。それも、遠回しに、しかし確実に伝わるように書かれています。こういう文章の書き方に慣れている人間の仕業だと分かります」


 俺は手紙を握りしめながら、頭の中で状況を整理した。俺個人だけの話なら、無視するという選択肢もあった。だが、ミミやシルヴィアを引き合いに出されては、話が変わってくる。この街に来て、まだ数日。それでも大事に思うようになった仲間たちを、危険に晒すわけにはいかない。


「アキト様、どうしてこの男が、私たちのことをこれほど詳しく知っているのでしょうか」


「ああ、それは俺も気になったところだ」


 フォルトゥーナでの勝負の噂が広まっていることは知っていたが、ミミやシルヴィアとの関係まで把握されているとなると、単なる噂話の域を超えている。何者かが、意図的に俺たちを監視しているという可能性が濃厚だった。



     *



「アキト様、この招待、どうなさるおつもりですか」


 夕食の席で、リーゼロッテが静かに尋ねてきた。ミミは何も知らずに、隣で美味しそうにスープを啜っている。その無邪気な様子が、今の状況の緊張感と対照的で、なんとも複雑な気分になる。


「行くしかねえだろ」


「危険です。バルザスがどのような手段で貴方を陥れようとしているか、想像もつきません。相手はこの街の裏社会に強い影響力を持つ人物です。招待に応じたところで、無事に帰ってこられる保証はどこにもありません」


「分かってる。だが、無視すりゃミミやシルヴィアに危害が及ぶ可能性がある。それを黙って見過ごすほど、俺は薄情じゃねえ」


 リーゼロッテはしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。


「……分かりました。私も同行します」


「危ないかもしれねえぞ」


「あなた一人で行かせる方が、よほど危ういと思いますが」


 その言葉に、俺は思わず笑った。この女、口では冷静を装っていても、根はしっかり仲間思いだ。


「それに」


 リーゼロッテは続けた。


「フォルトゥーナに勤めていた頃の知識と人脈が、多少なりとも役に立つはずです。バルザスがどういう人間か、どんな手口を使うか、私なりに調べておきます」


「頼りになるじゃねえか、我らが財布担当」


「その呼び方、いい加減やめていただけませんか」


 リーゼロッテは眉を寄せながらも、その口調にはどこか諦めのような、しかし嫌ではなさそうな響きがあった。


「ご主人様、何かあったのですか?」


 ミミが不安そうな顔でこちらを見上げてきた。獣人特有の敏感な嗅覚と勘が、この場の空気の変化を察知したのかもしれない。この場では、詳しい事情を話すべきか迷ったが、隠し通せる性質のものでもない。


「ちょっと厄介な招待状が来てな。悪い貴族に目をつけられたらしい」


「悪い、貴族……」


 ミミの耳が、ぺたんと垂れ下がった。何か嫌な予感を感じ取っているのかもしれない。獣人特有の勘の鋭さが、こういう場面で顔を出す。その小さな体が、心なしか縮こまったように見えた。


「大丈夫だ。俺が何とかする」


「ご主人様……」


 ミミは不安げな表情を崩さないまま、俺の服の裾をぎゅっと握りしめた。この子なりに、状況の深刻さを肌で感じ取っているのだろう。奴隷市場で過ごした過去の記憶が、こういう不穏な空気に敏感に反応させるのかもしれない。


「ミミ、聞いてくれ」


 俺はミミの目線に合わせるように、少し屈んで話しかけた。


「お前を危ない目に遭わせるつもりは、俺にも、リーゼロッテにもねえ。この宿でおとなしくしていてくれれば、それでいい。何かあったら、必ず俺たちが守る」


「……はい。ご主人様を、信じてます」


 ミミはそう言うと、いつもの人懐っこい笑顔を、少し無理をしながらも見せてくれた。その健気な様子に、俺は胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。


 俺はミミの頭を軽く撫でながら、努めて明るい声で言った。この小さな少女を不安にさせるのは、俺の本意ではない。



     *



 その夜、俺は一人、宿の窓辺で夜空を見上げていた。


 招待状の文面を思い返す。バルザスという男が、どういう人間なのか、まだ詳しくは分からない。だが、あの文面から滲み出る傲慢さ、そして仲間を人質にするような卑劣さは、はっきりと伝わってきた。


「勝負を汚す奴、か」


 俺は小さく呟いた。前世から今世まで、俺なりに大事にしてきた矜持がある。ギャンブラーとして、勝負そのもののスリルを愛すること。そして、弱者を踏みにじるような、卑劣な人間だけは絶対に許さないということ。


 思えば、前世でも似たような人間を何人も見てきた。金と権力に物を言わせ、対等な勝負など一切せず、ただ弱者から搾り取るだけの連中。俺はそういう手合いが、心の底から嫌いだった。勝負というのは、対等な立場で、互いの技術と度胸をぶつけ合うからこそ意味がある。それを踏みにじる者には、容赦する理由がない。


 バルザスという男が、招待状に書かれている通りの人間なら、これはただの社交の誘いでは済まない。何か、もっと大きな企みが背後にあるはずだ。


「面白くなってきたじゃねえか」


 俺は口の端を吊り上げた。恐怖よりも、闘志の方が先に来る。これが、俺という博徒の性分だ。


 窓の外に見える街並みは、相変わらず平和そうな夜景を見せていた。だが、その裏側で、確かに何かが動き始めている。この招待状を境に、俺たちの穏やかな日々は、大きく形を変えることになるだろう。


 扉が静かに開いて、リーゼロッテが顔を出した。


「まだ起きていらしたのですか」


「ああ、ちょっと考え事をな」


「バルザスのことですか」


「まあな」


 リーゼロッテは部屋に入ってくると、俺の隣に静かに立った。夜風が、白銀の髪をわずかに揺らしている。


「怖くはないのですか」


「怖くねえと言えば嘘になる。だが、それ以上に腹が立ってる。あの手紙の書き方、まるでこっちの仲間を駒か何かみたいに扱ってる。ああいうのが、俺は一番嫌いなんだ」


「……そうですか」


 リーゼロッテはしばらく黙っていたが、やがて小さく口を開いた。


「あなたが決めたことに、私は従います。ですが、無茶だけはしないでください」


「善処するよ」


「その返事、あまり信用できませんね」


 俺は思わず笑った。この女、こういう時でもきっちり釘を刺してくる。だが、その気遣いが、今は素直にありがたかった。


 リーゼロッテはしばらく夜景を眺めていたが、やがて静かに口を開いた。


「アキト様。正直に申し上げますと、私は少し怖いのです。あなたに何かあったら、と考えるだけで」


「珍しく弱気だな」


「弱気にもなります。この短い間に、私にとってあなたやミミは、かけがえのない存在になりつつありますので」


 その言葉は、いつもの淡々とした口調とは違う、どこか震えを帯びたものだった。俺はしばらく黙って、リーゼロッテの横顔を見つめた。


「安心しろ。俺はそう簡単にくたばるようなタマじゃねえ」


「その自信が、どこから来るのか、いつも不思議に思います」


「単純だよ。俺には、お前らみたいな最高の仲間がいる。それだけで、大抵の勝負には勝てる気がすんだよ」


 リーゼロッテは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの涼しい表情に戻った。だが、その口元には、確かに小さな笑みが浮かんでいた。


 リーゼロッテ、ミミ、シルヴィア。この短い期間で出会った仲間たちを、俺は失うつもりはない。バルザスがどんな企みを持っていようとも、正面から受けて立ってやる。


 俺はチップを一枚、指先で弾いて宙に浮かせ、掌で受け止めた。


「さあ、始めようじゃねえか」


 異世界での穏やかな日常は、ここで一区切りを迎えた。次に俺たちを待ち受けているのは、これまでとは全く違う種類の、命を賭けた勝負だ。窓の外の夜空を見上げながら、俺は静かに、しかし確かな決意を固めていた。


 この招待状が、俺たちの物語を大きく動かす序章になることを、この時の俺はまだ、はっきりとは理解していなかった。だが、確かな予感だけはあった。この先に待ち受けているのは、これまでのような軽いコメディではなく、命と誇りを賭けた本物の勝負になるだろうという予感が。


 夜はさらに更けていく。明日からの日々が、これまでとは違う色を帯びていくことを、俺は静かに受け入れていた。逃げるという選択肢は、最初から俺の中には存在しなかった。仲間を守り、卑劣な相手を叩きのめす。それが、この異世界で俺が選んだ生き方だった。


 窓の外の二つの月は、いつもと変わらず静かに輝いていた。だが、その光景を見上げる俺の胸の内には、これまでとは違う種類の熱が、確かに燃え始めていた。バルザスよ、首を洗って待っていろ。俺の相棒と、可愛い仲間たちを本気で怒らせたこと、後悔させてやる。異世界での本当の意味での戦いが、静かに、しかし確実に幕を開けようとしていた。俺はチップを懐にしまい、静かに窓を閉めた。明日からの日々に備えて、今夜はゆっくりと体を休めておこう。そう自分に言い聞かせながら、俺は静かにベッドへと向かった。窓の外の月明かりが、部屋を淡く照らしていた。

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